「ゆりかごで眠れ」垣根涼介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日系二世としてコロンビアで生まれ育ちマフィアのボスとなったリキ・コバヤシは、日本の警察に捕らわれた仲間を助け出すために、ひとりの少女とともに日本にやってきた…。
久しぶりの垣根涼助作品の文庫化だが、もはや垣根作品には欠かせない題材である南米の文化が当然のように取り入れられている。
リキの部下であり警察に拘束された男を取り調べる警察の動向と、またその部下を救おうとするリキたち組織の人間の動きが本作品のメインではあるが、そんな中で随所に、その主要人物の回想シーンが挟み込まれている。
日本人の血をひくがゆえに生まれ持った知性によって、「豊か過ぎる国」、コロンビアだからこそ起きる混乱によって多くの親しい人を失いながらもマフィアのボスという地位を築いたリキ、そしてリキだけは自分を助けてくれると信じて疑わないその部下たち。
そんな暴力の支配する血なまぐさい世界を描いただけの作品になりそうだが、リキのそばを離れようとしない少女カーサの存在が彩(いろどり
を添えている。リキとカーサとの出会いのくだりは平和な日本という国しか知らない僕には興味深く、特に、絵を描くときに人の首まで描くことに込められた意味が語られる場面は非常に印象的であった。

世界は、人生は、決して辛く悲惨なものではなく、明るく喜びに満ちていることを、あなたが体感させてあげるのです。

一方で、物語は日本の警察官にもしばしば視点が移る。拘束された男の取調べを受け持つ武田(たけだ)と、その元恋人であった若槻妙子(わかつきたえこ)である。
裕福な家庭に生まれながらも自分と周りとの空気の違いに孤独感をぬぐえずに生きている妙子(たえこ)、正義を貫きたいがゆえに警察に入りながらもやがて麻薬に溺れていく武田(たけだ)、本作品を読み終わってこう振り返ってみると、人格をつくるのはその生まれ育った環境ばかりでなく、生れる前から心の中に巣食ったなにかなのかもしれない、そういう考えをもたらしてくれた。

あんたは、相変わらず泣かない子だね。
どんなに悲しくても、昔からそうだった。

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