「グロテスク」桐野夏生

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第31回泉鏡花文学賞受賞作品。スイス人と日本人の間に生まれたハーフである主人公の「わたし」。妹のユリコと高校時代の同級生の和恵(かずえ)が殺されたことで、「わたし」の手記として物語は進む。
「わたし」は悪魔的な美貌を持つユリコという妹を持ってしまったがために常に比較されて育ち、その過程で世の中に対して普通とは異なる見方をするようになった。

努力を信じる種族は、なぜにこうも、楽しいことを先へ先へと延ばすのでしょう。手遅れかもしれないのに。そして、どうして他人の言葉をいとも簡単に信じてしまうのでしょう。
自分を知らない女は、他人の価値観を鏡にして生きるしかないのです。でも、世間に自分を合わせることなんて、到底できるものではありません。いずれ壊れるに決まってるじゃないですか。

「わたし」の考え方は僕自身の考え方とかぶる部分もあり、とりたてて新しいものではないが、ここまではっきり文章として表現してもらうと爽快である。
娼婦に走った和恵やユリコの考え方もまた新鮮であるが、僕にとっては殺人犯とされた中国人張万力(チャンワンリー)の手記が印象的である。文化の違いがここまで人生をどれほど不公平にさせるかそれを強く感じることだろう。

中国人は生まれた場所によって運命が決まる。よく言われる言葉ですが、私はその通りだと思います。

張(チャン)の手記の中には四川省の山奥で育ち、富を求めて都市に出て、そして日本へ向かう過程が描かれている。日本という豊かな国に生きていれば決して知ることのできない現実である。著者の意図とは違うと思うが、この部分が僕にとって最も大きな収穫となった。
物語全体は「わたし」目線で進むため、すべての努力を否定するような内容ではあるが、そんな考え自体は嫌いではない。ただ「手記」であることを強調したいのか、余計な記述が多く物語の展開のじれったさを感じてしまう作品ではあった。
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