よこやまひでおの最近のブログ記事

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
未解決に終わった少女誘拐殺人事件。警察庁長官の遺族への訪問を前に刑事部、警務部に不穏な動きが起こり始める。

三上義信(みかみよしのぶ)は広報官という役職で、それは警察の花形である刑事とは異なりむしろ刑事から忌み嫌われる存在。元々は刑事として誘拐事件に関わった事もあり、刑事に戻りたいという想いを抱えながら広報官という仕事を努めている。そして、さらに娘のあゆみが行方をくらましているという家庭事情も抱えているのである。そんな厚い人物設定がすでに横山秀夫らしく期待させてくれる。

物語は警察庁長官がすでに14年もの間未解決状態にある少女誘拐殺人事件の遺族のもとを訪れるという、世間向けの警察アピールを意図する事から動き出す。どうやらその誘拐事件の影には隠蔽された警察の不手際があったらしいという事実が浮かんでくる。

隠蔽された事実を巡って、組織内の権力争いが激化する。刑事部と警務部、地方と東京、あらゆる側面で対立が起こり、利害を一致する者同士が一時的に協力し、そしてまた敵対する。また、広報官役割である故にマスコミ対策についても描かれる。報道協定や、各メディアのあり方についても考えさせられるだろう。

深く分厚い印象的な物語。世界のどこを切り取ってもその場所にはその場所の人の深いドラマがある。そう感じさせてくれる作品。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1995年1月、阪神大震災と同じとき、N県警で1人の警察幹部が失踪した。県警幹部達は各々、自分の地位や体裁を守るために、その対応に追われることになる。

本作品で描かれているのは警察のもっとも醜い一面だろう。本部長、刑務部長、刑事部長、N県警という地方警察で、権力をもった幹部達が各々、自分の経歴に傷をつけないため、今の地位を守るため、天下り先を確保するために、1人の警察幹部の失踪事件を操作しようとする。

時には利害の一致したほかの警察職員と協力し、「真実を追究する」という建て前をちらつかせて、相手の持っている情報を出させる。その一方で、情報を早めに仕入れては、都合の悪い事実を隠蔽しようとする。そこにはもはや正義も真実も大した意味を持たない。多少誇張されているのだろうが、これが警察の実態なのだろう。

それでも本作品を読みながら、そんな警察幹部達の目線で事件を見つめるうちに、地位やキャリアアップにこだわっている彼等の気持ちが理解できたような気がしてしまうからページをめくる手は加速するばかり。家族を養いながら警察という縦社会の中で生きてきた人間は、警察以外で生きる能力がないのだから立場にこだわるのは当然なのかもしれない。

そして、そんな彼等だが、元々は正義感が強いからこそ警察になった男たち。だからこそ、事実の隠蔽や虚偽の記者会見に強い良心の呵責を覚え、それがまた印象的なのだ。

見て見ぬふりをする人間にだけはなるな──。
昔からそうだった。人の心をいじくるのが好きだった。いじくり回して遊ぶのが楽しくてならなかった。だが── とうとう、人の死までいじくった。

警察内部の権力闘争にページの大部分が費やされてはいるが、ラスト20,30ページで大きく動く。一人の人間の告白が、人間の感情の複雑さを再認識させてくれることだろう。人が人に対して抱く感情は一つではない。愛しみ、蔑み、憎しみ、羨み、敬い、・・時には多くの感情を複雑な割合で併せ持つ。この物語の中で一体いくつの感情が描かれていることだろう。

「ルパンの消息」「半落ち」と同様に、最後の数ページで一気に読者を納得させて読後の心地よさに導いてくれた。


博徒(ばくと)
(江戸〜明治までの)賭博を生業とする者、博打打ち。テキ屋とともに、ヤクザの源流とされる。(はてなダイアリー「博徒」

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
主人公の真壁修一(まかべしゅういち)はノビカベと呼ばれる泥棒。15年前に焼死した双子の弟の啓二(けいじ)の魂と共に生きている。二年前に逮捕された真壁が、出所してからの出来事を7編収録してある。

真壁(まかべ)の耳に響く啓二(けいじ)の声が物語を面白くさせている。泥棒という視点も勿論面白いが、双子という視点からの独特な考え方もまた興味をそそる。そしてその人間関係の中に、啓二と真壁の二人が愛した女性、久子(ひさこ)が絡んでくる。

双子というものは、互いの影を踏み合うようにして生きているところがある。真壁(まかべ)が自分ならそうするであろうと思うことは即ち、啓二(けいじ)がそうする確率が極めて高いことを意味していた。

泥棒同士の人間関係、刑事との駆け引き。「第三の時効」に登場する刑事たちが見せたような、鋭い観察力を持つ男を、今回は泥棒である真壁が務める。ただ、「泥棒」という題材のせいか、やはり現実から程遠い感じは否めない。とはいえ実生活の中で、経験やメディアを通じてもまず触れることのない世界を見せてくれるという点では秀作と言えるだろう。

ニコイチ
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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
本作は6つの物語から構成されている。どの物語もF県警捜査第一課のに所属している警察職員を中心に繰り広げられるため、視点はそれぞれの物語で異なるものの、登場人物は同じである。

物語ごとに視点を変える手法は、同じ著者の作品「半落ち」を思い出させる。その手法によって登場人物の内面、外面がしっかり描写されているように感じる。その中でも特に個性が際立つのは強行犯捜査係の3人の班長達である。一班の朽木(くちき)、決して笑顔を見せない男。二班の楠見(くすみ)、冷血で女性を執拗までに憎む男。三判の村瀬(むらせ)、事件を直観力で見抜く男。

さすがに警察小説を描かせたら横山秀夫は上手い。新聞記者への対応、班同士の競争意識、被疑者との駆け引き、そして警察職員の正義感などでが見事に描かれている。個人的には被疑者との駆け引きで自白に追い込む場面が好きである。6つの物語のなかでもタイトルにもなっている「第三の時効」が特に気に入っている。

この作品の登場人物達のような頭のキレる人間が実在するのなら、実際に会ってその刺激を肌で感じてみたいものだ。

容疑者
マスコミ用語での犯罪の嫌疑を受けているものをいう。

被疑者
法律用語での犯罪の嫌疑を受けているものをいう。

ハルシオン
医薬品。睡眠薬の名称。入眠剤として使われる。健忘を起こす副作用がある。作用時間は「超短時間型」。ハルシオンを大量投与して寝るのを我慢するとトリップできると言う話が出回って悪用する人が出たため、この薬を出したがらないところも多い。この薬を飲むと、寝ている間に起こった出来事を覚えていないという副作用がおこることがあるので注意が必要。

ポリグラフ
血圧、心電、心拍、呼吸、皮膚抵抗など生体のさまざまな情報を電気信号として計測し、記録する装置であり、「多現象同時記憶装置」のことである。一般的には嘘発見器(うそはっけんき)と同一視されることが多いが、手術室で術中の患者監視装置として使われるほか、医療分野で広く用いられている。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人間魚雷「回天」。発射と同時に死を約束される極秘作戦が、第二次世界大戦の終戦前に展開されていた。主人公の並木浩二(なみきこうじ)は甲子園優勝投手として期待されてA大学に入ったもののヒジの故障のために大学野球を棒に振った。そして抗うことのできない戦争という時代の流れに飲み込まれ、回天への搭乗を決意する。それまでの経緯を描いた物語である。

戦争に青春を奪われた並木(なみき)達の気持ちがよく描かれている。「生」への希望と、仲間たちと一緒に死ななければならないという気持ちの葛藤。特に並木(なみき)の、故郷で待つ恋人の美奈子(みなこ)からの手紙に返事を書くことができない気持ちは理解できる。

手紙で優しいこと言って、喜ばすだけ喜ばして、それで後はどうする──嫁さんにしてやれるわけでもないんだぞ

野球と言うスポーツでさえも軍部から敵性語を使うなと迫られ、「ストライク」が「よし」に「アウト」が「だめ」とか「ひけ」に変えられようとしている戦時下でも、日本の軍国主義に染まらない人達の中に日本の将来への希望が見えるような気がする。並木を含めたA大野球部の部員たちが溜まり場としていた「喫茶ボレロ」のマスターは言った。

僕はね、スペインへ逃げようと思ってる。一度捨ててもいいと思うんだ。今の日本という国は

また一方では、軍国主義に染まりつつあることを実感しながらも並木(なみき)も友人の前で言った。

日本は降伏して一からやり直すべきだ。一億総玉砕などということにならないうちに。今ならまだ間に合う。

こういう周囲の考えに流されずに客観的に日本を見つめる目を持っている人たちが戦後の日本を支えてきたのではないだろうか。この物語はフィクションであるが、こういう考えを持っていた人達が実際に存在していたと信じる。僕も、周囲の人達が何を叫ぼうとも何を主張しようとも、周囲に流されずに真実を見つめる目と強い意志を持ち続けていたいものだ。

そして今まで嫌悪感を抱いていた「特攻」という行動に対する考え方も大きく変えざるを得なくなった。きっと自分もあの時代に生き、並木(なみき)と同じ状況下に置かれたなら「回天」への搭乗を志願していたに違いない。それは愚かな行動などでは決してない、そして特別に勇気ある行動でもない、単に恋人や親や兄弟を守りたいという純粋な気持ちから生まれた自然な行動だったのだと感じた。

全体的には、残念ながら描写が薄くリアルに伝わって来ない印象を受けた。横山秀夫が他の作品で見せる持ち前の臨場感はどこへ行ったのか。特に回天に乗り込んだ並木(なみき)の気持ち、目に見えるもの、思い出したもの、死を受け入れた瞬間の様子をもっと繊細に描いて欲しかった。第二次大戦中の出来事を描くのだから仕方がないのかもしれない、実際に経験したわけではないのだから仕方がないのかもしれない、しかし横山秀夫ならそれを補った描写をしてくれると期待していただけに残念である。

それでも僕は、この感想を書きながらCDチェンジャーに収まっているラヴェルのボレロを聴いた。並木浩二(なみきこうじ)の思い出の曲だ。

参考サイト
回天特攻隊

【Amazon.co.jp】「出口のない海」

オススメ度 ★★★★★ 5/5
1985年8月12日、日航ジャンボ機が群馬県の御巣鷹山に墜落した。一瞬にして520人の命が散った。この物語は群馬県の地元紙である「北関東新聞」でその当時日航機墜落事故の全権デスクを務めた主人公の悠木和雅(ゆうきかずまさ)が、その17年後の群馬県の最北端にある衝立岩登攀(ついたていわとうはん)の際、当時の事故の報道に奮闘する自分の姿を思い起こす。そんな回想シーンを主に描いた作品である。

この物語自体は勿論フィクションであるが、1985年8月12日に起こった日航機墜落事故は事実である。当時僕は小学校3年生だった。事故の大きさも悲惨さも理解できなかったあの頃の僕の中にも、生存者が会見に応じるシーンを映したテレビ画面はうっすらと記憶として残っている。

そしてこの物語は、当時僕が知ることのできなかった事故の大きさや悲惨さを教えてくれた。

若い自衛官は仁王立ちしていた。
両手でしっかりと小さな女の子を抱きかかえていた。
自衛官は地獄に目を落とした。
そのどこかにあるはずの、女の子の左手を探してあげねばならなかった──。

また、著者自身が12年間の記者生活を送ってきたからこそ描けるのであろう。新聞社同士の報道合戦、社内の派閥争い、部署間の縄張り争い、記者のプライド、紙面展開など、新聞社の内部の様子が綿密に描かれ、非常にリアルに伝わってくる。

特に、主人公の悠木(ゆうき)の組織に属する人間として抗うことのできない人間関係に挟まれた無力感、報道に関わる人間としての使命感、地元紙の在り方について考える姿、事実と確信が持てない情報の紙面化に葛藤する姿には読み進めていくうちにどんどん惹き込まれていく。

そして物語終盤では「命の重さ」という人間として生きていくうえで避けられないテーマについて触れている。

どの命も等価だなどと口先で言いつつ、メディアが人を選別し、等級化し、命の重い軽いを決めつけ、その価値観を世の中に押しつけてきた。
偉い人の死。そうでない人の死。
可愛そうな死に方。そうでない死に方。

メディアの在り方だけでなく、人間の命に対する受け止め方についても改めて考えさせられた。勿論すべての命は等価でなくてはならない、しかし僕等にはそういう扱いができているだろうか。

私の父や従兄弟の死に泣いてくれなかった人のために、私は泣きません。たとえそれが、世界最大の悲惨な事故で亡くなった方々のためであっても

残りのページ数が少なくなるのが惜しかった。この、心を深く刺激する時間にもっと没頭していたかった。本を読んでいてこんな感情を抱く機会はそれほど多くあることではないだろう。

玉串(たまぐし)
神道の神事において参拝者や神職が神前に捧げる、紙垂(しで)や木綿(ゆう)をつけた榊の枝である。杉の枝などを用いることもある。

参考サイト
日航機墜落事故で亡くなった人の遺書とメモ書き
墜落現場・御巣鷹の尾根、85年8月13日
生存者の一人・落合由美さんの証言
生存者救出映像(YouTube)

【Amazon.co.jp】「クライマーズ・ハイ」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
15年前に自殺として処理された女性教師の墜落死は、実は殺人事件だった。そんなタレ込み情報が警視庁にもたらされた。時効まで24時間。当時不良高校生だった喜多芳夫(きたよしお)と竜見譲二郎(たつみじょうじろう)と橘宗一(たちばなそういち)の三人組が決行した悪戯がその事件に大きく関わっていた。喜多(きた)と竜見(たつみ)の供述により二転三転しながら次第に15年前の真実が明らかになっていく過程がスリリングに描かれている。

一気に読ませるストーリー展開はさすが横山秀夫作品といった感じである。そして物語中においても、聡明だったが現在はホームレスとなり公園のベンチで寝ている男、不良だったがある女性との出会いを期に進学を志し、しっかりした家庭を持った男など、事件関係者の人生が適度に描かれていて、十人十色の生き方があるのだと感じさせてくれる。そしてそんな人生をつくった昭和という時代に疑問をも投げかけてくれるのだ。

戦争も戦後も薄れた昭和の後半という奴は確かにそんな時代だったかもしれない。何もかもが膨れて、伸びて、伸びきって・・・。なぜ豊かになったのかみんな次第にわからなくなっていった。アポロの仕組みも技術も何もわからずに、テレビの映像で月面を跳ね回る男たちを繰り返し見せられる、あの奇妙な感覚が昭和の後半、ずっと続いていたような気がする・・・

ただの刑事物語では決して終わらない。これが横山作品の魅力である。この作品は横山秀夫の処女作であるが、後に書かれた「半落ち」「顔」以上の傑作だと感じた。

【Amazon.co.jp】「ルパンの消息」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
現職警察官の梶聡一郎(かじそういちろう)がアルツハイマーを患う妻を殺害し自首した。動機などを素直に話すが殺害から自首までの2日間の行動がはっきりしない。その2日間の謎を解くために関わる人々の物語である。

物語は事件の処理に関わる6人の人物の別々の視点によって時系列に展開していく。6人とは、W県警本部操作第一課の志木和正(しきかずまさ)、W地方検察庁の検察官である佐瀬銛男(させもりお)、東洋新聞の記者である中尾洋平(なかおようへい)、弁護士の植村学(うえむらまなぶ)、裁判官の藤林圭吾(ふじばやしけいご)、そして刑務官の古賀誠司(こがせいじ)である。

そのため、物語の展開だけでなく、普段あまり縁のない職業に就く6人の心の葛藤、所属する組織内の軋轢、仕事に対する誇りにも触れることができる。W県警の志木和正(しきかずまさ)は取り調べを次のように例える。

取り調べは一冊の本だ。被疑者はその本の主人公なのだ。彼らは実に様々なストーリーを持っている。しかし、本の中の主人公は本の中から出ることはできない。こちらが本を開くことによって、初めて何かを語れるのだ。

東洋新聞の中途採用者で「傭兵」という隠語をあてられる中尾(なかお)はこんな思いを抱いている。

傭兵は必ず這い上がる。だが、それは他人の二倍三倍働き、二倍三倍抜いてこそだ。人並みでは駄目なのだ。

物語は、6人の心を描写し、視点を変えながらも一本のしっかりとした筋をもって読者を飽きさせることなく展開していく。そんな中で物語に関わるアルツハイマーという病気の怖さを改めて知り、「生きる」ことの意味さえ考えさせられる。

梶(かじ)はアルツハイマーを発病した妻のことを語る。

物忘れがひどくなり、ミスを防ごうとメモをするようになったが、そのメモをしたことを忘れる。そして、後で忘れたことに気づき、深く傷つく。恐怖に戦(おのの)く。自分はいつまで人間でいられるのか−−

横山秀夫作品の「顔」にも同様のことがいえるが、本書も物語の展開のうえで不必要な場面描写や説明が極力省かれており、ページ数の割に内容が濃いという印象を受け、非常に読みやすい。そして謎が解けるラストは泣ける展開だった。急性骨髄性白血病、ドナー登録など考えさせられることの多い作品であった。

検察庁へ身柄付送致
警察は、被疑者を逮捕したときには逮捕の時から48時間以内に被疑者を事件記録とともに検察官に事件を送致しなければならない。被疑者を起訴するか否かを決定するのは公訴の主宰者である検察官だけの権限。

嘱託(しょくたく)殺人
死にたいと思っていても死ぬことができない重病人等が第三者に依頼して、殺してもらうことによって成り立つ行為のこと。

グリーニッカー橋
ベルリンとポツダムを結ぶ橋梁。冷戦時代、スパイ捕虜を交換する際に使われた。

【Amazon.co.jp】「半落ち」

オススメ度 ★★★★☆
2003年4月にフジテレビ系で放送されていたドラマ「顔」の原作である。当時、ドラマを途中まで見ていたのだが、仕事が忙しくなって終盤は見ることが出来なかった。結末を知りたかったのと、心の描写を合わせて読みたかったのでこの本を手に取った。ちなみにドラマの中では主人公である平野瑞穂(ひらのみずほ)役を仲間由紀恵(なかまゆきえ)が演じていた。ドラマで共演していたオダギリジョーの西島耕輔(にしじまこうすけ)という役は残念ながら原作には登場していなかった。

物語は警察という縦社会、かつ男性社会の中で、犯人の似顔絵描くことを仕事のひとつとしている平野瑞穂(ひらのみずほ)を描く。女だからといって男性から差別されることに対する嫌悪と、女であるがゆえに男にはない「やさしさ」や「甘え」がときおり現れる。そんな瑞穂(みずほ)の人間くささがこの物語を面白くさせるのだろう。

いくつか心に深く残ったシーンを挙げてみる。
沖縄出身の新聞記者の大城冬実(おおしろふゆみ)が瑞穂(みずほ)に語るシーン。

「いないのよ。基地があった方がいいなんて、本気で思ってる人が沖縄にいるはずないでしょう。ウチの父だって──自分は死ぬまでここで基地と生きていくしかない。でも、お前は冬のある平凡な土地で生きていけ。そう言いたくて『冬美』って名前を付けたんだと思う。・・こんな話わからないよね。本土の人には」

僕は何も知らずに生きているのだと思った。

瑞穂(みずほ)と同僚の三浦真奈美(みうらまなみ)が瑞穂に語るシーン

「だって、人間ってそうじゃないですか。頑張ってる人を見て勇気をもらうとか言うけど、そんなの嘘で、ホントは頑張ってない人とか、頑張りたいのに頑張れない人とか見て、ああ、よかったって安心したり、ざまあみろって思ったり、そういうの励みに生きてるじゃないですか」

言葉にする人は少ないが、誰の心の中にもそういう部分はある、と思った。

そのほかにも瑞穂(みずほ)の絵を描くことに対する姿勢や、人を見る目は大いに刺激を与えてくれた。

物語の中では「男性社会」が根強く残っている警察を取り上げているが、一般の社会でも警察ほどではないにしろ「男性社会」は残っている。

この問題は当分解決しないのだろう。少なくともこの問題が解決するまでは男性が女性を守ってやるべきなのかな。(解決しても?)


【Amazon.co.jp】「顔 FACE」

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