「黄砂の籠城」松岡圭祐

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1900年北京では義和団と呼ばれた武装集団が勢力を高めつつあった。やがて日本など11カ国の外国公使館の並ぶ区域は暴徒化した義和団の脅威にさらされることとなる。
「義和団事件」として、歴史の教科書のなかで名前ぐらいは聞き覚えがあるかもしれない。それがこれほどまですさまじい事件だったとは現代に生きるどれほどの人が知っているのだろうか。本書はそんな歴史的事件を扱った非常に事実に近いフィクションである。
北京の地で孤立した外国公使館地区にいるのは必ずしも政府関係者ばかりではない。その家族や先生たちもそこにいるのである。そんななか少しずつ「義和団」と呼ばれる人々が目につくようになり、気がついたら国外に逃げることさえできな位状態になっており、自分たちの命を守るために籠城をはじめるのである。
しかし、イタリア、ロシア、フランスなど11カ国の公使館関係者が公使館区域を守るなかで、各国の縄張り争いや文化の違いによりうまく集団として籠城が機能しないのである。本書は、そんな状況のなか、強烈なリーダーシップを発揮した実在した日本人柴五郎(しばごろう)の様子を日本軍伍長の櫻井隆一(さくらいりゅういち)の視点で描いている。柴五郎(しばごろう)だけでなく、細かい気配りや勇気や勤勉さで籠城をリードする存在となっていく当時の日本人たちの様子が伝わって来る。
自国の人々を美化したくなるのはどこの国も同じなのであまり鵜呑みにしすぎるのも避けたいが、今まで知らなかった歴史の一面を知れたことは確かである。特に柴五郎(しばごろう)という人物については本書を読んで初めて知った。厳しい状況で正しいことを信念を持って遂行する姿に心を打たれるだろう。
【楽天ブックス】「黄砂の籠城(上)」「黄砂の籠城(下)」

「センスは知識からはじまる」水野学

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
確かにデザインの仕事をしていると僕自身は練習すればできると思うものに対して「やっぱりセンスが違うね」という言葉を投げかけられることがよくある。デザインも色もすべて繰り返すことによって身につくもので、デザインの道で働く僕自身も未だ試行錯誤の毎日である。本書のタイトルにもある「センスは知識からはじまる」は、僕自身の考えとも近く興味をひいた。
著者は本書の中で、「普通を知ること」の重要性を説いている。普通がわかっているから、どれほど尖ったアイデアなら受け入れられるかわかるし、複数の「普通」を組み合わせて、一般の人が受け入れられる程度の「新しさ」を生み出すことができるのである。もし「普通」を知らないで斬新なものばかりをつくっても、それを受け入れてくれる人がいなければ結局役に立たないということである。
また、もう一つ面白いと思ったのは「技術からセンスへの揺り戻し」という考え方である。歴史のなかで技術の進化のあとには、もう一度芸術的視点を取り戻そうという動きが起きるのだという。羅針盤や印刷技術の発明の後にルネサンスが起き、産業革命の後にアーツアンドクラフツ運動が起こったように。そして今、インターネットによる情報革新がひと段落してまた芸術的ん視点に向かうのだという。
自分自身の考えを再確認させてくれる内容だった。著者がセンスを磨く方法として、普段読まない雑誌を読む、というのを進めているが、なんらかの形で取り入れたいと思った。
【楽天ブックス】「センスは知識からはじまる」

「西村雅彦の俳優入門」 西村雅彦

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
俳優の西村雅彦が自らが主催する演技のワークショップで参加者を指導する中で学んだ発声方法について語っている。
本書のなかでは特に西村雅彦の俳優としての人生を描いているわけでもなく、俳優になるための方法を語っているわけでもなく、大部分がセリフの発声方法である、なので「俳優入門」というのはかなり誇張が入っている気がする。
それほど分厚い本ではないため内容もそれほど濃いわけではないが、西村雅彦が言葉を非常に大切にしている人間であることはしっかり伝わってくるだろう。「語尾を伸ばさない」「語尾をあげない」「言葉のアタマを強く言う」など、どれも当たり前と思えることばかりではあるが、もう一度自分自身の発声方法を見直したくなる。
【楽天ブックス】「西村雅彦の俳優入門」」

「椿山課長の七日間」浅田次郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大手デパートの勤務中に亡くなった椿山和昭(つばきやまかずあき)は、あの世の入り口で交渉の末、現世に戻って心残りを解決することにした。
本書はデパート勤務の椿山和昭(つばきやまかずあき)と、人違いで殺されてしまったヤクザの武田勇(たけだいさむ)、若くして交通事故で亡くなった7歳の少年根岸雄太(ねぎしゆうた)の3人が現世に戻ってやり残したことをやり遂げる様子を描いている。
それぞれ異なる姿で現世に戻ることになるのでその新しい姿に戸惑う様子が面白い。椿山和昭(つばきやまかずあき)は30代後半のキャアウーマンに、ヤクザの武田勇(たけだいさむ)は弁護士に、少年根岸雄太(ねぎしゆうた)は少女となって現世に戻るのである。
そのあとの物語の流れは予想通りで、それぞれいくつかの障害を乗り越えながら解決していくのである。
自らの正体を隠したまま現世に戻る、という物語はおそらくそれほど目新しいものではなく、残念ながら本書を読むことで何か新しいことを学べるようなことはないが、コメディタッチで気軽に楽しむことはできるだろう。
【楽天ブックス】「椿山課長の七日間」」

「日本のデザイン 美意識がつくる未来」原研哉

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本らしいこれからのデザインについて著者が見解を語っている。
「繊細」「丁寧」「緻密」「簡潔」という日本独自の価値観と、ミニマリズムという世の中の流れを重ね合わせて考えている点が興味深い。
そして、持論を語るだけでなく、多くのデザイン事例を引き合いにだしており、どれもすぐれたデザイナーのものの見方を知ることができるだろう。デザイナーとして長く生きた著者だからこそ、かっこいいデザインではなく、世の中をよくするデザインに目を向けている点が、自分の考えと重なる部分があり興味深く読むことができた。
印象的だったのは、いいデザインは万国共通ではなく、その場所や文化を生かしたものであるという点である。言って見ればあたりまえなのかもしれないが、日本にいながらアメリカやヨーロッパのデザインを何も考えずに真似してしまうのは、ついやってしまうことである。
【楽天ブックス】「日本のデザイン 美意識がつくる未来」」

「幸福な生活」百田尚樹

オススメ度 ★★☆☆☆ 3/5
短い19の短編を集めた作品。
どれも日常のなかにふと起こりそうな出来事を扱っている点が面白いかもしれない。また、もう一つ特長的なのはどの短編も最後の1行で読者に衝撃を与えるように意図されているという点。
正直、物語としての深さはあまり感じられず、どちらかというと小説を書き始めたばかりの人が趣味として書いたような内容ばかりな印象を受けた。展開としても「実はこのひとがあの人だった」というような同じパターンの話もあり、短編だけど深みが感じられるというようなものでもなかった。
「永遠の0」や「海賊と呼ばれた男」などのような深さを求めて本書を取るなら後悔するだろう。
【楽天ブックス】「幸福な生活」」

「氣の威力」藤平光一

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
長く続けられる新しい趣味をと思って合気道を始めることにした。本書は入会の際にいただいたものである。
「氣」とは、本当に存在するものなのだろうか。漫画などではよく出てくる言葉ではありながらも、それを実感することなく今まで生きてきた。ということは「氣」とは誰かの作り出した幻想なのか。それにしても誰かの作り出した幻想であれば、今も昔も「氣」という言葉で語られているのは出来過ぎな氣がする。そんな「氣」についてまさに本書は語ってくれる。
前半は、そんな「氣」についての説明と、「氣」をうまく使うことで成功した人や、「氣」にまつわるエピソードを紹介している。王貞治や、西武ライオンズの黄金時代も登場するから面白い。
そして、後半は著者自身が、病気がちな幼少期から強い人間へと変わっていく様子を語っている。ただ単に一人の物語とみても、戦時中に生きた著者のさまざまなエピソードは面白い。
残念ながら、本書を読んでも結局「氣」の使い方はわからないだろうが、「氣」というのもの存在を信じ、それをうまく使うことが人生にどれほど役立つかは伝わってくるだろう。
毎日の歩き方や姿勢や気持ちの持ち方を変えてくれる一冊。
【楽天ブックス】「氣の威力」」

「穴」小山田浩子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第150回芥川賞受賞作品。
結婚して仕事をやめた「私」は、姑の隣の家に住むことになった。「私」の新しい生活を描く。
ほのぼのとした作品。タイトルの穴とは、「私」の引っ越した先である動物が掘る穴のことであるが、そこにどんな意味があるのかは最後までわからなかった。田舎町ののんびりとした生活が描かれている。都会の喧騒のなかで生きている人にとっては懐かしい雰囲気かもしれない。
「穴」を含めた三作品が含まれており、後半の2編にはいたちが出てきたので、ひょっとしたら最初の物語の穴を掘った動物の正体はいたちなのかもしれない。
純文学というものにもっと触れようとして本作品を選んだのだが、やはりなかなかよくわからない。
【楽天ブックス】「穴」

「考えながら走る グローバル・キャリアを磨く「五つの力」」秋山ゆかり

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「キャリア磨きの達人」である秋山ゆかり氏が自身のキャリアについて語る。

正直、もっと順風満帆ななかでキャリアを築いてきたキャリアウーマンを思い描いていたが、新入社員の時はどちらかというと受身な働き方で、また途中かなり太っていた時期もあったようで、本書を読むと、見た目はどこにでもいそうな女性社員のであることがわかる。そういう意味では、決して能力的にまねできない人の話ではない点は希望が持てるかもしれない。

著者がそのキャリア形成のなかで学んだことなどを書いているので、新たに気づく部分もあれば、すでに取り入れている部分もあるだろう。ただ、読み終わってからタイトルを見直して、結局タイトルの「五つの力」とはなんだったのだろうというぐらい、書籍としてはまとまりのない本になってしまっているように思う。

また、著者の経歴だけ見ると誰もが認める「すごい人」なのだろうが、僕自身本書を読んで改めて考えてしまったのが、人は本当にここまで「社会で生き残ること」「年収を上げること」を望んでいるのだろうか、ということ。

また、著者自身「私は常に事業開発からブレていない」といっているが、世の中から求める人物を目指すあまり、自分自身が世の中をどうしたいか、自分自身がどうなりたいか、という視点があまり明確じゃないような印象も受けた。

一つの生き方を考えるきっかけにはなるかもしれない。
【楽天ブックス】「考えながら走る グローバル・キャリアを磨く「五つの力」」

「きことは」朝吹真理子

オススメ度 ★★☆☆☆ 3/5

2011年芥川賞受賞作品。
同じ別荘で過ごした小学校三年生の貴子(きこ)と高校三年生の永遠子(とわこ)が25年後に同じ別荘で再会する。
今まで、芥川賞受賞作品や純文学と呼ばれる世界があまり理解できずにいた。それでもこれだけ本を読みながら広く評価される分野の本を理解できないのはもったいないと、今年漫画大賞を受賞した「響」という小説家を扱った漫画を読んで思い、本書を手にとった。
物語が何かを教えてくれるのだろうと期待して読むというよりも、文体や空気を感じ取ろうとして読むと違った理解ができるかもしれない。本書は、貴子(たかこ)と永遠子(とわこ)という成人した女性同士の再会を描いているが、そんななかで25年前の出来事の回想シーンも多く含まれており、そんななかにいくつか不思議で印象に残る表現があった。

ひとしく流れつづけているはずの時間が、この家には流れそびれていたのか…

貴子(きこ)と永遠子(とわこ)の2人の長い髪が描写される場面も多く、「髪」というタイトルにもできそうだと思った。どこか優しさを感じさせる物語。
【楽天ブックス】「きことわ」