「決断のとき」ジョージ・W・ブッシュ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第43代アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュ。2001年から2009年の8年の8年の間に下した大きな決断を振り返って描く。
時系列ではなくいくつかのテーマを順に描いている。そのうちのいくつかはアメリカの政治や経済に詳しくないとなかなか理解するのが難しいものだったが、他は興味深く読むことができた。多くの人と同じように、僕にとって興味深かったのは、第7章「アフガニスタン」、第8章「イラク」、第9章「カトリーナ」、そして9.11を描いた第5章「炎の日」である。
いずれも、ニュースや新聞では見れなかった動きや、大統領の葛藤が見える。

群集には、瓦礫の山に登っていた私が見えるはずだ。それがつぶれた消防車だったというのは、あとで知った。
群集が叫んだ。「聞こえないぞ」私は言い返した。「こっちは聞こえてる!」歓声を浴びた。「聞こえるとも。世界中があなたがたの声を聞いている」私がいうと、荒々しい声が沸き起こった。

描かれている内容のいくつかは薄れた記憶を鮮明にしたし、いくつかは、当時まったく知らずすごしていた自分の無知さを知ることになり、そのうちいくつかは僕が知っている内容と実は微妙に異なっていて、メディアというフィルタを通じて日本に届けられる内容と、大統領という決断を下した当事者に見えている内容の見え方が大きく違うことに、改めて、「見え方の違う現実」というものを意識させられた。
全体を通じて感じたのは、ブッシュ大統領が、常に「自分がどう見えるか」「自分をどう見せるか」というのを強く意識しているということだ。こういう書き方をすると鏡ばかり見ている自意識過剰な人間のように聞こえてしまうかもしれないが、彼が常に気をつけているのは、自分の自信のなさを少しでもカメラの前で見せてしまうことが、国民に大きな影響を与えるということを知っているからである。
例えば、イラク問題について語る際、彼は常に4つのカテゴリーの視聴者を意識していたという。第一は戦争遂行と戦費の支えとして欠かせないアメリカ国民、第二は命の危険を冒している米軍兵士、第三はイラク国民。そして第四が敵であるテロリストである。そんな彼の注意深い言動が、結果的に成功したことも失敗したこともある。いずれも、表情やわずかな仕草が世界に影響を与えてしまう立場にいる人間にしか語れない内容で、非常に印象的である。
本書ではほかにも肝細胞問題などの簡単には答えの出ない問題に触れている。多くの人種や宗教を抱える国だからこそ起こる異なる考え、日本の政治が簡単そうに思えてしまう。

ときには私たちの意見の違いは非常に根深く、私たちが共有しているのはひとつの国ではなく大陸ではないかと思えるときがあります」

また、文章からはいまなお、その決断の瞬間、結果的に思い通りに進まなかった出来事を悲しみとともに振り返るブッシュの重いが読み取れる。

過ちは、イラクの大量破壊兵器に関する情報が間違っていたことだ。もう10年近くたっているから、フセインが大量破壊兵器を保有していたという仮説がどれほど浸透していたかを言い表すのは難しい。戦争支持派はむろん信じていた。反対派も信じていた。

そして、また、本書のなかで引用される言葉の数々。自分の決断が多くの人々に影響を与えるという立場で大きな責任を背負ってきた人間が言うだけに、どの言葉も重い。

崇高な大義が犠牲を避けられたことは、これまで一度もありません。代償がなにもないときだけ自由を護るという考え方であるなら、私たちは国家として絶望的な状況といえましょう。

そして、最後はホワイトハウスを出たあとのことも書かれている。世界の中心から、穏やかな生活へと。その変化の大きさはとても僕ら一般人が想像できるようなレベルのものではないだろう。

新聞を読んだら、ついどう対応しなければならないだろうかと考えてしまう。やがて、決断はもうほかの人間のデスクで下されるのだと思い出した。

多くの日本人は最終的にブッシュ大統領を好ましく思っていないのだと思う。その理由がなぜだかはわからないが、本書はその考えを多少なりとも変えることになるのではないだろうか。

ヒズボラ
レバノンを中心に活動しているイスラム教シーア派の政治組織。(Wikipedia「ヒズボラ」

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