「ローマ人の物語 終わりの始まり」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
紀元160年から210年頃のローマ帝国の様子を描く、ハドリアヌスの後、アントニヌス・ピウスからマルクス・アウレリウスに始まり、セヴェルスまでの時代である。

今回は「終わりの始まり」ということで、すでにローマ帝国の滅亡を知っている著者の立場から、それを予感させる動きに目を向けさせている。

マルクスの死の誤報に、皇帝を名乗って謀反を起こしたアヴィディウス・カシウスの言葉が特に印象的である。

哀れなローマ帝国よ。すでに持っている資産の保持しか頭にない者どもと、新たに資産家になることしか考えない者どもに苦しまされているのだ。哀れなマルクスよ。偉大なる徳の持ち主ではあるが、寛容な指導者という評判を欲するあまりに、貪欲な者どもが闊歩するのを許している。

指導者は常に寛容さと厳しさの間で揺れ動き、どの立場を取っても非難されることになるのだろう。

マルクス・アウレリウスにだけでなく、セヴェルスも含めて、皇帝たちの苦悩を見る中で、改めて国とは大きな組織でしかないことを認識させられる。つまり、会社やチームなどの運営のあらゆる面にも同じ問題が起こる可能性があり、彼らの苦悩の中に現代に活かせることはたくさんなるのだ。

時に指導者は、市民や後継者に理解されない政略でも、未来を考えて遂行しなければならないのである。そしてそのためには、その有効性を確信していなければならない。

どの皇帝の行動も理解できる部分があり、改めて大きな人を束ねることの難しさを感じた。

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「ローマ人の物語 すべての道はローマに通ず」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ローマ帝国の道路、下水、医療、教育について語る。

ローマ帝国をここまで歴史に沿って説明してきたが、本書ではインフラに焦点をあてて解説している。本書のサブタイトルである「すべての道はローマに通ず」という言葉は、歴史に興味がない人でも聞いたことがあるぐらい有名な言葉で、それ自体がどれほどローマ帝国のインフラが優れていたかを語っていることだろう。

明らかになっているローマ帝国のインフラと著者の考察が、国に限らず、組織やコミュニティなど、多くの人が共同で活動する団体をどのように整備していくべきかを考える上で、新鮮な視点を提供してくれる。

自国の防衛という最も重要な目的を、異民族との往来を断つことによって実現するか、それとも、自国内の人々の往来を促進することによって実現するか。

同じ時代に東方で万里の長城という壁を作った人々がいる一方、人々のつながりをつくる道路と橋を作ることにこだわったローマ人の考え方が面白い。

インフラとは、経済力があるからやるのではなく、インフラを重要と考えるからやるのだ…

これまでローマ帝国の歴史を見てきて、リーダーのあるべき姿など様々なことを知った。そんななか、これまでの戦いの歴史と比較すると退屈に聞こえがちな「インフラ」という本書のテーマだが、予想以上に多くの学びがあった。

さて、ここまでしっかりとしたインフラを備えた国がどうやって滅びてしまったのか、そのきっかけは何だったのか。シリーズは次からローマ帝国の滅亡へと進んでいくので、さらに続きを読み進めるのが楽しみになった。

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「ローマ人の物語 賢帝の世紀」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ローマ帝国の黄金時代であるトライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスを描く。

トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスとタイプの異なる肯定でありながらも、いずれもローマ帝国の黄金時代を支えることに貢献したことがわかる。今回はそう言う意味では、ダキア戦役を除いて、戦いの描写はほどんどない。その一方で国を整備するための、建築や法律などの描写が多くあり、読めば読むほど、東方の日本では金印を受け取っていた時代に、ローマではここまでの建築技術と、法律が整備されていたことに驚かされる。

また、トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスともに、肯定でありながらも非常に慎ましい生活を送っていたことに驚かされる。今から2000年以上前にできあがった優れたリーダー像が、今とまったく変わらないのである。むしろ、そのような肯定しか認めない風潮がローマ帝国にあったことが大きいのだろう。

皇帝もローマ市民も、肯定の統治権が市民のすべての利益を守ることに行使されることを当然のこととして受け入れていたのだろう。本書で2回にわたって紹介される次のエピソードがそれを如実に表している。

…ハドリアヌスが1人の女性に呼び止められた。女は肯定に何かの陳情をしようと、途中で待ちかまえていたのである。だが、それにハドリアヌスは、「今は時間がない」と答えて通り過ぎようとした。その背に向かって女は叫んだ。「ならばあなたには統治をする権利はない!」振り返ったハドリアヌス帝は、戻ってきて女の話を聴いたのである。

今の日本の政治家に読ませたい内容があふれていた。

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「ローマ人の物語 危機と克服」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
悪名高き皇帝ネロの後のローマ帝国の物語で、紀元69年から98年までを描いている。
ガルバ、オトー、ヴィテリウス、ヴェスパシアヌス、ティトゥス、ドミニティアヌスと皇帝が次々と変わる時代だが、ローマ帝国自体は比較的安定していたようである。首相が次々と変わる日本のように国民がどこか政治に無関心な様子である。それは見方を変えると、すでに国自体がそう簡単に不安定な状態にならないという確信が国民のなかにあったのだろう。
次々変わる皇帝のその政策やふるまいをここまで連続して見せられると、どのような人間が信用を失いやすく、どのような人間が長く信頼を勝ち取れるかという傾向が見えてくるようだ。「歴史から学ぶことは多い」と言葉としては多くの人が知っていて、使ったりもするが、ローマ帝国の皇帝たちから学べることは、企業の経営者たちにも共通している気がする。まだローマ帝国の歴史なかばではあるが、結局カエサルとオクタビアヌスに勝る皇帝はいないのではないかと思えてくる。
本書のもう一つの個人的な見所はポンペイで有名なヴォスヴィオ火山の噴火である。当時ヴォスヴィオ火山の麓の町で生きていた男性がタキトゥスという当時の作家に送った手紙の全訳はそれが確かに現実に存在した悲劇であることを伝えてくれる。
トライアヌスが皇帝になったことで終わる本書。ローマ帝国はこの後「五賢帝時代」と呼ばれる時代に入っていくのである。
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「コンスタンティノープルの陥落」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
東ローマ帝国の首都として栄えたコンスタンティノープルの陥落を描く。著者塩野七生自身「ローマ人の物語」という大作を描いていることからもわかるように、誰もが古代の大帝国としてしっている「ローマ帝国」それが最終的にどのように東ローマ帝国となって、そして滅びたのかを知っている人は少ないだろう。本書はそんな歴史の一部分を、そこに関わった多くの登場人物の目線で描く。
正直登場人物が多いのと、宗教的な背景に対する知識が乏しいせいか、戦がはじまるまでの流れはあまり深く理解できなかった。しかし、一度観光で訪れたことのある、イスタンブールの名所、ガラタ塔やボスポラス海峡など、などが物語中で出てくるたびに、歴史の延長に僕らがいることを実感する。
戦いのなかで印象的だったのが、この戦いで大砲が大活躍したという点である。そして大砲の活躍の目覚ましさ故に、この戦いの前と後では、特に地中海地域では城壁の作られかたが変わったのだそうだ。これから西洋の城を見る時は城壁の形にも注意してみてみたい。
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「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アウグストゥスの統治の後の紀元14年から68年までを描く。
ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロと支配者の変わるこの時代である。ローマの歴史に詳しくない人でも皇帝ネロの名前ぐらいは歴史の教科書で目にしたことがあるだろう。キリストの迫害で有名なネロゆえに、その性格も自分勝手な人間を思い描いていたが、本書を読むと決してそんなことはなかったのだとわかる。ネロ自信は立派であろうと努めたのである。
印象的だったのは、いい皇帝ほど歴史に名を残さず、いい皇帝ほど小さなことで非難されるというジレンマである。アウグストゥスがすでに国の基盤を作ったこの時代、皇帝のやるべきことは小さな事をコツコツ調整することであった。ティベリウスはそれを着実に行ったのだが、結果として良くも悪くも教科書に名を残すほどの人間にはならなかった。また、もし国のどこかの地で争いが起こっていれば国民の関心はそちらに向かい、細かい社会制度や皇帝自身の私生活など誰も気にしないのだが、平和に国が統治されれば人々の関心は細かいことに向かって行き、結果として皇帝の人間関係などが批判の対象となるのである。
いろんな部分で2000年前の出来事が現代と共通していると感じた。言い換えると、人間は2000年かけて、技術的には成長しても、人間的にはまったく成長していないのではないか、とも感じてしまったのである。過去から学べることはたくさんあるのに、限られた人間しかそれを意識し日々努めてはいないのかもしれない。
さて、絶頂を迎えたローマがこれからどのように終焉に向かって行くのか。「ローマ人の物語」もようやく折り返し。続きが楽しみである。
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「ローマ人の物語 パクス・ロマーナ」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「ローマの平和」を意味する言葉「パクス・ロマーナ」。紀元前29年から紀元14年までの、カエサルの死後を引き継いだアウグストゥスの時代を描く。
この時代には派手な戦や動乱はない、ただローマの平和の礎を築枯れて行く時代なので、アウグストゥスの地味な政策が続く。そのため人によっては「退屈な時代」と映るかもしれない。
しかし、地味な時代だからこそ、アウグストゥスの狡猾さや人間味が見えて面白い。筆者もそんな地味な面白さをしきりに訴えていて、カエサルとアウグストゥスの異なる面を興味深く描いている。例えば、アウグストゥスが後継者に血統を重んじたという点、そして、カエサルのような陽気さや大らかさ、そして指導力やカリスマ性を持っていなかった点などである。
この時代の分かりやすい一つの大きな動きはゲルマニア侵攻である。カエサルのガリア戦争同様に、ゲルマニア侵攻も進むはずだったのだが失敗に終わる。そんな過程で見えてくるアウグストゥスとティベリウスの関係が面白い。ゲルマニア侵攻で実績を残し、兵士達からも慕われたティベリウスだが、アウグストゥスからはなかなか理解されずにロードス島に引きこもってしまうのである。全体としての印象だが、アウグストゥスはどこか冷淡で、心を開かない人間だったと言う印象を受ける。
ついに紀元に入ったローマ帝国。今後キリスト教などが普及して行くことだろう。皇帝ネロの誕生も本書では描かれていたので、宗教絡みの展開が楽しみである。
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「ローマ人の物語 パクス・ロマーナ(中)」
「ローマ人の物語 パクス・ロマーナ(下)」

「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以後」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ポンペイウスと敵対したユリウス・カエサルがルビコン川を越える紀元前49年から、カエサルの暗殺の後の紀元前30年までを描く。
「ブルータス、お前もか」というセリフでカエサルがブルータスによって殺されるということを一般的な知識として持っている人は多いだろう。しかしカエサルやブルータスがどのような人物で、どのような経緯でそこに至ったかを知る人は少ないのではないだろうか。
本書を読み終わった時の率直な感想は、「カエサルは偉大な人間だった」ということである。先の時代を見る能力と、人を操る能力を見事に備えていて、それ故に戦いにも政治の能力にも長けていたのである。同時期の他の権力者と比較して抜きん出ているだけでなく、現代においてもこれほど能力のある人にはそうそう出会えるとは思えない。
本書で扱っているのはすべて紀元前の出来事である。僕らはなぜか、「紀元前」と聞くと大昔の印象を持つが、本書で描かれているローマの実情を見ると、すでに社会がある程度出来上がっていたことがわかる。「社会」という言葉は非常に曖昧だが、政治や裁判やコミュニティとするとわかりやすいかもしれない。ちなみに、現在の前の暦であるユリウス暦もカエサルの命によって作られ、その時代ですでに11分程度の誤差しかなく、ユリウス歴は1582年にグレゴリウス暦にとって変わられるまで1500年以上も使われたというから驚きである。
また、もう一人の誰もが聞いた事のある有名な人物としてクレオパトラも登場する。美人としては有名だが、彼女がどのような存在だったのか本書を読むまでまったく知らなかった。
このカエサルの時代はローマのもっとも面白い部分なのではないだろうか。カエサル自身が書いたという「ガリア戦記」もぜひ読んだみたい。
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「十字軍物語3」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第三次十字軍から第七次十字軍を描く。
十字軍物語の第3作目であるが、1作目、2作目で第一次十字軍、第二次十字軍を扱っていたのに対して、本書では第三次から第七次までの5つの十字軍を描く。お互いを認め合うサラディンとイギリスのリチャードの第三次十字軍の章以外では十字軍はむしろ政治的な要素が強かったり、惨憺たる結果に終わったりする。
印象的なのは惨憺たる結果に終わりながらも神に尽くした聖人とされたフランス王ルイである。自らの利益を考えずに神に尽くそうとし、それゆえに十字軍に参加した人々に大きな傷跡を残した彼の行動は、当時の世の中の人の考え方の現代との違いを示しているようだ。神には逆らってはならない。神に尽くせば救われる。今よりもずっとそう信じられていたのだろう。また、いずれの十字軍でも大きな戦力となった騎士団の動向も面白い。聖ヨハネ騎士団は十字軍の後ロードス島へ本拠地を移し、一方で聖堂(テンプル)騎士団は弾圧の末に消滅するのである。
ヤッファやアッコンなど拠点となった町にいつか行ってみたくなった。
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「十字軍物語(2)」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
聖都エルサレムを奪還した十字軍だが、イスラム側も徐々に反撃を始める。
エルサレム奪還から時を経て、十字軍側は防衛する側にまわるのだが、そのなかで重要な役割を担うのが聖堂(テンプル)騎士団と聖ヨハネ騎士団である。本書ではこの2つの騎士団について何度も触れられており、著者のこだわりが感じられる。実際その存在は非常に魅力的に見える。聖堂(テンプル)騎士団は「ムスリムは殺せ」という信念でその信念に賛同する物は誰でも受け入れていたのに対して、聖ヨハネ騎士団はもともとは病院騎士団と呼ばれ、人々の病や怪我の治療にも尽くし、教育を受けた貴族しか受け入れなかったという。聖ヨハネ騎士団のそんな自らを律した存在がとても魅力的に見えるのだ。彼らが使っていた城塞に書かれていた文章がその哲学を表している。

おまえが裕福な出であろうと、それはそれでよい。おまえが知力に恵まれていても、それはそれでけっこうだ。また、おまえが美貌に生まれたのならば、それもよし。だが、このうちの一つであろうとそれが原因になって、おまえが傲慢で尊大になるとしたら、問題は別になる。なぜなら、傲慢とはその表われである尊大は、おまえ一人に限らずおまえが関係を持つすべてを損い汚し卑俗化してしまうからである。

また、聖ヨハネ騎士団が十字軍防衛のために利用した城塞もとても印象的である。特にクラク・ド・シュヴァリエについては図入りで解説されており、いつか実際に見てみたいと思った。
本書のなかで印象的な著者の言葉として、優秀な人材は同じ場所に集まるというものだ。実際、第一回十字軍の際には多くの優秀な人材が十字軍から排出されて、それがエルサレムの奪還へと繋がったが、本書ではイスラム側にサラディンなどの多くの優秀な人材が輩出され、エルサレムを奪い返されるのである。
【楽天ブックス】「十字軍物語(2)」

「十字軍物語(1)」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1095年11月のクレルモンの公会議でローマ方法ウルバン2世の呼びかけによって始まった十字軍。本書はその第一回十字軍について記述している。
学生時代の教科書ではわずか数行でおわってしまう程度の出来事ではあるが、キリスト世界のなかでは当時間違いなく大きな出来事だったであろう。当時のカトリック教会の状態や、イスラム世界など、教科書が伝える事実ではわからない、その当時の雰囲気が伝わってくる。
興味深かったのは、当時のイスラム世界の人々にとっては、十字軍が何を行っているのかわかっていなかった点である。イスラム世界の人々に彼らのエルサレム奪還という目的が知られたのはどうやらかなり後のことのようで、その進路の途中の国々の人にとっては十字軍はただの侵略者としか見えなかったのだ。
本書ではイスラム世界はセルジュークトルコの支配してい時代ではあるが、キリスト世界だけでなくイスラム世界の状況に着いても知りたくなった。
【楽天ブックス】「十字軍物語(1)」

「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前」塩野七生

ローマ人の物語。この3冊はユリウス・カエサルが主な登場人物となり、ローマ帝国を一気に拡大させる。カエサルは40代になるまで大した偉業を成し遂げなかった遅咲きの英雄であり、序盤は政治的な内容や多くの人名が登場するためなかなかわかりにくいかもしれない。しかし、後半はカエサルの著書「ガリア戦記」の内容を交えながら、ガリア地方へローマ帝国が拡大していく様子が面白く描かれている。
カエサルだけでなく、ガリア地方の多くの部族を束ねてカエサルに挑んだヴェルチンチェトリックスの勇敢な生き方も印象的である。
実は「ガリア戦記」というタイトルは聞いた事があったのだが、それがユリウス・カエサルによる2000年も前に書かれたものだったとは、本書を読んで初めて知った。読まなければいけない本がまた増えた気がする。
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「ローマ人の物語 勝者の混迷」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
カルタゴが滅亡して大国となったローマ。しかし領土が増えて人が増えれば様々な問題が噴出する。タイトルが「勝者の混迷」と付けられていることからも想像できるように、とりたてて大きな出来事があるわけでもないが、平和ゆえに噴出する多くの問題が見えてくる。
ローマは領土が拡大する過程で、すべての市民に平等な市民権を与えれば旧市民の反感を招き、平等な市民権を与えなければ新しく支配下に入った領土の人々に不信感を与える。というジレンマに陥るのである。また、世界を完全に制覇しない限り常に隣国は存在し、隣国との関係や争いは常に発生するのである。この「勝者の混迷」で見せてくれるのは、まさにそんな組織を維持する事の難しさである。
投票権や税金は言うまでもなく、新しい制度への段階的移行など、現在僕らが生きているこの社会が、過去の何千年もの人類の試行錯誤の結果などだと思い知る。
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「ローマ人の物語 ハンニバル戦記」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ローマ人の物語の第二章である。紀元前264年から紀元前133年までの130年間を描く。
ハンニバル戦記と名付けられたこの章は、その名の通りカルタゴの名将ハンニバルによって大きな変化を強いられたローマを描いている。アフリカ大陸で栄えたカルタゴのハンニバルはスペインへ侵攻し、やがてローマへと向かうのである。
著者も冒頭で書いているが、学校の教科書ではこの時代をわずか5行程度で済ませてしまうという。しかし、それではわずかな事実が伝わるのみで、過程を知らずに、その時代に生きた人々は見えてこない。本書を読むと、祖国から遠くは慣れて孤立していくハンニバル。ハンニバルへの対抗手段をめぐって対立するローマ国内など、2000年以上も前に生きていた人々が信じられないほど現実感を伴って見えてくる。
実は僕自身本書を読むまで、カルタゴという国の場所や名前や、ハンニバルがどこの国の人物かすら知らなかった。当時の人々の崇高な生き方に触れるほどに、知るべき歴史を知らない自分の無知を感じてしまうのである。
さて、何度も戦いに勝利しながらもやがてハンニバルはローマを後にせざるを得なくなる。一方で、ハンニバルの引き起こしたポエニ戦役によってローマは一段と力を増し、一層帝国主義の傾向を強めていく。
なにより印象的なのは、700年も栄えたカルタゴの滅亡だろう。過去の歴史だけを見ると、それが必然だったように見えるが、歴史的事実のいくつかは偶然の重なりによって覆ったこと。著者はカルタゴの滅亡をまさにそんな一例と捉えている。栄枯盛衰を感じずにはいられない。
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「ローマ人の物語 ローマは一日にして成らず」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
古代ローマの物語。
ずっと読みたかったがその長さになかなか最初の一歩を踏み出せずにいたが、必ずしも一気読みする必要もなく気長に読み進めていければと思った。文庫版の最初の2冊で「ローマは一日にして成らず」という副題を持つこの2冊は、紀元前753年のローマの建国から紀元前270年前後のイタリア半島の統一までを描く。
グループや会社やチームなどの団体をうまく機能させようとするのは難しいことだがとてもやりがいのあることで、国というのはもっとも大きい団体と考えれるかもしれない。そして国をうまく機能するように作り上げることは興味深いことだが、それは人間の一生の数十年の間にできることではないのだ。だからこそ、本書が見せてくれる、ローマ人が国として試行錯誤をしてその機能をつくりあげていく様子は面白い。
歴史的事実はもちろん著者がスパルタやギリシャなど周辺国と比較してローマを語りその形態をわかりやすく解説してくれる。王政や共和制についての理解が深まるだけでなく、団体や組織が陥りがちな混乱や困難が見えてくるだろう。
まだ始まったばかりだが続きが楽しみだ。
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「レパントの海戦」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
レパントの海戦とは、1971年オスマン帝国のキプロス遠征に対して、カトリック教国の連合艦隊が挑んだ戦いのこと。本書はカトリック教国側に焦点をあててその歴史的海戦を描く。
「ロードス島攻防記」で初めて塩野七生の著書に触れて、その一冊の読書から見えてくる歴史の面白さに驚いた。本書は僕にとって塩野作品2冊目となるが、こちらも同様にカトリック教国とイスラム教国の歴史的物語を面白く描いている。
今回印象に残ったのは「ヴェネチア共和国」という国名。オスマン帝国は歴史の教科書に必ずと言っていいほど登場するが、「ヴェネチア共和国」という名前を聞いたのはおそらく今回が初めてで、調べてみると「歴史上最も長く続いた共和国」ということで、大いに興味をそそられた。またヴェネチアという町自体、いつか行ってみたい場所でもあるので、本書を読んだことで、きっとヴェネチア旅行がまた違った角度から楽しめることになるだろう。
さて、本書はキプロスに向かって勢いを増すオスマン帝国に対抗するために四苦八苦する連合艦隊の様子が描かれている。当時は櫂と帆で船を動かしていた時代。そのため大量の人員を必要とし、乗船するだけでもかなりの時間がかかるという。
また、スペイン王国の微妙な立場も面白い。連合艦隊に属しながらも、ヴェネチア共和国の勢いは弱まってほしい、そのため連合艦隊に参加しながら、必死で戦争の開始を遅らせようとする。こういったところが歴史の教科書からはわからない一面だろう。
前後の歴史にもさらに興味を抱かせる一冊。

レパントの海戦
1571年10月7日にギリシアのコリント湾口のレパント(Lepanto)沖での、オスマン帝国海軍と、教皇・スペイン・ヴェネツィアの連合海軍による海戦。(Wikipedia「レパントの海戦」
ヴェネチア共和国
現在の東北イタリアのヴェネツィアを本拠とした歴史上の国家。7世紀末期から1797年まで1000年以上の間に亘り、歴史上最も長く続いた共和国。(Wikipedia「ヴェネチア共和国」

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「ロードス島攻防記」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
イスラム世界に対してキリスト教世界の最前線にあたるロードス島。1522年オスマントルコのスレイマン1世は聖ヨハネ騎士団を相手にロードス島攻略を開始する。
先日観光にいってきたトルコという国に興味を持ったため本書を読み始めたのだが、読み始めてみると自分の無知さに驚かされる。十字軍、オスマントルコ、神聖ローマ帝国などなど、いずれも世界史で聞きかじったことなある内容ではあるものの、それがなんで、どういう理由で行われ、結果どうなったかをまったく知らないのである。
物語の焦点がトルコとロードス島の戦いであるから、当時の防衛の技術、地雷や大砲といった戦争の技術から、それぞれの軍隊の国民やそこで話される言語など、当時の生活の様子や人々の考え方も含めて、わずかではあるがいろいろなものが伝わってくる。
どうしても歴史について知識を得ようとして本を読み始めると退屈だったり、物語を読むと極端な展開に辟易したりするが、本書は知識を退屈しない程度に楽しみながら得たい、という読者にはぴったりである。著者「塩野七生」という名を実は何度か目にしたことがあって実際その作品を読んだのは今回が初めてだったのだが、こういうスタイルで多くの歴史的事実について書いているのであればぜひもっとたくさん読んでみたいと思った。

聖ヨハネ騎士団
11世紀に起源を持つ宗教騎士団。テンプル騎士団、ドイツ騎士団と共に、中世ヨーロッパの三大騎士修道会の1つに数えられる。本来は聖地巡礼に訪れたキリスト教徒の保護を任務としたが、聖地防衛の主力として活躍した。ホスピタル騎士団(Knights Hospitaller)ともいい、本拠地を移すに従ってロードス騎士団、マルタ騎士団とも呼ばれるようになった。(Wikipedia「聖ヨハネ騎士団」)
十字軍
中世に西ヨーロッパのキリスト教、主にカトリック教会の諸国が、聖地エルサレムをイスラム教諸国から奪還することを目的に派遣した遠征軍のことである。(Wikipedia「十字軍」)

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