「砦なき者」野沢尚

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1994年、松本サリン事件のとき河野義行(こうのよしゆき)さんが容疑者として扱われたことがあった。テレビでニュースを見ていた僕は「こいつが犯人だろう」みたいに思っていた記憶がある。僕は、履歴書の「長所」の欄に「周囲には流されない性格である」と書くことが多い。それでもメディアの報道には知らず知らずのうちに流されているのだと思う。なぜなら情報化社会の現代において、インターネット、新聞、テレビを通じた情報を得ないでは生活できないからだ。
「砦なき者」ではニュース番組「ナイン・トゥ・テン」のディレクターの赤松を主人公としている。「テレビはこんなこともできてしまうのか」そう思わせる。個人的には物語の序章に当たる、第一章が印象的である。ニュースは真実を報道しなければならないのか、正義のためには偽りの報道をしても許されるのか、そんな疑問が生まれてくる。前作「破線のマリス」の続編に当たるが、もちろん前作を読んでいなくても99%この作品を楽しむことができる。
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「すべてがFになる」森博嗣

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
森博嗣の本を始めて手にとった。密室で起こった殺人事件の謎が少しづつ明らかになって行くというストーリーはある意味ありがちともいえるが、その中で数学的な考えがたくさん出てくる。文系の人にはどのように受け取られるかわからないが、好きな人は好きな本だろう。主人公である犀川先生の考え方にときおりうなずかされることがある。

「深紅」野沢尚

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第22回吉川英治文学新人賞受賞作品。
凶悪犯罪が起きてもあまり驚かないようになった。1年も経てばワイドショーをにぎわせた犯罪も記憶の片隅に追いやられてしまう。「深紅」は一家残殺という事件で唯一生き残った少女を主人公としている物語である。

「破線のマリス」野沢尚

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第43回江戸川乱歩賞受賞作品。
テレビというメディアには力がある。ほんの数十秒の映像で世の中を味方にも敵にもできるのだ。「破線のマリス」の中では、編集によって真実とは別の意図を持った映像が電波に乗って流れて行くシーンがある。実際、現代でも世間の思いをある方向に導こうとする、おおげさな表現や映像は使われていると聞く、そんな中この作品の中で作者が必死になって伝えようとしているのは、今見ている映像が真実かどうか、それを疑い、それを判断する力をつけろということだ。幸いなことに僕らはインターネットという道具を手にしている。真実を探すことができるではないか。
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「奪取」真保裕一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第10回山本周五郎賞受賞作品。第50回日本推理作家協会賞受賞作品。
真保裕一の本が好きなのは、物語を楽しむと同時に、幅広い知識が身に付くからだ。そういう意味でこの「奪取」はお金、特にお札に関する知識がたくさん付いた。ただ、物語よりもお札の印刷技術、そこに重点を置き過ぎた感が有るのが残念。僕の評価では真保裕一の作品の中ではあまり高いとは言えないが、「この本が一番」という友人もいるので、好き嫌いが別れる本なのかもしれない。
とりあえず偽札づくりの知識は付くかも知れないです。それと同時に偽札づくりなんて無理。そう思います。

「青の炎」貴志祐介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「黒い家」「ISOLA」「天使の囀り」のような貴志祐介らしい(?)内容を期待したのだが、この作品は今までの作品とくらべるとずいぶん違う色の作品である。
この本を読んで改めて気付かされた。人はそれぞれ自分の気持ちを中心に生きていて、その中で少しづつ摩擦が生まれる。誰かを傷つけようなどとは誰も思っていなくても、人と人との間に生まれる誤解や嫉妬の中から犯罪は生まれ、そして犯罪に手を染めた人は、それを補うために犯罪を重ねる。そんなどうしようもない状況がこの世の中にはあるということ。