「P&G式「勝つために戦う」戦略」A・G・ラフリー、ロジャー・L・マーティン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
P&Gの歴史や内部の出来事を例に、戦略について体系的に説明している。

まず本書では戦略を次の「5つの選択」としている。

(1)勝利のアスピレーション
 どんな勝利を望んでいるのか?
(2)戦場選択
 どこで戦うか?
(3)戦法選択
 どうやって勝つか?
(4)中核的能力
 勝つためにはどんな能力が必要か?
(5)経営システム
 その戦略的選択をするためにはどんな経営システムが必要か?

そして、「5つの選択」と同じように大事なのが、戦略的論理フローという枠組み、およびリバースエンジニアリングというプロセルなのだという。続く章では、この5つの選択と1つの枠組み、1つのプロセスについて例に挙げながら説明していくのである。

「5つの選択」のなかの最初の3つは、よく聞く項目であるが、それでも新しい学びはあるもので、例えば戦場選択について本書では次のいずれかであると説明している。

地理
製品タイプ
消費者セグメント
流通チャネル(消費者にどうやってリーチするか?)
製品の垂直的段階(製品製造のどの段階に参入するか?バリューチェーンのどの位置を占めるか)

製品タイプ 消費者セグメント 流通チャネル(消費者にどうやってリーチするか?) 製品の垂直的段階(製品製造のどの段階に参入するか?バリューチェーンのどの位置を占めるか)

地理、製品タイプ、消費者セグメントあたりは「戦場選択」という言葉を聞いたときにすぐに思いつくかもしれないが、流通チャネル、製品の垂直的段階という戦場選択があることはついつい忘れがちである。

そして本書で印象的なパートは、「5つの選択」の後半以降である。中核的能力は「勝つための能力」であり
、本書ではその能力は結局次のいずれかに当てはまるとしている。

消費者知見(買い物客やエンドユーザーを本当に理解する能力)
イノベーション
ブランド・ビルディング
市場攻略能力
グローバルな規模

そして(5)の「経営システム」とは、これらの選択と能力を支援するシステムを組織のなかに築くことである。それができてはじめて機能する組織が出来上がるのである。そのためのシステムを

戦略を立案・レビューするシステム
中核的能力を支援するシステム

の2つに絞って説明しており、立案した戦略をレビューできない以前のP&Gを悪い例としてあげている。

もっとも印象的だったのが、最後の「リバースエンジニアリング」と呼ばれるプロセスである。それは戦略の作り方である。

(1)選択肢の枠組み
(2)戦略の選択肢を作る
 選択肢を目標に至るまでの幸福な物語の形で表現する。
(3)前提条件を特定する
 選択肢が有効に機能するためにどのような前提条件が必要なのかを明確にする。チーム全体が一丸となって行動するために重要。
(4)選択肢の阻害要因を洗い出す
 案に批判的な目を向け、実現の難しい条件を整理する。懐疑派のメンバーの意見をよく聞くことは全員が納得するためにも重要なステップ。
(5)検証策を立案する
(6)検証を実施する
(7)選択する

としている。やはりポイントは(4)の阻害要因の洗い出しを、(2)の選択肢を作るフェーズと完全に分けている点だろう。ブレインストーミングの原則にもあるように、アイデアの拡散フェーズと収束、検証フェーズを明確に区別してこそ、組織の中にある多数の知見を効果的に行かせるのだ。

その一方で、上がったアイデアを徹底的に検証する方法を、よくある悪い戦略づくりの例として、「時間のかかりすぎ」「妥協に流される」「創造性が失われる」と一蹴している。そのような悪い戦略づくりを毎日のように目にしている僕にとっては非常に耳の痛い話である。今度機会があったら、本書で勧めているように「前提条件」「阻害要因」を明確にする方法で取り組んでみたいと思った。

企業戦略について、新たな視点をたくさんもたらせてくれた一冊。残念ながらすべて理解できたとは言い難い。繰り返し読み直したい。

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