「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」マイケル・ルイス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
サブプライム・ローンにまつわる大変動を予期し、それをもとに財をなす準備をあらかじめ整えていた一握りの人物に焦点をあて、その過程と心の内を描く。
残念ながら、僕自身が本書で書かれていることをすべて理解ししたなどとは言えない。というのも、全体的に著者の別の作品「マネーボール」同様非常に読みやすい文体で書かれているが、聞き慣れない金融商品や専門用語など調べなければ分からないことや、調べてもわからないこともまた多く含まれているのだ。それでも、「勝ち組」の側にいた彼らが感じた金融という虚像に対するなんともやるせない空気が本書を読むことで伝わってくるのだ。
そしてまた、漠然とではあるが世界中がアメリカ発の住宅好況に酔っていた2000年代半ばにその裏で何が起こっていたかを理解することもできるだろう。メディアなどで語られるサブプライムローン問題は非常に簡潔で、あまりにもわかりやすいために逆に「なんでこんなわかりきったことが起こったのか?」とさえ思えてしまうが、実際に起こっていたのは、ひたすら複雑になった債権と、その複雑さについていけずに不当な格付けをする格付け機関。そして、それをなんの疑問も持たずに信じきっていたトレーダー達という構図なのである。言ってみれば、購入相手を見つけるためにわかり難く構成された債権のわかりにくさに世界が飲み込まれてしまったようなものである。
正直、最初の時点での僕の感想は、自らを賢いと思い込んでいるトレーダーたちさえも気づかなかったことに目をつけ、そんなエリート達を出し抜くなんてなんて爽快なことなのだろう、というものだっが、実際にスティーヴ・アイズマンやマイケル・バーリ達を襲ったのは「勝利の爽快感」などというものではなく、形も根拠もないものを信じ気って混乱へと突き進んだ世の中へ対する虚しさのようである。
しっかり理解するためにはまだまだ僕の知識は足りない。類する本をいくつも読む必要がありそうだ。

ABS(アセットバックトセキュリティ)(Asset Backed Security)
ABSとは、資産担保証券とも呼ばれ、対象資産としての債権や不動産を裏づけに、(SPCを通じて)証券を発行・売却することで、資産をオフバランス化し、それに伴い現金を得る資産流動化取引を行った際に発行される資産を担保とした証券のこと。(exBuzzwords用語解説「ABSとは」
ISDA
“International Swap and Derivatives Association”の略で、日本語では「国際スワップ・デリバティブ協会」のことをいう。ISDAは、OTCデリバティブの効率的かつ着実な発展を促進するため、1985年にアメリカ合衆国のニューヨークで設立されたデリバティブに関する世界的な組織(全世界的な業界団体)で、OTCデリバティブ市場の主要参加者(会員)により構成されている。(ISDAとは|金融経済用語集

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「マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男」マイケル・ルイス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
オークランド・アスレチックスの総年俸は全チームのなかで下から数えたほうが早い。にもかかわらずレギュラーシーズンの勝利数はトップレベルである。そんなメジャーリーグのなかで「異質な例外」であるアスレチックスの成功を描く。
正直、冒頭から一気に本書に惹き込まれてしまった。打率、勝利数、被安打率、超打率、防御率、出塁率、決定率、打点、得点、セーブ…。数あるスポーツのなかでも圧倒的に数字の評価が多い野球。しかし、本当にそれぞれの数字は、僕らが語るほどに意味のあるものなのか。
きっと誰もがそれに似たような疑問を一度ならずと考えたことがあるに違いない。たとえば僕が昔思ったことがあるのが、「本当にチャンスに強い人を4番打者にすることがもっとも効率がいいのか?」という疑問である。1番から3番までがしっかり出塁すれば確かに塁がもっとも埋まった状態で打席にまわるがそんなことは早々起きるものではない…。などである。本書にその答えは残念ながらないが、世間を惑わしている数字のマジックにしっかりと切り込んでくれる。

足の速さ、守備のうまさ、身体能力の高さは、とかく過大評価されがちだ。しかし、だいじな要素のなかには、注目すべきものとそうでないものがある。ストライクゾーンをコントロールできる能力こそが、じつは、将来成功する可能性ともっともつながりが深い。そして、一番わかりやすい指標が四球の数なのだ。
スリーアウトになるまでは何が起こるかわからない。したがって、アウト数を増やす可能性が高い攻撃はどれも、賢明ではない。逆にその可能性が低い攻撃ほど良い。出塁率とは、簡単にいえば、打者がアウトにならない確率である。出塁率とは、その打者がイニング終了を引き寄せない可能性を表している。

特に気に入ったのは、得点期待値によって、個人の試合への貢献度を数値化する部分だろう。それは、たとえばタイムリーエラーをして敵に点を献上した選手は、ヒットを何本打てばその失敗を取り返せるのか、という問題を数値的に表すのである。
さて、本書はそんなアスレチックスのとっている数値的な解析をベースにした選手選びや戦術などのほか、そんな特異なアスレチックスの選手選別によって発掘された選手たちの生き方にも触れている。
スポーツ好きまたは理系人間には間違いなく楽しめる一冊である。サッカーでも近いことができないものだろうか。ついついそう考えてしまう。

最高の野手と最低の野手の差は、最高の打者と最低の打者の差にくらべ試合結果におよぼす影響がずっと小さいんです。

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