おくだひでおの最近のブログ記事

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
市町村合併によって生まれたとある地方都市。多くの男女が悶々とした日々を送っている。そんな人々を描く。

物語は同じ地方都市で生きる男女を行き来する。女子高生。市の政治家。生活保護を担当する役員。宗教にはまりこむ主婦。暴走族あがりのセールスマン。いずれも現状に不満を抱きながら、すこしでもよりよい未来を求めて日々悪戦苦闘しているのだがなかなか思うように進まない。

そして次第に5人の悲惨な人生はひとつの出来事へと向かっていく。生活保護や老人を狙った詐欺など、現代の話題を適度に盛り込み意図せず悪循環へと陥っていく不幸な人々をテンポよく描いている。いずれもどこか他人事として見れないリアルさを感じてしまうから面白い。まさに一気読みの一冊。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
格差社会の底辺で生きる6人の男女を描いている。

人に頼まれたら断ることができないために徐々に泥沼にはまっていく男。作家という栄光にすがって生きていたらいつのまにか官能小説しか書いていない男。そのほかにも対人恐怖症のフリーライターや風俗専門のスカウトマンなど、僕にとってはあまり縁のない類のかなり刺激的な日常を描いている。

この物語の主人公はみんな自分の才能をみかぎってしまったひとばかり。そして、普通に会社で働いている人たちに気後れして生きていて、だからこそどんどん世間に認められる生き方からはずれていく。そして追い詰められた生活をしているからこそ人を思いやる余裕を持てない。それはもはや不幸のスパイラルである。

互いに尊敬できない人間関係は、なんて悲惨なのか。

そんな希薄な人間関係の中で生活するから、寂しく、風俗などのつかの間の人との触れ合いにわずかなお金と時間を費やして、更なるどの沼へと落ちていくのだろう。

それでもこの物語を読みながら感じたのはこんなこと。平和な日本では、プライドさえ捨てれば生きていくことはできる、ということだ。ホームレスとしてでも、体を売ってでも。

また、人間は意図するしないにかかわらず同じような境遇の人間と近付いていくのだとも改めて思った。お金のある人はお金のある人同士。そしてこの物語のようにお金も希望もない人たちは、お金も希望もない人となぜか近づいていく。だから、視野を広げるには無理をしてでもその人間関係の自然の法則に逆らうしかない。

最後に裏ビデオ女優がが嘆く言葉が心に響く。

世の中には成功体験のない人間がいる。何かを達成したこともなければ、人から羨まれたこともない。才能はなく、容姿には恵まれず、自慢できることは何もない。それでも、人生は続く。この不公平に、みんなはどうやって耐えているのだろう。

こういう人間が世の中に存在するということを僕たちはもっと意識しなければいけないのかもしれない。「一生懸命生きれば幸せになれる。」などという言葉は彼らにとっては幻想でしかないのだ。

ふと魔が差したことを発端として人生を転がり落ちるそのスピード感はもはや奥田英郎の最大の売りと言えるかもしれない。「最悪」「真夜中のマーチ」で存分に繰り広げられたその展開力は本作品でも健在である。


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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第131回直木賞受賞作品。

やたらと注射をしたがる妙な精神科医伊良部一郎(いらぶいちろう)と彼の病院を訪れる患者の物語の第2弾。

全体で5編から成り、それぞれブランコで飛べなくなった空中ブランコ演技者。尖ったものが怖くなったヤクザ。送球ができなくなったプロ野球の三塁手。羽目をはずしたい医者。ネタに困った恋愛小説家。という患者を描いている。それほど重いテーマというわけでもなく、伊良部一郎(いらぶいちろう)という主人公がそれほど魅力的なわけでもない、それでも読者を引き込むテンポの良さは、奥田英雄の作品には常にあり、今回も例外ではない。

しかし、ただのドタバタ劇という感じがして、途中、このまま読み終わって、自分の中になにも残らない「読書のための読書」で終わりそうな予感を抱いたりもしたが、ラストの恋愛小説家を描いた物語にはメッセージを感じた。

小説家を描いているだけに、きっと奥田英朗自身の過去なども反映していることだろう。周囲に流される人が多いからいいものが評価されない。大したものでなくてもメディアが飛びつけば売れるし、評価される。いいものを作っても評価されるわけでもなく売れるわけでもない。かといって売れるものを作っても自分の中の満足感は満たせない。そんなクリエイターなら誰もが感じたことのあるジレンマを見事に描いている。

恋愛小説家の友人のフリーの編集者が言う台詞が印象的である。

この国で映画の仕事をやっているとこんなのばっかだよ。ここで報われないとこの人だめになる、だから神様お願いですからヒットさせてくださいって天に手を合わせるんだけど、それでも成功することの方がはるかに少ない。わたしは彼らを前にして思うよ。せめて自分は誠実な仕事をしよう、インチキだけには加担すまい、そして謙虚な人間でいようって──

作者でなく、編集者という作品と作者を客観的に見れる立場の人間の台詞なだけに見事に世の中の矛盾を言っているように感じる。それぞれの人たちが自分の目、自分の耳で、いいモノわるいモノを判断できればこんなジレンマはなくなるはずなのに、日本という国の国民はその意識が極端に低い。それは国民性として受け入れるしかないが、自分のモノに対する姿勢については考えさせられる。

直木賞という評価も最後の作品に因るところが大きいのではないだろうか。


イップス
精神的な原因などによりスポーツの動作に支障をきたし、自分の思い通りのプレーができなくなる運動障害のことである。本来はパットなどへの悪影響を表すゴルフ用語であるが、現在では他のスポーツでも使われるようになっている。(Wikipedia「イップス」

キュレーター
美術館の学芸員。


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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
小学六年生の主人公の上原二郎(うえはらじろう)とその父親の一郎(いちろう)の物語。二郎(じろう)は大きくなるにつれて、どうやら父親の一郎は普通の父親ではないと気づき始めた。実は父親の一郎(いちろう)は元過激派で、各地に数々の伝説を残している男だったのだ。

社会に合わす事をしない父親の一郎(いちろう)が学校や警察と揉める過程で、そんな特異な環境に育っている二郎(じろう)の気持ちと、それを取り巻く大人たちの考え方が描かれる。ありがちな考え方から、極端な思想まで様々で、思想形成過程の二郎(じろう)たちは漠然と世の中の矛盾や複雑さを理解していく。そしてその端々で大人たちもまた葛藤していく。

あのね、人にはいろんな意見があって、それは尊重するべきなんだけど、上原君はまだ六年生なんだし、一つの色に染まっちゃいけないと思うの。
通学路しか通っちゃいけないなんて、明らかに意味のない決め事でしょ。国は国民を、大人は子供を、それぞれ管理したいだけなんだから。
協調性も大事ですが、悪いことに協調していては意味がありません。

そんな二郎(じろう)の成長と並行するように、一郎(いちろう)を取り巻く環境から世の活動家についても触れている。

革命は運動ではない。個人が心の中で起こすものだ。集団は所詮、集団だ。権力を欲しがりそれを守ろうとする。個人単位で考えられる人間だけが、本当の幸福と自由を手にできるんだ。
左翼運動が先細りして、活路を見出したのが環境と人権だ。つまり運動のための運動だ。ポスト冷戦以降、アメリカが必死になって敵を探しているのと同じ構造だろう
いい大人がろくに仕事もしないで、運動を生きがいにしているんだから。働かないことや、お金がないことや、出世しないことの言い訳にしている感じ。正義を振りかざせばみんな黙ると思ってる。

前半部分では口先だけの父親という描かれ方をしていた一郎(いちろう)が、後半部分では行動も伴ってきたため、その言葉が強く二郎の心に響くようになる。

平等は心やさしい権力者が与えたものではない。人民が戦って勝ち得たものだ。誰かが戦わない限り、社会は変わらない。
世間なんて小さいの。世間は歴史も作らないし、人も救わない。正義でもないし、基準でもない。世間なんて戦わない人を慰めるだけのものなのよ
負けてもいいから戦え。人とちがってもいい。孤独を恐れるな。理解者は必ずいる。

いつか子供ができたとき、どんな風に世の中の必要性と、その一方でその不要性を教えるべきか考えさせられた。ただ、思ったのは、この物語で描かれている二郎(じろう)や妹の桃子(ももこ)を含めた子供達のように、世間の大人たちが思っているよりもずっと、子供達は賢く、外に出ていろんな人や物事に触れ、経験し、時には怪我をしたりして、世の中の仕組みを理解していくのだろう。そして、その機会を逃した人間が、学歴、マイホームといった、小さな尺度でしか物事を考えられない人間になり、退屈な世の中を作っていくのかもしれない。ということ。

こんな言葉で生き方を教えてあげたい。と思わせる台詞がたくさん詰まっている一冊である。

サーターアンダーギー
砂糖を多めに使用した球状の揚げドーナツ。(Wikipedia「サーターアンダーギー」)

警備部
各都道府県警察本部に存在する部署のこと。主に思想的背景のある犯罪者や、テロリストへの対処、暴動鎮圧や災害対策、要人警護、各種情報・調査活動等を担当する。(Wikipedia「警備部」)

外事課(がいじか)
日本の警察組織の1部局。たいていは各道府県にある警察本部の警備部の下に置かれ、公安警察の末端を担う。ただし、東京都は例外で、警視庁公安部の下に置かれている。主に海外の過激派、スパイの逮捕を目的としている。(Wikipedia「外事課」)

幇助
実行行為以外の行為で正犯の実行行為を容易にする行為一般を指す。物理的に実行行為を促進する行為はもとより、行為者を励まし犯意を強化するなど心理的に実行行為を促進した場合も幇助となる。(Wikipedia「幇助」)

パイパティローマ
波照間の南に存在するという伝説の島。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
横山健司(よこやまけんじ)は仕込んだパーティで三田総一郎(みたそういちろう)と出会う。さらに、ひょんなことから二人でヤクザの金を盗もうとして黒川千恵(くろかわちえ)と出会う。ヨコケン、ミタゾウ、クロチェの3人は一つの計画のために協力することとなる。

読みやすさを維持しながら登場人物と共に。読者を混乱の渦中にひきこんで行くテンポのよさは、著者の別の作品「最悪」に似たものがある。特に深い知識や思想を得られるわけではないが、もやもやしたものを吹き飛ばすエネルギーをもった作品である。

【Amazon.co.jp】「真夜中のマーチ」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第4回大藪春彦賞受賞作品。今回で二回目の読了である。

過去に最愛の妻を事故で亡くした九野薫(くのかおる)は現在警部補として所轄勤務をしている。同僚の花村(はなむら)の素行調査を担当し、逆恨みされる。及川恭子(おいかわきょうこ)はサラリーマンの夫と子供二人と東京郊外の建売住宅に生活している。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先で起きた放火事件を期に揺らぎ始める。

30代半ばという人生の中間地点。それは「もはや人生にやり直しが効かない」という事を少しずつ実感する世代なのか。そんな中で人はどう現実と折り合いをつけて生きてくのだろう。

自分はいつから現実をみないようにしてきたのだろう。心の中にシェルターをこしらえ、そこに逃げ込むようになったのだろう。

現実を直視しないようにすることも幸せに生きる術なのかもしれない。中には、目の前にある幸せに気づずに生きている人もいるのかもしれない。

先月までは何不自由ない暮らしをしていた。家計を助ける程度のパートをして、家で子供や夫の帰りを待っていた。退屈だが特に不満はなかった。それがどこで歯車が狂ったのか。

幸福とはこんなにも儚いものなのか。リアルに描かれるその様子はただただやりきれない。九野薫(くのかお)と及川恭子(おいかわきょうこ)の二人を中心としながらも、いろんな要素を絡めて展開するこの物語には読者を夢中にさせるに十分な力があった。

【Amazon.co.jp】「邪魔(上)」「邪魔(下)」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1978年、に上京した田村久雄の社会に出て自立して行く11年を少しづつ切り取ったストーリー。ジョンレノンの殺害、ベルリンの壁の崩壊。久雄の成長とともに世の中も大きく変わって行く。

みんな今の自分に満足出来ず、それでもどこかで夢を捨てなければならないことを悟りつつ、だからこそ今は好きなように生きる。そんなことを感じさせてくれた。今の僕と同じ年代の人に読んでもらいたい。

久雄の周囲の人たちがなにげなく彼に言う言葉がまた印象的だ。

失敗のない仕事には成功もない。成功と失敗があるってことは素晴らしいことなんだぞ。
俺も若い頃は他人に厳しかったよ。自分と同じ能力を他人にも求めていた。

人はいろんな人とかかわりを持ち、言葉を交わすことによって成長して行くのだと感じさせてくれた。


【Amazon.co.jp】「東京物語」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
最近、奥田英朗の本がおもしろい。「邪魔」につづいてこの本を手にとった。
自分は100万の札束を近くで見たことはない。別に貧しい暮らしをしているわけではないが、それでも10万もの現金が財布の中に入っていると気になって仕方がない。そういえば銀行に勤める友人がいつかこんなことを言っていた。仕事中に200万足りなかったのでみんなで探したらゴミ箱の中に2つ札束が落ちていた・・と。銀行に勤める人にとっては100万の札束など100万の価値はない。本屋さんが扱う本と、八百屋が扱うキャベツと大して変わらないのだ。

そう、社会には何千万のお金を右から左へ動かす仕事がある一方で、10万のお金を工面するのに苦労している人もいる。そんなお金に対する間隔の違いが、人と人との間に誤解や嫉妬やトラブルを生むことになるのだ。

この「最悪」では、町工場を経営している川谷。チンピラとして生活している和也。銀行に勤めるみどり。まったく違う境遇で生活している3人はそれぞれ人間関係やお金に悩みつつ生き抜こうとする。そしてあるとき3人の人生は絡みあう。人生落ちていくってのはこういうことなのか・・川谷と和也の境遇は他人事のように傍観していられないリアルさがある。これこそ最悪である。

【Amazon.co.jp】「最悪」

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