「バリアセグメント 水の通う回路[完全版]」松岡圭祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ゲームメーカーフォレストの人気ゲームである「シティ・エクスパンダー4」をプレーした小学生が、黒いコートの男の幻覚を見るという事件が全国に拡大した。フォレストの社長である桐生直人(きりゅうなおと)を含めた各分野の専門家たちが真相解明へと動き出す。
物語は2001年に発刊された「バグ」の改訂版である。かなりの部分に加筆されているとは言え、一度「バグ」を読んでいる人にはある程度展開に予想がつくかもしれない。
音声認識アプリケーション、ポリゴン、テクスチャーなど、最先端ではないが、CG技術の発展したゲーム業界で用いられる言葉を多く物語中に取り入れて展開していく。個人的にはゲームプログラマーが音声認識アプリケーションなど使うのかという疑問はあるのだが、それ以外にも「2ちゃんねる」ならぬ「Nちゃんねる」、「ミクシィ」ならぬ「メクシィ」、ライブドア粉飾決算などニュースをいち早く物語の中に取り入れるあたりはさすが松岡圭祐という印象を受けた。
ゲームの中で「死」という表現を用いないことをポリシーとする桐生直人(きりゅうなおと)とそれに対する意見も興味深く、また一つ僕の中にテーマを植えつけてくれた。

死という概念がない世界では、人間はどうなると思うかね?釣り人が釣った魚をまた川に逃がすことでヒューマニストをきどったりするが、私にいわせればそのほうが残酷趣味だよ。逃がされた魚はまた釣られる運命にある。一生、人間さまにもてあそばれる

最終的には「水の通う回路」という言葉についても理解できることだろう。ただ、松岡作品に時々感じられる「突飛すぎる展開」をこの作品でも感じてしまった。数年前に「バグ」を読んでおり、そのときもやや強引な印象を受け、今回大幅に加筆されたというのでその辺りの改善を期待していたのだが、相変わらずやや強引な印象を受けた。


光感受性発作
光源癇癪ともいい、通常、大脳の異常から、激しく点滅する光の刺激を受けると、痙攣などの発作が誘発される癇癪とされ、テレビ画面などの閃光や点滅(1秒間に10回程度点滅する赤い光のような強い刺激)を直視すると既往歴のない人でも発作が起こる「光感受性反応」(PPS)が原因で、4000人に1人に発祥する。
トリクロロエチレン
無色透明の液体でクロロホルムに似た匂いを有し、揮発性、不燃性、水に難溶。ドライクリーニングのシミ抜き、金属・機械等の脱脂洗浄剤等に使われるなど洗浄剤・溶剤として優れている反面、環境中に排出されても安定で、地下水汚染の原因物質となっている。
アタリショック
ゲームソフトの供給過剰や粗製濫造により、ユーザーがゲームに対する興味を急速に失い、市場需要および市場規模が急激に縮退する現象を指す。
マキャベリスト
目的達成のために手段を選ばない人のこと。15世紀末から16世紀初頭に活躍したイタリアの外交官マキャベリが「君主論」の中で述べた政治思想。
サージ
短い時間、過電圧の状態になること。

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