2005年7月アーカイブ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
大学施設で女子大生が連続して殺害された。現場はいずれも密室状態で、死体にはアルファベットと見られる傷が残されていた。捜査線上に浮かんだのはロック歌手の結城稔(ゆうきみのる)であった。

このシリーズの魅力はなんといっても犀川創平(さいかわそうへい)と西野園萌絵(にしのそのもえ)という2人の常識をはずれた思考能力の持ち主が交わす会話である。その会話は僕自身にいろいろなものを気付かせる。今回も犀川(さいかわ)は言っていた。

みんな、不思議を見逃しているだけだよ。ブーメランがどうして戻ってくるのか、ヘリコプターがどうして前進するのか、工学部の学生だって誰も知らない。

好奇心は目の前を通り過ぎる物事の多さの前で忘れ去られ、不思議は常に存在することで不思議ではなくなる。そしてみんな、深く考えずに事実を受け止めることに慣れていくのだと思った。

今回も萌絵(もえ)の特殊な立場によって2人は捜査の中に介入していき、そして謎が解ける。人を殺さなければならない理由。人に惚れる理由。病的なまでの思い込みが良心を凌駕し、凶悪な事件を起こすさまを見せ付けられる。

あの人は、汚れたものが嫌いなんだ。純粋で、学問が好きで、高尚で、完璧な人だ。傷があったら、腕ごと切り落とすような人なんだ。

僕はこの言葉に共感した。きっと狂気は誰の中にもあるということだ。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
駒井健一郎(こまいけんいちろう)34歳は職を失い、ハローワークで職を探していた。そんな折、高校時代の友人、天知達彦(あまちたつひこ)と出会った。達彦(たつひこ)は次の衆議院選挙に立候補するから手伝ってほしいと告げる。度重なる説得の末、健一郎は第二の人生を選挙戦へと注ぎ込むこととなる。

真保裕一は好きな作家とはいえ、堅苦しい政治の話だと思って、この本を手に取るまで時間がかかった。なぜなら、僕にとっては自民党にも民主党にも大した違いは見えないし、今の政治に満足しているわけでは決してないが、興味を注いで動向を見つめるほどでもないからだ。そんな僕には達彦(たつひこ)が健一郎(けんいちろう)を説得するために語った言葉は耳が痛い言葉ばかりだ。

この国がどうなったって、自分の暮らしさえ今と変わらなきゃいい。そんなことしか考えられない身勝手な連中に、今の政治家を笑う資格があるか

「投票に行け」とか、「政治を駄目にしているのは国民だ」などと頭ごなしに言われればつい反論したくなるが、この本を読み進めていくうちに「国民の政治への無関心さ」を良くないことだと素直に受け入れざるを得なくなる。

また、今まで見えなかった選挙というものの裏側がリアルに伝わってくるとともに。政治を腐敗させる原因が選挙制度の中にもあるということを教えてくれる。

政治家は、落選してしまえば、即収入の道を絶たれて仕事を失う。落選すればただの人、という恐怖心が、過剰な広報活動の出費を引き出していくのだ

しかし、達彦(たつひこ)はこう語る

政治っていうのは解決のために道を探るのではなく、道を示すものだ

達彦(たつひこ)が語った政治論は「理想」であり「現実」とは程遠い考え方なのかもしれない。そして理想だけでは政治家であり続けることができず、政治家でなくなればなにも実現できない。そんな葛藤が現実にはあるのだろう。しかし政治家には「理想」と「絶対に譲れない線」は持ち続けて欲しいと思った。

そして達彦(たつひこ)はこうも語る。

俺は思うんだよ。選挙は政治家の姿勢が試される時なんかじゃない。有権者である国民の姿勢が試される時なんだって、な

本当に耳が痛い・・

なにより僕を刺激してくれたのは健一郎とその仲間たちの仲間を支えようという想いである。情熱を注ぐものさえ見つければ、何歳になっても熱い感動を味わうことができるということだ。眠る時間も惜しんで情熱を注げるもの。そんなものをまた見つけたくなった。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「新しい世界で何かを始めたい。新しく生まれ変わりたい」。そう決心して広野有子(ひろのゆうこ)は上海へ留学した。しかしそれでもそこで有子(ゆうこ)を待っていたのは日本の社会を凝縮したような留学生たちの姿である。そんなとき、有子(ゆうこ)の大伯父で、70年前に上海で失踪した質(ただし)の幽霊が現れる。それを機に有子(ゆうこ)は質(ただし)の遺した日記「トラブル」を紐解く。広野質(ひろのただし)の生きた70年前の上海、そして今、有子(ゆうこ)が生きる上海が、夢と現実の中で重なってくる。

物語のテーマはむしろ前半に濃密に描かれているように感じる。男性と違って、女性は地方出身者は大きなハンデを背負うことになる。と有子は分かれた恋人の行生(ゆきお)に宛てた手紙で訴える。

東京で生まれ、就職する女たち。化粧がうまくセンスもいい、私たち地方出身者は安いアパートに住み、貧乏な暮らしにも耐えなければならない。仕事なら負けないと自身はあったのに、彼女たちは私なんかよりはるかに優秀で、しかもリスクがないから物怖じしない。怖じないから、どんどん冒険して伸びていく。こうした不公平さに怒りを覚える。

つい僕の周囲の女性たちのことを考えてみた。残念ながらみんな親元でリスクもなく生活しながら、それなのに冒険らしきものをしていない人ばかりだ。そんな女性が、有子(ゆうこ)のような女性にとってはもっとも許せないのかもしれない。

一方、物語の後半はというと、恋人だろうと家族だろうと、人を理解することがどれだけ難しいかをを訴えてくる。

全体的には作者が読者に訴えたいことが物語の最初と最後で少しずれてきているように感じた。訴えたいことが複数あり、にもかかわらずそのうちどれにも焦点が合っていないという印象を受けた。

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