かきねりょうすけの最近のブログ記事

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
借金の清算を請け負う仕事をする梶原(かじわら)。大学生の弘樹(ひろき)、警察官の和田(わだ)。お互いに接点のない3人はいずれも市役所で働く三谷恭子(みたにきょうこ)という女性と不思議な関係を持つ。1人の女性と3人の男性の不思議な関係を描く物語。

物語は25歳の三谷恭子(みたにきょうこ)を中心とした、それぞれの男性との関係と、その発端となったできごとを描く。三谷恭子(みたにきょうこ)自身、特に美人でもなければ派手な服装をすることもなく、男性に誘いをかけることもない。それでも3人の男性は彼女に惹かれて、繰り返し合ってくれる事を求めるのである。彼女の持つその魅力は一体何なのか、また、その年齢の割に、地味で目立たないように生きようとする三谷恭子(みたにきょうこ)の目的は何なのか。それが物語の面白さとなっている。

やがて、三谷恭子(みたにきょうこ)がたびたびある公園に訪れてそこで短期記憶しか持つ事のできない男性と話すことがわかる。毎回初対面を装ってその男性に話しかける三谷恭子(みたにきょうこ)は人生に何を求めているのだろう。次第にその形が明らかになっていく。

誰もが「満たされたい」と思いながら、異性やモノや権力でその隙間を埋めようとするが、永遠に「満たされない」。人によってはそれを知りその努力すらすることをしない。人間の生きる意味とは一体なんなんだろうか。そんなことを考えさせる作品。

本来ヒトは意味なく生まれ、意味なく死んでいく。そして、人間だけがその虚しさを知り、それに耐えていく動物と言えば、言えるのかもしれません。
止観(しかん)
仏教の瞑想のことである。サンスクリット語から「奢摩他(サマタ)・毘鉢舎那(ビバシャナ)」と音訳されることもある。禅観(ぜんかん)とも。(Wikipedia「止観(しかん)」)

【楽天ブックス】「月は怒らない」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
リストラを迫られた企業に対して、早期退職を促す会社で働く村上真介(むらかみしんすけ)の物語。

「君たちに明日はない」シリーズの第5弾で完結編である。今回もこれまでと同様に退職か会社に残るかを迫られた3人の男女の人生に迫る。化粧品メーカーでマネージャーを務める33歳の独身女性。電機メーカーで液晶テレビの製作に関わっていた42歳の男性。本が好きで書店に勤める33歳の女性の3人である。

いずれも一通りの社会人生活を送り、楽しむことも楽しみつくして生きる事意味を考え始める時期で、自分の好みや性格やコンプレックスなどを考えて、人生の岐路に立つ彼らの考えはどれも共感できる。特に2つめの親子2代にわたって電機メーカーで働いた男性が、退職を勧められて父親に助言を求めにいくシーンが印象的である。時代が変われば生き方も変わる。高度経済成長の真っただ中、「いい物が人を幸せにする」という時代に電機メーカーで働いていた人間と、すでに物が溢れ、すべての家庭に必要なものが行き渡った状態で、働いている人間とではいろいろ状況も異なるのだろう。結局人生の決断は本人にしかできないのだ。

三者それぞれに家族や友人、妻など周囲の人が大きく影響を与えているのが見える。

世の常識と今の自分に暫時寄り添いながらも自分の正しさを、そして自分の常識を常に疑い続けるものだけが、大人になってからも人間的に成長し続けることが出来るのではないか。

そして、終盤、真介は社長に会社をたたむ事を告げられる。新たな道を模索する真介は過去に自分が退職を勧めた人々に会ってその後の状況を聞くことにするのである。

終わってしまうのが悲しくなるほど、生き方の意味を考えさせてくれるシリーズ。もう一度全部読み直してみたくなった。

【楽天ブックス】「迷子の王様 君たちに明日はない5」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1560年。新九郎(しんくろう)は愚息(ぐそく)と名乗る坊主と出会い行動を共にすることとなる。そんな2人はある日、明智十兵衛光秀(あけちじゅうべえみつひで)と出会う。

本書を読むまであまり明智光秀(あけちみつひで)という人物についての知識を持っていなかった。織田信長(おだのぶなが)の最期となった本能寺の変の鍵となった人物という程度のものである。しかしどうやら明智光秀(あけちみつひで)については諸説あるようだ。本書はそんな1つの明智光秀像(あけちみつひで)を見せてくれる。

鍵と鳴るのは、剣士新九郎(しんくろう)と坊主愚息(ぐそく)である。新九郎(しんくろう)は最初ただひたすら剣を生業にしようとその腕を磨いていたが、愚息(ぐそく)との出会いによって物事を考える能力を身につけ、それが剣の技術にも活かされていく。また愚息(ぐそく)は世の中のルールには従わず自らの信念にしたがって生きている。そんな2人に魅了された光秀(みつひで)はその地位をあげていくなかでたびたび2人の元を訪れるのだ。

面白いのは愚息(ぐそく)がお金を稼ぐために行う博打の方法である。1見すると1対1の5分に思えるそれが物語を非常に面白くしている。

明智光秀(あけちみつひで)という人物についてもっと知りたくなった。また、新九郎(しんくろう)や愚息(ぐそく)の生き方にもなにか心地よさを感じた。

【楽天ブックス】「光秀の定理」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
両親の勧めで人生再生セミナーに参加することになった東大生の浅川太郎(あさかわたろう)。会場である小笠原に向かうフェリーにそれぞれの参加者がぞれぞれの想いを抱えて集う。

3人の人生に悩む参加者に焦点があてられている浅川太郎(あさかわたろう)と、ヤクザとしての人生に疲れきった柏木真一(かしわぎしんいち)、自分の容姿に自信がないライターの森川由香(もりかわゆか)である。それぞれが出会った当初はそれぞれを蔑んだり敬遠したりしながらも、セミナーを通じてともに過ごす事に寄って少しずつ打ち解けていく。

著者が本書をもって何を訴えたいのかはわからないば、個人的に印象に残ったのはむしろ、そんな登場人物たちのエピソードではなく、舞台である小笠原の人々の経験談である。セミナー中に、戦時中の人々に当初の経験を話してもらうのだが、そこではアメリカから日本になった小笠原という場所に生きた人々の苦悩が見て取れる。彼らにとってはどこか遠くの地で決められたどうしようもないこと。その決定によって兄妹や友人とは離ればなれになってしまうだけでなく、日々使用する言葉までも変えなければならないのだ。

それまで学校に上がっていた星条旗がするすると降ろされると、代わりに日章旗が揚げられました。そしれそれまでハワイから来ていた先生に代わり、日本の本土から来た先生が日本語で言いました。
みなさん、おめでとう。『返還』により、小笠原は『日本』になりました。

アメリカ人が支配していた頃は、よかったなあ。物資が豊富でなんでもかんでもグアムから運んでくれた。

このような問題を語る時、人々の頭に浮かぶのは沖縄なのではないだろうか。小笠原という場所の歴史に興味を向けさせてくれる一冊。

【楽天ブックス】「人生教習所」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
不況の世の中で多くの会社が人員削減に努める。そんな人員削減を請け負う会社に勤める真介(しんすけ)の仕事を通じて、多くの人の人生の転機に触れる事が出来る。

「君たちに明日はない」シリーズの第4弾である。今回も真介(しんすけ)がその仕事のなかで、3つの企業の従業員を面接する。最初の物語では経営破綻に陥った航空会社でCAの面接を真介(しんすけ)が担当する。これまでの物語と違うのは、普段は退職を勧めるのに対して、今回は予定以上に退職希望者が出てしまったために慰留を勧める点だろう。毎週のように合コンを繰り返すCA。多くの日本人女性が憧れるCAという職業の様々な問題点が見えてくるだろう。

印象的だったのは、3つめの物語「永遠のディーバ」。かつでは音楽に情熱を注いでいたため、その延長で楽器を扱う会社に就職し管理職を努める男飯塚(いいづか)の物語。真介(しんすけ)は飯塚に退職を勧めながらも、その夢と仕事を割り切る事のできない生き方に苛立つ。一方飯塚(いいづか)は真介(しんすけ)の言葉をきっかけに改めて自分の生き方を考え始める。そこで描かれるのは、好きな物と努力と才能。どんな才能にめぐまれた人でも、世界一でなければいつかは味わう、自分より優れた才能にであったときの絶望。人は夢と才能と仕事と、どうやって生きていくべきなのか。そんなことを考えさせてくれる内容である。

結局は、気持ちなんです。次々と見せつけられる実力の差やセンスの壁に、それでも挫けずにその行為をやり続けるに値する、自分の中の必然です。その必然に支えられた情熱こそが、絶え間なく技術を支え、センスを磨き、実力を蓄えてくれる。

もちろんほかの2つの物語も深さをもっているが、この3つめの物語はもう一度読み返したくなるほど印象的だった。

将来は、確かに大事だ。でも、だからと言って、その将来のために今のすべてを犠牲にするなんて馬鹿げている。何故なら、どんな年齢になっても、死ぬ寸前まで常に将来はあるからだ。その将来の備えのために、常に犠牲となっていく今という時間。

【楽天ブックス】「勝ち逃げの女王 君たちに明日はない4」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学生になったカオルはある日友人からファイトパーティの話を聞く。それはかつてカオル自身が仕切っていたパーティでしかも主催者たちは自分たちの名前を語っているという。カオルはかつてのリーダー、アキに連絡を取る事を決める。

「ヒートアイランド」シリーズの第4弾だが、同時に同著者の作品「午前3時のルースター」の内容も絡んでくるため、本作品から読んで楽しむにはややハードルが高いかもしれない。逆に、今までの4作品を読んでいる人にとっては間違いなく読み逃せない内容である。

その後のアキ、その後のカオルの生活を描きながら、過去の出来事についてもハイライトのように触れているので、必ずしも過去の物語をすべて憶えている必要はない。

物語の主な展開のほかに印象的なのは、カオルとカオルの大学の友人である慎一郎(しんいちろう)の心の内面だろう。どこかその年齢以上に達観した雰囲気を持つ2人は次第に近づいていく。終盤にはその理由と、それぞれのその複雑な思いが見えてくる。

個人的にはこのシリーズで出てくる柿沢(かきざわ)という男の常に冷酷までに最善の行動を選択する部分に魅力を感じているのだが、本作品でもそれは健在である。ぜひいままでの4作すべて読んでから読んで欲しい。

【楽天ブックス】「ボーダー」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
リストラを請け負う企業の面接官として働く真介(しんすけ)の物語の第3弾。今回も真介(しんすけ)の退職を促す面接によって、人生の岐路に悩む人たちの物語がリアルに描かれる。

本書で退職を勧められるのは、英会話学校、旅行代理店、自動車ディーラー、写真週刊誌で働く人たち。いずれも業界的に長くとどまる場所ではないところが共通している。
英会話学校の章では数年前のNOVAの倒産を期に浮き彫りになった英会話学校の内情、そしてインターネットの普及が逆風となっている現状を描いている。僕自身英会話に長く興味をもっているため特に楽しむことができた。

旅行代理店の回ではその業界の利益の少なさと残業の多さ。とはいえ本作品でもっとも印象深かったのが、この章でその退職を勧められることになった男。古屋陽太郎(ふるやようたろう)である。7年間、その会社に籍を置きながらも会社に対する忠誠心などまったくなく、その考え方は非常にドライで、個人的には非常に共感できる。

続く自動車ディーラーの章や写真週刊誌の章でも、人生の岐路にたった彼、彼女が、自分のやりたいことを再確認し、周囲の人に助けられて決断し、新たな一歩を踏み出していく様子は涙を誘うだろう。

毎回思うことだが、このシリーズを読むと転職がしたくなる。

【楽天ブックス】「張り込み姫 君たちに明日はない3」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
企業のリストラを代行する会社で面接官として働く真介(しんすけ)の目を通じて、多くの人の人生を描く。

待ちに待った文庫化である。本作品は「君たちに明日はない」の続編である。前作も、主人公である真介(しんすけ)が、面接でリストラ対象者を絞ったり、早期退職を勧めて人員削減の手伝いをする中で、多くの人の人生が見える点が非常に面白かったのである。

続編である本作品もまったく期待を裏切らない出来である。妙に心にしみる言葉がたくさんあった。

今までにいろんな会社の社員に接してきたが、出来る人間ほど、会社を自ら辞めてこうとする。そして出来ない人間ほどクビを嫌がり、組織にしがみ付こうとする。

そして、本作品を読み進めていて思ったのは退職を決意する人間のその理由の多様性である。

「人間関係が上手くいかない」、「給料が安い」、「楽しい仕事がしたい」…。よく聞く退職の理由はこの程度であるが、実際には人間の気持ちは決してそんな単純なものではない。

「お金がすべてじゃない」って言葉を「現実を知らない理想主義者」と、馬鹿にする人もいるのかもしれないけど、人とは違う価値観を胸に抱きながら、その基準を基に自分自身にしか判らない人生の幸せを見つけようとしている人もたくさんいるのじゃないだろうか。

本作品は大きく5つの章に分かれているが、中でも表題の「借金取りの王子」の章はよかった。「こんな風に誰かを想ってみたい」って久しぶりに思った。

たぶん、自由ってこういうことだ。 自分の将来をあれこれ考えられることだ。

本当に、人生を考えさせてくれる。今も一生懸命生きているつもりだけど、「もっともっと一生懸命生きよう」って思わせてくれる作品である。

【楽天ブックス】「借金取りの王子 」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日系二世としてコロンビアで生まれ育ちマフィアのボスとなったリキ・コバヤシは、日本の警察に捕らわれた仲間を助け出すために、ひとりの少女とともに日本にやってきた…。

久しぶりの垣根涼助作品の文庫化だが、もはや垣根作品には欠かせない題材である南米の文化が当然のように取り入れられている。

リキの部下であり警察に拘束された男を取り調べる警察の動向と、またその部下を救おうとするリキたち組織の人間の動きが本作品のメインではあるが、そんな中で随所に、その主要人物の回想シーンが挟み込まれている。

日本人の血をひくがゆえに生まれ持った知性によって、「豊か過ぎる国」、コロンビアだからこそ起きる混乱によって多くの親しい人を失いながらもマフィアのボスという地位を築いたリキ、そしてリキだけは自分を助けてくれると信じて疑わないその部下たち。

そんな暴力の支配する血なまぐさい世界を描いただけの作品になりそうだが、リキのそばを離れようとしない少女カーサの存在が彩(いろどり
を添えている。リキとカーサとの出会いのくだりは平和な日本という国しか知らない僕には興味深く、特に、絵を描くときに人の首まで描くことに込められた意味が語られる場面は非常に印象的であった。

世界は、人生は、決して辛く悲惨なものではなく、明るく喜びに満ちていることを、あなたが体感させてあげるのです。

一方で、物語は日本の警察官にもしばしば視点が移る。拘束された男の取調べを受け持つ武田(たけだ)と、その元恋人であった若槻妙子(わかつきたえこ)である。

裕福な家庭に生まれながらも自分と周りとの空気の違いに孤独感をぬぐえずに生きている妙子(たえこ)、正義を貫きたいがゆえに警察に入りながらもやがて麻薬に溺れていく武田(たけだ)、本作品を読み終わってこう振り返ってみると、人格をつくるのはその生まれ育った環境ばかりでなく、生れる前から心の中に巣食ったなにかなのかもしれない、そういう考えをもたらしてくれた。


あんたは、相変わらず泣かない子だね。
どんなに悲しくても、昔からそうだった。

【楽天ブックス】「ゆりかごで眠れ(上)」「ゆりかごで眠れ(下)」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
渋谷で若者たちを率いていたアキはチーム解散後、裏金窃盗集団の一員になると決めた。柿沢(かきざわ)、桃井(ももい)という2人の犯罪プロフェッショナルの下で、訓練と必要な知識を学び始める。

時間的には「ヒートアイランド」と「サウダージ」の間に位置する。アキを描いたこの作品は垣根涼介のほかの作品に比べて、社会問題や人間の内なる悩みなどのテーマ性が薄いが、気軽に読める手軽さがある。

表の顔を裏の顔を持つアキを含む3人。法律の及ばない生活だからこそ、口にしたことは必ず守ろうと努力する姿勢と、いつでも冷静に物事に対応できる者が信用を勝ち取る。戸籍を売っているホームレスや武器の密輸を手伝うコロンビアの日本人たちとのエピソードから見えるのは、結局どんな状況にも共通する人間の重要な部分である。

アキ以外にも、未来に悩むヤクザの柏木(かしわぎ)や、コンパニオンのバイトをしているアケミにも目線が移る。肩で風を切って歩くヤクザも、綺麗な顔をしたコンパニオンも、みんな理想と現実のギャップに悩みながら生きている。読んでいるうちに世の中のすべての人が可愛い憎めない存在に思えてしまうから面白い。このどこか爽快な感じは垣根涼介作品に共通する空気である。

【楽天ブックス】「ギャングスター・レッスン」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
旅行会社に勤める坂脇恭一(さかわききょういち)は日々の生活に疑問を感じながらも自分の生きる意味を考えながら生きている。一方、田所圭子(たどころけいこ)は、OLを辞めてから金を作るために売春に手を染め、今はヤクザの悪事を手伝わされていた。そんな2人が出会う。

恭一(きょういち)と行動を共にすることになった圭子(けいこ)の考え方は、恭一の考え方に間近で触れるうちに少しずつ変化していく。

自分の考えに自信が持てないからこそ、周囲の顔色をうかがって行動を選択し、その結果、誰からも必要とされなくなり、自分の存在価値が信じられなくなる。そんな圭子(けいこ)のような生き方をする人間は、自分の能力を知ってしまった20代中盤から後半の女性には意外と多く存在するのかもしれない。男女平等が叫ばれながらも、未だ、女性は男ほど簡単に一人で生きる決心などできないのだから、それも仕方がないことなのかもしれない。

自分に自信がなく、一人で生きていくことができないと思うからこそ、必死で相手のために尽くして見捨てられないようにする圭子(けいこ)の行動は痛々しくさえある。それでも、内なる変化を気づいたときに、圭子(けいこ)がかみ締める言葉の数々が妙に心に残る。

弱いのは恥じゃない。恐がって逃げることこそ、みっともない。
被害者面のままうずくまっているのは、気持ちがいいし、簡単だ。あたしは悪くない。運が悪かったのだ。取り巻きも悪かったのだ──そう思っているだけでいい。楽なやり方だ。でも、卑怯だ。
この言葉を聞かせてあげたい人が僕の交友関係のなかにも何人か思い浮かぶ、きっと世の中にはもっと多くの割合で存在する自分に自信が持てない人たち。そんなひとたちこそこの本を読めば何かがかわるかもしれない。もちろん僕自身にとってもいつまでも記憶に残しておきたい言葉である。

相変わらずの読みやすさとスピード感。そして、心に染み入るエピソードや台詞の数々。今や垣根涼介は大好きな作家の一人である。


参考サイト
犯罪人引渡し条約

【楽天ブックス】「クレイジーヘヴン 」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
サントリーミステリー大賞、読者賞受賞作品。

旅行代理店に勤務する長瀬(ながせ)は得意先の社長から、その孫の慎一郎(しんいちろう)のベトナム旅行への付き添いを依頼される。しかし、実際には慎一郎(しんいちろう)の本当の目的は5年前にベトナムで失踪した父を探すことだった。

物語の大部分はベトナムを舞台にしている。この作品とあわせて、真保裕一の「黄金の島」を読めばかなりベトナムの文化が理解できることだろう。常々言っていることであるが、自分の知らない世界や知らない考え方に触れられるのが度読書の至福の時である。そして、それは日本以外を扱った作品には特にそういう傾向が強い。

そして本作品では、慎太郎(しんたろう)がベトナムという普段触れているものとは違った文化に触れ、たくさんの刺激を受ける役割を担っている。印象的なのはベトナムで案内役として雇われた女性、メイが実は娼婦であると知ってショックを受けるシーンだろうか。慎太郎(しんたろう)はメイの行動に行為を持ちながらも、「娼婦」という存在に近寄りがたいものを感じるのである。

この国じゃ誰も好き好んで娼婦になる奴なんていやしない
結局は、感じること、気持ちとして残る部分がすべてに優先するんだと思った。どんな過去があろうがどんな仕事をしてようが、それでも相手のことを嫌いになれないのなら、最後にはそれがすべてなんだと思う。

豊かな国ではないから生き方も限られてくる。それでも日本という豊かな環境の中で育まれた考え方や常識に慎太郎(しんたろう)はとらわれる。これは慎太郎(しんたろう)が思春期の少年という未熟さゆえの考えではない。世の中の大部分の人間に当てはまることである。触りもせず話しもせず、人や物を「邪悪」と判断して自分の世界との接触を許さない人のなんと多いことか。

物語の目線は長瀬(ながせ)から動くことはないが、この物語は慎一郎(しんいちろう)の大人への変化の過程を見せようとしている。そこに込められた大人になるための大切な経験、大切な考え方。著者がもっとも訴えたいのはそれなのだと感じた。間接的な訴え方ではあるが多くの読者にきっと伝わるだろう。

ドイモイ
1986年のベトナム共産党・第6回大会で提起されたスローガン。日本語で「刷新」を意味する。市場経済導入や対外開放政策などを行った。(はてなダイアリー「ドイモイ」

パクチー
セリ科。インド、ベトナム、タイなど東南アジア料理によく使われる。消化を助け食中毒や二日酔いの予防に効果があるといわれてる。(はてなダイアリー「パクチー」

コロニアル様式
17〜18世紀に、ヨーロッパ諸国の植民地で発達した建築やインテリアの様式のこと。


参考サイト
ベトナムビジネス開拓サポート

【楽天ブックス】「午前三時のルースター」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第18回山本周五郎賞受賞作品

リストラ請負会社に勤める村上真介(むらかみしんすけ)はクライアント企業の要望に従って候補者の中からリストラの対象者を決めて、退職を促すことを仕事としている。

終身雇用という制度が崩れたとはいえ、世の中にはまだまだ一生今の会社に勤めていえると信じている人は多いのだろう。そして、そんな人たちに退職を勧める立場だからこそ見える、多くの人間の生き方がこの作品の面白さである。

個人的に驚いたのは、物語中で退職を促された多くの人間が面接官である真介(しんすけ)に尋ねる言葉。「私が何か会社に不利益なことをしたのでしょうか」。日本の一般的なサラリーマンはマイナス評価がなければ会社にいつまでもいられると思っているのかもしれない。もらっている給料を補ってあまりあるだけのプラスがなければ会社にとってなんの得も無い、つまりクビにされてもまったく不思議ではないというのが、僕にとって普通の考え方だっただけに、少し面白い。

きっと安定した企業に勤めている人の方が、この本を読んで僕以上に多くのことを感じるのかもしれない。

リストラ最有力候補になる社員にかぎって、仕事と作業との区分けが明確に出来ていない。たとえば営業マンなら、自分が担当した商品の売値と仕入れ値の差額粗利から、自らの給料、厚生年金への掛け金、一人割りのフロア維持費、接待費、営業者代、交通費などを差っ引いた純益として考えたことなどないのだろう。

そして、物語の目線は退職を促す側だけでなく、退職を勧められる側にも移る。そこには多くの人生が描かれている。どんな人間も最初は熱意を持って仕事に取り組んでいたのだろう。それでもそんな気持ちを維持できないような、気持ちや能力だけではどうしようもないことが、社会という複雑な人間関係の中ではあるのだ。

人材能力開発室という窓も電話もない地下二階の部署に送り込まれ、朝から晩まで『自分は能無しです。銀行には不要な人間です』と、ノートに書付けることを命じられている元支店長もいる。
それに比べれば、自分などはるかに恵まれていると思う。分かってはいる。だが、それでも腐ってゆく自分をどうすることも出来ない。

物語中に登場するリストラ候補者の言い分や考えに目を通せば、そんな世の中の悲しい現実がはっきりと目に見えることだろう。

そんな物語であるが、個人的には最後に真介}(しんすけ)のアシスタントを勤める女性が言う言葉が好きだ。

わたし、この仕事、なんとなく好きです。コーヒーかけられそうになったり、罵倒されたりもしますけど、いろんなことを感じたり見れたりしますから。

この言葉は、この女性アシスタントの仕事に対する感想であると共に、この作品の面白さを表した表現でもある。

最初のわずか数ページで読者を物語中にひきこみ、そしてページを軽くさせる垣根涼介の技術の高さはもはや疑いようもない。とりあえず、次回本屋に立ち寄ったときには本作品の続編である「借金取りの王子」を忘れずに購入したい。

【楽天ブックス】「君たちに明日はない」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「ヒートアイランド」の2年後を描いた物語。裏金強奪団のメンバーに加わることを決意したアキは、柿沢(かきざわ)、桃井(ももい)の指導の下で裏金強奪団として生きるための訓練をする。

前作「ヒートアイランド」ではストリートギャングの頭として、強くてクールなイメージで描かれてあまり弱さを見せなかったアキが、本作品では、柿沢、桃井というプロの大人たちの間で学ぶことによって、その弱さを時折見せる。特に中盤で、佐々木和子(ささきかずこ)という大人の女性との恋愛をすることによって、少しずつ世の中に対する見方が変わってくる様子が描かれる。

彼女だって生身の人間だから、それまでの人生の中で嫌な思いや屈辱的なこともいろいろと経験してきただろうと思う。アタマにくることや、情けない思いもたくさんしてきただろう。 でも彼女は、それを世の中の恨みに転嫁しない。躓(つまず)いても転んでも、目に見えている今という現実を、ごく自然に受け入れている。

そんなアキの恋愛や訓練の様子と平行して、高木耕一(たかぎこういち)という日系ブラジル人の生活も描かれる。彼は日本でもブラジルでも外国人として扱われ、そんな劣等感をばねに生きてきた。その成長過程ゆえにときおり見せる理不尽な言動と、根は優しい人間であるがゆえに恋人の売春婦DDへの気遣いが、その複雑な生い立ちを表している。この物語の見所は、そんな対照的なアキと高木耕一(たかぎこういち)の姿を交互に見せているところなのだろう。物語終盤、そんな2人を比較して、アキの恋人の和子(かずこ)が語った表現がもっとも印象的な言葉である。

人にあんまり嫉妬したこと、ないでしょ?あいつはいいなーとか、ちぇっ、こいつは羨ましいな、とか、そんな感じで?そこがたぶん違うと思うんだ。自分の状況と人を引き比べたりしないもの。そんな貧乏くさい感じ、ないもの

本作品は少し恋愛色が強い。アキの内面の悩みや葛藤が見えて、男としては非常に感情移入しやすい内容では在るが、一般的な社会には認められていない生き方を選んだ人間達を描いている以上、世の中の矛盾やそれに向けた怒りをもっと描いて欲しかったと感じた。とはいえ、「ヒートアイランド」ど同様に非常に読みやすい作品。きっとこれからも定期的に続編が刊行されるのではないか。アキの今後の成長を楽しみにしたい。

ペデストリアン
遊歩道の意味。

トレイシー・チャップマン
80年代というMTV全盛期に、正反対な音楽性(アコースティック・ギターと必要最小限の伴奏で歌うフォーク・ソング)でデビューしたシンガー。(はてなダイアリー「トレイシー・チャップマン」

【楽天ブックス】「サウダージ」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
汚れた金だけを狙う裏金強奪団3人組の1人はヤクザの非合法カジノから金を盗み出した帰路、渋谷ストリートギャングを束ねるグループ雅(みやび)の一員と遭遇する。大金を巡って、ヤクザと裏金強奪団と渋谷のストリートギャングが繰り広げる物語。

渋谷のストリートギャングを束ねるグループ雅(みやび)その中心メンバーであるアキとカオルは、どちらも十代でありながら世の中の失望した若者である。

ほとんどの人間が戦後何十年も続いてきた右肩上がりの社会を信じていた。バブル前夜にはとっくに破綻寸前だったそのシステムに、何の疑問も持たずに乗っかってきた。知らなかったから仕方がないだろうという人もいる。しかし気づいていなかったことこそが、罪なのだ。

真面目に働いている人間は永遠に幸せを手にすることが出来ない。彼等はそんな世の中の不平等をを悟って、生き方を模索している途中である。

その一方で、汚れたお金をターゲットとする裏金強奪団の三人組、柿沢(かきざわ)、桃井(ももい)、折田(おりた)もまた世の中に失望した人間である。彼等はすてに世の中の枠に捕らわれずに自分達の生き方を全うしている。時として法律を破ることも躊躇しないが自分の中の信念に背くことだけは許さない。そんな生き方である。

世の中の多くの人間は社会の不平等に気づきながらも敷かれたレールの上から大きく外れるほどの勇気がない。だからこそ多くの読者はこの作品の登場人物達に魅力を感じるのだろう。

本作品の面白いところは、アキとカオルを中心としたグループ雅(みやび)と、窃盗集団がヤクザを交えながら、大金を巡って対立するところである。「魅力的な登場人物は簡単には死なない」というどんな物語にも共通する暗黙の了解の元、魅力的なグループ達が行き着く結末への期待感がページをめくる手を加速させる。

ストリートギャングの雅(みやび)、裏金強奪団3人組のほかにも、物語の視点は多くの人に移っていく。中でも、豊かな生活に憧れながらも、ケンカの強さしか誇れるものがなく、それを活かすためにヤクザの一員になったリュウイチや、破格の金額で非合法カジノのオーナーにスカウトされた井草(いぐさ)の生き方などは、周囲に流されて抜け出せない底なし沼にはまる世の中の多くの人を象徴しているようだ。

全体的には非常に読みやすい作品。政治とか国際問題とか複雑なことを考えずに読み進めることが出来るだろう。それは言い換えるなら、読者の好みによっては物足りなさを覚える作品と言えるのかもしれない。

女衒(ぜげん)
女の売買を生業(なりわい)とするブローカーのことである。「衒」は売るの意味。

【楽天ブックス】「ヒートアイランド」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

第25回吉川英治文学新人賞受賞作品。第57回日本推理作家協会賞受賞作品。第6回大藪春彦受賞作品。

1960年代の日本政府が行った移民政策によって、南米の奥地の未開のジャングル、クロノイテに送り込まれた日本人の多くは病気で死亡したり絶望の中で生涯を終えた。わずかな生き残りである衛藤(えとう)とケイはある時、日本政府に対する復讐を思い立つ。

棄民問題という経済発展の裏で国が犯した大きな罪を扱っていて、同時にそれは、日本とその裏の南米という大きなスケールの物語となっている。本作でそのメインの移民先はとブラジルアマゾンの奥地であるクロノイテという未開の地である。そこに放り出された衛藤(えとう)という人物の眼を通して描かれた序盤で、その政策の悲惨な実態を知ることが出来る。

文明から離れて未開のジャングルだ。医者もいない。薬もない。かといってどこにも手紙は出せない。ちょっとした町に出るにも船に乗って何日もかかる。入植者の中には絶望のあまり発狂する奴もいたな。だが、こいつらなんてまだ幸せなほうだ。マラリアやアメーバ赤痢で苦しむことなく、あっけなく狂っちまったんだからな。

そして、ブラジル人と日本人である衛藤のふれあいが見られる。そんな中で、日本とブラジルの双方の国民の長所や短所、それぞれの立場からそれぞれの国を観た感想が何度も描かれる。

餓死寸前なのに物盗りになる度胸もない。かといって乞食にまで落ちぶれるにはちっぽけなプライドが許さない……中国人とも韓国人とも違う。馬鹿正直に生きるだけが撮り得の黄色人種だ。

日本人には日本人のよさがあり、ブラジル人にはブラジル人のよさがある。この二国に限らず、異文化で育ってきた人達が向かい合ったときにその性質から多少の不都合は生じるのかもしれないが、それぞれの良い部分を見つめる眼を持つべきなのだろう。

中盤から物語は日本に舞台を移し、衛藤やケイの復讐がいよいよ始まる。復讐というテーマでは在りながらも、物語の視点のメインは、日本人でありながらジャングルと陽気なブラジル社会で育ってケイに移るっており、ケイの性格がこの重いテーマを陽気な物語に変えている。

そして、日本に舞台を移したことで、ジャーナリストの貴子(たかこ)や警察の岩永(いわなが)の視点も加わってスピード感のある展開に変わる。僕等読者が、日々生活の中で触れている世界に物語がリンクしたことで、すでに30年以上前に収束した移民政策が、当事者にとっては決して過ぎ去った過去ではないことが伝わるだろう。

後半、移民政策に関わった役人達の心境も描かれる。彼等もまた組織の歯車であり、保身のためにそのような選択をするしかなかった。結局、未開の地に送り込まれて絶望して死んでいった人たちも、そのような政策を取らざるを得なかった人も、すべてのが、戦後の不安定な日本の政情の中で生まれた犠牲者であり、簡単に解決することの出来ない深い問題であることがわかる。

移民という日本の経済発展の犠牲を日本から地球の裏の南米までそのスケールの大きさ、そしてそのテーマを個々のキャラクターでカバーするそのバランスが見事である。ラブストーリーから刑事事件まで、あらゆる物語の要素が無理なく無駄なく詰まったこの一冊を読むだけで垣根涼介という作家の技術の高さがわかる。とりあえず僕にとっては、「垣根涼介作品をすべて読んでみよう」と思わせるのに充分な作品であった。


コロンビア革命軍(FARC)
1964年、伝説の指導者マヌエル・マルランダらにより結成された反政府左翼ゲリラ組織。

礎石
礎石とは、礎(いしづえ)となる石のことで、定礎石は建物の土台となる石をさだめること。中には、建物の設計図面や氏神のお札、さらにその時の新聞や雑誌、社史、流通貨幣などが入っている。

パーキンソン病
脳内のドーパミン不足とアセチルコリンの相対的増加とを病態とし、錐体外路系徴候を示す疾患。マイケル・J・フォックスなど。

参考サイト
ドミニカの日本移民

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