「破線のマリス」野沢尚

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第43回江戸川乱歩賞受賞作品。
テレビというメディアには力がある。ほんの数十秒の映像で世の中を味方にも敵にもできるのだ。「破線のマリス」の中では、編集によって真実とは別の意図を持った映像が電波に乗って流れて行くシーンがある。実際、現代でも世間の思いをある方向に導こうとする、おおげさな表現や映像は使われていると聞く、そんな中この作品の中で作者が必死になって伝えようとしているのは、今見ている映像が真実かどうか、それを疑い、それを判断する力をつけろということだ。幸いなことに僕らはインターネットという道具を手にしている。真実を探すことができるではないか。
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「リヴィエラを撃て」高村薫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第46回日本推理作家協会賞受賞作品。
1992年の東京にジャック・モーガンが謎の死を遂げる。この物語はジャック・モーガンの壮絶な生きざまを描いている。世界のどこかにこんな生き方をしている人がいるのだろう。北アイルランド、中国、東京という、壮大なスケールで描かれる陰謀、策略、裏切りの物語。登場人物や組織名が多すぎてわかりにくいかもしれないがそれでもこの雰囲気は伝わってくるはずだ。いつかもう一度読み直したい作品である。

「涙」乃南アサ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
全体的に暗いイメージの多い乃南アサ。今回もいつもどおり暗い雰囲気のストーリーである。結婚を約束したのに失踪してしまった恋人を探し続ける女性を描いた話である。悲しいことにこの話で僕が受けとったのは、「愛さえ有ればどんな障害も乗り越えられる」そんな良く聞く格言は間違っている。ということだ。
ストーリーの流れは比較的単純だが、心の描写にだろうか。恋人を探し続ける女性の健気さにだろうか。深く印象に残る部分があった。
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「模倣犯」宮部みゆき

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2002年このミステリーがすごい!国内編第1位

映画化されたこともあり、宮部みゆきの名前を一気に世間に広めた作品でもある。少し大衆ウケを意識した感もあるが、それでも「これぞ宮部」という切れ味は健在。
誘拐された孫娘である古川鞠子を探す有馬義男が床に付いた足跡を見てふと思うシーン・・・鳥肌が立つ。

「奪取」真保裕一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第10回山本周五郎賞受賞作品。第50回日本推理作家協会賞受賞作品。
真保裕一の本が好きなのは、物語を楽しむと同時に、幅広い知識が身に付くからだ。そういう意味でこの「奪取」はお金、特にお札に関する知識がたくさん付いた。ただ、物語よりもお札の印刷技術、そこに重点を置き過ぎた感が有るのが残念。僕の評価では真保裕一の作品の中ではあまり高いとは言えないが、「この本が一番」という友人もいるので、好き嫌いが別れる本なのかもしれない。
とりあえず偽札づくりの知識は付くかも知れないです。それと同時に偽札づくりなんて無理。そう思います。

「亡国のイージス」福井晴敏

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第53回日本推理作家協会賞受賞作品。第2回大藪春彦賞受賞作品。
仙石恒史、宮津弘降、如月行、信念を持った3人の男達がイージス艦を舞台に絡み合う。宮津の息子が書いた作文が印象的だ。

ギリシャ神話に登場する。どんな攻撃も跳ね返す楯。それがイージスの語源だ。しかし現状ではイージス艦を始めとする自衛隊装備は防御する国家を失ってしまっている。亡国の楯だ。

今のままアメリカに守られているような国ではなく日本も戦える国であるべきだ、という主張が随所に散りばめられ、改めて考えさせられる。それと同時に、自衛隊の矛盾などについてもストーリーの中にうまく絡んでくる。なにより3人の男の生き方に感銘を受ける。