「激流」柴田よしき

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
修学旅行の途中で行方不明になった女生徒冬葉(ふゆは)。20年後、彼女から、同じバスにのっていた同級生6人にメールが届く。「私を憶えていますか?」。大人になった彼らは再び20年前の出来事と向き合うことになる。
移動中のバスからいなくなる女生徒。こんな謎めいて、「真実を知りたい」と思わせる序章は、エンディングのハードルまで上げてしまうとはいえ、読者を引き込むには最良の方法だろう。
物語は不思議なメールをきっかけに、集まった6人。再会をそれぞれの目線から見つめることで、20年という決して短くない期間の人生が見えてくる。20年前に抱いていたお互いに対する気持ちや、20年前とのギャップ、夢を掴んだものとそうでないもの、想像通りの生き方をしているものとそうでないもの…。本作品の面白さは、行方不明になった女生徒というなぞの解明よりも、その過程で描かれるそれぞれの人生にあるといってもいいのではないだろうか。

どちらも若かったのだ。若く幼く、必死だった。自分が心地好いと感じる価値観にしがみつき、それ以外はすっぱりと否定してしまう。妥協、という言葉はあの頃の自分たちにはとても汚らわしい響きを持つ言葉だった。

その同級生の中でも、特に特徴をもって描かれているのが、芸能人として有名になった美弥(みや)と、中学生のころから誰もがうらやむ美貌をもった貴子(たかこ)である。個人的には、そんな恵まれた容姿をもちながらも決して幸せな生き方をしていない貴子の生き方が印象的だった。
ラストの展開が冒頭で引き上げた期待値に達したかどうかは疑問だが、決して悪い作品ではない。ただ、同級生6人のなかに刑事、芸能人、美人というありがちな人物設定しかできなかった点がやや残念である。
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