【大藪春彦賞】の最近のブログ記事

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第16回大藪春彦賞受賞作。

昭和44年。炭坑の町のチンピラ達3人組、飛車松(ひしゃまつ)、ゼゲン、マッコリとその地域で抗争を繰り返すヤクザ達を描く。

舞台は僕が生まれるより10年ほど前。僕らの世代ではすでに炭坑とともに生活するという状況が想像できないが、本書が描くのはまさにそんな時代。いろいろ社会が整備されてないと感じられる部分もあるが、今より活気が感じられる気がする。実際、誰もが未来に希望を抱いていたのだろう。

物語は飛車松(ひしゃまつ)達3人組が、とある暴力団の賭場のお金を奪った事から始まる。面子を守るために犯人を突き止めようとする暴力団達によって、3人は次第に追いつめられていく。またその一方で、地域の暴力団同士も少しずつ緊張が高まっていくのである。

飛車松(ひしゃまつ)の真っすぐな生き方は、この昭和という時代設定だからこそ受け入れやすいものなのだろう。

【楽天ブックス】「ヤマの疾風」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大藪春彦賞受賞作品。

環境省の七倉航(ななくらわたる)は娘とともに八ヶ岳に赴任してきた。そこでは様々な人々が自然と関わって生きていた。

都会の文化のなかで育った七倉(ななくら)が次第に自然と向き合い、いくつもの苦難を経て、次第に引き込まれていく様子が描かれている。そんななかで今の日本が抱える自然保護の問題が見えてくる。後継者のいない猟師。密猟や乱獲による野生動物の減少。飢えて人里に降りてくる野生動物と人間のトラブルなど、いずれも都会に住んでいては意識しないことばかりではあるが、人々がもっと目を向けるべきことなのだろう。

人はむかし、山の動物と棲み分けをしていた。多少の干渉はあったにしろ、基本的には互いの生活圏を侵害しないという不文率を守り、それぞれが暮らしていた。そんなルールを一方的な都合で破棄し、山や動物をさながら所有物のように好き勝手に蹂躙し始めたのは人間なのである。自然がそんな人間を赦すはずがない。

本書ではそんな長年の人間の行いに対する自然の怒りの象徴のように、い「稲妻」と呼ばれるツキノワグマと「三本足」と呼ばれるイノシシが登場する。彼らの生き様、人間に対する振る舞いには感銘を受ける部分がある。自然に対する人間のありかたに目を向けさせてくれる作品。

【楽天ブックス】「約束の地(上)」「約束の地(下)」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第3回大藪春彦賞受賞作品。

北朝鮮の工作員チョンが日本に潜入した。葉山(はやま)はチョンの残したものを分析してその足取りを追ううちにしだいにチョンの人間性が明らかになっていく。

北朝鮮、日本、アメリカと国をまたいで繰り広げられる諜報活動。そんな中で生きる人々を描く。僕らは諜報活動やスパイと言った言葉を聞くと、そこに関わる人々は、どこか冷血で非人間的な印象をもっているが、むしろ本書で中心となるのはその生まれ育った境遇故に、国家間の陰謀に巻き込まれていったむしろ不幸な人々である。

物語はチョンと、チョンを追う人々と、人間としてのチョンと関わる事に成った、その家族の視点で描かれる。北朝鮮に住む、チョンの家族の目線では、その言論統制の厳しさが見え、また日本に潜入したチョンの目線からは日本の物質的な豊かさが感じられるだろう。

諜報活動を扱った物語は、往々にしてわかりやすい展開にはならず、どこか難しい印象が常にあり、そういう点では本書も例外ではない。ただ、国の違いに置ける文化や豊かさの違いなどが感じられる点が新しい。

【楽天ブックス】「スリー・アゲーツ 三つの瑪瑙」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大藪春彦賞受賞作品。

退屈な人生に嫌気がさし、ちょっと魔が差した末に殺されかけて、最終的に、殺し屋が集まる会員制のダイナーでウェイトレスをすることなったオオバカナコ。下手な事をしたらその場で殺されかねない日々を送り始める。

設定が設定なだけにそのレストランで起きること、そこを訪れる人、いずれも小説だからこそできるような残酷さ、醜悪さを持っている。したがって、物語自体は非常に現実離れしたものになっている。

しかし、ダイナーを訪れる殺し屋たちも、もちろんなんの理由もなく殺し屋になったわけではなく、物語中で語られるその「殺し屋になったきっかけ」は、まだ「正常な生活」の範囲にいる僕らが見ないようにしている現実世界の暗い部分を見せつけてくれるようだ。今の状況を放っておいたらこんなことにもなるかもよ、こんな人が生まれるかもよ、と。

そんななかで、オオバカナコはコックであるボンベロとその飼い犬でこれまた殺し屋の菊千代とダイナーを切り盛りしていくのだが、少しずつ過去のつらい経験が明らかになっていく。

なにか訴えるものが感じられるかもしれない。

【楽天ブックス】「ダイナー」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第12回大藪春彦賞受賞作品。

添木田連(そえきだれん)と妹の楓(かえで)は事故で母を亡くし、継父と暮らしている。また、溝田辰也(みぞたたつや)とその弟の圭介(けいすけ)は母に続いて父を亡くし、父の再婚相手とともに暮らしている。家庭に不和を抱えた2組の兄弟が少しずつ近づいていく。

2組の兄弟がそれぞれ、添木田連(そえきだれん)目線と、溝田圭介(みぞたけいすけ)目線で展開する。添木田連(そえきだれん)と楓(かえで)は、働きに出ない継父の行為に嫌悪感を抱いている一方で、溝田辰也(みぞたたつや)と圭介(けいすけ)は、必死に本当の母親になろうとしてくれる、父親の再婚相手の里江(さとえ)に心を開けないでいる。2組の兄弟は似たような境遇に置かれながらあるいみ対照的なところが面白い。前半はそんな家庭の不和のなかで思い悩み、葛藤するそれぞれの心のうちが非常にいい空気を醸し出している気がする。

後半は一点物語が大きく動き出すのだが、個人的にはむしろ物語前半の雰囲気が気に入っていて、むしろ後半の大きな展開は物語全体の質を落としてしまったようにも感じる。

今回で著者道尾秀介の作品に触れるのは3回目だが、その内容の変化に驚かされる。まだ独自のスタイルが確立されていないような印象はあるが、この先が楽しみでもある

【楽天ブックス】「龍神の雨」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第10回大藪春彦賞受賞作品。

ロードレースチームに所属する白石誓(しらいしちかう)は、チームのエースを優勝に導くためのアシストとなることに魅力を感じる。しかしチームのエースには嫌なうわさが囁かれていた。

過去自転車を職業としている人の物語というのは読んだことがあってもロードレースをメインに扱ったものは記憶にない。それぐらい自転車競技というのは日本ではマイナーな存在なのだ。それを裏付けるように、最初の数ページで僕らがどれだけロードレースというものに対する知識がないか知るだろう。そして同時にロードレースが単にマラソンの自転車版という程度の単純なものではなく、他のスポーツにはない魅力をもったものであることも。

さて、物語中では誓(ちかう)が次第にレースで力を発揮できるようになるのだが、そこでチームのエースである石尾(いしお)にまつわる噂が頭から離れなくなる。強い若手に対する嫉妬から過去、若手の一人の大怪我をさせているという噂。

タイトルとなっている「サクリファイス」つまり「犠牲」。これがどんな意味を含んでいるのか。そんなことを考えて読むのも面白いだろう。

最終的にはやや誓(ちかう)の刑事なみの洞察力に違和感を感じながらも、心地よい汗のにおいを感じさせるような青春小説として読むことができた。

【楽天ブックス】「サクリファイス」

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第8回大藪春彦賞受賞作品。

人を人知れず殺すことを仕事とする正将司は沖縄で、「天才」と称される一人の男を自殺させる依頼を受ける。

本作品で最初に読者の想像を超えるのは、自殺させる対象である天願(てんがん)に対して、将司(しょうじ)が、自らの素性と、目的を早々に明らかにする点だろう。また、「人を自殺させるためにはその人を誰よりも深く理解しなければならない」という将司(しょうじ)のスタンスゆえに、天才であるが故に孤独な天願(てんがん)の過去も見えてくる。

僕自身はそれほど大きな衝撃を受けたわけではないが、新鮮さを感じさせる場面は多々あった。きっとこういう物語が好きな人もいるのだろう。


アミノー
人々の行動を規制していた社会的規範が失われて、混乱が支配的となっている社会の状態。デュルケームが概念化した用語。(はてなキーワード「アミノー」

エミール・デュルケーム
フランスの社会学者。オーギュスト・コント後に登場した代表的な総合社会学の提唱者であり、その学問的立場は、方法論的集団主義と呼ばれる。(Wikipedia「エミール・デュルケーム」

【楽天ブックス】「遠くて浅い海」

オススメ度 ★★★★★ 5/5
第9回大藪春彦賞受賞作品。

死を目前にした元警察職員の依頼によって、ジャーナリストの道平(みちひら)は、26年前に群馬県沼田市の村で起きた連続殺人事件に再び向き合うこととなる。天狗の仕業とされたその事件の真犯人は誰だったのか、そして、何かを知っていたはずの目の見えない美しい女性はどこへいったのか。

舞台となる沼田市は、天狗の伝説が伝わる村。だからこそ常に天狗の影が背後にちらつく。

本作品中では26年の時を隔てた物語が交互に展開していく。事件当時、まだ新聞記者の駆け出しだった道平(みちひら)が取材の中で遭遇した出来事の回想シーンと、現代の再び事件の真相を突き止めようとするシーンである。回想シーンでは、現場に残された凄惨な死体と大きな手形。人間がたどり着くことのできない場所に放置された死体によって、何か未知の生物の存在を感じさせると共に、ベトナム戦争末期という時代背景も手伝って、大きな陰謀の気配さえも漂う。ゴリラやオランウータンのような獣の仕業なのか、アメリカがベトナム戦争のために遺伝子操作で作り出した兵器なのか。枯葉剤によって生まれた奇形児なのか。それとも本当にそれは天狗の仕業なのか…。

現代の真実に少しずつ近づいていく様子ももちろん面白いが、回想シーンの中の展開についても先が気になって仕方がない。そして、そんな凄惨な物語に彩りを添えているのは、その村に住んでいた目の見えない美しい女性、彩恵子(さえこ)の存在である。

マタギなどの日本の伝統的な習慣から、ベトナム戦争、遺伝子操作やDNAなどの最先端の生物学から人類学まで、物語の及ぶ範囲は実に広く、それでいてじれったさを感じさせない。そして極めつけのラストでは多くのものを改めて考えさせてくれる。人間の尊厳とは何なのか、社会の倫理とは、人権とは…。

もしこの世に神が存在するとするならば、なぜあれほどまでに過酷な運命を背負う者を作りたもうたのか。

そして僕らに問いかける。僕ら人間は世の中のすべてを知っているのか、多くの研究者達が説明した真実が、本当の真実なのか…。

イリオモテヤマネコは先進国日本のあれほど小さな島で、あの化石動物は1965年まで誰にも発見されることなく隠れ住んでいたんだ。

年末迫るこの時期。もう今年は鳥肌が立つような本には出会えないと思っていたが、このタイミングでいい読書をさせてもらった。



シャム双生児
体が結合している双生児のこと。(Wikipedia「結合双生児」
モルグ
死体置き場という意味。

参考サイト
Wikipedia「イリオモテヤマネコ」

【楽天ブックス】「TENGU」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

第25回吉川英治文学新人賞受賞作品。第57回日本推理作家協会賞受賞作品。第6回大藪春彦受賞作品。

1960年代の日本政府が行った移民政策によって、南米の奥地の未開のジャングル、クロノイテに送り込まれた日本人の多くは病気で死亡したり絶望の中で生涯を終えた。わずかな生き残りである衛藤(えとう)とケイはある時、日本政府に対する復讐を思い立つ。

棄民問題という経済発展の裏で国が犯した大きな罪を扱っていて、同時にそれは、日本とその裏の南米という大きなスケールの物語となっている。本作でそのメインの移民先はとブラジルアマゾンの奥地であるクロノイテという未開の地である。そこに放り出された衛藤(えとう)という人物の眼を通して描かれた序盤で、その政策の悲惨な実態を知ることが出来る。

文明から離れて未開のジャングルだ。医者もいない。薬もない。かといってどこにも手紙は出せない。ちょっとした町に出るにも船に乗って何日もかかる。入植者の中には絶望のあまり発狂する奴もいたな。だが、こいつらなんてまだ幸せなほうだ。マラリアやアメーバ赤痢で苦しむことなく、あっけなく狂っちまったんだからな。

そして、ブラジル人と日本人である衛藤のふれあいが見られる。そんな中で、日本とブラジルの双方の国民の長所や短所、それぞれの立場からそれぞれの国を観た感想が何度も描かれる。

餓死寸前なのに物盗りになる度胸もない。かといって乞食にまで落ちぶれるにはちっぽけなプライドが許さない……中国人とも韓国人とも違う。馬鹿正直に生きるだけが撮り得の黄色人種だ。

日本人には日本人のよさがあり、ブラジル人にはブラジル人のよさがある。この二国に限らず、異文化で育ってきた人達が向かい合ったときにその性質から多少の不都合は生じるのかもしれないが、それぞれの良い部分を見つめる眼を持つべきなのだろう。

中盤から物語は日本に舞台を移し、衛藤やケイの復讐がいよいよ始まる。復讐というテーマでは在りながらも、物語の視点のメインは、日本人でありながらジャングルと陽気なブラジル社会で育ってケイに移るっており、ケイの性格がこの重いテーマを陽気な物語に変えている。

そして、日本に舞台を移したことで、ジャーナリストの貴子(たかこ)や警察の岩永(いわなが)の視点も加わってスピード感のある展開に変わる。僕等読者が、日々生活の中で触れている世界に物語がリンクしたことで、すでに30年以上前に収束した移民政策が、当事者にとっては決して過ぎ去った過去ではないことが伝わるだろう。

後半、移民政策に関わった役人達の心境も描かれる。彼等もまた組織の歯車であり、保身のためにそのような選択をするしかなかった。結局、未開の地に送り込まれて絶望して死んでいった人たちも、そのような政策を取らざるを得なかった人も、すべてのが、戦後の不安定な日本の政情の中で生まれた犠牲者であり、簡単に解決することの出来ない深い問題であることがわかる。

移民という日本の経済発展の犠牲を日本から地球の裏の南米までそのスケールの大きさ、そしてそのテーマを個々のキャラクターでカバーするそのバランスが見事である。ラブストーリーから刑事事件まで、あらゆる物語の要素が無理なく無駄なく詰まったこの一冊を読むだけで垣根涼介という作家の技術の高さがわかる。とりあえず僕にとっては、「垣根涼介作品をすべて読んでみよう」と思わせるのに充分な作品であった。


コロンビア革命軍(FARC)
1964年、伝説の指導者マヌエル・マルランダらにより結成された反政府左翼ゲリラ組織。

礎石
礎石とは、礎(いしづえ)となる石のことで、定礎石は建物の土台となる石をさだめること。中には、建物の設計図面や氏神のお札、さらにその時の新聞や雑誌、社史、流通貨幣などが入っている。

パーキンソン病
脳内のドーパミン不足とアセチルコリンの相対的増加とを病態とし、錐体外路系徴候を示す疾患。マイケル・J・フォックスなど。

参考サイト
ドミニカの日本移民

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第7回大藪春彦賞受賞作品。

6年前に起こった幼児誘拐殺人事件の失態の責任を取って地方に退いた巻島史彦(まきしまふみひこ)は、神奈川県内で起きた連続児童殺害事件の捜査の指揮ために呼び戻された。巻島(まきしま)は状況を打開すべくテレビを利用した公開捜査に踏み切る。

物語前半は、連続殺人事件を題材としながら、テレビというメディアと、それに反応する大衆という方向への展開が、宮部みゆきの「模倣犯」を思い起こさせたが、中盤に差し掛かかる頃にはそんな気配も薄れ、この物語の独自性が際立っていく。

物語の視点は、現場捜査指揮官であり主人公の巻島(まきしま)とその上司にあたる課長の植草(うえくさ)の間を行き来する。2人という少ない視点であるがゆえに、その両者についての心情描写は深く掘り下げられ、同じ刑事と言う職業ながら、仕事に対するその対照的な姿勢が2人の個性をそれぞれ際立たせていく。巻島(まきしま)の事件に対する姿勢には執念や覚悟が、植草(うえくさ)の姿勢からは「本気」を嫌う現代の若者らしさがにじみ出てくる。そこにさらに、娘や昔の恋人とのやり取りを挟むことで、それぞれ人間らしさもしっかりと表現され、読者はさらに物語にひきこまれていくこどたろう。

描かれる刑事たちの地道な捜査と、それが進展しないことによって生じる刑事間の軋轢は、刑事と言う職業がドラマなどで描かれるほど、華やかでも格好良いものでもないということを伝えてくれる、この徒労感ともいえるような現場の空気は、小説と言う媒体だからこそここまでしっかりと伝わってくるものなのだろう。

そして、メディアを利用した「劇場型捜査」というこの物語の特長ゆえに、そこにテレビ局の視聴率獲得競争という側面も取り入れた点も、この物語の個性的な味付けの一つと言えるのではないだろうか。

その一方で、この物語の中ではテレビと言う多くの人が目にするメディアに姿を晒すことで、否応もなく多対一という状況になることの恐ろしさも描かれている。そして、犯罪者に対しても犯罪者に味方するものに対しても一切の言い分も許さず「悪」というレッテルを貼り、それを全否定する世の中の風潮や、「正義」という名の下には何をしても許されるという、世間が時々見せる危険な思想も取り入れられている。

犯罪被害者に非があるとは思わないが、世の中の事件において、犯罪を起こした者の事情が往々にして聞くに値しない言い訳のように扱われ、その切実な心情が一切汲み取られることなく、ただただ人道にもとる行為のみが一方的に非難されるのは一種の民衆ファッショであり、決していい風潮とは思っていない。

さらに、やり場のない被害者家族の心の怒りや悲しみや罪悪感を、どこかに導いてくれるような印象も受けた。

あの事件の犯人が誰であろうと、その人間はその後、本当に悲惨で悲惨で仕方がない人生を送っているんだろうと思います……間違いなく、そうなんだと思います

読み終えた雫井脩介作品は「火の粉」「虚貌」に継いで本作品で三冊目であるが、次第に心情描写の表現が多く、そしてリアルさを増してきたように感じる、それはつまり自分好みの作品になってきたと言うことだ。もう少し心を強くえぐる何かが文章中から感じられれば、ずっと読み続ける作家の一人になるだろう。

【楽天ブックス】「犯人に告ぐ(上)」「犯人に告ぐ(下)」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第4回大藪春彦賞受賞作品。今回で二回目の読了である。

過去に最愛の妻を事故で亡くした九野薫(くのかおる)は現在警部補として所轄勤務をしている。同僚の花村(はなむら)の素行調査を担当し、逆恨みされる。及川恭子(おいかわきょうこ)はサラリーマンの夫と子供二人と東京郊外の建売住宅に生活している。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先で起きた放火事件を期に揺らぎ始める。

30代半ばという人生の中間地点。それは「もはや人生にやり直しが効かない」という事を少しずつ実感する世代なのか。そんな中で人はどう現実と折り合いをつけて生きてくのだろう。

自分はいつから現実をみないようにしてきたのだろう。心の中にシェルターをこしらえ、そこに逃げ込むようになったのだろう。

現実を直視しないようにすることも幸せに生きる術なのかもしれない。中には、目の前にある幸せに気づずに生きている人もいるのかもしれない。

先月までは何不自由ない暮らしをしていた。家計を助ける程度のパートをして、家で子供や夫の帰りを待っていた。退屈だが特に不満はなかった。それがどこで歯車が狂ったのか。

幸福とはこんなにも儚いものなのか。リアルに描かれるその様子はただただやりきれない。九野薫(くのかお)と及川恭子(おいかわきょうこ)の二人を中心としながらも、いろんな要素を絡めて展開するこの物語には読者を夢中にさせるに十分な力があった。

【Amazon.co.jp】「邪魔(上)」「邪魔(下)」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第53回日本推理作家協会賞受賞作品。第2回大藪春彦賞受賞作品。

仙石恒史、宮津弘降、如月行、信念を持った3人の男達がイージス艦を舞台に絡み合う。宮津の息子が書いた作文が印象的だ。

ギリシャ神話に登場する。どんな攻撃も跳ね返す楯。それがイージスの語源だ。しかし現状ではイージス艦を始めとする自衛隊装備は防御する国家を失ってしまっている。亡国の楯だ。
今のままアメリカに守られているような国ではなく日本も戦える国であるべきだ、という主張が随所に散りばめられ、改めて考えさせられる。それと同時に、自衛隊の矛盾などについてもストーリーの中にうまく絡んでくる。なにより3人の男の生き方に感銘を受ける。

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