「ムーンナイトダイバー」天童荒太

天童荒太といえば、有名な作品は「永遠の仔」だろう。どちらかといえば悲しい物語が多い。本作品もそんな部類の一つで、震災で両親と兄を失った瀬奈舟作(せなふなさく)を扱っている。舟作はその4年半後、ダイビングのスキルを活かして遺留品を海から回収する仕事をすることとなるのだ。

天童荒太

夜の海に潜る場面から物語が始まるため最初は前後の状況がわからないが、物語が進む中で、少しずつ、震災のことやそれぞれの過去が明らかになっていく。そんななか、遺品回収に関わる遺族の心情や、周囲への配慮はとてもフィクションとは思えない深みがあり、報道では伝わらない遺族の気持ちの深い部分に触れられた気がした。特に、少しでも価値のあるものを回収してしまうと、お金のための行動とみなされかねないために避けるべき、という考え方は、遺族の気持ちや周囲の目線の複雑さを表している気がした。

物語は、夫を亡くした女性の登場が、舟作(ふなさく)に個人的な依頼をしてくることで、動くこととなる。

わたしの願いというのは、ダイバーの方に、この、夫がしていた指輪を探さないでほしい、ということです。

なぜ、探すようにではなく、探さないようにと依頼するのか。その女性のつらい気持ちに触れることが、震災ゆえに傷ついたまま生きてきた舟作(ふなさく)自身にとっての転機にもなっていく。

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投稿者: masatos7

都内でUI / UXデザイナー。ロゴデザイナーをしています。

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