「見えない誰かと」瀬尾まいこ

「見えない誰かと」瀬尾まいこ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
自身の教師の経験の中で出会ってきた人々を語る。

瀬尾まいこの本を読むのはこれが初めてではなく「そして、バトンは渡された」など、いくつか印象に残っている本があるが、本書「見えない誰かを」を読むまで中学校の教師であることを知らなかった。

興味深いのは、一見おかしな人、変な人に見える人々でも、時間の経過によってその人の異なる部分を知り、良い部分を見るようになっていく著者の視点だろう。女性ならではの共感力や、先生ならではの観察力を感じる。そして、その一方で、人の記憶に長く残る人というのは、どこか一癖ある人なのだと改めて感じる。

著者のその優しい視点からも、そして、著者が挙げている癖のある人々からもたくさん学ぶところを感じる。悪いところばかりに目がいってしまう僕自身は、人との接し方を少し改めないとならないと感じた。

周囲に合わせて個性を失っていると感じる人がいるなら、そんな人も本書を読んでみるといいのかもしれない。

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「そして、バトンは渡された」瀬尾まいこ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2019年本屋大賞受賞作品。

3人の父、2人の母のなかで高校生になるまでにたびたび家族の形がかわるなかでいきてきた優子(ゆうこ)の物語。

父と母がたくさんいることをわかりながらも、優子(ゆうこ)の高校生活を中心に物語は進んでいく。そして、少しずつではあるが過去の父や母との出会いや別れが明らかになっていくのである。そんななかでも印象的なのは2番目の母で、自由奔放に生きる梨花(りか)の生き方、そして3番目の父、人のために生きることに生きがいをかじる森宮(もりみや)の姿だろう。

自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって、未来がに倍以上になることだよって
自分じゃない誰かのために毎日を費やすのって、こんなに意味をもたらしてくれるものなんだって知った

誰もが若い時は自分のために、そして年齢を重ねて、子供が生まれたり、自分の余生が短くなっていくに従って人のために生きるようになるが、その重視する比率や、変わっていくタイミングは人によって異なる。今回は早くして人のために生きるたくさんの人たちを描いている。この優しい世界にぜひ浸ってほしい。

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「君が夏を走らせる」瀬尾まいこ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
高校生の大田は結婚して子供を産んだ先輩に一歳の娘鈴香(すずか)の子守のバイトを頼まれる。

最初は仕方なく鈴香(すずか)の子守をしていた大田も少しずつ子守に慣れてきて、やがて少しずつ鈴香(すずか)に愛情を感じ始め、また親に対する考え方も変わっていく様子を描いている。

「あと少し、もう少し」の続編という位置付けだが、共通しているのは大田を含む一部の登場人物だけで、物語の雰囲気もかなり異なる。子供との愛情を描いた話ではあるが、正直訴えたいポイントがわからずにあまり楽しめたとは言えない。大田の更生の物語か親子の愛情の物語のどちらかに倒した方が物語として分かりやすかったのではないだろうか。テーマが中途半端な印象を受けた。

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「あと少し、もう少し」瀬尾まいこ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
中学校の駅伝にかける青春を描く。
追い詰められたときに力を発揮する設楽(したら)、素行は悪いが走ることは好きな大田(おおた)、バスケ部から参加したジロー、吹奏楽部から参加した渡部(わたべ)、桝井(ますい)に憧れて力をつけてきた俊介(しゅんすけ)、そしてずっと陸上部の駅伝をひっぱってきた桝井(ますい)。個性豊かな中学生たちが最後の駅伝にかける様子が、それぞれのそれまでの回想シーンなどと合わせて描かれる。
個人的には不良の大田(おおた)の心の描写が印象的である。すでに先生からも敬遠されるなか、桝井(ますい)からの誘いにしぶしぶ応じて駅伝に参加することになった大田だったが、走ることは好きでみんなの期待を越える活躍を見せるのである。

「やってもできない」それが表に出てしまうことを、俺はずっと避けてきた。できそうにない問題にぶつかると、できないと証明される前に投げ出した。そのうち投げ出すことに慣れてきて、ちょっとしたハードルでも俺は手を出そうとしなくなった。そして、その分、できないことも増えていった。
中学校の教師も、「お前はやればできrんだから」と馬鹿の一つ覚えみたいに言った。だけど、残念ながらそれは違う。俺はやったってできない。だいたいやればできるやつは、ちゃんとやっている。何にも力を注がない時間がこれだけ積み重なった俺にできることなど、一つもなくなっていた。

仲間とともに何かに一生懸命取り組むことのすがすがしさを改めて思い出させてくれる一冊。
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