「翻訳教室」柴田元幸

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
東大の文学部で行われた翻訳の授業をほとんどそのまま収録している。教師である著者と生徒、ときにはゲストを交えて翻訳について議論する。
英語にある程度自信がある人は、何度か翻訳まがいの事をやったことはあるだろう。わずかな英語の文を訳したり、時には長い文章を訳したりといった程度かもしれない。そんな人はすぐに気づくだろう。英語から日本語への翻訳に必要なのは英語の能力よりもむしろ日本語の能力なのである。そして僕自身たくさんの本を読む習慣があることから日本語の能力には自信を持っていたのだが、本書が描く授業の内容はさらにその上をいくもの。翻訳なんて意味が伝わればそれでいいと思うかもしれないが、もっと突き詰めて考えているひとたちがいるのである。

sheという言葉と「彼女は」という言葉では重さが違う。sheの方が軽い。sheを五回繰り返すのに対して「彼女は」は三回くらいで、ちょうど重さ的に同じくらいかな。

単に意味を知っていたり、辞書をひいたりするだけでは決してわからない言語と言語の差について考えさせられる。

不自然な英語を訳すときに、あまりに自然な日本語には直したくないわけだけど、こっちは工夫して不自然な日本語にしているつもりが、読者には単に下手な日本語に見えてしまうって可能性は大いにある。

中程に村上春樹をゲストとして迎えたときの授業の様子も収録されている。正直村上春樹の作品は僕の好みではなく理解の及ばないものだが、その話の内容は面白い。
また、翻訳の題材として採用されているヘミングウェイなどもぜひ読んでみたいと思った。
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