「魔女の笑窪」大沢在昌

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
裏の世界でコンサルタント業を営む女性、水原(みずはら)。過去何人もの男性と関係を持ってきたがゆえに、人を見てその人の人間性を見抜く技術を持つ。
水原のクライアントの多くは、裏の世界に生きるものたち。おのおのが独自のルールに則って生きている。裏の世界を舞台にした物語の中ではよく語られることだが、彼らは表の世界以上に、「義理」…言い換えるなら「貸し借り」を重んじる。なぜなら、法律を気にしないで生きている以上そこには刑罰の類のものが存在しない。それはいわゆる強い恨みを買えばそれはすぐに「死」につながるからである。そのような考えは本作品でも大きく扱われている。
そしてそれと対比するように、法律の許す範囲でなら平気で人を裏切る人間として表の世界の人々に触れている。
いくつか興味深い内容はあったが、そこまでである。物語というのは、その主人公に共感したり、その主人公の生き方にあこがれたりしてこそ楽しめるもの。すでに中年の域に差し掛かりながら体を武器にして裏の世界で生きる女性に、どうやって読者は魅力を感じればいいのだろう。

トローリング
曳き釣り。ルアーやベイトをボートで引っ張って行う釣りの一種。

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「北の狩人」大沢在昌

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
秋田県警の警察官である梶雪人(かじゆきと)は12年前に父親を殺された事件の真相を突き止めるために新宿にやってきた。歌舞伎町で十年以上前につぶれた暴力団のことを聞きまわることで、過去の秘密が次第に明らかになっていく。
歌舞伎町を舞台にした暴力団同士の抗争、台湾マフィアとの駆け引きなどで展開するストーリーはあまりにも普段の私生活とかけ離れているために現実感に乏しい。それでも雪人(ゆきと)に関わる人の少し変わったものの見つめ方が新鮮である。
新宿でキャッチのバイトをしている高校生の杏(あん)はある時思うのだ。

お洒落と男の子と夜遊び。そのみっつしかない毎日が、ひどく下らないことのように思えてきた。

雪人(ゆき)と目的を共にする新宿署の刑事である佐江(さえ)は新宿をこんなふうに語る。

新宿てのは、深い海みたいなもんだ。いつもでかい魚がじぶんより小せえ魚を狙っている。どいつもこいつもゆだんすりゃ食われるのよ。

物語の長さのわりに展開が小さく感じた。主人公の雪人(ゆきと)が東北出身であるという人物設定が感情移入をしずらくさせている感じを受けた。物語中の大きな役割を担う暴力団幹部達にも、その生きてきた背景をしっかり描けばラストのシーンはもっと大きな感動を受けるのではないかと感じた。全体的にはやや物足りなさを覚えた作品である。
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