【本屋大賞】の最近のブログ記事

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
戦国時代に瀬戸内海で勢力を誇っていた村上海賊を、戦に憧れる娘景(きょう)を中心に描く。

海賊という言葉はよく聞くけれども、どこか外国や物語の中にのみ登場する存在であって、日本の歴史にはそぐわない気がしていたのは僕だけだろうか。だからこそタイトルの「村上海賊」が不思議で魅力的に聞こえるのだろう。主人公が女性なのだが、残念なのが冒頭でいきなりその景(きょう)が嫁ぎ先に困るような醜女(しこめ)だと書かれているということだ。男性読者はいつもヒロインを理想の女性像と重ね合わせて読むからこれは非常に残念なのだが、本書を通じて景(きょう)の大活躍を見る事によってそんな考え方もくつがえされていく。

さて、物語は本願寺の地を狙う織田信長に対して、その地を守ろうとする本願寺側が兵糧を毛利家に求め、毛利家はその兵糧を運ぶために村上海賊を頼る、という構図である。しかし、本願寺、毛利、村上海賊もいずれも、異なる思いを抱えた人物が存在するために、いろんな駆け引きが発生するのである。

しかし、最初は「家の存続」や「地位の向上」を意識しながら行われていた細かい駆け引きが、やがて戦が本格化するにしたがって、潔よく、誇り高い行動に変わって行く様子が非常に爽快である。

大なるものに靡き続ければ、確かに家は残るだろう。だが、それで家を保ったといえるのか。残るのは、からっぽの容れ物だけではないか。

村上海賊の景(きょう)はもちろん、弱虫であった弟の景親(かげちか)や雑賀党(さいかとう)の鈴木孫一(すずきまごいち)などかっこいい人物ばかりである。極めつけは景(きょう)の最大の敵となった七五三兵衛(しめのひょうえ)である。どのように決着するのかぜひ楽しんでいただきたい。

また、本書のなかではわずかな登場しかしない織田信長が、とてつもないオーラを放つ人間として描かれているのも印象的である。もちろん歴史上重要な人物なだけにそのように描くことは特に驚きでもないが、「今だったら誰にあたるのだろう?」と考えてしまう。

物語自体が面白いのはもちろん、歴史を読み解くと「○○が勝った」「○○が負けた」だけで終わってしまう出来事を、ここまで分厚い物語にし、そこに関わった人物をここまで人間味あふれる存在として見せることのできる著者の描写の技術に感動する。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造は社員は家族という信念を持って戦後の混乱期を乗り越えていく。

読み始めるまで知らなかったのだが、この物語は出光興産の創業者・出光佐三をモデルにして書かれている。石炭から石油へとエネルギーが移行していく時代にいち早く石油に目をつけて自ら会社を起こし、時代の流れにのって大きくなっていくのだ。

本書で描かれている出来事はフィクションの体裁をとってはいるが、いずれも実際に起こった出来事を描いている。そんな数ある出来事のなかでも、なんといってもイギリスの脅威のなかイランに向かった大型タンカー日章丸のエピソードは、単に「面白い」という言葉では説明しきれない。信念と誇りをもって物事に立ち向かうことの素晴らしさと尊さを改めて感じるだろう。

辛かった日々は、すべて、この日の喜びのためにあったのだ。

「信念」とか「誇り」という言葉は、戦争などの争乱の時代にしか語られないような印象があるが、そんなことはない、日々の仕事に大してもそんな心を忘れずに常に全力で立ち向かった人がいるのである。

僕らはなぜこんな偉大な出来事をもっと語りついでいかないのだろうか。本書を読めばきっとみんなそう感じるだろう。著者百田尚樹がこの物語を書かなければいけないと思った理由は読者には間違いなく伝わるだろう。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第9回本屋大賞受賞作品。

出版社につとめる馬締光也(まじめみつなり)はその名の通り真面目で、変人として通っていたが、ある日辞書編集部へと配属される。馬締(まじめ)はそこで辞書の編集に取り組む事となる。

最近でこそ調べ物はインターネットで片付いてしまうが、小学生の頃には母がプレゼントしてくれた辞書をよく使っていたのを覚えている。本書が描くのは、そんな辞書を作る側の物語である。

辞書編纂メンバーの言葉に対する取り組みに触れると、言葉についていろいろ考えさせられる。そもそも言葉は辞書によって定義されるものではなく、僕らの生活やその言葉を繰り返し使う中で人々の心のなかに共通の意識として染み付いていくものなのだ。例えば本書で分かりやすくも印象深いのが、「愛」という言葉の説明に対して議論をする場面である。

「異性を慕う気持ち。性欲を伴うこともある。恋」となっています。 なんで異性に限定するんですか。じゃあ、同性愛のひとたちが、ときに性欲を伴いつつ相手を慕い、大切だと思う気持ちは、愛ではないと言うんですか。

言葉とは時間によっても変化していくものなのだろう。編纂メンバーはそうやって一つ一つの言葉を、哲学を持って定義していく。

そして、彼らは言葉だけでなく、辞書の素材についても気を配るのである。本書の中では、紙の選び方についても触れている。辞書はページ数が多いから一枚一枚の紙は薄くなくてはならないが、薄いことによって裏の文字が見えてしまったも行けない、もちろん手触りも非常に大切なのである。

こうやって見てみると、辞書を作るというのはなんとやりがいのある仕事なのだろうか。本書を読むと、今まで考えてこなかった、一つ一つの言葉の意味、重さを改めて考えさせられる。辞書というものの見方を変えてくれる一冊。

有限の時間しか持たない人間が、広く深い言葉の海に力を合わせて漕ぎだしていく。こわいけれど、楽しい。やめたくないと思う。真理に迫るために、いつまでだってこの舟に乗りつづけていたい。

【楽天ブックス】「舟を編む」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2007年本屋大賞受賞作品。

神谷新二(かみやしんじ)は高校に入ってからそれまで打ち込んできたサッカーを辞めて陸上部に入部することを決めた。一緒に入部したのは天性の才能を持つスプリンター連(れん)。陸上にかける高校生たちの青春物語。

最近陸上を扱った物語というと、マラソンか駅伝であることが多いが、本作品は、短距離100メートル走と、400メートルリレーを扱っている点が新しい。著者は実際にある陸上部を長い間かけて取材し、その結果本作品を書いたという事なので、物語中で語られる理論や練習法はいずれも非常に興味をひかれる内容である。そもそも、陸上経験者でない人にとっては、100メートル走を走る選手がどんな理論でトレーニングを積み重ね、どのように意識しては知っているのかについて触れる機会がない。読んでいるだけで少し自分も速く走れるのではないか、という気がしてしまうから面白い。

もちろん、そんな陸上理論は物語の一部分でしかなく、高校生らしいいろいろなドラマを繰り広げてくれる。部活内の恋愛や、顧問の先生の過去などはもちろんであるが、1年ごとに後輩から先輩へと立場が変わり、やがて引退を迎えるという部活動ならではのエピソードも懐かしい。結果を残せずに引退をすることになった先輩を見送る場面は印象的である。

ここで何回、トラックの白線を引き、何回その線に沿って走ったのだろう。どんな試合の喜びの涙も、みな、ここから生まれてきたものだ。かけがえのない場所だ。俺たちに皆にとって。

そんななかで、神谷(かみや)もまた一時期心を折りそうになるが、それでも再び陸上へと戻ってくるのだ。

短距離でも長距離でも、タイムにも順位にもかかわらず、限界にチャレンジして走ることが、単純に尊い。その苦しさと喜びを共有できるのだ。走るのは一人ひとりでも、バトンや襷がなくても、俺たちは分かち合うことができる。

そして物語は終盤にかけてライバル校との直接対決へと向かっていく。全身全霊をかけて物事に取り組むことの尊さを改めて感じさせてくれる。力を与えてくれる青春小説。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第31回吉川英治文学新人賞受賞作品。第7回本屋大賞受賞作品。

江戸時代、碁打ちである渋川春海(しぶかははるみ)はその一方で数学や星にも興味を持って精進する。そんな多方面に精進するその姿勢ゆえにやがて、国を揺るがす大きな事業に関わることになる。

物語は指導碁をしていた折に、老中酒井に「北極星を見て参れ」と命を受けて、春海(はるみ)の人生は動き出す。その北極出地の最中に聞いたこんな言葉が、その後春海(はるみ)の人生に大きく関わることになる。

お主、本日が実は明後日である。と聞いて、どう思う?

実はこのくだりを読む瞬間に初めて、いままで暦の歴史というものを考えたことがなかったことに気づいた。現在使われている暦が、グレゴリウ暦と呼ばれることや、閏年の適用方法などは知っているが、ではそれが過去どのような経緯を経て世界共通の正しい暦として浸透したかは考えたことがなかったのである。それでも、今持っている知識。たとえば、一日の長さや、地球の楕円形の公転軌道から、それが非常に複雑な計算と、何年物太陽の観察なしには成し遂げられないものだということはわかる。

ある意味「掴み」としては十分である。僕のような理系人間はそのまま一気に物語に持っていかれてしまうことだろう。

物語は渋川春海(しぶかわはるみ)がその生涯に成し遂げた多くのことを非常に読みやすく面白く描いているが、そこで強調されるのは、春海(はるみ)の探究心や好奇心といった物事に対する姿勢だけでなく、春海(はるみ)の物事の達成をするのに欠かせなかった、多くの人々との出会いである。

水戸光国、関孝和、本因坊道策、保科正之、酒井忠清。いずれもどこかで聞いたことあるような名前ではあるが、正直、本作品を読むまでほとんど知らない存在だった。彼らの助けがあってこと、借りて春海(はるみ)が偉大なことを成し遂げたということで、それぞれの当時の立場や実績などにも非常に興味をかきたてられた。

「明察」という言葉は僕らにとって馴染みのある言葉ではない。本作品中でその言葉が使われるのは、数学者同士が問題を出し合い、自分の出した問題に対して、正答という意味で「明察」という言葉が使われている。

そして、本書のタイトルの「天地明察」とは。それは、天と地の動きを明確に察するという意味。現代においてでさえそれはもはや神の領域のような響きさえ感じるその偉業。当時それはどれほど困難なことだったのだろうか。また、世の中を変えるような偉業に一生かけて挑み続ける生涯のなんと充実していることだろう。情熱と充実感、人生の意味などについて考えさせる爽快な読み心地の一冊。


授時暦
中国暦の一つで、元の郭守敬・王恂・許衡らによって編纂された太陰太陽暦の暦法。名称は『書経』尭典の「暦象日月星辰、授時人事」に由来する。(Wikipedia「授時暦」


大統暦
中国暦の一つで、元の郭守敬・王恂・許衡らによって編纂された太陰太陽暦の暦法。(Wikipedia「大統歴」

渋川春海
江戸時代前期の天文暦学者、囲碁棋士、神道家。(Wikipedia「渋川春海」

【楽天ブックス】「天地明察」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2011年本屋大勝受賞作品。
国立署の女性刑事宝生麗子(ほうしょうれいこ)は宝生グループのお嬢様。それを知るものは警察署内の一握りのみ。そんな彼女が関わることとなったいくつかの事件を描く。

本作品で面白いのは言うまでもなくその警部でありお嬢様という主人公の特異な設定だろう。さらに、麗子(れいこ)の上司である風祭(かざまつり)警部も同じくお金持ちの出身というありえない設定。そして、鍵となるのは宝生家の執事影山(かげやま)の存在、謎めいたこの執事はたぐいまれなる推理能力を発揮する。それゆえに育ちだけがよくて頭の足りない麗子(れいこ)、風祭(かざまつり)警部の2人が解決できない事件を、話を聞いただけでことごとく解決してしまうのである。読んでて癖になるのはそのお嬢様としてのプライドの高い麗子(れいこ)と、執事のわりにときどき見せる麗子に対する蔑んだ影山(かげやま)の態度。

「どう、影山?なにか思いつくことある?どんな些細なことでもいいのよ」
「では、率直に思うところを述べさせていただきます。失礼ながらお嬢様ーーこの程度の真相がお判りにならないとは、お嬢様はアホでいらっしゃいますか。」
「・・・・・・・・、クビよ、クビ!このあたしが執事に馬鹿にされるなんてあり得ない!」

本書では6つの事件が扱われているが、今回はどんなやりとりになるのか、と楽しみになってしまうだろう。現実感などまったくないが、独特のテンポで楽しく読ませてくれる。

【楽天ブックス】「謎解きはディナーのあとで」

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第6回本屋大賞受賞作品。
娘を生徒に殺された女性教師は、最後の日のホームルームである告白をする。自分の行ったことに苦悩する生徒。子供の行動に悩む親や兄弟。一つの事件を機に見えてくる人の心を描く。

映画がヒットしているそのまっただなかで読むことになってしまった。基本的に告白や日記という形で物語は進むため、ややスピード感に欠け、単調な印象を受けてしまう。

娘を殺された教師の告白から始まり、その殺人に関わった生徒二人の目線、その親の日記と続く。物語に必要とはいえ、中学生が日記に書くにはあまりにも長く、描写が上手すぎるという点は、残念ながら目を潰れる程度以上のものだった。
最後まで非難と復讐の物語。世の中必ずしも救いがあるわけではないので、必ずしも希望の見出せる作品である必要はないのだが、もう少し上手い描き方はなかったのだろうか、と感じてしまう。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第55回読売文学小説賞受賞作品。第1回本屋大賞受賞作品。

家政婦を務める主人公は、家政婦紹介組合からの紹介でとある男性の世話をすることになった。その男性はその男性は数学の博士で、交通事故により80分間しか記憶を保持することができない。博士と主人公の私、そしてその息子のルート、3人の不思議な物語である。

素数、友愛数、完全数など昔習ったような記憶を持ちながらも忘れてしまった数学の言葉が多々出てくる。この物語は理系の人間が読むか、文型の人間が読むかで大きく印象が異なるかもしれない。また、80分しか記憶が持たない人間がどのような気持ちになるのか物語を読み進めるうちに考えることだろう。たった80分間のために何かを学ぼうと思うだろうか、向上心がわくだろうか。人と会話をしようと思うだろうか、と。普段考えないことを考えさせてくれる作品ではあったが、この物語が世間で受けている評価ほどすばらしい作品とは思えなかった。

【Amazon.co.jp】「博士の愛した数式」

オススメ度 ★★★★★ 5/5
第26回吉川英治文学新人賞受賞作品。第2回本屋大賞受賞作品。

高校生活最後を飾る「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統の行事である。互いに意識し合う西脇融(にしわきとおる)と甲田貴子(こうだたかこ)の2人も各々いろいろな想いを抱えながら高校最後の「歩行祭」がスタートする。

物語の視点は融(とおる)と貴子(たかこ)に交互に切り替わる。それぞれの目に映るもの、記憶、友人達との会話、気持ちの描写だけで物語は展開されていく。

スタートしたばかりの前半は余裕から会話も弾む。転校していった友達の話。学校内で広がっている噂話。友人の恋愛の話。そして、そんな中で3年生である融(とおる)や貴子(たかこ)は歩行祭が人生で得難い機会であることを実感している。

みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね。 どうして、それだけのことが、こんなに特別なんだろうね。

物語中盤からは、距離を歩いたことで疲労が増しそれぞれが無駄な会話を辞め、夜が訪れると共に気持ちが昂ぶり、本当に語りたいことを語り始める。そして人の言葉に対しても自分を偽らない素直な反応しかできなくなる。

学生時代の部活の合宿や、旅行の夜の妙な高揚感を思い出す。人の気持ちを素直にさせるのは非現実的な環境なのかもしれない。

そして、そんな状況で、普段言えないことを素直に口に出した、融(とおる)や貴子(たかこ)の友人達の言葉が心に残る。融(とおる)の友人の忍(しのぶ)、貴子(たかこ)の友人の美和子(みわこ)は物語の中で特に重要な役割を果たしているように感じる。

雑音をシャットアウトして、さっさと階段を上りきりたい気持ちは痛いほど分かるけどさ、雑音だって、おまえを作っているんだよ。おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。いつか絶対、あの時聞いておけばよかったって後悔する日が来ると思う。

高校生の恋愛感についても鋭い視点が見える。僕が中学生の頃に感じていた恋愛感、周囲の女性達に感じていた違和感。例えばそれは恋に恋する気持ちだったり、思い出として恋愛したい気持ちだったりする。それらの感情を融(とおる)や忍(しのぶ)が代弁してくれているようだ。

何か変だよ。愛がない。打算だよ、打算。青春したいだけだよ。あたし彼氏いますって言いたいだけ

物語は歩行祭の80キロの道のりのみを描き、言い換えるなら登場人物はひたすら歩くだけである。それでも思い出や気持ち、友人達との会話を巧妙に織り交ぜて読者を飽きさせることがない。大人になってからはめったに味わうことのできない懐かしく甘い気持ちにさせてくれる作品だった。「六番目の小夜子」「ネバーランド」に代表されるように、恩田陸のこの世代を主人公とした作品にはいい作品が多いが、そんな中でも最もオススメの作品になった。

【Amazon.co.jp】「夜のピクニック」

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