しずくいしゅうすけの最近のブログ記事

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学で音楽サークルに所属する堀井香恵(ほりいかえ)は部屋のクローゼットの中で一冊のノートを見つけた。小学校の先生の日記で、そこにはその先生の日常や悩みが描かれていた。

沢尻エリカの「別に」騒動で映画化時に話題になっていたこの作品。僕はむしろ雫井脩介らしくないラブストーリーテイストな作品ということで注目していた。刑事事件やミステリーに定評のある作家なので、ある程度ハズレ作品であることも覚悟して手に取った。

物語は大学生である加絵(かえ)の友人関係や恋愛、アルバイトなど日常を描いている。内容として特に大きなテーマがあるわけでもないが、加絵(かえ)の文房具屋でのアルバイトの風景から万年筆というもに非常に興味を掻き立てられた。

多くの読者は物語中盤でその結末に気づくことだろう。ありふれた結末とありふれた泣かせの手法。他の読者がこれをやると途中で醒めてしまうのだが、本作品についてはしっかりと泣かせてもらうことができた。


アウロラ
イタリアの文具メーカー

スーベレーン
文具メーカーペリカンの万年筆の1シリーズ

サンテグジュペリ
フランスの作家・飛行機乗り。郵便輸送のためのパイロットとして、欧州-南米間の飛行航路開拓などにも携わった。読者からは、サンテックスの愛称で親しまれる。

マーク・トウェイン
アメリカ合衆国の作家、小説家。「トム・ソーヤーの冒険」の作者。

参考サイト
アウロラ
星の王子さまファンクラブ

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第7回大藪春彦賞受賞作品。

6年前に起こった幼児誘拐殺人事件の失態の責任を取って地方に退いた巻島史彦(まきしまふみひこ)は、神奈川県内で起きた連続児童殺害事件の捜査の指揮ために呼び戻された。巻島(まきしま)は状況を打開すべくテレビを利用した公開捜査に踏み切る。

物語前半は、連続殺人事件を題材としながら、テレビというメディアと、それに反応する大衆という方向への展開が、宮部みゆきの「模倣犯」を思い起こさせたが、中盤に差し掛かかる頃にはそんな気配も薄れ、この物語の独自性が際立っていく。

物語の視点は、現場捜査指揮官であり主人公の巻島(まきしま)とその上司にあたる課長の植草(うえくさ)の間を行き来する。2人という少ない視点であるがゆえに、その両者についての心情描写は深く掘り下げられ、同じ刑事と言う職業ながら、仕事に対するその対照的な姿勢が2人の個性をそれぞれ際立たせていく。巻島(まきしま)の事件に対する姿勢には執念や覚悟が、植草(うえくさ)の姿勢からは「本気」を嫌う現代の若者らしさがにじみ出てくる。そこにさらに、娘や昔の恋人とのやり取りを挟むことで、それぞれ人間らしさもしっかりと表現され、読者はさらに物語にひきこまれていくこどたろう。

描かれる刑事たちの地道な捜査と、それが進展しないことによって生じる刑事間の軋轢は、刑事と言う職業がドラマなどで描かれるほど、華やかでも格好良いものでもないということを伝えてくれる、この徒労感ともいえるような現場の空気は、小説と言う媒体だからこそここまでしっかりと伝わってくるものなのだろう。

そして、メディアを利用した「劇場型捜査」というこの物語の特長ゆえに、そこにテレビ局の視聴率獲得競争という側面も取り入れた点も、この物語の個性的な味付けの一つと言えるのではないだろうか。

その一方で、この物語の中ではテレビと言う多くの人が目にするメディアに姿を晒すことで、否応もなく多対一という状況になることの恐ろしさも描かれている。そして、犯罪者に対しても犯罪者に味方するものに対しても一切の言い分も許さず「悪」というレッテルを貼り、それを全否定する世の中の風潮や、「正義」という名の下には何をしても許されるという、世間が時々見せる危険な思想も取り入れられている。

犯罪被害者に非があるとは思わないが、世の中の事件において、犯罪を起こした者の事情が往々にして聞くに値しない言い訳のように扱われ、その切実な心情が一切汲み取られることなく、ただただ人道にもとる行為のみが一方的に非難されるのは一種の民衆ファッショであり、決していい風潮とは思っていない。

さらに、やり場のない被害者家族の心の怒りや悲しみや罪悪感を、どこかに導いてくれるような印象も受けた。

あの事件の犯人が誰であろうと、その人間はその後、本当に悲惨で悲惨で仕方がない人生を送っているんだろうと思います……間違いなく、そうなんだと思います

読み終えた雫井脩介作品は「火の粉」「虚貌」に継いで本作品で三冊目であるが、次第に心情描写の表現が多く、そしてリアルさを増してきたように感じる、それはつまり自分好みの作品になってきたと言うことだ。もう少し心を強くえぐる何かが文章中から感じられれば、ずっと読み続ける作家の一人になるだろう。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1980年、運送会社を経営する一家が襲われた。社長夫妻は惨殺され、長女は半身不随、長男は大火傷を負う。間もなく、解雇されたばかりの三人が逮捕されて事件は終わったかに見えた。それから21年、事件の主犯とされていた荒勝明(あらかつあき)の出所をきっかけとして再び悲劇は起こる。

この物語の視点はさまざまな登場人物に切り替わる。襲撃を企てる若者たち、事件を追う刑事たちなど、それによって多く人物の心情が描写されている。自分とは全く考えの違う人物の気持ちに対してもところどころ共感できる部分があるだろう。その視点の多さに、最初は誰が主人公かすらわからないかもしれない。

襲撃を企てる若者たちの間に共通の意識として上った「人を殺したら人間として成長する」という考え方は否定できないものを感じた。事の善悪は別にして実行するまでに強い気持ちを必要とする行動は、達成すれば後に大きな自分の財産になるだろう。もちろんだからといって僕は犯罪に手を染めるつもりなどない。

物語のテーマは「顔」。そう一言で表現しても言い過ぎではないだろう。それぐらい「顔」に関連する内容が多々見られた。事件を追う滝中守年(たきなかもりとし)は人の顔を憶えるのが苦手な刑事。守年(もりとし)の人を見る目。それは顔よりも立ち振る舞いや全体的な風貌、雰囲気でその人間性を判断する考え方である。非常に自分に似ているものを感じた。

また、守年(もりとし)と共に行動することになる刑事、辻薫平(つじくんぺい)は顔の青痣をコンプレックスとして抱え、それが鬱病の原因となっているという。その他にも、似顔絵作成、醜形恐怖症、カバーマーク、整形手術、人口皮膚など、何度も顔について触れている。

守年(もりとし)の娘でありアイドルの滝中朱音(たきなかあかね)の生活と心情の描写には、芸能界が人を惹きつける理由と、そこで生きる厳しさを感じる。そして朱音(あかね)は自分の顔の醜さに悩む。

私は本当にこんな顔をしているのか?こんな醜い顔を・・・。ひどい。なぜ今まで気づかなかったのだろう。自分の顔は顔の形を成していない。

そういえば僕も中学生の頃は鏡で自分の顔を眺めては人生の不公平を恨んだりしたこともあったっけ。そんな昔のことをつい思い出してしまう。

そんな中で、辻(つじ)のセラピストである北見宣之(きたみのぶゆき)先生の話は特に興味深く心に響くものがある。

心とは切り離されたところに顔は存在している。いや、心が独立して存在していると言った方がいいでしょう。顔などというのは世の中を渡っていくための認識票に過ぎない。素顔でも化粧でも整形でも、自分に都合のいい仮面をつければいい。

心を表情に表さない人が多い日本社会の中だからこそ、「顔は仮面」と言い張れるのだろう。また、前向きに生きるためであれば、整形手術という手段もまた偏見を抱かれることなく認められるべきだと改めて感じた。

自分が思っている顔、人から見える顔、顔が心に与える作用、表情の重要性など、「顔」についていろいろ考えさせられた。前回読んだ雫井脩介作品の「火の粉」が注目を浴びている割に満足の行く内容ではなかったので、今回もあまり期待しないで読み始めた。しかし、この物語は展開にやや強引さを感じなくもないが、しっかりとテーマを含んだ作品に仕上がっていた。「火の粉」よりはるかに評価できる作品であった。

醜形恐怖症
自分の顔の表情が人から変に思われていると気になってしまう症状。

参考サイト
飛騨川バス転落事故

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元裁判官・梶間勲の隣に、以前、勲自身が、無罪判決を言い渡した男、竹内真伍が引っ越して来た。そんな奇妙な偶然で始まる。

竹内が引っ越して来たことによって、梶間家に少しずつ変化が起こりはじめる。そんな展開である。そう、実際に家族なんていうのは、つながりは薄く、隣人のちょっとした策略で簡単に崩れてしまうものなのかもしれない。特に、嫁、姑などの微妙なバランスで保たれている家族はそうなのだろう。

また、裁判官という仕事についても衝撃を受けた。改めて考えてみると、なんて責任の重い職業なのだろう。一つ間違えれば何もしていない人の命までも奪いかねない。そして一方一つ間違えれば凶悪な殺人者を「無実」として世の中に解き放つこともまたあり得るのである。これは裁判官だけでなく、弁護士、検察官についても同様のことが言えるかもしれない、実力があるか否かによって無実の人が有罪判決を受けて人生を棒にふったり、有罪の人が無罪となって世の中に出ていったりするのである。

一時期、弁護士という職業に憧れた時期もあったが、憧れだけに留めていて良かったと感じる。


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