2009年4月アーカイブ

オススメ度 ★★★☆☆
人を操る不思議な力をもつ「ぼく」は、学校で起きた事件のために言葉を失った幼馴染み「ふみちゃん」のために、その犯人と会うことなった。不思議な力を使って犯人に罰を与えるために。

基本的に物語は、不思議な力を持ちながらその力の使い方を知らない小学四年生の「ぼく」と、同じ力を持って過去に何度かその力をつかったことがある大学教授の秋(あき)先生との間の会話が軸となって進む。

学校のウサギを殺した犯人と一週間後に面会する約束をとりつけ、2人は犯人にどんな罰がふさわしいかを話し合う。

物語は大人である秋(あき)先生が、小学生の「ぼく」の気持ちに対して、いくつかの疑問をなげかけ、時にはいろんなたとえ話や経験談を交えながら進むのが、それが「ぼく」と20歳以上も歳の離れた僕の心にもここまで響くのは、その問題が決して答えの出ない問題だからだろう。物語の中でもその場にいないほかの人物の意見としていくつかの考えが紹介されている。

復讐しても、元通りにはならない。すごく悔しいし、悲しいけど、その感情に縛られてしまうこと自体が、犯人に対して負けてしまうことなんだ。
犯人を、うさぎと同じ目に遇わせる。自分のために犯人がひどい暴力を受けることは、その子だって望まないかもしれない。だけど、自分のために狂って、誰かが大声を上げて泣いてくれる。必死になって間違ったことをしてくれる誰かがいることを知って欲しい。

生きているうちに知らぬ間に組み立てられていた自分の心の中の常識、生命の価値だったり、正義の形だったり、強さの形だったり、人を想う坑道だったり、そういった、今までとりたてて疑問に想ってこなかったものに対して、「もう一度考え直してみよう…本当にこれでいいのか、本当にこれは正しいのか…」。そう思わせてくれる作品である。

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オススメ度 ★★★☆☆
タレント事務所で働く祐二(ゆうじ)はあるとき、バンドでギターを弾いている夏美(なつみ)というとびっきりの才能と出会う。事務所の方針とは相反するものの彼女を売り出すことを決意する。

一見軽率なイメージを与えがちな、タレント事務所であるが、本作品では最初から、そこで働く祐二(ゆうじ)の、優しいがゆえに、苦しむ様子が描かれている。

お前が食い潰したんだよ。彼女の2年をな。二度とは戻らない。十代の最後を、二年間もな。

普段接することのな世界で生きる人々のその一生懸命な姿、そこで生きるがゆえに感じる多くの矛盾や葛藤が描きながら進む夏美と雄二の夢物語を期待し、期待感は膨らんだのだのだが、夏美(なつみ)の所属するバンドのボーカル、薫(かおる)の自殺をきっかけに話は一気に動き出す。

どうして薫は自殺したのか…。

しんみりとしがちなテーマではあるが、自分の才能を知らずに思ったまま行動をする夏美(なつみ)の姿はとそれに振り回される祐二(ゆうじ)のやりとりはなんとも微笑ましくタイトルの「疾風ガール」を裏切らない。

一人でも輝けるあんたには、周りの人間が自分と同じぐらい輝いて見えちゃうのかもね。でも、それはあんたが照らしてるからであって、その人の背中は、実は真っ暗になってるってこと、あるんだよ。

幼い頃は「がんばればなんでもできる」なんて言われて育ったけど、20代も過ぎれば「才能」というものが世の中には存在することは誰もが理解している。生きる道によってはその「才能」の違いは努力で補えたりもするが、「才能」がなければいきていけない道もある。

そういう道で生きている人たちがどんなことを感じ、その道でそんな嫉妬や葛藤、そして絶望が生じるのか、ほんのすこし理解できたような気がした。

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オススメ度 ★★★☆☆
ニューヨークで身元不明の東洋人の死体があがった。コカインの常習者だけが明らかとなったがそのまま身元不明として処理された…。

朝倉恭介(あさくらきょうすけ)は、頭脳明晰で格闘技にも長けでいながら、両親を事故で失った過去によるせいか、自分の心を満たす生き方を模索する。その結果の一つとして日本におけるコカインのネットワークシステムを確立した。

すでに何冊か発汗されている朝倉恭介(あさくらきょうすけ)のシリーズの第一作にあたる。本屋の楡周平の作品の売り場を見れば「朝倉恭介」とそのまま本のタイトルにこの登場人物の名前をすえたものも見かけた。登場人物の名前を本のタイトルにするような例はそれほど多くはない、思い浮かぶのでも、御手洗潔(島田荘司)、金田一耕助(横溝正史)、岬美由紀(松岡圭祐)、浅見光彦(内田康夫)ぐらいだろうか。

本シリーズの朝倉恭介(あさくらきょうすけ)が他の登場人物の違うのは、コカインネットワークを築くことからもわかるように、誰にも受け入れられるような「正義」ではないということだ。だからこそその社会のルールに反した生き方の信念がどうやって読者の心を惹きつけていくのかに興味がわく。なんにしても今後に期待である。

本作品は、どちらかというと物語自体よりも、その考え出されたコカインの密輸のシステムを読者に知らし目対のではないかと思えるような内容である。



ショーロ
ブラジルのポピュラー音楽のスタイル(ジャンル)の一つである。19世紀にリオ・デ・ジャネイロで成立した。ショーロという名前は、chorar(ポルトガル語、「泣く」という意味)からついたと言われている。(Wikipedia「ショーロ」

保税地域
外国から輸入された貨物を、税関の輸入許可がまだの状態で関税を留保したまま置いておける場所のことを指す。(Wikipedia「保税地域」

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日系二世としてコロンビアで生まれ育ちマフィアのボスとなったリキ・コバヤシは、日本の警察に捕らわれた仲間を助け出すために、ひとりの少女とともに日本にやってきた…。

久しぶりの垣根涼助作品の文庫化だが、もはや垣根作品には欠かせない題材である南米の文化が当然のように取り入れられている。

リキの部下であり警察に拘束された男を取り調べる警察の動向と、またその部下を救おうとするリキたち組織の人間の動きが本作品のメインではあるが、そんな中で随所に、その主要人物の回想シーンが挟み込まれている。

日本人の血をひくがゆえに生まれ持った知性によって、「豊か過ぎる国」、コロンビアだからこそ起きる混乱によって多くの親しい人を失いながらもマフィアのボスという地位を築いたリキ、そしてリキだけは自分を助けてくれると信じて疑わないその部下たち。

そんな暴力の支配する血なまぐさい世界を描いただけの作品になりそうだが、リキのそばを離れようとしない少女カーサの存在が彩(いろどり
を添えている。リキとカーサとの出会いのくだりは平和な日本という国しか知らない僕には興味深く、特に、絵を描くときに人の首まで描くことに込められた意味が語られる場面は非常に印象的であった。

世界は、人生は、決して辛く悲惨なものではなく、明るく喜びに満ちていることを、あなたが体感させてあげるのです。

一方で、物語は日本の警察官にもしばしば視点が移る。拘束された男の取調べを受け持つ武田(たけだ)と、その元恋人であった若槻妙子(わかつきたえこ)である。

裕福な家庭に生まれながらも自分と周りとの空気の違いに孤独感をぬぐえずに生きている妙子(たえこ)、正義を貫きたいがゆえに警察に入りながらもやがて麻薬に溺れていく武田(たけだ)、本作品を読み終わってこう振り返ってみると、人格をつくるのはその生まれ育った環境ばかりでなく、生れる前から心の中に巣食ったなにかなのかもしれない、そういう考えをもたらしてくれた。


あんたは、相変わらず泣かない子だね。
どんなに悲しくても、昔からそうだった。

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