「ザッポス伝説」トニー・シェイ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
正直ザッポスという社名を知らなかったのだが、優れたブランドの一例として紹介されており興味を持った。

本書では著者でザッポスの創業者であるトーニー・シェイの幼い頃の様子と、ザッポスができるまでを描いている。もっとも印象的だったのは、トニーが幼い頃からお金を儲けるために試行錯誤していた点である。しかし、そんなお金儲けの視点が、少しずつ「本当に情熱を持って打ち込めるものを探す」方向へと移っていくところが面白い。

また、ザッポスができあがってからは、そのブランドの方向性や、それを守るために試行錯誤している様子がわかる。

ザッポスのそのユニークな企業文化がどのように出来上がったかといえば、それはやはりトニー・シェイがすでに十分なお金を持っていて、本当の幸せは、お金を得ることによってではなく、本当に情熱を持って取り組める何かとを持っていることだと知っていたからだろう。

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「エンジェル投資家」ジェイソン・カラカニス

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ウーバーへの投資などに関わり、シリコンバレーのエンジェル投資家として成功した著者ジェイソン・カラカニスがその投資の技術や情熱、そして投資の倫理について語る。

エンジェル投資という普通の人がなかなか馴染みのない世界、さらに言えば、人生においてその技術を活かすことがあるのかどうかすらわからない話なので、なぜそんな本を手に取ったのだろう、と思うかもしれない。しかし、考え方を変えれば、スタートアップなどの企業が成功するためには資金調達は避けて通れず、そこに資金を投じてくれる人たちの考え方を理解することは決して無駄ではない。まさに本書を手に取ったのは自分自身が今後もスタートアップで働いていくだろうと思っているからである。

本書はシリコンバレーでの投資についてかからており、著者自身もアメリカのなかでもシリコンバレーがもっともエンジェル投資に向いている、と書いている。つまり、日本はまだまだ法律的、環境的など様々な面で追いついてないのだろう。

興味深いのは、著者が、投資すべき企業を判断する際には、そのサービスよりも創業者の人柄を重視するといこと。なぜなら、スタートアップが続かない理由の大部分が、実は僕らが思うような「資金が尽きること」ではなく、「創業者のモチベーションが尽きること」だからだそうだ。僕らがスタートアップの創業者に対して持つイメージは、大金を稼いでいることかもしれないが、実際にお金を稼ごうと思ったら、スタートアップを創業するよりも大企業に勤めた方が何倍も楽で、そんな周囲の誘惑に惑わされず自ら立ち上げたサービスを大きくするために長く情熱を注げる人間を見極めることが大切なのだという。

著者は、次の4つの質問を、創業者を見極めるための最初の質問として使っている。

この創業者はなぜこのビジネスを選んだのか?
この創業者はどこまで本気なのか?
この創業者がこのビジネスで成功するチャンスはどれくらいかーー人生ではどうか?
成功したときの収益や私へのリターンはどのくらいか?

年間何十件ものスタートアップの創業者とのミーティングを重ねる著者が、短時間で創業者の人柄を判断するためにとたどり着いた質問である。必ずしもエンジェル投資家だけでなく、転職先を探しているような人も、この質問は役にたつかもしれない。

全体的には、やはり異なる世界の出来事という感は最後まで拭えなかったが、ソーシャルレンディングなど、上場企業以外への投資が少しずつ一般へ広がる中、機会があれば本書で書いてあることを実行してみたいと思った。

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「リーン・イン」シェリル・サンドバーグ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグが女性向けのキャリア形成の方法を語る。

シェリル・サンドバーグのような女性が書いた本ということで、「女性も男性と同等の能力がある」という強い信念を持った生き方を語るのかと想像していたが、実際には、彼女自身のキャリアの過程で、女性であるがゆえに受けた差別や、自分自身が遠慮した結果逃したチャンスなど、常に自分自身の失敗談と向き合い学ん鼻知ったことを女性たちに向けて伝えている。

僕自身、普段から「男女平等」なふるまいをしているつもりではある。しかし、本書で彼女が語る、女性と男性の立場の違い、扱いの違い、振る舞いの違いを知ると、思っていたよりも、はるかにたくさん男女の差は存在するのだとわかる。そのうちのいくつかは、男性側の無神経さからくるものもあるが、「成功した男性は好かれるが成功した女性は嫌われる」という世の中全体が持っている価値観からくるものあり、男女平等という世界の実現にはまだまだ道のりが長いことを思い知らされる。

キャリアはマラソンだと想像してほしい。マラソンのスタートラインに男性ランナーと女性ランナーがついたとする。どちらも同じだけ練習を積み、能力も甲乙つけがたい。二人はヨーイドンで走り出し、並走を続ける。沿道の観衆は、男性ランナーに「がんばれー」と声援を送り続ける。ところが女性ランナーには「そんなに無理するな」とか「もう十分。最後まで走らなくていいよ」と声をかけるのである。

女性に対する接し方を改めて考えさせてくれる一冊である。

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「ワーク・ルールズ!」ラズロ・ボック

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
グーグルの人事担当者である著者がこれまでのグーグルにおける人事制度のできるまでを語る。

グーグルは世界で最も人気のある企業として認知されているが、実際その文化はどのように作られるのかは正直知らなかった。本書を読むと、ほとんどすべての制度が、データをもとに実験と検証を繰り返しながら少しずつ出来上がったものだとわかる。

本書で題材として上がっている制度のできあがるまでの過程やその背景にある考え方など、どれも非常に興味深い。本書を読むと、どちらかというと組織のなかでレベルの低い人が集まると考えられがちな人事部の仕事も面白そうに思えてくる。また、どんなこともオープンにして、自由に議論が言えるグーグルという環境がうらやましく思えてくるだろう。

「人材は大事」と誰もが言いながらも、グーグルほどその大事さを行動に反映させている組織はないのではないかとも感じた。

たいていの企業は正規分布を使って社員を管理する。...テールは左右対称にはならない。成績の悪い社員は解雇され、さらにひどい人間は入社すらかなわないため、左側のテールが短いからだ。

今後組織づくりに関わるにあたって、もう一度読み直したいと思える一冊。
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「医療再生 日本とアメリカの現場から」大木隆生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本とアメリカで医師として働いた経歴を持つ著者が、日本とアメリカの医療の現場を語る。
序盤ではまず、アメリカの医療現場について語っている。アメリカでは病院に対して、各々の診療科がテナントのような形で入っているのだそうだ、そのため診療科ごとに採算が求められると同時に、診療科で医師の採用を行うのだとか。また、アメリカの医師が直面している訴訟リスクの大きさと保険に入らない故に、病気になったら自己破産するしかないのだそうだ。そんな低所得者層を中心としたアメリカの社会問題などについても触れている。
アメリカの医療が取り上げられるときは、日本の医療との比較でいい部分ばかりが強調される傾向があるが、医療業界全体として見たときにはそれぞれに長所短所があることがわかる。どれも日本に住んでいるとなかなか知ることのできない医療事情なので興味を持って読み進めることができた。
そんなアメリカと日本の医療だけでなく、アメリカと日本で医師として働いた著者のキャリアも非常に興味深い。著者がキャリアの選択する際に拠り所としている言葉で、本書のなかでも繰り返す言葉。

衣食足りたらトキメキを求めよ

には非常に共感できる。言い換えるなら、必要最低限の生活費が稼げるようになったら、その先はお金ではなくて自分がやりたいことを選んで人生を洗濯していけ、ということだろう。著者はそんな視点でキャリアを選択しながらアメリカでは1億に届くほどの収入を得ていたというのだから驚きである。
全体的には非常に読みやすく、アメリカの医療をさらっとなめるにはちょうどいい内容だった。
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「沈みゆく大国アメリカ」堤未果

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
先日読了した、アメリカ合衆国大統領トランプの政権を扱った「炎と怒り トランプ政権の内幕」のなかで「オバマケア」という言葉が頻繁に出てきたため、その内容を知りたくて本書にたどり着いた。
オバマケアとはオバマ大統領が目指した国民皆保険制度を指す。医療費の高騰によって医療費によって破産する人があとをたたないなか、日本のように国民全員が医療保険に加入する世の中を目指した政策である。しかし、実際には意図したようには機能せず、むしろアメリカの医療崩壊を加速させることとなった。本書はそんなオバマケアの詳細と、それによって実際どのようなことが起こった、もしくはおきているかをわかりやすく説明している。
例えば、オバマケアには次のような項目がある。

フルタイム従業員50人以上の企業はオバマケアの条件を満たす保険提供義務。

しかし、大部分の企業が行ったのは、フルタイムの従業員をパートタイムに格下げして保険提供の義務を生じさせないことだったという。それによってフルタイム従業員として生活していた低所得者層は労働時間を減らされた結果、別の仕事を探さなければならなくなったという。
同様に保険会社に向けた次のような項目に対しては

保険会社が既往歴での加入拒否や、病気になってからの途中解約は違法。

保険会社は保険の損失リスクをカバーするために、薬代を大幅に引き上げたのだという。
本書が描くアメリカの医療とオバマケアの意図と結果からは学ぶ部分が多く含まれている気がする。どれほど理想を描いた政策であっても、先の予測を誤れば悲劇に発展するのである。そのほかにもアメリカの医療のさまざまな問題点を指摘しており、非常に興味深く読むことができた。また、同時に、僕らが当然のこととして受け入れている、国民保険制度も非常の貴重なものだと改めて感じた。
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「炎と怒り トランプ政権の内幕」マイケル・ウォルフ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5

黒人初のアメリカ大統領の後を引き継いだトランプではあるが、正直あまり賢そうには見えない彼がどうしてヒラリー・クリントンに勝って大統領に選ばれるに至ったかが知りたくて本書を手に取った。
過去にもジョージ・W・ブッシュの在任期間を描いた「決断のとき」など、大序棟梁を扱った書籍をいくつか読んでいたので、今回もそのようにトランプの悩みや決断の過程に触れられることを期待していた。しかし、残念ながら本書では、トランプの周囲の人々の権力争いに焦点をあてており、トランプ大統領は知性の低い人という扱いを崩さず、トランプ自身の考えなどはほとんど触れられていなかった。
国家の重要事項に対して、ホワイトハウスの人々がトランプの注意をひいたり、思い通りにトランプをあやつるために右往左往する様子は滑稽で、アメリカ合衆国という大国がこのような状態で正常に機能していることに脅かされた。また、一方で、自らの地位を向上させるために、恥も外面も関係なく行動する政治家たちの執念には少し刺激を受けた。
正直、読みやすくも、面白くもないが、少なからず本書から学ぶ点はあった気がする。本書のなかで触れられているオバマケア等、アメリカの医療制度はもっと詳しく知りたいと思った。
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「ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち」マーゴット・リーシェタリー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
黒人に対する差別が根強く残っていた頃にNASAのために計算手として尽くした黒人女性たちについて語っている。
戦時中にNASAの前身となる組織で戦闘機の開発に貢献した黒人女性たちは、戦争の終了とともに宇宙開発に従事することなり、その貢献はやがてアポロ計画へとつながっていく。
ドキュメンタリー形式で描かれているため、登場人物が多く、なかなか一人一人をしっかり把握はできないが、数学を得意としていた女性たちの活躍は感じられる。また、その一方で、彼女たちの有能さだけでなく当時の黒人に対する差別の大きさも見えてくる。そしてそんな逆境のなか、黒人の評価をあげようと尽くした彼女たちがなんともかっこいいのだ。
女性は数学が苦手などという固定概念は一体誰が生み出したものなのだろう。本書を読めばそんな考えはなんの根拠もないことがわかるだろう。
映画化もされているのでぜひそれも見てみたいと思った。

「スペースシャトルの落日 失われた24年間の真実」松浦晋也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人を宇宙に運ぶという輝かしい使命よりも、むしろコロンビア空中分解事故、チャレンジャー爆発事故で印象的なスペースシャトル。そもそもスペースシャトルという計画はどのような目的でどのようにして始まったのか知りたくて本書を手に取った。
面白いのはスペースシャトルを思い描く時誰もが最初に思い描くであろうあの大きな翼は、実はほとんど意味がないということ。言われてみれば確かに、宇宙は無重力空間だからもちろん翼による揚力は発生するはずもない。地球に帰還するときに少しだけ役に立つのだという。むしろその翼がスペースシャトルを設計する上で一つの大きな足かせになっているのだという。人を運ぶのに必要な設備と、物を運ぶのに必要な設備は大きく異なり、その2つを同時に詰め込もうとしたために困難になってしまったのだ。
ちなみに、報道でスペースシャトルのことを聞いていると、チャレンジャーやコロンビアなどいろんな名前があるけど見た目的な区別がつかないと思っていたが、どうやら機体は同じで名前だけが異なるということ。
本書を読んでスペースシャトルは、そもそもの設計として大きく間違っていたことや、政府や地方経済に大きく影響を与えるほどの巨大プロジェクトは、大きな政治的圧力がかかるゆえになかなかうまく進まないことがわかった。しかし、月面着陸を果たしたアポロ11号や奇跡の生還で知られるアポロ13号に代表されるアポロ計画はどのようにすすめられたのだろう。次はアポロ計画について知りたいと思った。
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「It」Stephen King

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

アメリカのメーン州のデリーという町で何年かごとに起きる子供を連続して殺害する事件、1958年当時11歳だったBill,Ben,Eddie,Richie,Beverly,Mike,StanはItと対決した。1985年、また「It」が動き出し、デリーに残ったMikeの呼びかけによって再び彼らはデリーに集まることとなった。
Stephen Kingの名作中の名作ということで、いつか読みたかった一冊。英語で1370ページという大作で、言い回しもスラングなどが多く、さらに物語中にはアメリカの文化や娯楽に絡めたネタがたくさん散りばめられており、物語を読み進めながら当時のアメリカの子供達の流行の映画や音楽やテレビ番組が見えてくる点が面白い。
物語は11歳のときのItとの対決の詳細を忘れてしまった彼らが、現在のItとの遭遇や思い出話によって少しずつ当時の対決の様子、当時の恐怖を思い出していく。そんな当時と現代を交互に行き来しながら物語は展開していく。
個人的に好きなのは、11歳当時の彼らが川でダムを作ったり秘密基地を作ってそこで過ごす場面だろう。幼い頃を思い出しただけでなく、お金がなくても何か楽しい事を見つけて楽しむという子供時代は、どの国でも共通なのだと感じた。
そして彼らは少しずつ11歳児の記憶を鮮明にし、再び動き出したItとの対決に向かっていく。読み終わってみれば同じことを訴えるのに、これほどまでのページ数を必要とするのかという疑問はあるし、読み終わるまでに長く時間がかかりすぎて物語に入り込みきれなかったような思いもあり、物語の面白さよりも、読み終わった事による達成感の方を感じた。

「Justin Bieber: First Step 2 Forever: My Story」Justin Bieber

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

ジャスティンビーバーのことは正直、その名前と、YouTubeから火が点いて人気が出たということしか知らなかったが、若くても違う国の話でも、違う分野の話でも、サクセスストーリーのなかには学ぶ部分があり、本書も目についたのは偶然だが、何か学ぶ部分があるのではないかと思って手に取った。
やはりジャスティンが音楽に興味を抱いたときに、周囲の人間が誰も止めずにむしろサポートしたことが、子育てに関心のある僕にとっては印象的だった。モノをドラム代わりにスティックでたたいて壊すジャスティンをきっと家族や周囲の人間は暖かく見守ったのだろう。同じようにジャスティン自身も家族やファンの大切さを何度も繰り返しているのが素敵だった。このような本を読むといつも感じることだが、成功している人ほど周囲の人間のありがたみをしっかり認識しているという点は、見習うべきことなのだろう。
その若さゆえに、さすがにアラフォーの僕の心に響くような言葉は多くはなかったが、カナダという遠い地の一つの素敵な家族の形を垣間見ることができたきがする。もちろん、本書を読んでから、いろんなジャスティンの音楽をYouTubeで検索してみてみたし、ジャスティンが本書の中で触れている、ジャスティンの憧れのアーティストたちにも改めて興味を持った。YouTubeで一度ずつチェックして自分の視野の範囲を音楽の範囲にも広げていきたいと思った。

「スティーブ・ジョブズ」ウォルター・アイザックソン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アップルを創り、マッキントッシュ、iPod、iPhoneを生み出して世界を大きく変えたスティーブ・ジョブズを描く。

もはや本書を読まなくても、誰もが聞いたことあるほどの有名な世界を変えたエピソードである。アップルが取り入れたコンピューターのGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)に始まり、その後ジョブズがアップルを離れた後のアップルの低迷。そしてアップルに戻ってからのiPodによる音楽革命やiPhoneの登場などである。

なぜこれほど多くの画期的な製品をアップルは生み出せたのか。本書はその答えを知るための大きな手がかりとなるだろう。やはりアップルのトップであるステーブ・ジョブズが自分たちの作り出すものに対して並々ならぬこだわりを持ったためだろう。誰もがシンプルなものがいいとわかっていながらも世の中には複雑な製品が溢れているのである。アップルのこだわりである

洗練を突きつめると簡潔になる

というのがどれほど難しいことか、組織でものづくりに関わったことがある人ならわかるだろう。それに加えて、ジョブズが重視したのはいつだって「利益を出す」ことではなく「世界を変えるような新しいものを生み出す」ことだったのも大きいだろう。

世の中に「利益を出す」こと以外の目的を優先して動いている会社がどれほどあるんだろうか。もちろん、会社の創設時にはそのような熱い思いを持っている会社はあることだろう。それを持続することがどれほど難しいことか、多くの社員を抱え、多くの生活が会社の存続に委ねられてきたときに、「利益を出す」ことを優先してしまうことが、多くの企業にとってどれほど避けがたいものなのか、よくわかるのではないかろうか。

そんな多くの素晴らしい製品を生み出したジョブズだが、人間的にはかなり偏った性格だったようだ。もちろんそれも話には聞いていたが、本書を読むと改めてその偏りがわかる。家族や身近な人に対する接し方はとても普通の人が耐えられるものではなく、それによってジョブズも多くの困難にぶつかったようにも感じる。

本書でそのようなジョブズの性格を深く知ると、一般的に「普通」の人間性を持った人間が革新的な製品を生み出すことはできないのだろうか、とさえ思ってしまう。
さて、ジョブズ

なきアップルは今後どうなっていくのか、その動向に今後も注目したいと思った。
【楽天ブックス】「スティーブ・ジョブズ(1)」「スティーブ・ジョブズ(2)」

「「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論」酒井崇男

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
なぜアップルやグーグルやトヨタは成功し、日本の電気・半導体・通信・IT企業は完敗してしまったのか。それは「タレント」の重要性を理解していたか否かなのだ。本書はそんな視点で企業が発展して行くためにどのようにしてタレントと向き合うかを語っている。
今や、材料や労働力はどこでも手に入れる事ができるので、物を作るのは人件費や物価の低いところを選ぶ事ができる。そうなると企業として重要なのは何なのだろう。本書はそれを「設計情報」だと主張する。優れた設計情報」さえできあがれば、あとはそれをひたすら各地で現実に存在する物やサービスに転写するだけなのである。そしてその「設計情報」を作る人こそが「タレント」と呼ばれる人なのである。
「タレント」というとなんとなく「すごい人」という印象しかないが、プロフェッショナルやスペシャリストと比較するとタレントというものが何なのか分かりやすいだろう。

単なるスペシャリストは、知識を活用する「目的」よりも「知識そのもの」にアイデンティティを持っている人が多い。プロフェッショナルも同様である。一方、優れたタレントは、知識にせよ職業にせよ、「目的」を達成するための「手段」だと考えているところに際立った特徴がある。

世の中がただ一言「天才」とか「才能のある人」と読んでいる人の正体が分かった気がする。
また本書は後半でタレントを育む事の成功例としてトヨタの主査制度を挙げている。興味深いのは、トヨタの主査制度は日本よりもアメリカで高く評価されている点だろう。
著者は言う。アメリカは日本ほど新たな文化を創造するのは得意ではないが、いいものを徹底的に分析して取り入れる能力は非常に高く、日本で生まれた主査制度もそうやってアップルなどの企業で成果を上げたのである、と。
アメリカという国の見方が少し変わった。
【楽天ブックス】「「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論」

「Life in Motion: An Unlikely Ballerina」Misty Copeland

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
バレエダンサーであるミスティ・コープランドのこれまでの人生を描く。
バレエというと、裕福な家庭の女の子達がするものというイメージがあるが、著者であるミスティはどちらかというとかなり貧しい家庭の生まれである。それどころかMistyの母は何度も結婚と離婚を繰り返したため、強大も別々の父親を持ち、たびたび引っ越しを繰り返し、モーテルに住む事まであり、自分の部屋どころか自分の寝床を確保することさえ難しいような子供時代を過ごしたというから驚きである。
しかし、才能のある人間は才能を見つけて育てる人間を呼び寄せるのか、それともそんな人間に恵まれたから才能が開花したのか、いずれにしても、成功者の周囲には必ず鍵となる人物がいるものだ。バレエ教室を経営するCindyがまさにMistyにとってそんな人間となる。遅くにバレエを始めたMistyの才能に早くから注目し、教室まで遠くて通う事ができないMistyの送り迎えをするだけでなく、Copeland家がモーテルに住み始めたのを機に、Mistyを引き取って一緒に生活する事になる。そしてバレエを教えるだけでなく、その家庭事情ゆえに引っ込み思案で自らの意見を言うことをあまりしなかったMistyに繰り返し質問をして、本人の自我を育む事となったのである。
また、才能あふれるMistyだが、黒人ということで、未だにアメリカのバレエ界に根付く人種差別に何度も遭遇する事となる。しかし、過去の黒人バレリーナ達が自分に道を開いてくれたという信念と、自らも次の世代の同じような境遇の人々へバレエの世界を開くという姿勢で少しずつバレリーナとして成功していく。Mistyのバレエに対する姿勢はとても刺激となる。彼女の姿勢はまさに完璧主義者であり、目の前にあるモノを突き詰め、毎日時間を費やすことによって、人を感動させるような技術身に付くということを改めて教えられた気がする。

ステージでは照明がバランスと重心に影響を及ぼし、空気を暖め、それがトゥシューズを少し柔らかくする。衣装の重さや動きにくさはダンサーの動きに影響を与える。

「日本人のここがカッコイイ!」加藤恭子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本に滞在する36人の外国人に日本が日本について語る。
日本が賞賛されるようになったのはいつからだろう。本書では日本の文化や人や教育について日本に長く済む外国人が語る。日本の個性として僕らが簡単に思いつくものもあれば、考えもしなかったものまで外国人目線ゆえの驚きを与えてくれる。世界の常識を知るのにも、日本の文化を知るのにも役立つことだろう。
本書を通じて多くの外国人が語っているのが東日本大震災の後の日本人の様子である。混乱のなか暴動や略奪を起こす事もなく列を作って秩序を持って行動するところが外国の人にとっては驚きなのだという。また、日本人のおもてなしの心や物事に対するこだわりを賞賛する人も多い。
一方で、働き過ぎや、家族で過ごす時間の少なさ、妻が財布のひもを握っている点についての違和感についても語っており、生き方や家族との触れ合いかたを考え直すきっかけになるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「日本人のここがカッコイイ!」

「ウェブで学ぶ オープンエデュケーションと知の革命」梅田望夫/飯吉透 

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
現在アメリカを中心に教育機関がインターネット上で高品質な授業を無料で受けられる仕組みが整いつつある。その背景と現状、問題点を語る
1年ほど前にカーンアカデミーの取り組みを知ってオープンエデュケーションに非常に興味を持った。本書は手にとったのもそんな理由からだ。
面白いのはその発端となった出来事である。最初、アメリカの各大学は、利益を見込んでオンライン上で授業を公開しようとしたのだが、あまり収益があがらないと気付き各大学が撤退するなか、マサチューセッツ工科大学が「であればいっその事無料で公開しよう」となったというのだ。これはまさに日本では起こりえない発想なのだろう。そして、そんな流れは、iTunesやYoutubeなどさまざまなインターネットやIT技術の発展によって加速する事になったのだ。
CourseraやEdX、Udacityといった様々なオープンエデュケーションフォーマットについて語るとともに今後の課題についても語っている。
そんな中でも興味ひいたのは大学などの教育機関が持つ「強制力」の話。誰もが無料で勉強できるようになったかといってすべてが解決する訳ではないというのだ。つまり、宿題をやってこなければ怒る先生がいて、落ちこぼれになったら馬鹿にする嫌な生徒がいて、ある程度の点を試験でとらなければ落第するシステムがある。そういうシステムがあって初めて勉強を全う出来る人が世の中の大部分だと言うのである。オープンエデュケーションの今後の課題は、無料であるなかでどうやってその強制力をつけるか、ということなのだ。
とても勉強したくさせてくれる一冊。そして、改めて今後のオープンエデュケーションの流れを考えると、英語ができない日本人のハンデは世界との知識の格差を広げていくだろうと実感させられた。
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「翻訳の基本 原文通り日本語に」宮脇孝雄

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
翻訳家である著者が、翻訳者の間違えやすい英語表現、文や、翻訳者がやってしまいがちなことについて語る。

英語の本を読んでいるとたまに意味のとれない文章や表現に出会う。自分一人で読んでいる場合は、物語全体の流れに差し支えない限り特に問題はないのだが、翻訳をするとなるとそうも行かないだろう。本書を読んで最初に驚いたのが、プロである翻訳者もそこらじゅうで間違った訳をしてそれが売り物として世に出回っているのである。

序盤は翻訳者が陥りがちなよくない翻訳傾向について語っている。例えばやたらとカタカナ言葉を翻訳に使ってしまう訳。外来語がカタカナとして定着してきてはいるが、どこまでそれを用いるのかが難しいのだという。例えば現代ではすでに「wine」は「葡萄酒」ではなく「ワイン」と訳した方が通じやすいだろうが、「店がオープンした」とか「道がカーブしている」あたりから翻訳者としては許容できなくなってくるそうだ。この辺の感覚はまた何年か経つと変わっている事だろう。

中盤からは英語のなかの間違えやすい表現について紹介している。例えば

「midnight」などは僕ら日本人は「真夜中」と訳しがちがだ、僕自信は「真夜中」というと夜中の12時から3時ぐらいをさすような印象を持っているが、英語の「真夜中」は「深夜12時」のことなのだという。またイギリスの駅のシーンで「entrance」を「改札」と訳すのも間違いだそうだ。なぜならイギリスの駅には改札がないから、だとか。
読めば読むほど、もはや翻訳は英語力ではなく文化に対する知識と言う気がしてくる。また、海外の作家の本は出来る限り英語で読もうと本書を読んで決意させられた。
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「小笠原クロニクル 国境の揺れた島」山口遼子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
先日読んだ垣根涼介の「人生教習所」という物語が小笠原諸島を舞台としていたため島の歴史に興味をもって本書を手に取った。
戦争に大きく影響を受けた場所について考えると、どうしても沖縄がすぐに思い浮かぶが、小笠原の歴史も予想以上に興味深い。小笠原の所属している国がアメリカから日本に変わるときはもちろん、そこに住んでいいた人たちには国籍の選択権と3年という猶予が与えられたのだが、そのタイミングでどの段階まで教育を受けていたか、という点が、アメリカか日本かを選択するうえでとても重要だったようだ。
兄弟、家族で異なった国籍を持ち、違った文化で生きる事を強いられるというのはどんな気持ちなのだろう。
本書のなかでそんな時代を生きた人々が当時を語る様子が描かれている。その内容はいずれも印象的である。アメリカ支配から日本支配になったことによって、過去の方が現在よりも豊かだった。という時代がこの島には存在したのである。
遠い場所で行われた国同士の取り決めによって翻弄されてた島。そこでは一体どんな文化ができあがるのだろう。いつか小笠原にいってみたいと思った。
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「The Help」Kathryn Stockett

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1960年代のミシシッピ州。そこでは黒人差別が未だに色濃く残っていた。黒人女性たちが家政婦として白人に仕えるなかで、ジャーナリストになる夢を持つ白人女性Skeeterは、黒人女性たちの声をまとめた本を作ろうと思い立つ。

物語は2人の黒人家政婦の生活から始まる。子供を愛するAibileenと、口は悪いがケーキを作らせたら右に出るもののいないMinnyである。

Aibileenは子供が好きで、仕えた過程の元で世話した子供たちの人数を誇りに思っていて、2人の幼い子供のいる家庭に勤めている。Minnyはとある出来事によってそれまでの雇い主から解雇され、白人のコミュニティのなかで孤立した風変わりな女性Celiaの元で働くことになる。Aibileenとその勤め先の子供達の関係も面白いが、MinnyとCeliaのおかしな関係も心を和ませる。

それほど遠い昔ではない1960年代にまだこれほどの差別が残っていたということに驚かされる。白人と黒人は、食事を同じテーブルですることもなければ、トイレやバスタブまで別のものを使うべきと信じられていたのだ。途中想起したのはルワンダのツチ族とフツ族のこと。彼らの差別は結果として大虐殺という事態に発展してしまったが、1960年代のミシシッピの黒人と白人もきっかけがあれば大きな混乱になっていたであろう。

こう書くと、当時の白人達はみんなが黒人を害虫のように扱っていたように思うかもしれないが、白人のなかにも差別を悪として親身になって黒人の家政婦たちに接していた人がいたということは知っておくべきだ。

さて、若い白人女性Skeeterは何か今までにない読み物を書こうと思い立ち、白人家庭に勤める家政婦達の声を本にすることを思いつき提案するのだが、思うように進まない。なぜなら、白人のSkeeterには簡単な決断に思えるものが、MinnyやAibileenにとっては大きな危険に自分の家族をさらすものなのである。その温度差が物語が進むにつれてひとつの目的の達成へと向かっていくのが面白い

私は周囲を見回した。私達は誰にでも見えるひらけた場所にいる。彼女にはこれがどれだけ危険なことかわからないのか...。公衆の面前でこんなことを話すということが。

本が出版されたら白人女性たちは誰のことが書かれているかわかるだろうか。黒人の家政婦たちを解雇するだろうか。そんな不安を抱えながらもSkeeter、Minny、Aibileenは秘密裏に出版に向けて奔走する。

日本は差別という現実にあまり向き合うことのない平和な国。それゆえに自分の無知さを改めて思い知らされた。物語中で引用されている人物名や組織名にも改めて関心を持ちたい。多くの人に読んで欲しい素敵な物語である。

公民権運動
1950年代から1960年代にかけてアメリカの黒人(アフリカ系アメリカ人)が、公民権の適用と人種差別の解消を求めて行った大衆運動である。(Wikipedia「公民権運動」
モンゴメリー・バス・ボイコット事件
1955年にアメリカ合衆国アラバマ州モンゴメリーで始まった人種差別への抗議運動である。事件の原因は、モンゴメリーの公共交通機関での人種隔離政策にあり、公民権運動のきっかけの一つとなった。(Wikipedia「モンゴメリー・バス・ボイコット事件」

「オバマも救えないアメリカ」林壮一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2008年、そのスピーチに未来の希望を感じ、オバマ大統領は選ばれた。その後アメリカの貧困層にはどんな変化があったのか。著者が実際にアメリカの貧困層の人々たちに接してその声を届ける。
「すべてのアメリカンに大学教育を受けさせる」「国民全員に医療保険を与える」。弱者を思いやる発言に胸を打たれ、多くの人が、彼なら本当に世の中を変えるかもしれない、と将来への希望を見たのだろう。期待が大きかっただけにその失望も大きいのだ。本書のなかに描かれる人々の声は、失望と、期待しすぎた自分への憤りが見える。

私はあなたに投票した。でも、もう本当に疲れきっているの。一体、何がCHANGEしたのかしら?あなたには本当に失望しています

本書のなかで貧困層の現状を訴える過程で、いくつか議論を巻き起こした事件が取り上げられる。()いまだ根強く残る人種差別と貧困ゆえに高まる犯罪率。日本と同じ先進国でありながら、最下層にここまで差があること、生まれてから努力しても変えようのない状況に人生の不公平を感じてしまう。
大統領が変わることに将来の希望を見た彼らの声を聞くと、アメリカという国で、大統領選挙があれほど国民の関心を引く理由がよくわかる。僕ら日本人がアメリカ人と比べて政治に関心がないのは、ある意味、それが僕らの人生を左右するほどの影響をもたらさないためだろう。それは幸せなことだとも言えるかもしれない。どんな無能な人間が総理大臣になろうと政治によって命の危機を感じることはないだろう。
多くの声をまとめているだけで、著者の考えがあまり介入していない点に好感が持てる。おそらく、本書を読んで、いくつかの貧困にあえぐアメリカ人が口にしているように「オバマは口だけだ」と思う読者もいれば、「そう簡単に改善できないぐらいひどい国にブッシュはしてしまったのだ」とオバマ大統領への期待の目で見続ける読者もいるだろう。貧困層の現状を伝えるだけでそれによる判断は読者に委ねているのである。

オスカー・グラント
サンフランシスコとベイエリアの各地をつなぐ公営高速鉄道システム「BART(Bay Area Rapid Transit)」の駅で、内でけんかをしているとの通報に応じて駆けつけた鉄道警察官らに電車から降ろされ、地面に押さえつけられた状態で撃たれ、死亡した。事件の様子は、通行人が携帯電話で撮影しており、動画がインターネットやテレビで広く放映された。(AFPBB News
アマドゥ・ディアロ
ニューヨーク市に住んでいた23歳のギニア人の移民。1999年2月4日に、ニューヨーク市警察に勤める4人の白人警官から、合計で41発の銃弾を受けて射殺された。 4人の警官は解雇され起訴されたが、その全員が裁判で無罪となった。(Wikipedia「アマドゥ・ディアロ」
ジェニファー・ハドソン
アメリカ合衆国の歌手、女優。(Wikipedia「ジェニファー・ハドソン」

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