かいどうたけるの最近のブログ記事

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
医院長からの依頼で田口公平(たぐちこうへい)は術後に死亡した患者に関する処置の実態を調査することとなった。

誤診なのか検体の取り違えなのか、各々のスタッフの話を聞いて調査に努める田口公平(たぐちこうへい)だが、もちろん簡単に解決するはずもなく、やがていつものように厚生労働省のロジカルモンスター、白鳥圭輔(しらとりけいすけ)が調査に乗り出すことになる。

真相の究明の過程から病院内の権力争いや、スタッフ間の嫉妬が見えてくる。正直医療関係者でもなければ物語の流れをすべてしっかり理解するのは難しいかもしれない。一般の人はせいぜい漠然とトリックと犯人がわかる程度なのではないのだろうか。

シリーズを重ねるごとに専門的な内容が増えてくるだけでなく、過去のシリーズの人間関係も引きずってくるためにわかりにくくなっている点が海堂尊シリーズの残念なところである。

【楽天ブックス】「カレイドスコープの箱庭」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日比野涼子(ひびのりょうこ)は未来医学探究センターの唯一の職員。彼女の仕事は世界初の人工冬眠について少年モルフェウスを維持する事だった。そしてやがてモルフェウスが冬眠から目覚める時が近づいてくる。

人口冬眠、コールドスリープなど言葉の使い方はいろいろあるけれども、人が眠りについて未来にそのままの姿で生き返る、というのは過去多くのSF作品で使われてきたできごと。本書は医療を専門としている著者海堂尊(かいどうたける)が描く事で、より現実世界に関連した内容に仕上がっている。

これまで同じ著者の物語に多く触れてきたなかでは、現実的な医療技術を物語に取り込んでいるという印象を持っていた。そのため、ひょっとしたらコールドスリープもすでに実現可能な技術なのかもと検索したが、どうやらそのような事実はまだないようである。

本書では、目を摘出しなければならなくなった少年が、その治療薬の開発・認可を待つためにコールドスリープを選択する、という過程をとっている。関係者や政治家がコールドスリープをした対象の人権をどのように守るかという議論や、その技術をどのように維持するかの駆け引きが面白い。むしろ過去さまざまなSF作品に描かれていたような、コールドスリープをする前とした後での時代の間の文化の違いやその人やその人に接する人々が感じる違和感などは本書でほとんど描かれていない。

またほかのシリーズ作品同様、東城医大の高階医院長や田口先生など本書にもたくさん別シリーズの主要人物が登場する。海堂尊(かいどうたける)作品に多く触れている人はそういう意味ではさらに楽しめるのではないだろうか。近いうちに続編が出るようなのでそちらも楽しみにしたい。

【楽天ブックス】「モルフェウスの領域」

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
東城大学病院に脅迫状が送られてきた。AIセンターのセンター長となった田口(たぐち)はその犯人を突き止める任務を与えられる。

「チーム・バチスタの栄光」に始まるシリーズの完結編である。「ブラックペアン1988」などの過去の物語や「螺鈿迷宮」などの東城大学病院以外の物語が絡み合って物語が完結に向かう。

シリーズの他の作品と同じように、本作品も物語のなかに現代の日本の医療の問題点が描かれている。司法解剖と遺体を傷つけないAIの有用性はシリーズを通して著者が訴え続けている事の1つであるが、本作品ではエピソード自体へ重みがかかっているように感じる。

過去の登場人物やエピソードが何度も言及されるので、残念ながら過去の作品に馴染みのない方にはあまり楽しめそうにない内容である。本作品がシリーズの完結編という事で、シリーズ通じて活躍した厚生労働省の役人白鳥(しらとり)やロジカルモンスター彦根(ひこね)の爽快な展開が見られなくなるのが残念である。

【楽天ブックス】「ケルベロスの肖像」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
東城医大へ赴任した天才外科医天城雪彦(あまぎゆきひこ)は常識はずれな行動で注目を浴びる。それに対抗しようとする未来の病院長高階(たかしな)や佐伯(さえき)病院長など病院内の権力争いは熾烈をきわめていく。

「ブラックペアン1988」「ブレイズメス1990」に続くチームバチスタの10年以上前を描いた物語。「チームバチスタの栄光」など現代のシリーズの方を読んでいる読者は、高階(たかしな)は病院長になるはずだし、本書では生意気な新人の速水(はやみ)は天才外科医になるということを知っているから、きっと物語とあわせてその関連性を楽しむ事ができるだろう。

本書では高階(たかしな)、佐伯(さえき)、天城(あまぎ)など、それぞれの思惑で病院内の主導権を握ろうとする。ただ単純に多くの支持を集めるために医療のあるべき姿を語るだけでなく、それぞれが状況に応じて手を組んだり裏切ったりしながら地位を固めようとする様子が面白い。

医療はすべての人に平等であるべき、という高階(たかしな)や看護婦たちの語る内容も正しいと思うが、一方で天城(あまぎ)の主張するように、お金がなければ高い技術の医療は提供できないという意見にもうなずける。そこに正しい答えはないのだ。その時の世間の意識が医療の形を変えていくのだろう。

患者を治すため、力を発揮できる環境を整えようとしただけなのに関係ない連中が罵り、謗り、私を舞台から引きずり下ろそうとする。

【楽天ブックス】「スリジエセンター1991」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1990年、天才心臓外科医天城雪彦(あまぎゆきひこ)が東城医大へ赴任する。新しい天城(あまぎ)の医療スタイルや考え方は東城医大の医師たちに衝撃を与える。

同じく数十年前を扱った「ブラックペアン1988」の3年後の物語。その中では古くからいる医師を追い出す結果となった高階(たかしな)が、今回は天城(あまぎ)の日本医療と相容れない考え方に猛然と反発する。簡単に言えば、天城(あまぎ)は医療を進歩させて医療を維持するためには、お金を缶から受け取る必要があり、医師の数は限られているのだから、多くの金を払える人から治療すべき、というのに大して、高階(たかしな)は医療にカネの話を持ち出すべきではないというのである。

真実は、腕があってもカネがなければ命は救えない。だから医療は独自の経済原則を確立しておかないと、社会の流れが変わった時、干からびてしまう。

著者はもちろん、この作品を社会の流れが変わって、「医療崩壊」という言葉が広まったあとに本作品を書いているのである。つまり、天城(あまぎ)の本作品中で見せる態度は、医療界が本来20年前にやるべきだったこと、として描かれているのだろう。高階(たかしな)と天城(あまぎ)の議論が非常に深みを感じさせるのは、今の状況があるがゆえである。

そして天城(あまぎ)は自らの言葉を実践すべく公開手術へと向かっていく。

「天城先生は、医療現場においては命とお金と、どちらが大切だとお考えですか?」 「カネよりも命のほうが大切だ、という青臭い戯言には同意しますが、カネがなければ命も助けられないという現実から目を逸らすわけにもいきません。

東城医大の物語の歴史をさらに深くする一冊である。

【楽天ブックス】「ブレイズメス1990」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
不定愁訴外来の田口公平(たぐちこうへい)は新たに設置されるエーアイセンターのセンター長を任される。しかし、不審な事件が起こり始める。

エーアイとは、「Autopsy imagin」のっ略で死亡時画像診断とも言われており、著者海堂尊(かいどうたける)はデビュー作の「チームバチスタの栄光」からその利便性を訴えている。そして同時に、その利便性にもかかわらずその使用が広まらないのが、解剖という行為が司法と医療という境界上に位置するためその利権争いによってであるとも、繰り返し著書のなかで触れられている。

さて、本書も当然そのような話が多く触れられているが、ミステリーとしてもなかなか傑作に仕上がっている。なんといっても、エーアイセンターが発足するにあたって田口公平(たぐちこうへい)は「チームバチスタの栄光で」活躍した白鳥圭輔(しらとりけいすけ)と「イノセントゲリラの祝祭」で強烈な印象を残した彦根新吾(ひこねしんご)をオブザーバーおよび副センター長に据えるから、このシリーズを読み続けている人にとっては興奮させる展開である。2人のロジカルモンスターが競演するのである。

そして物語は、コロンブスエッグと呼ばれる縦型MRIの周辺で起きた殺人事件の真相解明へと移っていく。強烈な磁場を形成するMRIゆえにその周囲での金属の取り扱いに注意しなければならない、読者はすぐにそれが何らかのトリックに使われるだろうことは気づくだろう。それをどう物語に仕上げ、それをどう解決するか、それが本作品の鍵であるが、個人的には十分及第点をあげられる内容といえる。

もしも医療主導でエーアイセンターが完成したら、エーアイが第三者として司法解剖を監査できる。警察は捜査現場の問題を、司法解剖の闇に紛れ込ませ誤魔化してきた。それが全部明るみに出れば、法医学者はもちろん、警察にとっても死活問題だ。

エーアイという題材を用いてミステリーを描き、訴えたい内容をしっかりと読者に伝えるそのバランスがすごい。

【楽天ブックス】「アリアドネの弾丸」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
主婦として生活していたみどりは、一人娘で産婦人科医の曾根崎理恵(そねざきりえ)から、理恵(りえ)の娘を代理母として産んで欲しい、と頼まれる。みどりは、理恵自身が出産できないのは、そういう体に産んだ自分のせい、と引き受けることにする。

本作品も海堂尊(かいどうたける)が描く世界と繋がっている。時間と場所は同じく産婦人科医を描いた「ジーンワルツ」と重なり、前でも後ろでもなく、その時間を理恵(りえ)の母、みどりの目線で見つめているようだ。

本作品では、代理母を引き受けた母、みどりと、自身が子供を産めないがゆえに母親に代理母を依頼した理恵(りえ)とのやりとりが繰り返される。

子供を産むという行為を、自身が産婦人科医ゆえなのか、先端医療として淡々とすすめる理恵(りえ)と、理恵(りえ)のそんなふるまいに、母親としての何かがかけているのではないか、と不安がるみどり。そんな2人の考え方の違いがテーマと言えるだろう。

そして、そんな母娘の間で交わされる会話のいくつかは今の医療の問題をあらわしている。例えば子供の母親は卵子提供者なのか、それとも分娩者なのか、という問題もその一つであり、本物語では、母、みどりが娘の振る舞いに不安をもって、自らが母親であることを主張しようとすることからそんな時代遅れの法律に踏み込んでいく。

物語として非常に面白いとかいうものではないが、いろいろ考えさせてくれる内容である。

【楽天ブックス】「マドンナ・ヴェルデ」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本人でありながら世界からも注目を浴びる心臓外科医。日本初のバチスタ手術に挑んだ男でもある。その心臓外科医としての地位を固める過程が綴られる。

著者海堂尊はドラマや映画にもなった「チームバチスタの栄光」で一躍有名になり自信も医者であるという異例の経歴の持ち主である。そんな彼が出した実際の外科医についての本ということで興味を抱かずにはいられなかった。

本書では今までに須磨(すま)が越えてきたいくつかの壁について語っている。序盤に触れられているのは須磨(すま)が海外からのオファーによって経験することになった公開手術である。

似たような状況をドラマなどで見たことがあるからある程度は想像できるものの、実際にはそれは通常の手術とは比べ物にならないくらい多くのことを気にかけながら進めなければいけない手術で、緊張やプレッシャーも信じられないほどのものだということがわかるだろう。

それ以外のいくつもの困難とわずかなチャンスをものにしながらその地位を固めていく須磨(すま)。そこでは日本の医学会の保守的で異端児を嫌う風潮が何度となく触れられている。

そして後半はバチスタ手術について触れている。現在バチスタ手術の状況や、臓器移植が実質ほとんど行われていないという実情が、須磨にバチスタ手術の必要性を強く感じさせたこと。など、日本最初のバチスタ手術が本当に多くの人の助けを借り、また、費用いくつかの解決しなければいけない問題を越えてようやく実現されたものであることがわかる。

バチスタ手術を今、一番必要としているのは日本ではないのか。

当時の日本ではまだ脳死が認められておらず、心臓移植再開のメドも立っていなかった。なので、拡張型心筋症という難病に罹った日本人には希望がなかった。

現在、バチスタ手術が生き残っているのは世界中を見回しても日本だけだ。バチスタ手術は他国では全部死に絶えた、と言っていいだろう。なぜ須磨が有名なのかといえば、いまだにバチスタ手術をやっていて、しかも数多くの患者を助けているからだ。

医療現場の実情だけでなく、ぶれない須磨(すま)の生き方も本書を通じて見えてくる。自分を複雑化しないで単純に「外科医」という基本から逸脱しないで物事を考え決断するその姿勢には見習うべきものを感じた。

そのほかにも「本物」に対する須磨(すま)の考え方が印象的だった。

ニセモノは、できた直後にはきらびやかですが、その瞬間からすでに滅びに向かっている。本物は違う。年月とともにその威厳を増すものなんです。

人とは違う生き方をずっと続けていた人というのはやはりそれなりのものが身につくのだと、それが本書を読んでいて伝わってくる点に驚かされた。

【楽天ブックス】「外科医 須磨久善」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
北海道極北市民病院に赴任した今中(いまなか)は、問題山積みの病院の現状を目にして改善しようと努める。

本作品の舞台となっているのは財政破綻の極北市という仮想の自治体。しかしそれは、北海道夕張市をモデルにしていることがあとがきで触れられている。

本作品も著者のほかの作品同様、わかりにくく無駄に長い委員会名や肩書き名などとともにスロースタートし、今中(いまなか)の目を通して、赤字病院の体質やその原因を示してくれる。

また、昨今の医療を話題にした内容の本の中ではすでに当然のように語られることではあるが、本作品でも命を救えなかった産婦人科医師に対する、世間の度を越した非難についての医師目線の意見が語られている。

最後まで、医療問題に関心のある人には興味を惹く内容が多く含まれており、世間が医療に対する考え方を変えなければならない、と再認識させてくれる内容である。

戦後、産科技術の向上により、妊婦死亡率は劇的に下がっている。しかし産科医はそのことを社会に向かってアピールせず、黙々と働き続けた。その結果お産は絶対安全だという幻想を市民が抱いた。

さて、そんな一方で、シリーズではお馴染みの姫宮(ひめみや)や世良(せら)の登場など、もはや海堂作品は、初めて読む人は、海堂作品を読み続けている人の半分も物語を楽しめないのではないか、というような気がしてしまった。

財政再建団体
地方財政再建促進特別措置法(再建法)に基づき、赤字額が標準財政規模の5%(都道府県)または20%(市区町村)を超えた破綻状態にあり、総務大臣に申請して指定を受けた地方自治体のことをいう。2009年4月1日以降は財政再生団体。(Wikipedia「財政再建団体」

【楽天ブックス】「極北クレイマー(上)」「極北クレイマー(下)」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「ジェネラル・ルージュ」と呼ばれる東城医大の天才救命医、速水晃一(はやみ)の短編集。

速水(はやみ)を主人公とする「ジェネラルルージュの凱旋」は僕が海堂尊作品を好きになったきっかけとなる作品。そこで大活躍した速水晃一(はやみ)に焦点をあてた、短編集。「ひかりの剣」は速水の医大生時代を描いているが、本作品中の3編はいずれも医師時代。とはいえ最初のエピソードは新米医師の速水を描いており、類まれなる才能に恵まれながらも、自らの技術を過信し、先輩医師にはむかう生意気な新米を描き、物語としてはもっともオススメである。

実際の救命の混乱と、己を知らなかった自分と向き合い、自らを向上させる決意をする、と、言ってしまえばありがちな展開なのだが、その細かい展開と、速水という人物の魅力に楽しませてもらえる。相変わらず看護婦の猫田は存在感抜群である。

イカロスは人々の希望なの。その失墜を見て、意気地なしたちは安全地帯から指さしあざ笑う。だけど心ある人はイカロスを尊敬する。

2章目は「ジェネラルルージュの凱旋」と同じ時間を、経費削減に奔走する事務長三船(みふね)目線で描いた作品。すでに「ジェネラルルージュの凱旋」を読んだのが2年以上まえなために若干記憶が薄れているが、展開もほとんどそのままなのだろう。

そのとき心を動かされた言葉に、今回も同様にゆすぶられた。

だが、現実にはこの病院にはドクター・ヘリはない。なぜ? 事故を報道し続ける、報道ヘリは飛んでいるのに。

3編については満足だが、その後の「海堂尊物語」や登場人物の解説はページを稼ぐためだけのものにしか見えない。

【楽天ブックス】「ジェネラル・ルージュの伝説」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
医学部剣道部の大会で、今年も東城大と帝華大は優勝を狙う。東城大の主将は速水(はやみ)。帝華大の主将は清川(きよかわ)である。

「チームバチスタの栄光」などの作品からなる世界の物語のひとつ。東城大の速水(はやみ)は後に「ジェネラルルージュの凱旋」で天才外科医となって活躍する。また清川(きよかわ)は「ジーン・ワルツ」で産婦人科医師として登場する。どちらも後に優れた医師となる。そんな2人がまだ学生で医者になるための勉強をしていたころ、物語としては「ブラックペアン1983」と時期を同じくしている。

そういった意味では、剣道を題材とした青春物語としても楽しめるが、海堂尊のほかの作品を読んでいればさらに楽しめるだろう。剣道部の顧問として速水(はやみ)や清川(きよかわ)とかかわる後の院長の高階(たかしな)先生の行動の理由も「ブラックペアン」を読んでいれば理解できるだろう。

さて、それにしても最近映画化された誉田哲也の「武士道シックスティーン」といい本作品といい、世の中は剣道ブームなのだろうか。実際に経験したことはないが、本作品の描写を素直に受け取ると、なんとも剣道というスポーツが魅力的に見えてしまう。そしてそんな剣道物語につきものなのが、すぐれた女性剣士の存在ではないだろうか。本作品でも帝華大にひかりという剣士が登場する。

また、本作品で面白いのは、数十年前を物語の舞台としているにもかかわらず、そこで活躍する剣道を愛した青年たちは、決して古い青春ドラマに出てくるような、頭の固い努力家ではない点ではないだろうか。清川(きよかわ)などは常に手を抜こうと考えている点が面白い。

そしてもうひとつ顧問の高階(たかしな)先生の言葉の奥深さも本作品の魅力である。

今の君は自分の才能を持て余し、その重さに押し潰されている。大きな才能は祝福ではない。呪いだよ。

余計なことを考えずに一気に読書の世界に没頭したい人にお勧めである。

【楽天ブックス】「ひかりの剣」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
曽根崎理恵(そねざきりえ)は、医学部の助教授であり講義を受け持つと同時に、閉院が決定しているクリニックで5人の妊婦を診る医師でもある。理恵(りえ)と妊婦たちを描いた物語である。

ここ数年医療崩壊が叫ばれており、その中でも小児科と産婦人科がもっとも人手不足に悩まされているという。本作品でも、現場を知らない政策とそれによって被害を拡大していく地域医療の現状に触れている。また、体外受精や代理母出産など、出産の方法が増えているにもかかわらず、父親、母親の定義すら明治時代から変えようとしない、現行法の問題点にも興味深く切り込んでいく。

とはいえ物語はそんな難しい話ばかりではなく、後半は出産を間近に控えて大きな決断を迫られる妊婦たちと、それを支える理恵(りえ)を含む医師たちの人間ドラマへと進んでいく。

生まれるとともに死ぬことが定まっている子を身ごもった女性。すでに片腕がないことを知りながら、中絶を迷う女性。何年も不妊治療を続けてきてようやく妊娠するにいたった女性など、いずれも考えさせられることばかりである。そうやってつらい決断を考えた末に出していく女性たちについつい涙腺を刺激されてしまった。

どうして女ってみんな、こんなにバカなの?


そして、地域医療の崩壊に抵抗しようと、水面下で動く理恵(りえ)がなんともかっこいい。こんな風に、人の幸せに貢献できる人生を、きっと誰もがうらやましく感じてしまうだろう。

奇跡ってみんなが思っているよりもずっと頻繁に起こるものなの。特に赤ちゃんの周りではね。


アプガー・スコア
出生後すぐの赤ちゃんの状態を見て、点数を付けたもの。Appearance(皮膚色)、Pulse(心拍数)、Grimace(刺激に反応)、Activity(筋緊張)、Respiration(呼吸)のそれぞれの頭文字をとって、アプガースコア(APGAR score) となっている。

【楽天ブックス】「ジーン・ワルツ」

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
田口公平(たぐちこうへい)は病院長の命により、厚生労働省で行われる会議へ出席することとなった。

残念ながら御世辞にも序盤は面白いとは言えない。多くが会話につきており、登場人物の名前や組織名の多さに、一つ一つ整理して読まないととても話についていけない。漠然と理解した範囲でまとめると、どうやら物語は先進国の中できわめて低い解剖率のせいで、多くの犯罪が見過ごされるであろうという日本の社会の懸念を解決する手段として、エーアイの導入を改革派が叫んでいるにもかかわらず、現在の地位を守るために保守派が難癖をつけて却下させようとしている、ということらしい。

ところが「イノセント・ゲリラ」こと、彦根信吾(ひこねしんご)の登場によって物語りは一気に面白くなる。過去の作品で「ロジカルモンスター」こと厚生労働省の役人、白鳥圭輔(しらとりけいすけ)が行ってきた、権力にしがみつく保守派の医者たちの屁理屈をことごとく論破していく姿。今回はそれを彦根信吾(ひこねしんご)が見せてくれる。必死で現状の破綻した制度を維持しようとする官僚たちを切り捨てていく姿はなんとも爽快である。

「国家システムに競争原理を働かせては、ゆがんで壊れてしまう」
「競争原理を行政制度に導入した時に壊れるのは、官僚が手にしている既得権益だけだ」

しかし、全体的に見るとなかなかお勧めできる作品ではない。日本の医療問題をいろいろ考えさせたいのはわかるが、やはりある程度面白さを全体的に意地しなければ、読者を引き込んで、その方向へ目を向けさせるのは難しいのではないだろうか。

そういう意味では前半は僕にとってはひたすら退屈な展開であり、後半部分の面白さを評価したとしても、及第点を与えられる内容ではない。

検案
医師が死体に対し、死因、死因の種類、死亡時刻、異状死との鑑別を総合的に判断することをいう。死体検案の結果、異状死でないと判断したら、医師は死体検案書を作成する。異状死の疑いがある場合は検視を行い、死因などが判断できない場合は解剖を行う。(Wikipedia「検案」

参考サイト
Wikipedia「監察医」

【楽天ブックス】「イノセント・ゲリラの祝祭(上)」「イノセント・ゲリラの祝祭(下)」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1988年。世良正志(せらまさし)は研修医として東城大学医学部付属病院で外科としての第一歩を踏み出す。そこで初めて見る現実や、常識はずれな医師たちに出会う。

海堂尊作品ということで、過去の経験から、他の海堂作品と繋がっているのだろうと思いながら読み進めていたがなかなかつながらない。何人かの登場人物の名に聞き覚えを感じながらもなかなか繋がらない。そう思いながら上巻の中盤に差し掛かったところで、研修医として、田口、速水、島津という3人が登場。どうやら「チームバチスタの栄光」の数年前を描いたものらしい。そこでようやくタイトルの1988の意味に気付くに至った。

つまり生意気で破天荒な振る舞いをする医師高階(たかしな)は将来、「チームバチスタの栄光」で東城する病院長ということになるのだ。世良を驚かせた医師は高階(たかしな)だけでなく、昇進を拒みながらも技術の向上にこだわる渡海(とかい)もまたその一人である。

物語前半は対照的な考え方をする高階(たかしな)と渡海(とかい)のやりとりが面白い。

どんなに綺麗ごとを言っても、技術が伴わない医療は質が低い医療だ。いくら心を磨いても、患者は治せない。
心無き医療では高みには辿りつけません。患者を治すのは医師の技術ではない。患者自身が自分の身体を治していくんだ。医者はそのお手伝いをするだけ。手術手技を磨き上げるのも大切だが、患者自身の回復力を高めてやることも同じくらい重要なことだ。

そして、その2人の間に挟まれながらもいい刺激を受けて成長していく世良(せら)が前半の見所といえるだろう。

一見いがみ合っているように見えながらもこんな個性的な医師たちが、最終的に見事な化学反応を起こし病院という巨大組織を機能させていくところが面白い。「ジェネラル・ルージュの凱旋」でも感じたことだが、お互いの力を認め合うこんなシーンを見ると、かっこよさよりもそんな環境で仕事ができることに対する嫉妬を覚えてしまう。

そして終盤は、教授である佐伯(さえき)に焦点があてられる。物語序盤は医療の脚を引っ張る癌細胞のような存在に見えていた佐伯(さえき)も、その本音を知ればかっこよく見えてくることだろう。

私が病院長を目指す理由は、てっぺんに近づけば近づくほど自由度が上がるからだ。自由度が上がれば、自分より能力が低い連中にとやかく指図されなくなる。

そして最期は佐伯(さえき)が執刀するときのみに使用するという黒いペアン(医療器具)の存在理由が明らかになる。

かっこよく、すがすがしく、そして医療の在り方、医師の在り方について考えさせてくれる作品である。

ウィルヒョウ
ドイツ人の医師、病理学者、先史学者、生物学者、政治家。白血病の発見者として知られる。(Wikipedia「ルドルフ・ルートヴィヒ・カール・ウィルヒョー」

【楽天ブックス】「ブラックペアン1988(上)」「ブラックペアン1988(下)」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
借金を背負った天馬大吉は終末医療で注目を集めている病院への潜入を依頼される。そこでは次々と患者が死を遂げる。

「チームバチスタの栄光」から1年半後を描く。物語事態の面白さより、拡大する海堂尊(かいどうたける)の世界が興味深い。今回の舞台はチームバチスタの栄光の舞台となった東城大学病院と同じ自治体に属する碧翠院(へきすいいん)桜宮病院である。

物語は東城大学病院と桜宮病院の因縁に、終末医療を軽視する日本の医療問題にも触れながら展開する。

僕の脳裏に、チューブで雁字搦めにされた祖母の姿が浮かぶ。あれこそ医療の現実。だが、あの光景は果たして、人の生の最後の姿として、ふさわしいのだろうか。

海堂尊(かいどうたける)作品にはもはや馴染みのキャラクターであるロジカルモンスター白鳥や「ジェネラル・ルージュの凱旋」で強烈なインパクトを残した看護師、姫宮(ひめみや)も登場するため、シリーズを読み続けている読者にはそれだけで楽しめる作品と言えるだろう。とはいえ、他の海堂作品と比較すると、やや物足りなさを感じてしまった。もっと現代の日本の医療問題をリアルに反映するか、(もちろん終末医療の問題点については触れているのだが)、そうでなければ物語の面白さをもっと深めるか、他の作品ほど登場人物に魅力を感じなかったことも物足りなさの一つの原因だろう。

【楽天ブックス】「螺鈿迷宮(上)」「螺鈿迷宮(下)」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
大学病院の小児科病棟での出来事を描く。美しい歌声を持つ看護師の浜田小夜(はまださよ)の担当は目を摘出しなければならない子供たち。

次の作であるがすでに読了した「ジェネラルルージュの凱旋」とほぼ同じ時間を描く。「ジェネラルルージュの凱旋」が1階の救急救命センターを舞台としているのに対して本作品は2階の小児科を舞台としている。海堂尊のウェブサイトや、「ジェネラルルージュの凱旋」の末尾に付属している病院のマップなどを見るとさらに楽しめるだろう。

小児科病棟を舞台としているゆえに、そこの患者達は若いというだけでさまざまな症状に悩む。そこで自分の病気やそれに対する姿勢のありかたに悩む少年達の言動は本作品でもっとも印象に残る部分である。特に、牧村瑞人(まきむらみずと)は中学三年生という微妙な年齢。自分のことは自分で決められると本人は思いながらも、親の承諾なしに手術を決定することはできない。そして多くのその年代の少年達同様、周囲に弱音をはかないためにその内側が見えにくい。

そのような患者に囲まれて、少しでも患者達の幸せを願って従事する看護師、浜田小夜(はまださよ)の姿からは医療現場の多くの深刻な問題が見て取れる。

小児科診療にはマンパワーが必要だ。子供は小さな獣で、注射一つにも力ずくで押さえつけることが必要な時もある。一般患者なら本人聴取で済むが、小児科は両親の話も聞き、その上本人の聴取に途方もない根気が要る。愛情が深い分だけ、両親に客観的事実を納得させるのに、手間がかかる。子供と医療を軽視する社会に未来なんてない…

小児科病棟の患者の人手である杉山由紀(すぎやまゆき)は白血病を患っていて、自分の未来が短いことを知っている。そんな由紀(ゆき)と生きるためには両目を摘出しなければならない瑞人(みずと)の会話がなんとも強く心に響いた。

「たぶん、もう駄目」
「そんなこと言わないで。がんばって。きっと大丈夫だよ」
「そんなありきたりの言葉を瑞人(みずと)くんからもらえるなんて、思ってもいなかった。何とかなるのにしようとしないひとに慰めてもらえるなんておかしな話ね」

物語はそんな小児科病棟と、その関係者の間で起こった殺人事件に焦点をあてて展開する。本作品では、多くの関係者達が、ルールを守ることを重視するばかりでなく、人間関係やその事象がその後長きに渡って及ぼすであろう影響まで、広い視野で考えて対応する姿に、好感が持てた。

そんな病院関係者たちの行動をあらわすかのような次の言葉を大切にしたい。

ルールは破られるためにあり、それが赦されるのは、未来によりよい状態を返せるという確信を、個人の責任で引き受ける時だ。

今まで読んだ海堂尊作品とはやや趣が異なり、少し現実離れした物語。そのため最初は少し嫌悪感を抱いたが、最終的には「こんな物語もありかな」と、納得することができた。


加稜頻伽(かりょうびんが)
極楽に住む架空の鳥の名前

網膜芽腫(もうまくがしゅ)
眼球内に発生する悪性腫瘍である。大部分は2〜3歳ころまでに見られる小児がんであり、胎生期網膜に見られる未分化な網膜芽細胞から発生する。(Wikipedia「網膜芽細胞腫」

【楽天ブックス】「ナイチンゲールの沈黙(上)」「ナイチンゲールの沈黙(下)」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
リスクマネジメント委員会委員長田口公平(たぐちこうへい)のもとに匿名の告発分が届いた。内容は救急救命センター部長の速水晃一(はやみこういち)が特定業者と癒着をしているというもの。高階病院長からの依頼で田口(たぐち)は調査に乗り出す。

「チームバチスタの栄光」が実は世間で騒がれているほど僕の中ではヒットせず、そのためしばらく海堂尊(かいどうたける)作品を敬遠していた。今回再び手に取ったのは、ただ単にほかに読みたい作品が見当たらなかったというだけの理由である。

さて、本作品も「チームバチスタの栄光」同様、愚痴外来の田口公平に物語の目線をすえながら進んでいく。今回の舞台は、救命救急センターということもあって、その中心となる速水(はやみ)はもちろん、その周囲を固める看護師たちの姿が描かれていて、いずれも自分の信念を持った決断力のある魅力的な人物として描かれている。

告発文書の真偽の調査の過程で、例によって、病院という複雑な組織の中、上下関係、出世、建前などの駆け引きに各権力者たちが自分に利益をもたらすために行う駆け引きが描かれている。

他社を蹴落とすことだけを考えたこどもじみた主張を繰り返す人物も多かれ少なかれ存在はするが、そこで起こる衝突の多くは、病院の抱えるテーマ、つまり、採算を考えなければ病院経営はできないが、採算を考えていたら人命救助はできない。という答えのない問題の前でとった立ち位置の違いによって生じる。

それぞれ違った信念をもちながらそれを主張しつつ衝突する姿は、非常に興味深いだけでなく、僕自身にも考えの幅をもたらしてくれるように感じる。

収益だって?救急医療でそんなもの、上がるわけがないだろう。事故は嵐のように唐突に襲ってきて、疾風のように去っていく。在庫管理なんてできるわけもない。

それでも、「経営」よりも「人命救助」を主張する人間が最終的に英雄になるのはこの手の病院物語の約束事項。揉め事が一段落して再び救命救急センターの救助の様子に移った終盤はもう、そこで働く医師や看護師のかっこよさに興奮しっぱなしである。尊敬し合える人同士が協力し合って働ける職場に嫉妬してしまった。

読みながら感じた若干の違和感。いくつか未解決な問題や、中途半端な展開に感じた部分は、どうやらもう1作「ナイチンゲールの沈黙」と絡んでくるようだ。うまくハメられた気もするが、これでは読まないわけには行かないようだ。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作品。

バチスタ手術の天才外科チームで原因不明の術中死が立て続けに起こった。田口(たぐち)医師は真相の究明に挑むこととなる。

病院という舞台を扱ったミステリーである。昨今のよくある病院内の物語と同様に、本作品でも医者の上下関係や立場を重視する姿や、その閉鎖的な世界の現状が描かれている。本来、人の話を聞くことを得意とする田口がチームバチスタのメンバーから話を聞くことで真相をつかもうと努める。よくあるミそして、人の話を聞くことを仕事としている田口であるがゆえの目線が、個人的に本作品で印象に残った。

人の話に本気で耳を傾ければ問題は解決する。そして本気で聞くためには黙ることが必要だ。

同時に日本の医療の問題点も随所に散りばめられている。

文化人や倫理学者に発言させ、子供の臓器移植を倫理的、あるいは感情的に問題視させる。日本で子供の臓器移植を推進しようとすると足を引っ張る。米国で行われる手術は美談として支援し、日本では問題視する。同じ小児心臓移植なのに、おかしいと思いませんか


中盤から白鳥(しらとり)という真相救命の鍵を握る人物の登場以降、既にそこまでにも頻出していた専門用語やカタカナ言葉が一気に増える、その一方でいつまで経っても話の展開にスピードが感じられなかったのが残念である。「このミス」大賞の評価には疑問が残る。

拡張型心筋症
心筋の細胞の性質が変わって、特にに心室の壁が薄く伸び、心臓内部の空間が大きくなる病気。

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