「ヒートアイランド」垣根涼介

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
汚れた金だけを狙う裏金強奪団3人組の1人はヤクザの非合法カジノから金を盗み出した帰路、渋谷ストリートギャングを束ねるグループ雅(みやび)の一員と遭遇する。大金を巡って、ヤクザと裏金強奪団と渋谷のストリートギャングが繰り広げる物語。
渋谷のストリートギャングを束ねるグループ雅(みやび)その中心メンバーであるアキとカオルは、どちらも十代でありながら世の中の失望した若者である。

ほとんどの人間が戦後何十年も続いてきた右肩上がりの社会を信じていた。バブル前夜にはとっくに破綻寸前だったそのシステムに、何の疑問も持たずに乗っかってきた。知らなかったから仕方がないだろうという人もいる。しかし気づいていなかったことこそが、罪なのだ。

真面目に働いている人間は永遠に幸せを手にすることが出来ない。彼等はそんな世の中の不平等をを悟って、生き方を模索している途中である。
その一方で、汚れたお金をターゲットとする裏金強奪団の三人組、柿沢(かきざわ)、桃井(ももい)、折田(おりた)もまた世の中に失望した人間である。彼等はすてに世の中の枠に捕らわれずに自分達の生き方を全うしている。時として法律を破ることも躊躇しないが自分の中の信念に背くことだけは許さない。そんな生き方である。
世の中の多くの人間は社会の不平等に気づきながらも敷かれたレールの上から大きく外れるほどの勇気がない。だからこそ多くの読者はこの作品の登場人物達に魅力を感じるのだろう。
本作品の面白いところは、アキとカオルを中心としたグループ雅(みやび)と、窃盗集団がヤクザを交えながら、大金を巡って対立するところである。「魅力的な登場人物は簡単には死なない」というどんな物語にも共通する暗黙の了解の元、魅力的なグループ達が行き着く結末への期待感がページをめくる手を加速させる。
ストリートギャングの雅(みやび)、裏金強奪団3人組のほかにも、物語の視点は多くの人に移っていく。中でも、豊かな生活に憧れながらも、ケンカの強さしか誇れるものがなく、それを活かすためにヤクザの一員になったリュウイチや、破格の金額で非合法カジノのオーナーにスカウトされた井草(いぐさ)の生き方などは、周囲に流されて抜け出せない底なし沼にはまる世の中の多くの人を象徴しているようだ。
全体的には非常に読みやすい作品。政治とか国際問題とか複雑なことを考えずに読み進めることが出来るだろう。それは言い換えるなら、読者の好みによっては物足りなさを覚える作品と言えるのかもしれない。


女衒(ぜげん)
女の売買を生業(なりわい)とするブローカーのことである。「衒」は売るの意味。

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