「水の迷宮」石持浅海

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
羽田国際環境水族館発展のために尽くしていた職員がある日、不慮の死を遂げた。そして3年後のその日、水族館宛てに脅迫メールが届く。古賀孝三(こがこうぞう)と深澤康明(ふかざわやすあき)を含む十数名の職員、関係者達は、水族館の未来を守ることを最優先事項としながら事態の解決を試みる。
物語は水族館と言うあまり馴染みのない場所で展開する。そのため物語を通じて普段知ることのできない世界の舞台裏を知ることができる。それは小説という媒体に限らず、物語に触れる中で得られる楽しみの一つであるが、同時に、想像しにくい舞台で物語が展開されるために、その臨場感が伝わりにくいというデメリットも孕(はら)んでいる。特にそれは、視覚に訴えることの出来ない小説という伝達方法で顕著に現れる。
さて、この物語において、一連の謎の解明にもっとも貢献するのは深澤康明(ふかざわやすあき)である。探偵モノのミステリーと同様に、彼の分析力と論理的なものの考え方、伝達力はこの物語の大きな見所と言えるだろう。ただ、他にも数名状況に応じて的確な考えを述べる登場人物がおり、深澤(ふかざわ)を含めた彼等の言動があまりにも的確すぎて、物語を意図的にある方向へ導いているような印象さえ受ける。(もちろん著者によって作られた登場人物が著者の意図した方向に物語を進めようとするのは当たり前なのだが)。その不自然さが登場人物の人間味を薄れさせているような気がする。
物語は終盤まで、犯人の脅迫メールに応じて職員が対応するという展開で進む。そのミステリーの中では非常にありがちな展開は読者をやや飽きさせることだろう。上でも述べたようにメインの数名以外の登場人物にあまり人間味が感じられないこともまた、物語の吸引力を弱めている要因の一つなのかもしれない。
このまま深沢(ふかさわ)が格好よく真相を解明して終わるのだろう、と思いながら読み進めていたが、終盤にきて、ぞくりとするような展開や台詞が待ち受けていた。ラストのわずか数ページが、この作品をどこにでもある退屈なミステリーとは一線を画す存在に変えているといっても過言ではない。それは前回読んだ石持作品の「月の扉」にも共通して言えることであり、これが石持浅海の個性なのかもしれない、と、二作目にして著者の輪郭が見えたような気がする。

夢を語ることは誰にでもできる。けれどそれを実現に導くのは周到な準備と、それに続く労力だ。実際にはなにもせずに、夢だけを語る人間のなんと多いことか。

ホーロー
金属(鉄)の表面にガラス質のうわ薬を塗り高温で焼き付けたもののこと。鉄のサビやすさ、ガラスのもろさというそれぞれの欠点を補う効果がある。
リーフィーシードラゴン
海水魚の一種。タツノオトシゴに似ている。(Wikipedia「リーフィーシードラゴン」)

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