「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」北健一郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ガンバ大阪の遠藤保仁(えんどうやすひと)、FCバルセロナのシャビ。強いシュートを打つわけでもなく、驚くような鋭いパスを放つわけでもない彼らだがそれぞれのチームの中心人物と評価されている。彼らのどんなプレーがすごいのかを、彼らがときどき出す弱いパスを中心に解説する。
正直サッカーを何年もプレーした事がある人にとってはそんなに新しい内容ではないだろう。遠藤やシャビほど計算し尽くしてはいなくても無意識にやっていることかもしれない。それでもこうやって言葉にしていくつかの例とともに説明されると改めていろいろ戦術というものについて考えるだろう。
また、本書では遠藤(えんどう)のプレーに対して、一緒にプレーした事のある他のプレーヤーの意見も書かれている。そこで語られるのは意図を感じさせるパス。パスカットされる可能性があれば出さないという相手ゴール付近であっても出さないという選択、サイドチェンジの効果などである。いずれも賛否両論あるとはいえ、何事もそうだがパス一本とっても極めようとすればいくらでも上がある、ということを再認識させられる。
サッカーを知らない人にとっても、これからサッカーをテレビなどで観戦する際の助けとなるだろう。
【楽天ブックス】「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」

「恐れるな! なぜ日本はベスト16で終わったのか?」イビチャ・オシム

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元日本代表監督のイビチャ・オシムが南アフリカワールドカップの日本代表を振り返る。
日本は南アフリカワールドカップの予選リーグでカメルーン、オランダ、デンマークと戦い、最終的に決勝トーナメント1回戦でパラグアイに破れて大会を後にした。今まで多くの雑誌やメディア、テレビ番組でこの4試合について語られてきたが、やはり経験豊かな監督の目線は異なる。負けた試合はもちろん、勝った試合についても良くなかった点や改善方法を示してくれる。
オシムに言わせると、パラグアイは決勝トーナメントに残った16チームのなかでもっとも勝ちやすい相手だったという。前回大会のトルコと動揺、相手にめぐまれたにも関わらずベスト8に進めなかった事を嘆く。孤立してしまった本田をどうすれば機能させることができたのか。選手の間に「引き分けでもいい」という考えがあったのではないか、などである。
そして日本代表だけでなくその他の印象に残ったチームや選手についても語っている。スペイン、オランダはもちろん、予想外に終わったブラジルやイタリア。すばらしい活躍をしたウルグアイのフォルランなどである。本書を読むと改めて、オシムの視点で試合を見直したくなる。
また、サッカー界の流れについても語る。スペインの優勝がサッカー界にもたらすもの。モウリーニョ主義への懸念、日本サッカーの向かうべき方向など、本書によってまたサッカーが1つ深く見れるようになるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「恐れるな! なぜ日本はベスト16で終わったのか?」

「グアルディオラのサッカー哲学 FCバルセロナを世界一に導いた監督術」フアン・カルロス・クベイロ/レオノール・カジャルド

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
サッカーファンでなくても現在のFCバルセロナが、世界でトップ3に入る強豪チームである事は知っているだろう。すでにその前任のライカールト監督時代に現在のようなスペクタクルなサッカーを展開するようにはなっていたが、それでも当時いくつかの問題を抱えていた。そんな中、下部チームを率いていたグァルディオラが一気にトップチームの監督へと引き上げられ、ロナウジーニョやデコなどの有名選手を戦力外にするのである。メディアから批判されたが勝利という結果が出るにつれて、批判は賞賛へと変わっていく。
世界のトップチームはいつも個性のある選手達で構成されている。そのためそのチームを率いて目標を成し遂げる監督の考え方や言動はいつも非常に参考になる。イビチャ・オシム、アーセン・ベンゲル、モウリーニョなどはその代表格であるが、本書からもグァルディオラの持つリーダーシップに重要な心構えが見えてくる。それは明確に意図を伝える能力と、常に物事を学ぼうとする真摯な姿勢である。
グァルディオラが監督として選出される際、すでにチェルシーやFCポルトで優れた結果を残していたモウリーニョも候補にあがったが、バルセロナの文化を熟知しているという点でグァルディオラが選出されたという。モウリーニョはその高慢な物言いから、メディアや他チームと敵対しがちであるのに対して、グァルディオラは何事にも敬意を払うという点が印象的である。
多くの人と関わって何かを成し遂げようとする際に参考になるだろう。
【楽天ブックス】「グアルディオラのサッカー哲学 FCバルセロナを世界一に導いた監督術」

「3時間台で完走するマラソン まずはウォーキングから」金哲彦

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
マラソンを走る上での準備や考え方について語る。
今年3回目のフルマラソン挑戦を決意し、何か新しいヒントが得られることを望んで本書を手に取った。著者は他にも数多くのマラソン関連書籍を出している金哲彦氏である。

腹式呼吸や胸式呼吸、有酸素運動や無酸素運動などの運動や筋肉に関する基本的な内容から、ペース走、ウインドスプリントなどマラソンを走る上で有効な練習方法について解説している。また、フルマラソンを走るための練習だけでなく、ダイエット目的の体重を落とすための正しい方法についても説明しているので、マラソンを日常的に行うすべての人に役立つ内容なのではないだろうか。

印象的なのは著者が走る事と同じくらい重要なこととして、生活習慣の改善を強調していることだろう。食生活、入浴、ストレッチなど生活を少しずつ改善する事でマラソンだけでなく、生活にハリが出てくるというのだ。

正しいフォームや怪我のケアなど、本書によってマラソンに関する新しい知識をまたいくつか得る事ができた。出来る範囲で反映していこうと思う。
【楽天ブックス】「3時間台で完走するマラソン まずはウォーキングから」

「社交ダンスはリズムで踊れ! 足型いらずのダンスレッスン」石場惇史

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ダンス用の音楽制作を数多く手がける著者が社交ダンスの音楽について語る。
競技ダンスに励むと音がしっかりとれないことが時々悩みの種になる。そもそも音を正確にとるにはどうしたらいいのか。そんなことがきっかけで本書を読む事になった。
本書ではまずは音に合わせて歩く、というような基本的なことで音楽にあわせて身体を動かす事を解説している。その後は世の中にあふれる音楽の種類と、それぞれの特徴について説明している。本という媒体なので音なしのリズム譜での解説になるので正直わかりにくいが、多くの音楽が世の中には存在することがわかるだろう。
著者が言うには、世の中には「社交ダンス用」と書いてありながらも、単純にスピードだけ合わせてベース音がなかったりリズムが乱れていたりと質の悪いのが多く出回っているのだそうだ。国内の社交ダンス用CDの80%以上がそのようなものだというから驚きである。つまり音がとりにくければ自らのダンスの技術とあわせて音楽を疑ってみる必要があるというこである。
全体的な内容は、やや行き過ぎたダンスや音響についての解説があったりと一貫性に欠けていたのであまり読みやすいものではなかった。
【楽天ブックス】「社交ダンスはリズムで踊れ! 足型いらずのダンスレッスン」

「ウルトラマラソン マン」ディーン・カーナゼス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
46時間で320km走り抜いた経験を持つ著者が、学生時代のマラソンの経験や、社会人になって再びマラソンにのめり込み、その中で経験したレースや生活について語る。

著者はいくつものマラソンレースに参加しているがなかでもウェスタンステーツ100、バッドウォーターウルトラマラソン、南極マラソンは面白い。僕らはマラソンというとせいぜい42kmの距離でしか考えないが、本書で語られるマラソンを知るとフルマラソンが可愛く思えてくる。距離が長いだけでなく標高差の激しいマラソンは、場所に寄っては冬のように寒くも夏のように暑くもなるのである。

バッドウォーターでは、高い気温で熱せられたアスファルトによってシューズが溶けてしまうというから驚きである。また、南極マラソンでは下手をすると気管支が凍ってしまうというのだから、そんな環境でマラソンをしようとすることがどれほどの挑戦か想像できるだろう。

きっと多くの人から変人扱いされているのだろうが、著者の人生はものすごい充実感あふれるものに違いない。
【楽天ブックス】「ウルトラマラソン マン」

「踊りませんか? 社交ダンスの世界」浅野素女

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
パリに移り住んで社交ダンスの魅力に取り憑かれた著者が、それぞれのダンスの起源や魅力について語る。
冒頭で語られていることではあるが、著者は別に社交ダンスの先生でも技術の優れたダンサーでもない。多くの人と同じように社交ダンスが好きな一人の女性である。本書には技術的なことはほとんど書かれていないのである。むしろだからこそ社交ダンスの本としては珍しいかもしれない。

モダンが重力から解き放たれ、天空を翔ることを目ざすなら、ラテンは大地の存在を呼び起こす。

僕自身社交ダンスをここ3年ほど楽しんではいるが、考えてみると10ダンスと言われるモダン5種目(ワルツ、タンゴ、スローフォックストロット、ヴェニーズワルツ、クイックステップ)、ラテン5種目(ルンバ、チャチャチャ、サンバ、ジャイブ、パソドブレ)がどうやって生まれてどのように今の形になったのかまったく知らなかったのである。
例えば社交ダンスのなかでおそらく最初に習い、もっとも時間をかけて練習するだろうワルツについてさえも、きっと発祥はヨーロッパだろうと思いながらも正確なところは知らなかったのだ。本書が語るのはまさにそんな部分。どうやらワルツは多くの歴史を乗り越えて今の形になっていったのだという。
それぞれのダンスについて語る中で、著者のダンスについての考え方も見えてくる。

五十歳のカップルに、二十歳のカップルのダンスは踊れない。その反対も成り立つ。年齢に応じた味わいがニュアンスがあるということだ。肉体のはかなさや人の心の弱さを意識した時にしか醸し出せない味わいというものもあるだろう。

きっと本書を読む事でそれぞれのダンスにさらに深い姿勢で臨む事ができるようになるだろう。社交ダンスをしたことがなくて本書を読んだ人は社交ダンスを始めたくなるかもしれない。
【楽天ブックス】「踊りませんか? 社交ダンスの世界」

「悪者見参」木村元彦

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
残念なのは本書のタイトルや表紙はその内容を的確に伝えてないということ。むしろストイコビッチがJリーグでイエローカードをもらいながらも、すばらしい実績を残していく様子を描いていそうな、タイトルと表紙だが、実際にはユーゴ紛争を描いていてサッカー選手もそのうちの一つの要素に過ぎない。
しかし、紛争の悲劇を伝えるために、本書は何人かのサッカー選手の体験を紹介する。印象的なのは悪魔の左足と恐れられた正確無比なフリーキックで有名なミハイロビッチがようやく自らの家に帰ったときの体験である。

散々荒らされた室内に足を踏み入れ、眼を凝らすと真っ先に飛び込んできたのは、壁に飾られた旧ユーゴ代表の集合写真だった。そこには彼の顔だけがなかった。銃弾で打ち抜かれていたのだ。
「あの時の悲しさ、淋しさは一生忘れない。僕は帰らなければよかったとさえ思った。帰らなければ思い出が何もなかったように、僕の中でそのまま残っていただろう。

とはいえ、本書の焦点はむしろアメリカ、イギリスなどNATOが中心となって、その空爆の正当性を訴えるためにつくりあげる、セルビアの悪者のイメージである。10万人のアルバニア系住民を監禁したと報道されたスタジアムは実際には8000人も入れそうもない大きさだったという。報道によって世の中に「悪者はセルビア」のイメージが徐々に世の中に刷り込まれていくのに、それに対して何も出来ない著者の歯がゆさが伝わってくる。

絶対的な悪者は生まれない。絶対的な悪者は作られるのだ。
味方なんかじゃない。あんたたちが思っているような国じゃない。
アメリカの戦争に協力する法案を国会で通し、ユーゴ空爆に理解を示した国なんだ、我が日本は!

本書を読んで感じるのは、「僕らが見ている真実とは何なのだろう?」ということ。僕自身それほどあの当時コソボ紛争に関心があったわけではないが、サッカースタジアムで、クロアチアの選手であるズボニミール・ボバンが警官に飛び蹴りして、国内で英雄視されていたのを知っているし、それを疑いもなく信じていたのだ。
【楽天ブックス】「悪者見参」

「勝者のエスプリ」 アーセン・ベンゲル

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
現在では「人の才能を見抜く天才」と呼ばれ、日本の名古屋グランパスの指揮をとったのち、イングランドプレミアリーグの名門アーセナルで偉業を成し遂げたベンゲルであるが、そんな彼がアーセナルへの発ったのちに日本のサッカーについて語った内容をまとめている。
序盤からその物事を分析する観察力の鋭さに驚かされる。才能のある人間が陥りやすい罠と、監督がするべき役割が非常に説得力のある形で描かれている。大人になって、若手を指導する立場へと変わっていく人々にとって参考になるのではないだろうか。
そして後半では、グランパスでの出来事や、日本のサッカーの将来についても語っている。残念ながら、本書が出版されたのがすでに15年以上前という事で、その空白による違和感は拭えないが、ベンゲルが本書で述べている日本サッカーへの提言はいくつかはすでにJリーグの中に反映されているように見える。
むしろ、アーセナルで何人もの若手選手を世界的選手に育て上げた現在の彼の考えに触れてみたいと思った。
【楽天ブックス】「勝者のエスプリ」

「オシムの言葉」木村元彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
元日本代表監督でその前は降格寸前のジェフ千葉を再建させた手腕を持つオシム。しかし、彼もまたユーゴスラビア出身故に戦争に振り回された人間の一人。そんなオシムの人生を描く。
前半は日本に来る前のそのサッカー人生について書いているが、その人生からは何より日本とユーゴスラビアの環境の違いが見えてくる。サッカー以外にできることがなかったからサッカーを始めた、というそのコメントには、サッカーに対する日本人と貧しい国の人々の考え方の違いを表しているように思う。
やはり90年のイタリアワールドカップの内容が非常に印象深い。準々決勝のアルゼンチン対ユーゴスラビア。あの当時、僕自身はようやく世界のサッカーに興味を持ち出して、正直アルゼンチンのマラドーナを含む一握りの選手しか知らなかったので、ユーゴスラビアなどというチームがこのようなドラマを抱えていたとは知るはずもない。実際には彼らは崩壊しつつある国のユニフォームをまとって戦っていて、その試合はPK戦にもつれこんだのだ。

監督、どうか、自分に蹴らせないで欲しい。
オシムの下で9人中7人がそう告げて来たのだ。彼らはもうひとつの敵と戦わなくてはいけなかった。
祖国崩壊が始まる直前のW杯でのPK戦。これほど、衆目を集める瞬間があうだろうか。

当時の状況を知ると、PKを蹴る事が文字通り命がけ、どころか家族までも危険に晒す事になったかもしれないのである。
後半は日本に来てからの様子が描かれている。最初は不可解だったオシムの振る舞いが、少しずつジェフの選手の理解を得て、チームや個々の強さへと変わっていく様子がうかがえる。リーダーという役割を持つ人間のあるべき姿が見えてくる。むしろリーダーシップを学びたい人はオシムの言葉をしっかり受け止めるべきだろう。また、海外から来て日本の文化にとけ込もうとする人のみ見える日本の文化の問題点も見えてくる。

私には、日本人の選手やコーチたちがよく使う言葉で嫌いなものが二つあります。「しょうがない」と「切り換え、切り換え」です。それで全部を誤摩化すことができてしまう。これは諦めるべきではない何かを諦めてしまう、非常に嫌な語感だと思います。

ユーゴスラビア代表でそのたぐいまれなる才能にもかかわらずオシムによってベンチに退けられながらも、サビチェビッチは数年後チャンピオンズリーグを制して、観客として感染していたオシムとその息子のもとに駆け寄って感謝を伝えたという。
試合に出させてもらえなかった選手が、その監督にこれほど感謝の念を抱くという状況が信じられない。そんな指導者に出会える幸運に恵まれた人間が本当に羨ましく思えてくる。
サッカー関連の本を漁っていて偶然にも今回、ストイコビッチを描いた「誇り」と2冊連続で、ユーゴスラビア出身のサッカー選手を描いた、同じ著者の作品を読む事になってしまったが、ユーゴ紛争についてもっと知らなければならない、とも思った。
【楽天ブックス】「オシムの言葉」

「誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡」木村元彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
フィールドの妖精ピクシー。Jリーグ史上最高の外国人選手と言われ、見る者を魅了したてドラガン・ストイコビッチ。そのサッカー人生は政治に翻弄されたといっていいだろう。そんな彼の人生の軌跡を描く。
僕はサッカーをずっとやっていたし、同時にサッカーファンでもあるからJリーグやワールドカップにはそれなりに関心を持っている。だから、一般の日本人がどれだけストイコビッチのことを知っているのかわからない。
簡単に説明するなら、ストイコビッチは90年のイタリア大会でユーゴスラビア代表の中心となってプレーするが、その後は国内紛争に起因する制裁措置によってユーゴスラビア代表は国際大会に出られなくなるのである。個人的にもっとも印象的なのは、1999年名古屋グランパス時代、ゴールを決めた後に、ユニフォームを脱いでそのうちがわに来ていたシャツに書いた文字を示したときである。「NATO STOP STRIKES」。
サッカーという分野に技術を極めたその心構えは多くのアスリートと同様に非常に刺激になるだろう。そのうえでそんな国が分裂するなかで生きるというその強い意志を感じたいと思ったのだ。
内容はピクシーのたどったサッカー人生の軌跡を丁寧に面白く描いている。僕は90年のワールドカップとその後1997年頃のJリーグのストイコビッチしか知らないが、その間を本書はしっかりと埋めてくれる。しかし残念ながら、その間を埋めるのはほとんど悲劇ばかりである。

国連の経済制裁にはいったい何の効果があったのか。ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争に微塵でも貢献したのか。断じてそうではない。戦争を巻き起こした張本人たちの地位はむしろ盤石になり、シワ寄せは政治的弱者に及んだ。ストイコビッチとそのイレブンをフィールドから追放し、セルビア共和国の庶民をどん底の生活に叩き落とした忌まわしい措置。

思ったのは、ストイコビッチを襲った悲劇はとてもやるせないものだが、それがなければストイコビッチが日本でプレーすることもなかったということ。そしてストイコビッチが国民から愛されているという事だ。
【楽天ブックス】「誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡」

「試練が人を磨く 桑田真澄という生き方」桑田真澄

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本での活躍を経てメジャーリーグに挑戦したプロ野球選手、桑田真澄がその野球人生を振り返って心のうちをつづる。
派手さやみなぎるエネルギーはないが信念を感じさせる選手。人に寄っては周囲まで巻き込むようなエネルギッシュな熱い人を好む人もいるのだろうが、僕にとっては野球選手で言えば桑田のように感情をまき散らさず、冷静に自らと向き合って行動で自らの信念を示す人間が好みである。
本書では高校時代の話やメジャーリーグでの話はもちろんだが主に読売巨人軍での話が中心となる。当時はプロ野球には関心があったものの、黄金時代の西武ライオンズ中心で、セリーグの巨人という球団の一選手であった著者のことは名前ぐらいしか知らなかったのだが、本書を読むと、そういえばそんな話があったな、と思い出される事も多い。裏金疑惑や清原とのドラフト騒動、記憶にある人もきっといるだろう。野球の技術的な向上のための思いだけでなく、そんな騒動などを通じてメディアや周囲に対する態度についても語っている。
読んでて感じるのは、本当に著者は、自らが努力するのが好きで、人がどう自分を見るかよりも、自分自身が自分に対してどう感じるかを重視するという事。ひょっとしたら、物事を長く突き詰める上でそんな「自らと向き合う」的な考え方は必ず持っていなければいけないことなのかもしれないが、そんな考えを改めて再認識させてもらった。
内容的にそんなに面白かったり特別新しいことが書かれているわけではない。日本シリーズや中日とのペナントレース最終決戦についても書かれているので、きっと巨人ファンにはもっと楽しめるのだろうが、むしろ、「読者を楽しませる」というよりも「書く事で自らの過去を顧みる」的な、本書で書かれた本人の心のもちかたが、全体の雰囲気からも感じられる構成である。
【楽天ブックス】「試練が人を磨く 桑田真澄という生き方」

「プレッシャーを味方にする心の持ち方」清水宏保

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
スピードスケートの金メダリスト清水宏保が自身の経験を基にプレッシャーとの付き合い方を語る。
スピードスケートの世界では、清水宏保の身長は非常に小さく、彼はスケードで成功するのは無理と言われ続けてきた。そんな彼が最終的に金メダルを獲得するまでにはどんな過程を踏んだのだろう。序盤はその生い立ちや家族構成、スケートを始めるきっかけなどについて描かれている。スピードスケートのような、4年に1回しか注目を浴びないスポーツにすべてをかける人生というのはなかなか見聞きする機会がないので、彼の生活は非常に面白い。

私に誇れるものがあるとすれば、たぶんそれは自分自身を「客観的」に捉える力があったことです。試合前で興奮している自分に、離れたところから見つめている”もう一人の自分”が冷静な指示を出してくる。

そして中盤以降は彼の競技生活のなかで出会ったいくつかのエピソードとともに彼のプレッシャーに対する対処の方法が書かれている。そのいくつかは日常生活のなかの緊張するような場面でも役立つかもしれない。
個人的に刺激になったのが、清水は現在とある大学院で医療経営学を学んでいるというくだり。僕より年上の彼が学校で勉強してまた新たな人生を始めようとしている事実はなにか心に語りかけるものがある。もちろんその先もきっと平坦な道ではないだろうが、困難に挑戦しつづけてきたが故に持っている考え方があるように感じる。
全体的には、そんなに無理に「ビジネスに活かせます」という方向に持っていかなくてもよかったのではないかな、ということ。もっと単純に清水の考え方や生き方に触れてみたいと思った。
【楽天ブックス】「プレッシャーを味方にする心の持ち方」

「イチロー式集中力 どんな時でも結果が出せる!」児玉光雄

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
過去のイチローの言動に触れながら、目的を達成するための行動や考え方を説明する。
そもそもバッティングの結果だけで評価される野球選手と、様々な分野で仕事をしている人にとっての「成功」を同じ視点で見ていいのかはかなり疑問だが、必ずしも仕事に役立てようとするのではなく、趣味でやっているスポーツの工場のため、とでも考えればそれなりに意義を見いだせるだろう。

じつは集中力というものは、他人と競うことでは決して身につかないのです。

おそらく著者も本書を書くためにイチローに会ったわけではないのだろう。30分ほどで読めてしまう内容なだけに、機会があるなら軽く眺めてみるのもいいかもしれない。
返し示している。そこからわかるのは、まだまだゲーム理論は進化の過程にあるということ。今後の発展にも関心を持っていたいと思わせてくれる。
【楽天ブックス】「イチロー式集中力 どんな時でも結果が出せる!」

「ただマイヨ・ジョーヌのためでなく」ランス・アームストロング

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アメリカ人の自転車選手ランス・アームストロングの半生。自転車選手として頭角を現す過程と、睾丸癌により死の淵に立たされてから再び復活するまでを描く。
「マイヨ・ジョーヌ」とは、世界最高峰自転車レース、ツールドフランスでトップの選手が着ることを義務づけられたウェアのこと。とはいえ本書は自転車選手の生涯というよりも、著者自身が強調しているように癌という病気から復活した一人の人間の物語と言う側面が強い。
本書のなかでは病気に限らず、自転車レースがメジャーではないアメリカという国で育った故に、ランスが直面することになった困難が描かれている。その困難を克服する彼の信念は培ったのは、その周囲の人々によるところが大きい。特に、ランスの母が彼に接する様子は非常に印象的である。女手一つで息子を育てながら、常にランスの考えを支持し、決して彼のやることを否定せず、常に挑戦することを求め続けたのである。

母はただ、誠実に努力すれば物事は変わり、愛は救いをもたらす、ということを知っていただけだ。「障害をチャンスに変えなさい。マイナスをプラスにするのよ」と言うとき、母はいつも自分のことを言っていたのだ。僕を産むという決心をしたこと、そして僕を育てたそのことを。

そして、睾丸癌の告知。生死の縁に立たされたことのある多くの人同様、それまでやや傲慢だったランスの考えが次第にではあるが大きく変わっていくのがわかる。

恐怖とはどういうものか、僕は知っていると思っていた。自分が癌だと聞かされる前は。本物の恐怖、それはまぎれもない、まるで体中の血が逆流するような感覚とともにやってきた。
どうして自分が?どうして他の人ではなく自分が?でも僕は、化学療法センターで僕の隣に座っている人より、価値があるわけでもなんでもないのだ。

そして終盤は妻、キークとの出会いと、失意の日々から抜け出してツールドフランスで優勝するまでが描かれている。キークもランスの母と同様、非常に洗練されて思慮深い女性として描かれていて、母とキークだけでなく、ランスが多くの理解者にめぐまれていたということが全体を通じての印象である。
著者ランス自身が、その闘病生活を振り返って、「それまで言われた言葉のなかでもっともすばらしい言葉」として看護婦がランスに言った言葉がある。

いつかここでのことは、あなたの想像の産物だったと思える日が来るように祈っているわ。もう私は、あなたの残りの人生には存在しないの。ここを去ったら、二度とあなたに会うことはないよう願っているわ。そして、こう思ってほしいのよ。『インディアナの看護婦って誰だっけ?あれは夢の中だったのかな』

「明日死ぬとしたら」という問いは、生きている時間の大切さを考える上でよく投げかけられるものではあるが、なかなかそういう風に生きられるものではない。人は怠けるし、現状に甘んじてやるべきことを、いつでもできること、と思ってしまう。本書で描かれているランスの人生はまさに、そんな怠けた心に活を入れてくる。僕はやるべきことをやっているか。やりたいことをやっているか、と。たまたま自転車レースについて調べて本書を知ったが、読み終えて思うのは、本書はもっと多くの人に知られて、もっと多くの人に読まれるべき価値のある本だということ。
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「エデン」近藤史恵

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
白石誓(しらいしちかう)はフランスのロードレースチームに所属している。ツール・ド。フランスで出会ったのは、敵チームに所属していて、めきめきと頭角を現してきたニコラとその幼馴染であるドニだった。
「サクリファイス」の続編である。前作は日本でのロードレースを扱っていたたが本作品はその3年後の物語。全作品と同様ロードレースという日本ではとても注目度が高いとはいえないプロスポーツの世界ゆえに、その世界に身を置く選手たちやその環境などどれも新しいことばかりで非常に面白い。
誓(ちかう)は、チームのエースであるフィンランド人のミッコをアシストすることを自らの役割としてレースを戦うが、すでにチームの解散が現実味を帯びている状態ゆえに、チーム内の選手間や監督との間に不和が広がる。
そしてレース全体を覆うのはドーピング問題。それはもはやドーピングをした選手がいるチームの問題だけに限らず、ドーピングの事実が発覚することはロードレースの人気の低下、そしてスポンサー離れにつながるゆえに、選手たち全員に影響を与える問題。さまざまな要素を物語に織り込みながら誓(ちかう)はレースを戦っていく。
そして全作品にも劣らないラスト。すでに出版されている続編「サヴァイブ」も近いうちに読みたいと思わせる十分な内容である。

最初は罪のない、誰も傷つけない嘘のはずだった。
マイヨ・ジョーヌ
自転車ロードレース・ツール・ド・フランスにおいて、個人総合成績1位の選手に与えられる黄色のリーダージャージである。各ステージの所要時間を加算し、合計所要時間が最も少なかった選手がマイヨ・ジョーヌ着用の権利を得る。(Wikipedia「マイヨ・ジョーヌ」

【楽天ブックス】「エデン」

「“痛みなく”“疲れなく”気持ちよく完走できるランニングLesson」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「”痛みなく””疲れなく”気持ちよく完走できるランニングLesson」
マラソンについて初歩的な内容から順々に解説している。ランニングをすることのメリット、ランニングを始めるための体作り。フルマラソン、ハーフマラソンのためのトレーニング、体のケアの方法などである。

昨今のマラソンブームのなか、マラソンを始めた人は多いのだろう。しかし「マラソン」と聞くと、だれもが学生時代の授業で経験があるせいか、大した知識を必要とせずにひたすら走れば肺活量の向上によって上達するもの、と思うかもしれない。

しかし、実際にはそのままではモチベーションを保てたとしても度重なる怪我や、向上しないタイムと向き合うことになるのである。
本書は単にトレーニングの方法だけでなく、現代に合わせた、たとえばネットを利用した仲間との交流によるモチベーション維持など、総合的に役立つ情報をコンパクトにまとめている。初心者ランナーには一読の価値ありといえるだろう。
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「金哲彦のマラソン練習法がわかる本」金哲彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
リクルートランニングクラブで小出義雄監督とともにコーチとして活躍した著者が、フルマラソンの魅力やトレーニングの基礎知識、そして、タイプ別のトレーニングメニューを紹介している。

先日読んだ小出義雄監督の「マラソンは毎日走っても完走できない」とは異なって本書の著者はインターバルトレーニングを推奨していないなど、若干異なる部分もあって戸惑うが、全体的には非常に読みやすい。本書では基本的な項目の説明ののち、3つのタイプの人間に合ったトレーニングメニューをフルマラソンの100日前から掲載している。何から始めればいいかわからないようなマラソン初心者にとっても、非常に具体的でわかりやすい内容と言えるだろう。

個人的には、どのメニューも外での練習を基本としていてジムなどで行う場合などの代替練習などにも触れてほしいと感じたりもしたが、基本的には満足のいく内容である。むしろトレーニングメニューは永久保存版にしたいくらいである。
【楽天ブックス】「金哲彦のマラソン練習法がわかる本」

「マラソンは毎日走っても完走できない 「ゆっくり」「速く」「長く」で目指す42.195キロ」小出義雄

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
高橋尚子をオリンピック金メダルに導いたことで有名な、小出義雄監督が、マラソン初心者がやりがちな間違えや、効果的に記録を伸ばすためのトレーニングを紹介する。

なんといっても本書の帯のコピー「マラソンの練習が分かっていないから30kmあたりで歩いてしまう人が多いんだよね」。この言葉にやられてしまった。実際僕が唯一挑戦したフルマラソンは26km付近で失速。その後は歩いてゴールするのがやっと。毎週のようにスカッシュやサッカーをやっていて体力に自信のある僕のよこを、おそらくマラソン以外のスポーツなど一切していないだろう年配の人たちが最後はどんどん抜いて行くのだ。恐らくマラソンに対する考えを間違えていたのだろう、と漠然と感じさせてくれる経験だった。

さて、本書のなかにはその答えに近いものが書かれている。一度もフルマラソンになど挑戦したことのない人が思い描く「マラソン」とは、せいぜい学生時代の校内マラソンの延長で、5キロかせいぜい10キロ程度なのだろう。そういう人は、肺活量を鍛えるためにひたすら走りがちだが、本書ではむしろ「足をつくる」ということを重視している。

肺活量はたしかに勝負のなかでは疎かにできなものなんだろうが、完走という目標をもっているひとにはたしかに優先度の低いものなのだろう。本書では、「足をつくる」ことを意識しつつ、その目標をハーフマラソン、フルマラソン、と、目標となるレース別にメニューを紹介している。

個人的には、そのトレーニングが、どの筋肉を鍛え、どういう状況で役に立つか、といった内容が書かれていなかったのが残念だが、それでも、読めばいやでもモチベーションがあがってくるに違いない。
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「野村の「眼」」野村克也

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
弱小チームだったヤクルトスワローズにID野球を浸透させ、3度の日本一に導いた野村克也。その野球に対する考え方を語る。
「ID野球」「野村再生工場」。このような単語は野球に詳しくない人間でも何度か聞いたことがあるだろう。こういう言葉が浸透したのは、おそらく野村の監督としての振る舞いが、ほかの監督とは違っていたからだろう。
本書では、野村克也がプロになってレギュラーを掴むまでの過程。そして中盤以降は、ヤクルト、阪神、楽天での監督としての目線で、選手や試合、戦術について語っている。
残念ながらその内容は、野球以外のものに応用できるとは言いがたく、野球ファンのための内容と言える。すでに70歳を超えている著者に対して求めるのは酷なのかもしれないが、その語り口調からは謙虚さよりも傲慢さが感じられる点が残念である。
【楽天ブックス】「野村の「眼」」