「The Testaments」Margaret Atwood

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2019年ブッカー賞受賞作品。

Gileadという国を題材として、そこに関わる女性3人を主に描いている。Gileadでは女性は子供を産む存在として、一部をのぞいて女性たちは読み書きをす学ぶこともできず、家事に関する教育を受けた後、若くして選ばれだ男性との結婚をして子供を産むこととなる。LydiaはGileadの中の女性でトップに君臨する女性で、Gileadの男性の権力者との間で駆け引きをしながら自らの地位を盤石にしていく。また、AgnesはGileadのなかで育つ少女で自分の出自に疑問を持ちながらも優しい母の元に育つが、母が病死したことから少しずつ周囲の出来事に疑問を持つようになる。DaisyはGileadの外で生きる少女で、Gileadの悪い噂を見聞きしながら成長していくが、やがて両親の死をきっかけに大きく人生が動き出す。

1人の女性と2人の少女を中心に描いており、あまりにもリアルに描いているので、Gileadという街が実際に存在していたのではないかと調べてしまったが架空の国の物語である。

本書単独で読んでも十分に面白いが、実際にはこの作品は著者によって20年前に書かれた「The Handmaid’s Tale」の続編ということだそうで、そちらもぜひ読みたいと思った。順を追って読んだ方がさらにいろいろ見えてくることだろう。

「The Huntress」Kate Quinn

オススメ度 ★★★☆☆ 4/5
第二次世界大戦後、多くのドイツ人将校たちがニュルンベルク裁判で有罪判決を受けたが、小規模な戦争犯罪者たちは名前を変え、国外で普通の暮らしに戻っていた。そんな戦争犯罪者に弟を殺された戦争ジャーナリストのIanと仲間たちは世界中に逃亡した戦争犯罪者たちを正義のもとに引き出そうとしていた。

物語は三つの物語が織り混ざって進む。IanとTonyは戦争犯罪者を追い詰める組織を維持しながら、Ianの弟を殺したLorelei Vogtの足取りを探していく。一方、時代を遡ってソビエト連邦の東の果て、バイカル湖の近くの田舎町で育ったNinaは、やがてパイロットとを目指して西へと向かう。アメリカのボストンに父とクラス女性Jordanは父の再婚相手に不信を感じながらも少しずつ新しい生活に馴染んでいく。

まず何よりも戦争犯罪というと、ナチスのヒトラーや映画にもなったアドルフアイヒマンという大量殺戮に関わった人物しか考えたことがなく、本書で扱っている数人程度を殺害した戦争犯罪者という存在事態を考えたこともなかった。そんな小さな戦争犯罪者たちをIanとTonyは探し出し裁判を受けさせるようと活動しているのである。本書ではやがて、Lorelei Vogtという女性一人に絞って、Ianの妻Ninaと3人でアメリカに渡るのである。

一方で、ソビエト連邦のパイロットのNinaの物語が、この物語だけで一冊できそうなほどの濃密なのも驚きである。Ninaの物語は、バイカル湖周辺という首都モスクワから遠く離れた田舎で始まり、不時着した飛行機のパイロットに遭遇したNinaはパイロットになることを夢にみて西へ西へといくのである。日本から見たらどんな文化があるのかまったく想像できない地の描写も魅力的だが、戦時中のソビエト連邦の女性パイロットの物語としても秀逸である。Kate Quinnにはこの物語に絞ってぜひもう一冊描いて欲しいところである。

最初はなぜIanの書類上の妻でしかないNinaをここまで詳細に描くのかわからなかったが、物語が終盤に進み、Lorelei Vogtを追い詰める中で少しずつNinaの存在感が高まっていく。Kate Quinnの作品を全部読んでみたいと思わせてくれた一冊である。

和訳版はこちら。