「聖域」篠田節子

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
出版社に勤める実藤(さねとう)は、退社予定の社員の机を整理していて未発表の原稿を見つける。実藤(さねとう)はその内容に魅力を感じて、完成させるためにその作家を探し始める。
冒頭は書きかけの原稿の中に描かれた物語が詳細に描かれる。東北を舞台としたその物語は、一つの神に仕える若者が東北を旅する物語であり、地方によって神の形も崇拝の方法も異なっていた時代の日本の不思議な空気を感じさせてくれる。
そして物語は現代に戻り、その原稿の作家を探す実藤(さねとう)の様子を描く。終盤は探していた作家との出会い。そして普通の生き方を捨てたその作者が見せる生と死のハザマの世界。死者を現世に導く媒体となる人間、沖縄で言えばユタ、東北で言えばイタコと呼ばれる人間に焦点が移っていく。
全体的にはややアンバランスな印象を受けた。登場する作家が書いた物語なのか、それとも死者と現世のかかわりなのか、著者がこの作品で訴えたい箇所がぼやけている気がした。
本作品のように、登場人物として小説家が登場するような物語は、著者が自分の一つの理想像を描いているような印象を受けることが多い。この作品で言うなら、著者の篠田節子はこの作品の中に登場するその小説家に、「こんな小説も書いて見たい」という自身の願望を映したのではないだろうか。前半部分は少し実験的な小説という印象さえ受けた。
その点も含めて、残念ながら共感したり強く感動をするような内容ではなかった。篠田節子の作品は読むたびにテンポも雰囲気もがらりと変わる。だからこそこの著者の作品を表紙の印象や背面のあらすじだけを頼りに手に取るのは賭けに近く、アタリかハズレのどちらかになってしまう。自分の知識のなさを棚に上げているだけなのかもしれないが、あまりオススメできるような作品ではなかった。


口寄せ
死霊を呼び出して喋らせる事
参考サイト
Wikipedia「蝦夷」

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「贋作師」篠田節子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本洋画界の大御所、高岡荘三郎(たかおかそうざぶろう)が死んだ。主人公であり修復家の栗本成美(くりもとなるみ)は、高岡邸に保管されている、状態の悪い絵画を、市場に出回るために修復することになった。修復の過程で成美(なるみ)は、高岡(たかおか)の元に弟子入りして、3年前に自殺した昔の恋人の存在を強く意識することになる。
この物語は常に成美(なるみ)の視点で描かれている。修復家という一般的には馴染みのない職業の中に、大きな夢を追いながらもあるとき自分の才能に見切りをつけ、相応の居場所を見つける人たちの生き方が見える。
また、筆のタッチから描いた人が同一人物かどうか見極めようとする成美(なるみ)の絵画に対する観察力などはとても新鮮に映った。成美(なるみ)が真実に迫る過程で、売るためだけに書く売り絵の存在。絵画界の狭さ。世間が上下させる絵画の価値など、普段触れることのない絵画の世界を知ることができた。
全体的には、じわじわと核心に迫る前半部分とは対照的に、最後は拍子抜けするような展開だったと感じた。後半部分で触れている病気に犯された男女の変わった愛の形は、この物語の表面的な心情描写だけでは到底理解し難いものだった。篠田節子の作品に触れるのは「女たちのジハード」「ゴサインタン」に続いて3作目だが、未だ共通するような個性を感じることはできない。


粟粒結核
大量の結核菌が血流を通して全身に広がった結果起こる結核で、命にかかわる病気。「粟粒」と呼ばれるのは、体中にできる数百万個もの小さな病巣が、ちょうど鳥の餌の粟(あわ)と同じ大きさだからである。

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「ゴサインタン 神の座」篠田節子

オススメ度 ★☆☆☆☆ 1/5
第10回山本周五郎賞受賞作品。
「女たちのジハード」が非常に面白かったので手に取った。内容としては主人公である結木輝和が結婚したネパール人のカルバナがその後次々と奇妙なことを起こすようになる。というもの。ストーリーとしてはわかるのだがなんといっても話の展開が遅くて何度本を閉じようとしたかわからない。
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「女たちのジハード」篠田節子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

第117回直木賞受賞作品。
保険会社に勤める3人の女性を描いている。条件の良い結婚をするために策略を練るリサ。得意の英語で仕事をしたいと考える沙織。そして康子。それぞれ自分は「どこに向かって生きて行けばいいのか」それを必死で追い求めている。
誰もが今の自分の人生にまど満足してはいない。かといって「何を目指して生きて行くか?」それすら見えていない人が大半なのではないか・・それでもきっと「夢はなんですか?」と聞かれたら「デザイナーを目指している」とか「弁護士」を目指している・・とか、そう言うのだ。彼等はその後にどんな生活が待っているのかわかっているのだろうか。それが本当に自分を満足させてくれるとでも思っているのだろうか。
僕は何を目指しているのか・・そしてその先に何が有るのか、そんなことも考えさせられてしまう。とりあえず、この本に出てくる主人公の女性達の生きざまは見事である。
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