「贋作師」篠田節子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本洋画界の大御所、高岡荘三郎(たかおかそうざぶろう)が死んだ。主人公であり修復家の栗本成美(くりもとなるみ)は、高岡邸に保管されている、状態の悪い絵画を、市場に出回るために修復することになった。修復の過程で成美(なるみ)は、高岡(たかおか)の元に弟子入りして、3年前に自殺した昔の恋人の存在を強く意識することになる。
この物語は常に成美(なるみ)の視点で描かれている。修復家という一般的には馴染みのない職業の中に、大きな夢を追いながらもあるとき自分の才能に見切りをつけ、相応の居場所を見つける人たちの生き方が見える。
また、筆のタッチから描いた人が同一人物かどうか見極めようとする成美(なるみ)の絵画に対する観察力などはとても新鮮に映った。成美(なるみ)が真実に迫る過程で、売るためだけに書く売り絵の存在。絵画界の狭さ。世間が上下させる絵画の価値など、普段触れることのない絵画の世界を知ることができた。
全体的には、じわじわと核心に迫る前半部分とは対照的に、最後は拍子抜けするような展開だったと感じた。後半部分で触れている病気に犯された男女の変わった愛の形は、この物語の表面的な心情描写だけでは到底理解し難いものだった。篠田節子の作品に触れるのは「女たちのジハード」「ゴサインタン」に続いて3作目だが、未だ共通するような個性を感じることはできない。


粟粒結核
大量の結核菌が血流を通して全身に広がった結果起こる結核で、命にかかわる病気。「粟粒」と呼ばれるのは、体中にできる数百万個もの小さな病巣が、ちょうど鳥の餌の粟(あわ)と同じ大きさだからである。

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