「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」山口周

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
グローバル企業が幹部にアートの勉強をさせる動きが活発になってきた。なぜアートを学ぶ必要があるのか。本書はその理由を世の中の動きとあわせて説明する。

本書では意思決定のクオリティを左右する要素として「アート」「サイエンス」「クラフト」という言葉を使っている。これまでの世の中では「サイエンス」と「クラフト」が主流だった。なぜなら、組織においては説明責任が求められことが多く、それゆえに、「説明できる」「サイエンス」「クラフト」が主流になりがちなのだ。しかし、「説明できる」ゆえに伝えやすく、他の多くの組織に取っても導入しやすいため、結局「サイエンス」「クラフト」という2つの要素だけに頼る組織は、他の組織と差別化がしにくく、レッドオーシャンから抜け出せないのだという。

そして、だからこそ「アート」の要素が今後組織の生き残りを左右していくと説明しており、その過程でいろんな実例を挙げている。そんななかでも面白かったのは、高学歴者を幹部に連ねながらも反社会的行為に走ったオウム真理教や、DeNAの不祥事、ホリエモンやナチスの下でユダヤ人を大量虐殺するシステムを作り上げたアイヒマンを例に上げて、「偏差値は高いが美意識が低い」と言っている点である。おそらく多くの読者が、学歴が「人の良さ」を決めるものではないという点には同意するのではないだろうか。本書ではそれを「美意識」「誠実性」という言葉で説明している。

なぜ人間に美学とモラルが必要かといえば、一つには意外かもしれませんが、最終的に大変効率がいいからです。「効率がいい」というと語弊があるかもしれませんが、より大局を見て、一本筋が通っていると、大きな意味で大変効率がいいのです。

なぜ、効率的かというと、本書では、変化の早い今の世の中において、法律は変わる可能性があり、法律だけを基準に組織の良し悪しを判断していると、組織全体が法律の変化に大きく影響を受けてしまうのだ。一方、「美意識」「誠実性」に基づいた善悪の判断の方が長く有効なのである。

その他に興味深かった話は、日本のクルマのデザインを変えた、前田育夫氏の話である。彼の書籍がいくつか出ているようなのでこれを機に読んでみたいと思った。

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