さとうたかこの最近のブログ記事

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

落語家今昔亭三つ葉(こんじゃくていみつば)のもとに、話し方が巧くなりたいという男女が集まった。仕方がないので三つ葉(みつば)は彼らに落語を教える事にする。

なによりも落語を扱った書籍に初めて出会った。その点ですでに本書は新鮮である。落語界の仕組みなどをおそらく丁寧に本書も説明しているのだが、落語家は似たような名前が多くてしっかり理解できたとは言えない。しかしそれでも漠然とではあるが伝わってくるものがある。例えば、落語にも古典落語というような伝統的なものとそうでないものがあり、また、古くからある話は、人々の生活様式がその落語の基盤となる時代と異なってくるにしたがって人々に伝えにくくなっているなど。落語を一度聞きにいってみよう、と思うには十分の内容。

その年、季節、天候、顔ぶれ。それぞれの心模様、何もかもが違うんだよ。だからこそ、毎度毎度面倒な手順を踏んで同じことを繰り返し稽古するんだよ。ただ一度きりの、その場に臨むためにね。

しかし本書が描くのは、そんな落語界の実情だけではなく、話す事を苦手とする共通点を持った男女4人の物語である。クラスでいじめに会っている小学生の村林(むらばやし)、テニスのインストラクターだったがうまく話す事が出来ずに辞めた良(りょう)、元プロ野球選手で、解説がうまく出来ずに悩む湯河原(ゆがわら)、そして女性、十河(とかわ)。いずれも話す事が苦手なだけでなく、人と打ち解ける事もしようとしない性格ゆえに場を仕切る三つ葉(みつば)は困り果てる、しかし、それでも次第に4人が、落語を通じてそれぞれのコンプレッスをさらけ出しつつ、少しずつ心を通わせていく様子が面白い。

少しずつ落語の面白さを知っていく4人。三つ葉(みつば)自信も自らの落語に対して試行錯誤を重ねていく。そんな落語への取り組みがそれぞれの生活まで少しずついい方向に変えていくようだ。面白く温かい物語。

佐藤多佳子の作品は本書で2冊目だが、どちらも何かに対して努力し、そこから得られる達成感、仲間との一体感が描かれている点が魅力である。他の作品にもぜひ触れてみたい。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2007年本屋大賞受賞作品。

神谷新二(かみやしんじ)は高校に入ってからそれまで打ち込んできたサッカーを辞めて陸上部に入部することを決めた。一緒に入部したのは天性の才能を持つスプリンター連(れん)。陸上にかける高校生たちの青春物語。

最近陸上を扱った物語というと、マラソンか駅伝であることが多いが、本作品は、短距離100メートル走と、400メートルリレーを扱っている点が新しい。著者は実際にある陸上部を長い間かけて取材し、その結果本作品を書いたという事なので、物語中で語られる理論や練習法はいずれも非常に興味をひかれる内容である。そもそも、陸上経験者でない人にとっては、100メートル走を走る選手がどんな理論でトレーニングを積み重ね、どのように意識しては知っているのかについて触れる機会がない。読んでいるだけで少し自分も速く走れるのではないか、という気がしてしまうから面白い。

もちろん、そんな陸上理論は物語の一部分でしかなく、高校生らしいいろいろなドラマを繰り広げてくれる。部活内の恋愛や、顧問の先生の過去などはもちろんであるが、1年ごとに後輩から先輩へと立場が変わり、やがて引退を迎えるという部活動ならではのエピソードも懐かしい。結果を残せずに引退をすることになった先輩を見送る場面は印象的である。

ここで何回、トラックの白線を引き、何回その線に沿って走ったのだろう。どんな試合の喜びの涙も、みな、ここから生まれてきたものだ。かけがえのない場所だ。俺たちに皆にとって。

そんななかで、神谷(かみや)もまた一時期心を折りそうになるが、それでも再び陸上へと戻ってくるのだ。

短距離でも長距離でも、タイムにも順位にもかかわらず、限界にチャレンジして走ることが、単純に尊い。その苦しさと喜びを共有できるのだ。走るのは一人ひとりでも、バトンや襷がなくても、俺たちは分かち合うことができる。

そして物語は終盤にかけてライバル校との直接対決へと向かっていく。全身全霊をかけて物事に取り組むことの尊さを改めて感じさせてくれる。力を与えてくれる青春小説。

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