「結婚詐欺師」乃南アサ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
橋口雄一郎(はしぐちゆういちろう)はプロの結婚詐欺師、世の中の女性から巧妙にお金を騙し取ることを生き甲斐としている。東京・小滝橋の刑事、阿久津洋平(あくつようへい)のもとに、被害者である女性から被害届が提出されたことで橋口(はしぐち)に対する捜査が始まる。
物語は二人の目線を交互に切り替わりながら展開していく。ターゲットとなるお金のある女性と知り合うためにパーティに出向き、流行などの知識など自己啓発を怠らない橋口(はしぐち)の目線。そして橋口を逮捕すべく奔走する刑事のうちの一人、阿久津(あくつ)の目線である。
橋口(はしぐち)目線の展開の中では、橋口(はしぐち)の女性たちに向けた歯の浮くような台詞の数々とマメな連絡や演出の数々。それが現実世界で通用するのかは大いに疑問だが、恋愛から遠ざかっている読者の中には、「恋愛の駆け引きも面白そう」と感化されてしまう人もいるかもしれない。
その一方で、阿久津(あくつ)目線の展開の中では、被害状況や手口把握、証拠収集に奔走する刑事たちの様子が描かれ、その周囲には常に夢や希望の薄れたやり切れない現実的な空気が漂っている。そんな中で日々生きている刑事たちは、橋口に騙された女性たちが一様にそれを認めようとしない状況に少しずつ違和感を感じていくのである。
さらに阿久津(あくつ)に関しては、その家庭の様子も描かれている。家庭的な妻と一人の息子という、阿久津(あくつ)がかつては理想と思っていた家庭を築きながらも、刑事という職業を選んだために家に早く帰ることが出来ず、家庭には居心地のよさを感じられない。詐欺師でありながらも、その周囲には騙されているとうすうす気づきながらも活き活きとした女性たちが瞳を潤ませている橋口の生活との対比の見事さが、この物語のテーマに強い説得力を持たせているのだろう。
そして、矛盾した世の中、理解できない女性の気持ち。答えのない問いかけを阿久津(あくつ)は繰り返す。

──これが現実の生活なんだ。毎日、バラの花束を抱えて帰宅し、愛の言葉を連発し、常に、相手の瞳に映る自分を見つめている男など、この世の中のどこを探したって、いるはずがない。それなのに、女たちはどうして、「結婚」というひと言に、冷静さを失うのだろう。

そして、阿久津(あくつ)たちが橋口(はしぐち)の容疑を固めていく過程でも橋口(はしぐち)はターゲットを変えていく。そして新たにターゲットとされた一人の女性。それは自分の理想を貫くために阿久津(あくつ)の元を去った、かつての恋人であった。

君ともあろうものが気づかないのか。不倫ならまだましだ。相手は君の金だけが目的の、プロの結婚詐欺師なんだぞ・・・

刑事ゆえに犯人の逃亡のきっかけを作るような言動は許されない。昔の恋人の性格を知っているがゆえにその相手の男性を否定する言葉を口にできない。
この悲しい偶然とそれによる葛藤こそが乃南アサが本作品を書いた最大の理由なのだろう。この展開に触れたときにピンと来た。多くの著者は小説を書くとき、そこに何か訴えたいテーマを持っているのだと僕は信じている。(もちろんお金儲けのために大したテーマもなしに大量に出版し続ける作家もいるが)そのテーマが物語を通じて一貫している作品は、必ずそれを読む読者に何か深く考えるきっかけを与えてくれる。この作品も例外ではなかった。
結婚詐欺は犯罪、結論はもちろんそんな単純なものではない。この物語のテーマは、形も無く、人々の中で決して一様ではない「幸せの形」なのだろう。「幸せ」とは人と人の間に生じるものではなく、個々の内側にあるものだ。つまり相手がどう思っていようと、本人が幸福感に浸ることができればそこに「幸せ」は確かに存在するのである。
たとえこの物語の結婚詐欺士橋口(はしぐち)であろうと、彼は確かに彼は女性たちに「幸せ」を与え、女性たちも幸福感にい浸ることができたのだ。それを「悪」と一言で切り捨ててそのすべてから目を背けることが必ずしも正しいことなのだろうか。


ヴィスコース
木材の繊維を原料としたレーヨン系の天然素材。滑らかでやわらかい手触りが特徴で、 通気性にも大変優れ、コットンに比べて洗濯による傷みが出にくく、そのためいつまでも新しい素材感が愉しめるのが特徴。
ピアジェ
スイスの宝飾品と時計の高級ブランド。1874年、ジョルジュ・エドワール・ピアジェ(GeorgesーEdouard Piaget)が創業した。
プレーンノット
ネクタイの基本的な結び方。
参考サイト
ネクタイの結び方
Piaget

【楽天ブックス】「結婚詐欺師(上)」「結婚詐欺師(下)」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。