「くもをさがす」西加奈子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
コロナ禍で移住先のバンクーバーで乳がんが見つかり、その治療の様子を描く。

直木賞受賞作品の「サラバ!」が有名な著者が、エッセイとして自らの乳がんの治療の経緯と、バンクーバーの生活の様子を描く。

乳がんの診断から順を追って描いている。そのなかで、バンクーバー生活の中で著者が気づいた、日本との文化の違い、医療の違いなどが見えてくる。無責任なバンクーバーのスタッフたちに憤慨する一面があるかと思えば、そのほがらかなスタッフたちに勇気をもらう場面もあり、日本とバンクーバーを比較してどちらが良い悪いと単純に言えないことを改めて感じさせられる。

また、乳がんという女性特有の病気を患った人間の視点や生活も伝わってくる。抗がん剤治療や放射線治療のつらさのなかで、多くの友人たちに恵まれて乗り越えている様子が感じられる。

両胸があったところに、2本の赤い線が引かれていた。真っ直ぐ、定規で引いたような線だった。…本当に綺麗な傷跡だった。
書くことを、身体がどうしても拒むほどのいにくい瞬間があったし、書くことを、やはり身体がどうしても許してくれない美しい瞬間もあった。

病気に悩んでいる人が勇気をもらえる内容である。

【楽天ブックス】「くもをさがす」
【amazon】「くもをさがす」

「さくら」西加奈子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
父親が久しぶりに家に帰ってくるということで、薫(かおる)は実家に帰り飼い犬のさくらや妹のミキと再会する。そして、20歳で亡くなった兄や、破天荒なミキの行動のことを思い出す。

学校のヒーローだった兄と、美人だが凶暴な妹の出来事、そして過去の恋人たちとのエピソードなどを順を追って語っていく。世の中なんでも思い通りになりそうな幼い頃の思いと、それがだんだん少しずつ、勢いが失われて平凡な人生に飲み込まれていく様子を独特なテンポで語る。

本書で西加奈子の著作は二作目であるが、本作品も直木賞受賞作品である「サラバ」と似たような独特な雰囲気を持つ。もし著者の作品がみんなこの雰囲気であればしばらく読まなくてもいいかなと思った。悪い作品ではないが何冊も読むものでもないかもしれない。

【楽天ブックス】「さくら」

「サラバ!」西加奈子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第152回直木三十五賞受賞作品。

イランで生まれ日本で育った圷歩(あくつあゆむ)の物語。
イランで生まれたことと、姉が少し変わった女性であったという点で、歩の人生は同年代の人間とは少し異なっていた。そして、父のエジプト赴任によりエジプトでの生活も経験していたことである。そしてやがて両親の離婚という一家の危機も経験するのである。本書はそんな歩がアラフォーになるまでを描いた物語である。
僕にとって印象的だったのは、歩(あゆむ)が僕自身と一歳しか違わない同世代の男だということである。高校生の時に阪神大震災を経験し30代前半で東日本大震災を経験するなど、人生の重要なできごとが年齢的にも重なることが多く、読み進めながらついつい自分自身の人生を振り返ってしまう。そういう意味ではアラフォー世代の読者の心には強く響く部分があるだろう。
また、もう一つ印象的なこととしては、歩(あゆむ)自身が決して貧しい家で育ったわけでもなく、むしろ裕福な家庭で育ちながらも、姉の奇行や両親の離婚という悩みを抱えている点だろう。物質的に豊かでありながらも心が満たされない様子がひしひしと伝わってくるのである。
大学時代はその甘いマスクを武器に女性に不自由しない人生を送りながら、20代ではそれなりにやりたいことをする思い通りの人生を送りながらも、30代を過ぎて見た目や体の衰えとともに人生の陰りを感じるあたりはなかなか他人事として片付けられないリアルさを感じてしまった。
自分の人生を振り返りその意味を改めて考えたくなる一冊。歩がエジプトで小学生時代を経験しているため、「アラブの春」と呼ばれるイスラム諸国の民主化の流れに再び興味をもたせてくれた。
【楽天ブックス】「サラバ!(上)」「サラバ!(中)」「サラバ!(下)」