2013年3月アーカイブ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
20年間にわたってスモールビジネスを対象にした経営コンサルティング活動を行ってきた著者がその経験を生かして多くの起業家が陥りやすい謝った考え方をいくつかの例を交えて分かりやすく教えてくれる。

非常にいいと思うのは本書ではパイの店を開いたサラという人間に対してアドバイスする形で説明してくれる点だろう。祖母から教えてもらったパイの焼き方が非常においしくて、パイを焼くのが好きで、毎日好きな事をして過ごせると思って店を開いたサラ。しかし、実際にはやらなければならないことがあふれていて、ついにはパイを焼く事さえ嫌になってしまった。

一体何が問題なのかを著者は、人間を3つの人格に分けて説明する。起業家、マネージャー、職人である。この3つの人格がバランスよく機能しなければ会社は成長しないのだという。

全体を通じて印象的だったのはシステムの話。システム化、マニュアル化という言葉を聞くと、どこか冷淡で、仕事に誇りをもって取り組んでいる人のなかには毛嫌いする人もいるかもしれないが、本書がマクドナルドや、著者が偶然であったらすばらしい接客をしたホテルを例にとって書いている内容を読むと考え方が変わるだろう。

特に職人タイプの人は、自分の仕事を「自分にしかできない」として自らの価値を高めているのかもしれないが、その状態のままでは永遠に自分は現場を離れられず、永遠に忙しいままなのである。僕自身現在はまだ職人職が強い職業に就いているので、とても新鮮だった。

本書はなにもこれから起業しようとする人だけが読むべき本ではない。会社で働いている人間にも、マニュアル化やシステムの必要性が見えてくるだろう。もちろん起業家が読めば参考になるだろうが、企業に興味がない人でも、本書を読むと、自らが長年かけて育んだ技術を会社として機能させてみたいと思うのではないだろうか。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
各地で官僚絡みの犯罪が相次いだ。過去をたどればその立場故に人から恨まれる理由はあるはずだが、犯人たちはその情報をどこから得ていたのか。

「ストロベリーナイト」に始まる姫川シリーズの一冊。体裁こそ短編集となっており、姫川の登場もごくわずかだが、姫川シリーズファンは読み逃してはならない内容である。実際、読み始めてから本書が短編集であることを知って残念に思ったのだが、読み進めるにしたがって、それぞれの短編の背景にある共通したつながりに魅了されてしまった。

物語のテーマとしては、官僚の怠慢によって起こった、薬害エイズ事件や年金問題や、インターネットによる情報流出であるが、本書の魅力は社会的問題に絡めているだけではなく、そんな無関係な人々が無関心のまま通り過ぎてしまう出来事を、当事者の目線に立ってしっかりと読者に伝えてくる点だろう。そして、そうして引き起こされた恨みや後悔が不幸の連鎖へと変わっていくのである。

そう。この国は欺瞞と偽善に満ちている。

個人的には元警察官でありながら、息子が殺人事件を起こした事で退職せざるを得なかった男の話が印象的だった。本シリーズのなかで本来主役である姫川玲子(ひめかわれいこ)が、本書のなかで最も存在感を表す箇所でもある。

自分はあのときの問いかけに対して、そんなことはない、生きろと、そういうことはできなかったのだろうか。

関連する事件は読後すぐに調べて詳しく知りたくなる。再び姫川シリーズを読みたくさせてくれる一冊。

ウェルテル効果
マスメディアの自殺報道に影響されて自殺が増える事を指し、この効果を実証した社会学者のPhilipsにより命名された。(Wikipedia「ウェルテル効果」

血盟団
昭和時代初期に活動したテロリスト集団。(Wikipedia「血盟団」

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オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
洗剤メーカーの役員会議で報告されていない事故報告書が見つかり、役員たちは副社長のいすを巡ってそれぞれを非難し始めた。その間、万年係長である松本係長も事故報告書の処理を部長に訪ね始める。小林拓真(こばやしたくま)と恋人の美雪(みゆき)は腐敗し始めた会社の大改革を目撃する事になる。

石持浅海(いしもちあさみ)らしく、今回も会社の会議室と、一つのセクションと言うわずかな空間だけで展開する物語。会議室では夏休み中の気楽な会議だったはずのものが、誤って差し込まれていた事故報告書によって一変するのである。そして、小林拓真(こばやしたくま)は与えられたわずかな情報から誰がこの一連の出来事を意図して、何を目的に行っていくかを解明していく。

企業のなかの権力争いを題材にしているせいか、残念ながら他の作品のようなスリルは味わえなかった。この辺の受け止め方は、現実の世界で、企業にどのように所属し、それをどう捉えるかによるのかもしれない。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
埼玉県の桶川駅前で起こった女子大生猪野詩織さん殺害事件。ひとりの週刊誌記者が警察よりも先に犯人を探し当てる。その週刊誌記者が事件をつづる。

埼玉で生まれ育った僕にとっては「桶川」というのはそう遠くない街の名前の一つであるが、日本ではすでに「桶川」とは「ストーカー」を連想させる言葉になってしまったかもしれない。この事件はそれぐらい強い印象を残している。しかし、この事件は実際どういう風に起こって、犯人は結局どうなったかというと、あまり知られていないのではないだろうか。残念ながら人々の関心というのはその程度のものなのだろう。実際僕自身もそんななかの一人だったのである。

さて、本書は週刊誌記者であり本書の著者でもある清水潔(しみずきよし)氏が事件の一方を受けて現場にいき、少しずつ真相に近づいていく様子が描かれている。彼にとってのこの事件は、被害者からたびたび相談されていたという2人の友人から話を聞いたときに大きく動き始める。

そして、読み進めていく過程で、猪野詩織(いのしおり)さんが陥った境遇を知るに連れて、たまたまその時その場所にいたがゆえに若くして人生を終えなければならなかったという運命の無情さを感じずにはいられない。また、詩織(しおり)さんが感じた恐怖が、その友人や著者自身にも伝染していくのがやけに説得力がある。

詩織さん達がここに相談に来て、絶望したのがよく理解できた。詩織さんは二つの不幸に遭遇した。一つは小松に出会ったこと。もう一つは上尾署の管内に住んだことだ。

著者は、犯人に対する恐怖や怒りについてももちろん触れているが、むしろそれ以上に、警察やメディアに対する怒りややるせなさを語っている。どうして警察は組織の体裁を重視して殺人犯を放っておくのか、どうしてメディアは警察との対立を恐れて真実を追究しようとしないのか。

なんとも皮肉なことに詩織さんの名誉をめちゃくちゃにしたかった小松和人の希望は、警察とマスコミによってかなえられたのだ。
詩織さんは普通のお嬢さんである。両親や弟達を愛し、友人を大切にし、動物を可愛がる、そんなどこにでもいる女性だった。あなたの隣にいるようなお嬢さんだったのだ。

歪んだ世の中を感情に訴える形で見せてくれる秀逸な一冊。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
行方不明だったAliが遺体となって発見され、葬儀で一緒になったAria、Hanna、Emily、Spencer。4人はそこでようやく、4人ともAと名乗る人物から脅迫めいたメールを受け取っていた事を知る。誰もがAliをAだと思っていたが、Aliは死んでいたという事実が分かった今、再び疑心暗鬼が始まる。

前作同様Aria、Hanna、Emily、Spencerの4人に視点を展開して進んでいく。前作から呪いの言葉のようにそれぞれが口にしていた「Jenna thing」の内容も本作品で明らかになる。それはJennaとTobyという近所に住む兄妹に関する出来事だった。ある晩のAliのいたずらによってJennaは失明することになったが、翌日にはJennaの兄のTobyがその罪を被ったのである。一体死んだAliはTobyにあの夜何を言ったのか。

そして同時に4人それぞれの日常が展開していく。1作目ではなかなか理解が、登場人物の個性を認識していなかったが2作目となると次第にそれぞれの個性を理解していくのを感じる。Hannaは、父親が再婚しようとしている先には美人で同年代のKateがいるために、自らのルックスにコンプレックスを持っている。姉の恋人を奪う事になったSpencerは家族との関係を悪化させていく。AriaはHannaの元恋人のSeanと接近していく。そしてEmilyはTobyと近づいていくのである。

まだまだシリーズ序盤らしいが、少しずつ物語が面白くなっていくのを感じる。

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
レパントの海戦とは、1971年オスマン帝国のキプロス遠征に対して、カトリック教国の連合艦隊が挑んだ戦いのこと。本書はカトリック教国側に焦点をあててその歴史的海戦を描く。

「ロードス島攻防記」で初めて塩野七生の著書に触れて、その一冊の読書から見えてくる歴史の面白さに驚いた。本書は僕にとって塩野作品2冊目となるが、こちらも同様にカトリック教国とイスラム教国の歴史的物語を面白く描いている。

今回印象に残ったのは「ヴェネチア共和国」という国名。オスマン帝国は歴史の教科書に必ずと言っていいほど登場するが、「ヴェネチア共和国」という名前を聞いたのはおそらく今回が初めてで、調べてみると「歴史上最も長く続いた共和国」ということで、大いに興味をそそられた。またヴェネチアという町自体、いつか行ってみたい場所でもあるので、本書を読んだことで、きっとヴェネチア旅行がまた違った角度から楽しめることになるだろう。

さて、本書はキプロスに向かって勢いを増すオスマン帝国に対抗するために四苦八苦する連合艦隊の様子が描かれている。当時は櫂と帆で船を動かしていた時代。そのため大量の人員を必要とし、乗船するだけでもかなりの時間がかかるという。

また、スペイン王国の微妙な立場も面白い。連合艦隊に属しながらも、ヴェネチア共和国の勢いは弱まってほしい、そのため連合艦隊に参加しながら、必死で戦争の開始を遅らせようとする。こういったところが歴史の教科書からはわからない一面だろう。

前後の歴史にもさらに興味を抱かせる一冊。

レパントの海戦
1571年10月7日にギリシアのコリント湾口のレパント(Lepanto)沖での、オスマン帝国海軍と、教皇・スペイン・ヴェネツィアの連合海軍による海戦。(Wikipedia「レパントの海戦」

ヴェネチア共和国
現在の東北イタリアのヴェネツィアを本拠とした歴史上の国家。7世紀末期から1797年まで1000年以上の間に亘り、歴史上最も長く続いた共和国。(Wikipedia「ヴェネチア共和国」

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
幼い頃のできごとによって話す事をしなくなったMikeだが、2つの才能を持っていた。一つは絵を描く事、そしてもう一つはどんな鍵でも開けてしまうこと。そんなMikeは金庫破りになっていた。

最近よく見られる手法ではあるが、本作品もある程度のときを隔てた2つの時間を交互に描いていく。片方はまだ学生のMikeを描き、話さないがゆえに周囲の人々から孤立していながらも、その才能で少しずつ自らの存在感を示していく。もう一方では、すでに金庫破りとして仕事を受けて、犯罪者たちに加わって行動する。物語を読み進めるに従ってこの2つの時間の間の出来事が少しずつ埋まっていく。

金庫破りを描いているので、Mikeが金庫を開ける際の描写がやはり新鮮である。そもそもダイヤル錠がどのような仕組みになっているのか、どれほどの人が理解しているのだろうか。軽くでもダイヤル錠の仕組みを知ってから読むともった楽しめるかもしれない。

Mike自身もなりたくて金庫破りになったわけではなく、その過程にはいくつかの運命的出会いがある。その一つが、Mikeと同じように絵を描く事を得意とするAmeliaとの出会いである。Ameliaと話すことのできないMikeは絵でお互いの意思を伝える。小説ゆえに、そんな絵による会話が文字でしか見えないのが残念であるが印象的なシーンのひとつである。

さて、仕事中でもかたくなに話そうとしないMikeの言動から、「幼い頃何があったのか」「なぜ彼は話せないのか」という疑問が読み進めるうちにわいてくるだろう。そんな好奇心が読者の心を物語を最後まで引っ張っていくのである。

しだいに打ち解け心を許し合うMikeとAmeliaだが幼い頃のできごとを話そうとしないMikeの言動もAmeliaの心にブレーキをかける。また、Mike自身も金庫破りという仕事ゆえに次第に危険な出来事に巻き込まれるようになる。

悲しくも温かい物語。

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

落語家今昔亭三つ葉(こんじゃくていみつば)のもとに、話し方が巧くなりたいという男女が集まった。仕方がないので三つ葉(みつば)は彼らに落語を教える事にする。

なによりも落語を扱った書籍に初めて出会った。その点ですでに本書は新鮮である。落語界の仕組みなどをおそらく丁寧に本書も説明しているのだが、落語家は似たような名前が多くてしっかり理解できたとは言えない。しかしそれでも漠然とではあるが伝わってくるものがある。例えば、落語にも古典落語というような伝統的なものとそうでないものがあり、また、古くからある話は、人々の生活様式がその落語の基盤となる時代と異なってくるにしたがって人々に伝えにくくなっているなど。落語を一度聞きにいってみよう、と思うには十分の内容。

その年、季節、天候、顔ぶれ。それぞれの心模様、何もかもが違うんだよ。だからこそ、毎度毎度面倒な手順を踏んで同じことを繰り返し稽古するんだよ。ただ一度きりの、その場に臨むためにね。

しかし本書が描くのは、そんな落語界の実情だけではなく、話す事を苦手とする共通点を持った男女4人の物語である。クラスでいじめに会っている小学生の村林(むらばやし)、テニスのインストラクターだったがうまく話す事が出来ずに辞めた良(りょう)、元プロ野球選手で、解説がうまく出来ずに悩む湯河原(ゆがわら)、そして女性、十河(とかわ)。いずれも話す事が苦手なだけでなく、人と打ち解ける事もしようとしない性格ゆえに場を仕切る三つ葉(みつば)は困り果てる、しかし、それでも次第に4人が、落語を通じてそれぞれのコンプレッスをさらけ出しつつ、少しずつ心を通わせていく様子が面白い。

少しずつ落語の面白さを知っていく4人。三つ葉(みつば)自信も自らの落語に対して試行錯誤を重ねていく。そんな落語への取り組みがそれぞれの生活まで少しずついい方向に変えていくようだ。面白く温かい物語。

佐藤多佳子の作品は本書で2冊目だが、どちらも何かに対して努力し、そこから得られる達成感、仲間との一体感が描かれている点が魅力である。他の作品にもぜひ触れてみたい。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ラテラルシンキングの才能を開花させた浅倉絢奈(あさくらあやな)だが、仕事の悩みだけでなく、家族や恋愛の悩みもつきまとう。

ラテラルシンキングに特化した前作と異なり、今回はむしろ恋人で政治家でもある壱条那沖(いちじょうなおき)や絢奈(あやな)の姉でありフライトアテンダントでもある乃愛(のあ)との関係に焦点があてられている。前作の物語でより溝が深くなった母や姉、乃愛(のあ)との関係だが、今回は偶然にも同じ飛行機に添乗員、フライトアテンダントとして乗り合わせる事から大きく動いていく。

例によっりトリビアいっぱいの一冊。もう少し物語り自体を深めて欲しいとも思うが、こういう軽い内容というのが世の中の読者が求めているものなのかもしれない。

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