「月と蟹」道尾秀介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第144回直木賞受賞作品。
転向してきた慎一(しんいち)と春也(はるや)はクラスで孤立し、やがて2人だけで遊ぶようになる。2人はヤドカリを火であぶりながら願い事をつぶやく。
10歳の小学生慎一(しんいち)を中心に据えた物語。母と祖父との3人で暮らし、学校では春也(はるや)というただ一人の友達と遊ぶ。そんな生活のなかで、慎一(しんいち)は周囲の小さな変化を敏感に感じる。変化を恐れながらも好奇心を抑えられず、そのうえで小学生という自分の無力さも感じている。そんな世の中のことを知りつつも大人になりきれない中途半端な年齢の心をうまく描いている気がする。
物語のなかで何度も登場するシーンでもあるが、そんな彼らの気持ちを象徴しているのが、ヤドカリを焼くシーンだろう。何の根拠もなく、ヤドカリを焼いて願い事をつぶやく。彼らはそれで願いが叶うなどと信じているわけでもなく、ただ単に自分の思い通りにいかない世の中に対して何もできない自分の不甲斐ない思いをなだめているのだろう。
自分の小学生のころを思い出してしまった。そういえばそうやって、今考えるとありえないようなことに願いをかけたりしたな、と。
さて、「向日葵の咲かない夏」という作品で本作品の著者道尾秀介からは距離を置こうと思ったのだが、本作品はまったく別の著者が書いたような雰囲気の異なる作品に仕上がっている。機会があったら別の作品も読んでみたいと思った。
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