「さまよう刃」東野圭吾

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
長峰(ながみね)の娘、絵摩(えま)は若者3人組に誘拐され殺された。長峰(ながみね)はタレコミによって知ることができた犯人のうちの一人の部屋で、娘が強姦されている映像を映したビデオを見つけ強い怒りを覚える。
読みはじめてすぐに違和感を覚える。なんという東野圭吾らしからぬストーリーなのだろうか、と。東野圭吾作品は往々にして、物語が物語だけに完結してしまい、人生に生かせそうなテーマや教訓含んでいることはほとんどない。それが僕の東野作品に対する不満だったのだが、本作品は序盤から社会派ミステリーの雰囲気をかもし出しており、、その一方で、少年法に守られた極悪非道な犯罪者に復讐するという、そこらじゅうで使い古された物語である。「社会派ミステリー」という点も「使い古された」という点も僕の中の東野圭吾イメージとかけ離れているのだ。
さて、物語の大半は、長峰(ながみね)が逃亡した主犯格の少年を探すという段階で展開する。そして警察は復讐を阻止するために、長峰(ながみね)と逃亡している少年を探す。長峰(ながみね)の行動に理解を示しながらもその復讐を阻止するための捜査に加わざるを得ない警察関係者、そして、人を殺すことはよくないとわかっていながらも、警察に素直に協力できない峰崎(みねざき)の周囲の人たちの心情がよく描かれている。

自分たちは一体なんなのだろう。法を犯したものたちを捕まえることが仕事ではある。それによって悪を滅ぼしていける、という建前になっている。だがこんなことで悪は滅びるのか。彼らは知っているのではないか。罪を犯したところで、何からも報復されないことを。国家が彼らを守ってくれることを。

少年法がどうあるべきか、などという著者なりの答えは残念ながら示されていない。僕らに問題を投げかけているだけだ。

警察ってのは法律を犯した人間を捕まえているだけだ。市民を守っているわけじゃない。警察が守ろうとするのは法律のほうだ。

「さまよう刃(やいば)」という本作品のタイトル。それは最初、銃を持って主犯格の少年を探して放浪する長峰(ながみね)を指す言葉だと思っていたが終盤になってその本当の意味がわかる…。
さて、全体的な感想はというと上でも書いたように、東野作品に対する予想は裏切られたが、とても意義の有る時間だったと思う。ただやはり、社会派ミステリーを描くならやはり現実の事件なども引用してその問題の深刻さ、フィクションの中のノンフィクションをもっと読者に訴えて欲しかったと感じた。
とはいえ、せっかく著者によって問題を投げかけてもらったのだから少し考えてみた。
このように少年法の問題点を扱った物語は世の中に多々存在するし、多くの人が少年法に関する議論を一度は耳にしたことだあるだろう。しかし、少年法によって守られた犯罪者たちがその後更生したのか、ということを世の中のいったいどれほどの人が知っているのだろうか。それを知らずして少年法についての考えをまとめることなどできない…しかし、少年法で守られているがゆえにそれさえ僕らには知ることができないのだ。
少年法の是非を議論するための素材を手に入れることを、少年法が許していないのである。実名報道は許されるはずもないが、せめて、彼らがその後どんな人生を送ったのかだけでももっとオープンにすべきなのではないだろうか。

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