「六月六日生まれの天使」愛川晶

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
目を覚ますと隣に全裸の男性が寝ていた。男の名前どころか自分の名前も思い出せない。どうやら記憶を失ってしまったらしい。
そんな意外と物語ではよく使われる記憶喪失を題材にした作品。本作品が他の作品と違うのは、その主人公となる記憶を失った女性だけでなく、そこにいた男性も「前向性健忘」という記憶の障害を抱えている点だろう。
「前向性健忘」は「博士の愛した数式」で有名になった病気で、ある時期以降の記憶を蓄積できないというもの。本作品でも冬樹(ふゆき)という男性は小一時間ごとに新しい記憶をリセットしてしまうために、そのたびに目の前にいる女性の名前どころかそこにいる理由さえも忘れてしまう。
それが本作品の面白さであり、布石なのだが、記憶を失ったもの同士のちぐはぐなやりとりがやや不必要に長く、また、あまりにも使い古された(そのわりに現実ではあまり見ない)「記憶喪失」という題材にかなりのチープさを感じてしまう。
しだいに女性は自分の記憶を取り戻して、自分の持っている醜い過去と直面していくわけだが、物語はそれだけでは終わらない。帯に「必ずもう一度読みたくなります」というのは決して嘘ではないが、それは「面白いから」ではなく、「よくわからないから」であり、もう少しシンプルな構成にできなかったものか、という印象が強かった。
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