まつおかけいすけの最近のブログ記事

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1900年北京では義和団と呼ばれた武装集団が勢力を高めつつあった。やがて日本など11カ国の外国公使館の並ぶ区域は暴徒化した義和団の脅威にさらされることとなる。

「義和団事件」として、歴史の教科書のなかで名前ぐらいは聞き覚えがあるかもしれない。それがこれほどまですさまじい事件だったとは現代に生きるどれほどの人が知っているのだろうか。本書はそんな歴史的事件を扱った非常に事実に近いフィクションである。

北京の地で孤立した外国公使館地区にいるのは必ずしも政府関係者ばかりではない。その家族や先生たちもそこにいるのである。そんななか少しずつ「義和団」と呼ばれる人々が目につくようになり、気がついたら国外に逃げることさえできな位状態になっており、自分たちの命を守るために籠城をはじめるのである。

しかし、イタリア、ロシア、フランスなど11カ国の公使館関係者が公使館区域を守るなかで、各国の縄張り争いや文化の違いによりうまく集団として籠城が機能しないのである。本書は、そんな状況のなか、強烈なリーダーシップを発揮した実在した日本人柴五郎(しばごろう)の様子を日本軍伍長の櫻井隆一(さくらいりゅういち)の視点で描いている。柴五郎(しばごろう)だけでなく、細かい気配りや勇気や勤勉さで籠城をリードする存在となっていく当時の日本人たちの様子が伝わって来る。

自国の人々を美化したくなるのはどこの国も同じなのであまり鵜呑みにしすぎるのも避けたいが、今まで知らなかった歴史の一面を知れたことは確かである。特に柴五郎(しばごろう)という人物については本書を読んで初めて知った。厳しい状況で正しいことを信念を持って遂行する姿に心を打たれるだろう。

【楽天ブックス】「黄砂の籠城(上)」「黄砂の籠城(下)」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人とは違った考え方を常にする浅倉綾奈(あさくらあやな)はそれゆえに社会に適応できずにいた。その才能に目をつけた警察キャリア壱条那沖(いちじょうなおき)は、綾奈(あやな)に社会に適応させるべく特別な授業を受けさせることを決める。

松岡圭祐ワールドの新たなヒロインの第一作であるが、本作品には万能鑑定士シリーズの凛田莉子(りんだりこ)もかなり頻繁に登場する。物に対する知識を極限まで蓄えた凛田莉子(りんだりこ)と、物事を人とは別の視点から眺めることに長けた浅倉綾奈(あさくらあやな)が悪事をたくらむ輩と対決する物語である。

第一作ということで、浅倉綾奈(あさくらあやな)の成長の姿が非常に面白い。個人的に印象的だったのは綾奈(あやな)の教育担当である年配の元教師能登(のと)のその考え方である。

ゲームはインベーダーかせいぜいゼビウスまで、最近のものはついていけないと語る中高年は、それゆえ信頼できる存在ですか?AKBのメンバーの顔の区別がつかないとか名前を知らないというのが自慢になりますか?いずれも大きな勘違いといえましょう。いつの世も、どのような分野であれ知識の幅は広ければ広いほどよいのです。

年配はゲームをしないとかマンガを読まないとか、一体誰が決めたのだろう。いつまでも新しい物事に目を向けて生きていたいと思える言葉である。

そして終盤に向かうにつれ立派な一人前の添乗員になっていく綾奈(あやな)。さて、壱条(いちじょう)との恋模様はどうなるのか、家族とはうまくやっていけるのか。続編が楽しみである。

【楽天ブックス】「特等添乗員αの難事件I」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
都内で放火が相次いだ。狙われた家には必ずひとつの古い邦画映画ポスターがあった。

鑑定士凛田莉子(りんだりこ)シリーズの第4弾である。今回もシリーズではおなじみの流れとなりつつあるが、冴えない記者小笠原(おがさわら)と冴えない刑事葉山(はやま)とともに物語は展開するが、そこに臨床心理士として嵯峨敏也(さがとしや)が加わる。「千里眼」「催眠」シリーズから松岡圭祐作品を愛読している人にとっては注目すべき点だろう。

さて、物語は各地に眠っていた古い邦画ポスターをめぐって展開する。犯人の狙いはなんなのか、何故ポスターを燃やす必要があるのか、と。

力を抜いて楽しめる一冊。例によって雑学好きにもお勧めである。

【楽天ブックス】「万能鑑定士Qの事件簿IV」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
音響効果を用いて詐欺を働いていたのはかつてのミリオンセラーのヒットを多く飛ばした音楽プロデューサーだった。凛田莉子(りんだりこ)はその企みに挑む。

万能鑑定士シリーズの第3弾。前の物語はIとIIにわたって繋がっていたが、本作品はIIIだけで完結している。詐欺を働く音楽プロデューサーはTK氏を想起させる。おそらく述べられていることのいくつかは現実のTK氏のことと重なるのだろう。

詐欺を防ごうと奮闘する物語でありながら、どこか力を抜いて読める作品。なんだかすこしずつ凛田莉子(りんだりこ)のやっていることは千里眼シリーズの岬美由紀(みさきみゆき)のやっていることと変わらなくなったように感じる。

まだ読んでいない続編が次々と出ているようだが、もう少し深みのある物語に発展することを期待している。

【楽天ブックス】「万能鑑定士Qの事件簿III」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
各テレビ局に送られた2枚の番号まで同じ1万円札。日本中に偽札があふれている現実に世の中が慌てふためく。

「万能鑑定士Qの事件簿I」とほぼ2冊で一つの物語となっており、凛田莉子(りんだりこ)の紹介的な流れだった前作とはことなり、今回は偽札があふれかえったことによって混乱する日本を描いている。

実際、世の中に真偽の判定ができないほどの精巧な偽札が出回っていると世間が知ったときの世の中の動きというのは、なかなか想像しがたいものではあるが、商店が紙幣での支払いを拒否し、人は外貨への両替に走る、というように、そんな状態で起こりうるいくつかの人々の行動は本書のなかで描かれているように見える。「ほかにどんなことが起こりうるだろう」と考えながら読むと面白いかもしれない。

ちなみに偽札というと、偽札作りに命をかける男たちを描いた真保裕一(しんぽゆういち)の「奪取」などが頭に浮かぶ。紙幣に注ぎ込まれている最新技術などに興味のある方はこちらもお勧めしたい。

【楽天ブックス】「万能鑑定士Qの事件簿II」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
出版社に勤める小笠原(おがさわら)は、東京の街中に張られている「力士シール」の鑑定を依頼するため、「万能鑑定士Q」という鑑定士と出会う。その鑑定士は凛田莉子(りんだりこ)。まだ20代前半の若く女性だった。

気がつけばずいぶん長いこと松岡圭祐作品から遠ざかっていた気がする。「千里眼シリーズはもう完結してしまったのか。そんな、松岡ワールドへ久しぶりに触れたいと思い、その新たなヒロインと思える本書を手に取った。

物語は、鑑定士である凛田莉子(りんだりこ)と、かなり不器用な雑誌記者小笠原(おがさわら)の出会いから始まる。同時に、高校を卒業し東京に出てくる凛田莉子(りんだりこ)という過去のエピソードが平行して展開する。本作品のメインはむしろその過去の凛田莉子(りんだりこ)のエピソードで、勉強は苦手なのにもかかわらず、東京での暖かい人たちの出会いでその才能を開花させ、鑑定士としての生き方光明を見出すまでが描かれている。

本書は物語としては凛田莉子(りんだりこ)の紹介に以上の部分はないと言っていいだろう。これから起こる大きな混乱が続編「万能鑑定士Qの事件簿II」で解決されるらしく、本書中にちりばめられた多くの謎は「II」まで持ち越しとなっている。

松岡圭祐作品はいままで現実的な話は「催眠シリーズ」で、やや過渡なエンターテイメント性を持った物語は「千里眼シリーズ」で展開していたが、本シリーズはどちらかというと後者に近くなりそうな印象を受けた。

ただの思いつきだけで出来上がったヒロインではなく、今後取り上げられるエピソードで、強く読者に訴えるものがすでに用意された上で、それをつくりあげられるために用意されたヒロインであってほしいものだ。

リンネ
スウェーデンの博物学者、生物学者、植物学者。(Wikipedia「カール・フォン・リンネ」

【楽天ブックス】「万能鑑定士Qの事件簿I」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ゲリラ豪雨に襲われている能登半島で岬美由紀(みさきみゆき)はノン=クオリアのステルス機に出会う。ゲリラ豪雨はノン=クオリアが意図して起こした災害だった。

今回は「シンガポールフライヤー」で登場した人の感情の存在を否定しする集団ノン・クオリアの陰謀を阻むことが主な目的となる。

序盤は美由紀(みゆき)の小学生時代のエピソードが描かれており、小学生でありながら日経を読むことを習慣にしていたりその異質な存在感も面白いが、美由紀(みゆき)をライバル視するクラスメイトの黒岩裕子(くろいわゆうこ)のエピソードにも楽しませてもらった。

また家族思いの美由紀(みゆき)の父親が、まだ幼くいながらも現在と同じように暴走しがちな美由紀(みゆき)の行いを優しく諭すシーンが温かい。

こんなことを言ってはどうかとも思うけど、人間少しはみ出してもいいと、お父さんは考えてる。それが絶対に正しいことだと自分が感じるのなら

上巻の中盤以降は舞台を現代に戻して話は進む。例によって時事ネタを取り入れた物語展開は期待を裏切らないが、かといって、世の中の問題点などを浮き彫りにするような内容の深さがあったかというと、今回はその点ではやや物足りなさを覚えた。

僕の記憶ではノン・クオリアは「シンガポール・フライヤー」から本作品までの間には登場していないように感じているし、松岡圭祐のサイトを見てもその認識で間違いないようだが、内容からは別のエピソードがその間起こっているような表現が見られた。小学館から発刊されていた初代千里眼シリーズと、角川から発刊されている千里眼シリーズで、多くの過去の作品が「完全版」の名を持って書き直されることによって若干の混乱を感じている。

カクテル・パーティ効果 たくさんの人が雑談している、カクテルパーティーのような雑踏のなかでも、自己に興味のあるヒトの会話、自分の名前などは、自然と聞き取ることができる。(Wikipedia「カクテルパーティー効果」

【楽天ブックス】「千里眼キネシクス・アイ(上)」「千里眼キネシクス・アイ(下)」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
世の中は血液型診断ブーム。さらにドラマの影響で白血病は不治の病という考えが広まる。そんな中で、岬美由紀(みさきみゆき)の同僚の嵯峨敏也(さがとしや)は白血病を再発する。

本作品はそのタイトルからもわかるように「血液型」を大きく扱っている。血液型ブームは、日本を含む世界的に見ればわずかな国にのみ根付いている文化である。日本でその文化が根付いているのは、各血液型があるていど存在するという説や国民性という説など諸説あるが、日本では多くの人が、「血液型診断は信憑性がないもの」と知りながらも人と出会ったときに血液型をたずねるのを自然なコミュニケーションとして受け入れているのだ。

本作品は、日本の血液型診断に対する意識をさらに誇張したような世界で展開される。たとえば、学校では特定の血液型に対するイジメが起こり、病院では患者が、特定の血液型の輸血を拒むことで、命の危険にまでさらされているのだ。そんな誤解を、世の中に根付いて危険の思想と位置づけ、それを解決するために、美由紀、嵯峨、一之瀬絵里かが奔走する。

そして、血液型だけでなく白血病に対しても世の中の人々は偏見を抱く。その大きな原因としてテレビドラマが挙げられている。視聴者の涙を誘うために、悲劇の主人公を描いた悲しいドラマをつくり、それがヒットすれば他の局も似たような悲劇のドラマを作る。時に過剰なまでに病気のつらい部分を強調することで、主人公の置かれた悲しい状況を視聴者に伝えて涙を誘うのだが、その繰り返しによって、視聴者は少しずつ病気に対して間違った先入観を刷り込まれていく。この辺の描き方は、明らかに一昔前の「世界の中心で…」を連想させる。

世の中に溢れかえる情報に対して常に疑ってかかる、中立でいることの大切さを改めて意識させてもらった。相変わらず突飛な展開にはやや辟易する人もいるかもしれないが、個人的にはいつもどおり楽しむことができた。

【楽天ブックス】「千里眼 ブラッドタイプ」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
千里眼第2シリーズ第9作。スマトラ島自信で記憶を失った女性を治療するためにインドネシアに趣いた岬美由紀(みさきみゆき)はそこで、世界を操る闇の集団メフィスト・コンサルティング・グループのダビデと出会う。因縁の戦いが再び始まる。

例によって、時事ネタや、感心するような小話を随所に散りばめて展開しており、物語の面白さ以外にも楽しめる作品に仕上がっている。

本作品は、小学館の千里眼シリーズからたびたび登場するメフィスト・コンサルティング・グループのダビデと「千里眼 ファントム・クォーター」などで登場するジェニファーレイン、そして「千里眼 シンガポールフライヤー」で表に出てきた人の心を信じない集団、ノン=クオリアの間で繰り広げられる争いを描いており、角川文庫のシリーズの大きな区切りとなるような構成となっている。

中盤から利害が一致したことによってダビデと美由紀(みゆき)は行動を供にして、ジェニファーレインの悪事を阻もうと試みる。美由紀(みゆき)はいつのもとおりその正義感から、そして、ダビデは、かつての部下だったジェニファーレインを思ってか、仕事としてか…、今まで、そのおどけた表情の裏に隠されたダビデの本性だが、本作品ではダビデ目線で描かれるシーンもあり、過去のシリーズの流れとは少し違った空気を感じる取ることができるかもしれない。

きみが過食症の女性のカウンセリングをしているとき、地球の裏側では五人の子供が飢えによって死んでいる。

本作品では、登場人物だけでなく、過去の事件などが何度か引用される。僕自身この千里眼シリーズは小学館と角川文庫で10年近く、ほぼすべてを読んでいるが、それでもその引用される登場人物や事件の前後関係が思い出せない。このあたりに松岡圭祐のおごりを感じてしまう。

物語的にはやや物足りない印象も受けるが、今後の展開に対する期待を感じさせる作品である。

参考サイト
メフィストフェレス
ドイツにて民間に伝えられる悪魔。(Wikipedia「メフィストフェレス」

タリホー
アメリカ合衆国のメーカーであるU.Sプレイング・カード社によって製造されているトランプのひとつ。バイスクルと並ぶ同社の人気商品。(Wikipedia「タリホー」

マホガニー
センダン科の広葉樹で、古くから知られる世界的な銘木のひとつ。

参考サイト
エレベーターのキャンセル技

【楽天ブックス】「千里眼 優しい悪魔(上)」「千里眼 優しい悪魔(下)」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
夢を支える仕事がしたいという思いから、ディズニーランドでの勤務が決まった青年、後藤大輔(ごとうだいすけ)の職場での姿を描いている。

松岡圭祐の初期の作品ということで、ずいぶん前からタイトルだけは耳にしていたが、なかなか触れる機会がなく、今回ようやく書店で目に止まり読むことができた。

本作品はもちろん、ディズニーランドを扱った作品である。物語中にはたくさんのアトラクション名が出てくるため、ディズニーランドに何度も足を運んだことのある人には非常に楽しめる作品かもしれない。残念ながら僕は2度しか行ったことがないので、そのイメージが湧いたのは、シンデレラ城、カリブの海賊、ビッグサンダーマウンテンなどわずか数点で、ディズニーシーに話が及ぶとまったくイメージできない、という具合であった。とはいえ物語はディズニーランドの舞台裏もかなり詳細に描いているので、夢は夢のままでとっておきたかった、と後悔する人もいるのかもいれない。

物語中でも、夢の世界の舞台裏に入ったことで、現実を突き付けられ、失望する後藤(ごとう)の姿が描かれる。

夢のディズニーキャラクターを演じる者たちの葛藤。そんなものが存在するなんて、できることなら知りたくなかった。夢は夢のまま、そのほうがどれだけよかったかわからない。

それでもやがて後藤(ごとう)は、周囲の人に支えられて、夢を支える仕事に自分の存在意義を見出していく。

物語の過程で描かれる、キャストたちの着付けの様子や、来場者の夢を壊さないためにキャストに強いられるさまざまなルールに、ディズニーランドの成功の秘訣を見ることができる。

また、物語の中で描かれる複雑な人間関係や、そこで発生する諸問題によって、東京ディズニーランドという、世界で唯一ディズニーカンパニーが経営権を持たないディズニーランドという企業としての利害関係についても理解を深めることができるだろう。

夢の舞台の裏側を描いたという展では本作品を読む意義はあっても、物語としてはややありきたりな印象を受けた。

【楽天ブックス】「ミッキーマウスの憂鬱」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
千里眼第2シリーズの第8作。「千里眼 美由紀の正体」で自分の過去を知った岬美由紀(みさきみゆき)は精神疾患に悩まされていた。そん中、世の中は新種の鳥インフルエンザの猛威に晒されていた。

本作品で岬美由紀(みさきみゆき)は今まで以上に人間味を出す。人の心を読めることで、人の悪意を瞬時に察しながらもそれを証明することができないために周囲に協力を求めることができない。そして、どんな人でも少なからず悪意を持っているため、目に入る全ての人の表情が気になる。そんな悪循環に悩まされる。

わたしには世の中が見えすぎた。知りたくないことまで知ってしまい、真実の重さを心が支えきれない。

例によって、多く現実の出来事を物語に盛り込んでいる。ルネサンス佐世保の猟銃発砲事件、富士スピードウェイで開催されたフォーミュラ1での交通問題。時事ネタが素早く取り込まれることが松岡圭祐の指示される理由だろう。

本作品では「クオリア」という言葉がキーワードになる。

クオリアとは、僕ら人間が何かに注意を向けたとき、そこに感じる独特な質感。たとえばビールののどごし、チョコレートの味わいの深さ。夜空に瞬く星の美しさ。

新種の鳥インフルエンザ、ヴェルガ・ウィルスの日本への拡大を防ごうとする美由紀(みゆき)と、クオリアを否定する組織「ノン=クオリア」が対峙することになる。

この世は物質がすべてじゃない。クオリアというものがあると、確かに信じているから

人間が生きる喜びを感じる多くの要素を説明しうるクオリア。しかし、成長過程によってはそれを理解できない人もいることを、理解できるからこそ物語の結末に興味を掻き立てられる。

小学館から発行されていた千里眼第1シリーズに比べて、この角川文庫の第2シリーズは物足りなさを覚えることが多かったのだが、本作品はそんな中でも心に残るものがあった。


ドリトル現象
動物や物がしゃべっているように感じる精神病。

不思議の国のアリス症候群
知覚された外界のものの大きさや自分の体の大きさが通常とは異なって感じられる主観的なイメージの変容した状態。(Wikipedia「不思議の国のアリス症候群」

スンガイ・ブロー
シンガポールの北西に位置するマングローブや渡り鳥を観察できる、自然保護区。

ポルフィリオ・ディアス
1876年から1911年までメキシコを支配した独裁者。(Wikipedia「ポルフィリオ・ディアス」

エビングハウスの忘却曲線
長期記憶の忘却を表す曲線である。心理学者のヘルマン・エビングハウスによって導かれた。(Wikipedia「忘却曲線」

参考サイト
Wikipedia「マリーの部屋」

【楽天ブックス】「千里眼 シンガポール・フライヤー(上) 」「千里眼 シンガポール・フライヤー(下) 」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
政治的立場を利用して、女性に淫らな行為を働いた男性に対して、強烈な怒りと共に制裁に走った岬美由紀(みさきみゆき)。普段は冷静にもかかわらず時に暴走するその理由は一体なんなのか。美由紀(みゆき)の幼少期の真実が明らかになる。

起こるはずもないと思われる出来事で読者をひきこみ、物語中でその出来事についてはさりげなく解決してみせる、そしてそのころには物語中にどっぷり浸かっている。松岡圭祐がよくやる手法がこの物語でも健在である。

人の心を読むことができながら、恋愛経験が乏しいばかりに人の恋愛に関する意識だけは読むことが出来ない。「千里眼」シリーズでは過去何度もそういうシーンがあり、そこが非のうちどころのない主人公である美由紀(みゆき)に読者が親しみを覚える理由なのだろう。今回は、なぜ美由紀が恋愛経験が乏しいのか、という点に深く踏み込むことになる。

第2シリーズに入って展開がやや大人しくなっていたが、今回は自衛隊時代の美由紀の恋人で、第1シリーズの「ヘーメラーの千里眼」で重要な役どころを演じた、伊吹直哉(いぶきなおや)が多くのシーンに登場したのがこの作品をより常識はずれで、面白くしているのだろう。そうでなくとも、自衛隊という組織が絡むといつだって千里眼シリーズは面白くなる。なぜなら、自衛隊は日本でもっとも矛盾を孕んだ組織だからだ。今回はそんな自衛官、伊吹が語る言葉がもっとも印象的だ。

自衛官ってようするに、人殺しの候補ですからね。自衛隊は、幹部候補生だろうが一般学生だろうが、人型の的の眉間を撃ち抜く練習を積むし、突進していって人形の胸を銃剣でぐさりと刺す。自衛隊という組織で優秀だと認められたことはすなわち、侵略してきた外国人を殺すにあたり、極めて秀でているという国家のお墨付きを得たということです
目的は手段を正当化するんだよ。外国人が侵略してきたらその時点で戦争だから、殺してもいい。俺たちは自衛隊でそう教わっている。じゃなきゃ、俺たちはなんで十八歳から人殺しの訓練を受けてたってんだ?

物語は、人身売買などの問題も絡んで進んでいく。貧富の差がある限り、地球上から永久になくなることのない人身売買問題に改めて興味を持った。

物語中で、珍しく自信を失う美由紀は終始自分の孤独感に苛まされる。しかし、美由紀(みゆき)のように物事の大部分を自分で解決することができる人間は往々にして孤独なことが多い。これは仕方が無いことである。なぜなら、人は人間関係の中にいつだってギブアンドテイクを求めている。頼られてこそ、その人を頼っていいと誰もが思うのだ。つまり、人に頼ることのない人間は、人から頼られることも少ない。そうすると美由紀(みゆき)のような人間に頼ってくる人はいつだって本当に無力な人ばかり。それでは対等な人間関係は築けないのだ。そんなことが何故か物凄く理解できてしまう。

ヴェイロン
ブガッティ オトモビル SASが製造・販売するスーパーカー。(bugatti.com

トゥール・ダルジャン
1582年、パリ・セーヌの岸辺から始まり、各国の王侯貴族が集う美食の館としてフランス料理の歴史と伝統を育んできた店。パリに本店を持つ。世界唯一の支店である「トゥールダルジャン東京店」はホテルニューオータニの中にある。

ガンザー症候群
人格障害と関連性のある症状。曖昧な受け答えや前後の文脈と関係のない的外れな話をしたりする。

【楽天ブックス】「千里眼 美由紀の正体(上)」「千里眼 美由紀の正体(下)」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
霊柩車の運転手を務める怜座彰光(れいざあきみつ)。その特異な職業とその周囲で起こった事件を物語にしている。

霊柩車の職業という普段接することのない人間を主人公にしているためにその周囲で起こる一般の人にとっては非日常的である日常的なことの描写のすべてが非常に新鮮で面白い。途中、やや現実離れした展開も見せるが、それはあとがきで作者も言及している通り、意図的なもののようだ。物語中で、死に近い場所で毎日生活しているからこそ至ったであろう考え方がしばしば出てきて、それがとても面白い。

私やきみは死と向きあって日々過ごしているが、世間の人々はちがう。ふだん、死というものを忘れている。すなわち、生というものすら意識しないんだ。

千里眼シリーズ、催眠シリーズ、マジシャンシリーズなど、終わり方を見るとこの怜座彰光(れいざあきみつ)の物語も続編へと続きそうな気配を持っていた。今回は第1作ということで、その特異な環境やその職業の社会との関わりだけに触れるだけで、とりたててしっかりとした筋や世の中を風刺した内容を伴っていなくても、ある程度読者を満足させることができたであろうが、自作からはしっかりとしたテーマが必要になってくるだろう。次作はその辺に注目して読んでみたい。

クリープ現象
アクセルを踏まなくても勝手に動き出す現象のこと。這い出し現象。オートマチック車にのみ起こる。これを防ぐためにはフットブレーキを踏んでおくか、サイドブレーキを引く必要がある。

【楽天ブックス】「霊柩車No.4」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
千里眼第2シリーズ第6作。ハローワークに職探しに現れた女性は「千里眼の水晶体」で自殺を図り行方不明となっていた西之原夕子(にしのはらゆうこ)であった。岬美由紀(みさきみゆき)は自己愛性人格障害と見られる夕子(ゆうこ)を救うべく奔走する

この物語の中では、基本的に「千里眼の水晶体」で、人格障害とみなされながらも犯罪に走り、結局、美由紀(みゆき)が救うことのできなかった夕子(ゆうこ)を中心として物語が進む。

第2シリーズも6作目になるが、第1シリーズのような深いテーマが未だに感じられない。個人個人の小さな精神的な苦痛を軽んじていいとは言わないが、社会に巣食った問題や矛盾に興味を覚える僕にとっては、やはり全体的に物足りなさを感じる。


フォールス・コンセンサス効果
自分の意見を根拠無く多数派だと思い込んでしまう心理的作用。

反動形成
好きなものを嫌いと言ってしまう心理的作用。

ブリッグ症候群
自分は汚くても他人の汚さは許せない心理。

【Amazon.co.jp】「千里眼 堕天使のメモリー」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
千里眼第2シリーズ第5作。氏神高校の体育館で爆発が起こった。そして爆発の後、生徒達は突然氏神高校国の設立を政府に向かって宣言する。

例によってやや現実離れしたストーリーである。学校という小さな面積と少ない人数で独立した国を作ろうとする生徒達の行動は、小さな国の成り立ちを見ているようだ。

インターネットを利用することで、土地が無くても頭脳で外貨を稼ぐことができ、国に役立つ情報や技術にはそれ相応の通貨を支払うなど、国民のモチベーションを上手く国へ還元させようとする。その一方で医療技術の進歩が遅れていれば、国民の生命を守るために、医療技術の進んだ他国に頼らざるを得ない。小国であるが故の長所と短所をこの題材の中でうまく表現している。

生徒達の知識が、高校生という設定にしては豊富すぎる印象もあるがこのへんの非現実感は千里眼シリーズだから描けるものなのだろう。そんな非現実なストーリーの中で発せられる疑問や台詞には現代の真実を的確に言い表したものもある。

実力行使こそが子供たちにとって唯一の対話法だったのよ。いつものらりくらりと問題から目をそむけてばかりの大人たちに対し、子供たしは発言の自由など感じてはいなかった。それで、どうあってもわたしたちが逃れられない状況をつくりだしてきた。

どんなに学のない大人であっても、中学生や高校生と比較すれば多くの知識を持っているのは当然である。それであるがゆえにその行動が正しくなかったり子供にとって納得の行かないものであったとしても言い争えば大人が勝ったり上手くはぐらかすことができるものである。それだけの理由で、大人には「自分たちのほうが正しい」という思い込み、子供には「大人は話しても無駄」という思い込みが生まれ、双方の溝は深まっていく。

いつか大人の立場になったとき、子供達の間に、そんな不都合な溝の生じない関係をつくれる大人になりたいものだ。


適応規制 私たちの心が、緊張や不安などの不快な感情をやわらげ、心理的な安定を保とうとする働き。

適応規制 合理化
一見もっともらしい理由をつけて、自分を正当化しようとする機制

適応規制 退行
たえがたい事態に直面したとき、発達の未熟な段階にあともどりして自分を守ろうとする機制

村八分
十分の交際のうち、葬式と火事の際の消火活動の二分以外は付き合わないという意味からとされ、のけ者にすることを「八分する」とも言われていた。十分のうちの八分は、「冠・婚礼・出産・病気・建築・水害・年忌・旅行」である。

【Amazon.co.jp】「千里眼の教室」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
4年ぶり2回目の読了。前作「千里眼 メフィストの逆襲」と2冊で一つの物語となっており、北朝鮮問題を題材とした物語の完結編である。岬美由紀(みさきみゆき)や蒲生誠(がもうまこと)は東京カウンセリングセンターの研修生となった謎の女性、李秀卿(リ・スギョン)を北朝鮮の工作員と疑って身辺警護する。

北朝鮮で生きてきた李秀卿(リ・スギョン)と美由紀(みゆき)は物語中で何度も言い争いをする。信じるものや育った環境によってどんなに理論的な会話を重ねようともお互いに理解することは難しいものだと感じさせるが、それを辛抱強く続けることによってそれは可能になるということもまた教えてくれる。

そして、物語中盤から、正体を現した李秀卿(リ・スギョン)によって、日本と北朝鮮の関係の中で多くの日本人が誤解している一つの真実の形を見せている。

日本国内の犯罪。だが、容疑者扱いされた外国の関係者はそれによって迷惑を被る。ところが、その疑いを晴らす機会を日本政府は外部の人間には与えない。それが結果的に非協力態勢を生む。相互の信頼関係を遠ざける。
日本も過去に嘆かわしい行為の数々をはたらいているだろう。アメリカと手を結び、アジアに強大な軍事力を展開させている。原子力発電所も数多く建設している。それらについては朝鮮民主主義人民共和国になんら事情を説明しようとしない。一方で、わが国が防衛のためにミサイル開発をしたり、発電所建設のために原子力の研究施設を築こうとすると、すぐに核ミサイルを配備するかもしれないといって喧嘩ごしになる。きみらは自分たちが正しく、わが国が間違っていると信じ込んでいる。
北朝鮮も紆余曲折を経て、近代化の波のなかで平和を維持しようとしつづける。内乱を防止するために人々に一つの統一された思想を持たせる。日本ではそれを”洗脳”と呼ぶ。だが彼らにとっては、それはひとつの平和維持のための手段だ。それが正しかったかどうかうかは、数十年後の歴史の判断に委ねられる

もちろんこの物語は松岡圭祐の作り出したフィクションなのだから、必ずしも真実が描かれているとは限らない、しかし、僕らが「真実」として受け止めていること。つまり、ニュースや新聞から得られる情報によって僕らが持っている北朝鮮に対する印象も、必ずしも真実とは限らないのである。北朝鮮に対する考え方を変えてくれる作品である。

チュチェ思想
北朝鮮のいわゆる「主体思想」。1960年代の中ソ対立の中で北朝鮮の自主性を守るために、金日成〔キムイルソン〕が打ち立てた。マルクス・レーニン主義を下敷きに、人間観、歴史観、領導論、自主路線政策、関係理論などを粗描したもの。

参考サイト
アメリカ大使館爆破事件(Wikipedia)

【Amazon.co.jp】「千里眼 岬美由紀」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
4年ぶり2回目の読了。「千里眼」第1シリーズ第5作である。「千里眼 ミドリの猿」と「千里眼 運命の暗示」では中国と日本の問題を題材に取り上げていたが、本作品では北朝鮮問題を題材に取り入れている。「千里眼 岬美由紀」と2冊で一つの物語を構成する。

物語冒頭では岬美由紀(みさきみゆき)の自衛隊時代のエピソードが描かれている。自衛隊という矛盾した存在を現場の目線で語っている。

軍人と同様の責務を求められながら、軍人であることを公に否定され、公務員であることを自覚せねばならない立場。そんな自衛隊員のアイデンティティの矛盾が、やがては有事の際にとりかえしのつかない失策につながるのではないか。
われわれはいったいなんのために存在するというのだ。自衛隊に先制攻撃が許されないのはわかる。が、防御のための応戦さえできないというのでは、存在意義がないではないか。自衛隊は文字通り、憲法上あいまいにされてきた解釈の泥沼にはまってしまっている。

物語途中から李秀卿(リ・スギョン)という北朝鮮工作員と疑われる女性が大きく関わってくる。李秀卿(リ・スギョン)と美由紀(みゆき)の議論は双方とも祖国の正当性を主張するもので、育った環境によってお互い理解することの難しさを見せてくれる。

日本人は、外国人がたどたどしい日本語でしゃべるというだけで、まるで知性が同等でないかのような錯覚を抱きやすい

拉致問題など、北朝鮮問題に興味を抱かずにはいられない作品である。

【Amazon.co.jp】「千里眼 メフィストの逆襲」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
4年ぶり2回目の読了。「千里眼」第1シリーズ第4作である。奥多摩の山中で行われていた自己啓発セミナーの参加者4,000人が人質に取られた。「千里眼」で凶悪なテロを画策し、「千里眼 運命の暗示」で死んだとされた友里佐知子(ゆうりさちこ)が企てた陰謀である。

世間で認識されているような、人を思いのまま操る”洗脳”は現実にはあり得ない。という立場に立ちながらも、4,000人ものセミナー参加者が抵抗も見せずに施設の中に人質として留まってしまった状況に、「洗脳」の存在を信じる世間に対して、美由紀(みゆき)や嵯峨敏哉(さがとしや)は心理学的立場から真実を探ろうとする。

世にはびこる凶悪事件について、その犯人を「異常」とか「洗脳された」という一言で片付け、それ以上理解しようとしない現在の世の中にに疑問を投げかけているのがこの物語のテーマと言えるだろう。

意識の変調を、異常とかおかしいのひとことで切り捨てていたんじゃ、進歩も発展もない。あの参加者のようなひとたちと理解しあえるときは、永遠にやってこない

どんな凶悪な犯罪者だろうと、そのような行為を働く過程、育った環境にその心を育む土壌があったはず。そんな考え方は普段の人間関係にも当てはめることができる。理解し難い行動に走る人、仲良くなることはできないかもしれないがその気持ちを理解することはできるかもしれない。

物語終盤では友里佐知子(ゆうりさちこ)と岬美由紀(みさきみゆき)が向き合って言い争う場面がある。決して知ることのできな人間の本質、生きる意味。お互いの信念を言葉にしてぶつけ合う、その台詞の数々はどれも心に響く。結局その人生に悲観するか希望を見出すかは本人次第なのである。そこに、間違っているとか正しいとかいうものはない。

ダッチロール
機体の傾きと機首の方向が左右に変化を繰り返し、進行方向が安定しなくなる現象。

メソッド演技
せりふを抑揚で意味づけしたり、外見の動きで演技を説明したりせず、内面的な心を大切にする演技技法。

レム睡眠
浅い眠りを指す。体の骨格筋は弛緩状態だが、脳は覚醒に近い状態で活動し、まぶたの下で目がキョロキョロと動き、「体は眠っているのに脳は起きている」という状態。一般的には、入眠してから最初のレム睡眠出現までは60〜120分。その後、ノンレム睡眠とレム睡眠をおよそ90分周期で繰り返す。ちなみに、夢を見るのはたいていこのレム睡眠のときが多い。

ノンレム睡眠
いわゆる深い眠りを指す。脳の温度は下がり、体は弛緩して心拍のテンポも遅くなり、眼球は上転してほとんど動かない、「脳も体も休んでいる」状態。さらにノンレム睡眠にも深い時期と浅い時期がある。このノンレム睡眠の深さは睡眠の質とも関係しており、熟睡感に影響すると考えられている。

ブランチ・ダビディアン事件
1993年、アメリカ・テキサス州ウェイコで起きた、宗教団体ブランチ・ダビディアン(Branch Davidian)による武装立て籠もり、および集団自殺事件。ただし、『自殺』という見方には異議・疑問も呈されている。

人民寺院
牧師ジム・ジョーンズが創設した宗教団体。もともとはアメリカ合衆国インディアナ州に存在した団体であったが、反社会的なカルト宗教として急成長。南米・ガイアナのジョーンズタウンに自給自足のコミュニティを作ったが、1978年11月18日、ジム・ジョーンズを含む900人以上が集団自殺。そのうちの300人以上が他殺だった。

参考サイト
日本航空350便墜落事故(Wikipedia)
羽田沖日航機墜落事故体験記
人民寺院事件/信者900人の集団自殺事件人民寺院事件/信者900人の集団自殺事件
御船千鶴子(Wikipedia)

【Amazon.co.jp】「千里眼 洗脳試験」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
4年ぶり2回目の読了。「千里眼」第1シリーズ第3作である。前作「ミドリの猿」の続編。岬美由紀(みさきみゆき)と嵯峨敏也(さがとしや)、そして刑事の蒲生誠(がもうまこと)は日本への宣戦布告間近の中国奥地に降り立つ。

集団マインドコントロールを行っているメフィストコンサルティングのトリックに迫っていく。フィクションということで、深く考えずにその手法は「可能」と受け止めて読み進めるしかないが、美由紀(みゆき)の解決手段は読者に大きな驚きを与えてくれるだろう。

プラシーボ効果
あなたの病気を治す薬だと何の薬利作用も無い錠剤を与え、その人の病気が治癒、または改善する事。

ジャイロ効果
回転体(自転車の場合は車輪)が角運動量を保存しようとする働きで、回転体の回転数および質量が大きいほど効果が大きい。日常的に触れているジャイロ効果としては、自転車の車輪などが挙げられる。

【Amazon.co.jp】「千里眼 運命の暗示」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
4年ぶり2回目の読了。「千里眼」第1シリーズ第2作である。岬美由紀(みさきみゆき)がODA査察中に戦火に巻き込まれているアフリカの子供を救ったことが、中国の対日感情を悪化させ、開戦の気運を高める。追われる身となった美由紀は、同様に追われている立場で優秀なカウンセラーの嵯峨敏也(さがとしや)と出会う。

第1シリーズ第2作である本作品は、第3作の「千里眼 運命の暗示」とあわせて一つの話を形成している。本作品は「催眠」シリーズと「千里眼」シリーズの世界が交わる作品である。この作品では、美由紀(みゆき)と嵯峨(さが)の周囲の奇妙な出来事の謎を、倉石勝正(くらいしかつまさ)というベテランのカウンセラーを加えた3人で解いていく。

読み進めていくうちに「催眠」というものに対する世間一般的な誤解と、正しい解釈をわずかであるが知ることができるだろう。人を意のままに操るなど不可能ということを繰り返しながら、それを可能にしている陰謀の真相に迫っていく。本作品は次作「千里眼 運命の暗示」の序章といった感じである。

クロム
原子番号24の元素。元素記号はCr。金属としての利用は、光沢があること、固いこと、耐食性があることを利用するクロムめっきとしての用途が大きい。また、鉄とニッケルと10.5%以上のクロムを含む合金(フェロクロム)はステンレス鋼と呼ぶ。

アンチモン
原子番号51の元素。元素記号はSb。アンチモン化合物は古代より顔料(化粧品)として利用され、最古のものでは有史前のアフリカで利用されていた痕跡が残っている。

公安調査庁
破壊活動防止法や無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律に基づき、日本に対する治安・安全保障上の脅威に関する情報収集(諜報活動)を行う組織。

ガムラン
東南アジア・インドネシア・ジャワ島中部の伝統芸能であるカラウィタンで使われる楽器の総称。

ナルコレプシー
日中において場所や状況を選ばず起きる強い眠気の発作を主な症状とする精神疾患(睡眠障害)である。笑う、怒るなどの感情変化が誘因となる情動脱力発作(カタプレキシー)を伴う人が多い。入眠時もしくは起床時の金縛り・幻覚・幻聴の経験がある人も多い。夜間は頻回の中途覚醒や、幻覚や金縛りを体験するなど、むしろ不眠となる。1日の睡眠時間の合計は健常者とほとんど変わらない。

ヒエロニムス・ボス
ルネサンス期のネーデルラント(フランドル)の画家。

【Amazon.co.jp】「千里眼 ミドリの猿」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
自衛隊の航空祭で最新ヘリが盗まれた。六本木にそびえるミッドタウンタワーには毎晩侵入者が現れる。中国大使館の敷地で企てられた陰謀に岬美由紀(みさきみゆき)が挑む。

今回も話題のオープン間近のミッドタウンを舞台に設定しており、最近の話題や社会問題を物語に取り入れようとしている姿勢が松岡圭祐らしい。山場の一つとなるギャンブルのカードゲーム「愛新覚羅」は物語を盛り上げ、同時に中国の歴史にまで興味を向けさせてくれる。また、そんな知識欲を刺激する内容以外で、本作品の中で印象的だったのが、岬美由紀(みさきみゆき)、雪村藍(ゆきむらあい)、高遠由愛香(たかとおゆめか)という、一見どこにでもいるような女性の仲良し三人組の人間関係についての描写である。

「友人同士らしい、由愛香(ゆめか)はいつも、藍(あい)を見下した態度でからかっている。」 ふたりの関係はその指摘とは逆に見えた。からかっているのはむしろ藍(あい)のほうだ。由愛香(ゆめか)のセレブ気取りを内心で嘲笑している。藍はときおり、その態度をあからさまにちらつかせるが、由愛香(ゆめか)のほうはそれを皮肉と気付かず、ますますのぼせあがるといった図式だ。

高遠由愛香(たかとおゆめか)は精神的に追い詰められて、美由紀(みゆき)に本音をぶつける。

そもそもあなたと付き合っていること時代、わたしにとっちゃ高級車を持ってるのと同じことだったの。クルマなんて走りゃいいけど、だからといって軽自動車じゃ世の中になめられるでしょ。岬美由紀(みさきみゆき)と友人だってうそぶいて、ずいぶん社交や取引で役に立ったわ。でも本心ではあなたって人、嫌い。

人間関係は必ず双方によってなんらかのメリットがあってこそ成り立つもの。それは僕自身が常々思っていることであるが、世間の人は「無償の愛」が存在すると考えたがり(もちろん「無償」が「金銭的のやり取りのない」を意味するのであればそれは存在するのだが)、この事実を認めたがらないようだ。本作品では美由紀(みゆき)の友人である高遠由愛香(たかとおゆめか)がそれをはっきりと表現しており、もちろんそれは世間一般的には受け入れられ難い行動なのだろうが、僕はその潔さは逆に良い印象を受けた。

光岡自動車
富山県に本拠地を持つ、日本第10番目の自動車メーカー。

ウィーン条約
ウィーン条約と呼ばれているものは多いが、国際法上最も重要かつ基本的なものが「外交関係に関するウィーン条約」である。1961年にウィーンで開かれた外交関係会議で採択された多国間条約で、53条から成り、外交関係の開設、外交使節団の派遣と接受、外交特権や免除など外交に関する諸問題を規定。外交特権では公館や公文書の不可侵や、外交官がいかなる方法でも抑留、拘禁されないことなどを定めている。

セルフ・ハンディキャッピング
失敗したときにその原因が自分の能力や意欲にあることがはっきりすると自尊心が傷ついてしまう。それを避けるために、あらかじめ自分自身にハンディキャップをつけて自尊心を守ること。

【Amazon.co.jp】「千里眼 ミッドタウンタワーの迷宮」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
旧日本軍の生物化学兵器、冠摩(かんま)が温暖化によって猛威を振るいだした。岬美由紀(みさきみゆき)の友人、雪村藍(ゆきむらあい)もそのウイルスに感染され命の危険にさらされる。

地球温暖化と極度の潔癖症という現代の社会が生む問題を重要な鍵として物語を展開している。

「最近じゃ東北地方も含めて真夏には四十度前後に達する地域も増えた。水温が上がって水蒸気となる回数の寮が増え、スコールを思わせる豪雨が降って洪水を引き起こす。このところ上野公園ではジャージャーというクマゼミの鳴き声が聞こえるが、ああいう南方原産の虫も、以前なら関東で生きられるはずはなかった」
「八王子の高尾山にもツマグロヒョウモンという蝶が飛んでいる。熱帯魚のクマノミは本州では産卵しないと言われていたが、いまでは相模湾で繁殖している」

悪意と罪に対する社会の対処の仕方について深く考えさせられる。物語中では小さな悪意が結果的に、ウイルスを広めて人々を恐怖に追いやることとなるのだが、小さな悪意が、その人の思惑以上に多くの人に被害を与える結果になった場合、その罪と責任はどこにあるべきなのだろうか。

本当に不幸なのは誰なのか知ってんの?わたしがどれだけ孤独な人生を歩んできたか、知りもしないくせに。

世の中の多くの犯罪者は、現代の社会が生み出した犠牲者なのである。しかし、昨今増え続ける凶悪犯罪に対して、その犯罪者を裁判にかけて、被害者と世間を納得させるだけ。決して凶悪犯罪が減っているとは思えない。本当に目を向けるべき場所は他にあるのだということをみんな気付いているはずだ。

【Amazon.co.jp】「千里眼の水晶体」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本企業の株価が一斉に値を下げ、岬美由紀(みさきみゆき)の元には航空自衛隊の幹部から、「目に見えないミサイルが日本を狙っている」という情報が入る。そんな中で美由紀(みゆき)は拉致され、奇妙な街、ファントムクォーターへ送り込まれる。

ワンセグやHDDレコーダーなど最新機器をトリックに取り入れており、それ以外にも多くの物事に興味を引き起こす要素に事欠かない。そしてラストは目に見えないトマホークを防ぐために美由紀が奔走する。前シリーズに比べやや大人しい印象を受けたのは前作と変わらないが、そんな中、早くも話の展開に現実離れした感覚を覚えた。

トマホーク
水上艦艇や潜水艦から発射可能な長距離巡航ミサイル。有人攻撃・爆撃機を危険にさらすことなく、敵地深くの戦略目標に攻撃を行う精密誘導陸上攻撃兵器。速度は最大でマッハ0.75と、ロケット推進のミサイルマッハ2以上で飛行するのに比べて遅いが射程は1000kmを超える。小型で、低空を飛行するため、戦闘機や地対空ミサイルで迎撃するのは難しい。

マトリョーシカ
ロシアの代表的な民芸品の一つ。木製の人形で、胴の部分で上下に二分され中から同形の小さな人形がいくつも出てくる入れ子式の構造になっている。この構造から子孫繁栄や開運の象徴として親しまれている。名前の由来はロシア女性の名前、マトリョーニャから。

【Amazon.co.jp】「千里眼 ファントム・クォーター」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
小学館文庫で刊行されていた千里眼シリーズの続編という位置づけではなく、新たなシリーズとなっている。過去十二作を刊行する際に7年の月日が経ち、その間、心理学の分野にも考え方もまた少し変わってきたことがその理由であると。著者の松岡圭祐があとがきで書いている。

物語は主人公の岬美由紀(みさきみゆき)が自衛隊を除隊して、臨床心理士を目指すところから始まる。飛行機の墜落をもくろむ犯人の計画を防ぐことがメインとなって展開し、美由紀の恋愛にまで触れるところが今回は新鮮である。また航空機の構造やそれを墜落させる難しさに触れているが、基本的には心理学に関する内容が多い。

松岡圭祐が本作品のあとがきで書いているように、前シリーズよりも真実に近い形にすることを重視したせいか、少し大人しい印象も受ける。とはいえ前シリーズはやや行き過ぎな印象もかなり多くそのたびに興ざめすることもあったのでこれからの展開に期待したいところである。岬美由紀(みさきみゆき)の知識や頭の回転の速さは前シリーズと変わらず大きな刺激を与えてくれることだろう。(もちろん空想の人物であるがゆえにできることではあるのだが)

意味飽和
同一の単語を繰り返し見たり読んだりしているとき、一時的にその言葉の意味が曖昧になったり思い出せなくなったりする現象。

適応機制
緊張や不安などの不快な感情をやわらげ、心理的な安定を保とうとする働き。適応機制の種類にはつぎのようなものがある。

 代償・・・欲求が満たされないとき、似通った別のもので満足しようとする機制
 同一化・・自分にない名声や権威に近づくことによって、自らの価値を高めようとする機制
 合理化・・もっともらしい理由をつけて、自分を正当化しようとする機制
 逃避・・・直面している苦しく辛い現実から逃避することにより安定を求める機制
 抑圧・・・実現困難な欲求を心の中におさえこんでしまう機制
 退行・・・耐え難い事態に直面したとき、発達の未熟な段階にあともどりして自分を守ろうとする機制
 攻撃・・・他人や物を傷つけるなどして、欲求不満を解消しようとする機制

【Amazon.co.jp】「千里眼 TheStart」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ゲームメーカーフォレストの人気ゲームである「シティ・エクスパンダー4」をプレーした小学生が、黒いコートの男の幻覚を見るという事件が全国に拡大した。フォレストの社長である桐生直人(きりゅうなおと)を含めた各分野の専門家たちが真相解明へと動き出す。

物語は2001年に発刊された「バグ」の改訂版である。かなりの部分に加筆されているとは言え、一度「バグ」を読んでいる人にはある程度展開に予想がつくかもしれない。

音声認識アプリケーション、ポリゴン、テクスチャーなど、最先端ではないが、CG技術の発展したゲーム業界で用いられる言葉を多く物語中に取り入れて展開していく。個人的にはゲームプログラマーが音声認識アプリケーションなど使うのかという疑問はあるのだが、それ以外にも「2ちゃんねる」ならぬ「Nちゃんねる」、「ミクシィ」ならぬ「メクシィ」、ライブドア粉飾決算などニュースをいち早く物語の中に取り入れるあたりはさすが松岡圭祐という印象を受けた。

ゲームの中で「死」という表現を用いないことをポリシーとする桐生直人(きりゅうなおと)とそれに対する意見も興味深く、また一つ僕の中にテーマを植えつけてくれた。

死という概念がない世界では、人間はどうなると思うかね?釣り人が釣った魚をまた川に逃がすことでヒューマニストをきどったりするが、私にいわせればそのほうが残酷趣味だよ。逃がされた魚はまた釣られる運命にある。一生、人間さまにもてあそばれる

最終的には「水の通う回路」という言葉についても理解できることだろう。ただ、松岡作品に時々感じられる「突飛すぎる展開」をこの作品でも感じてしまった。数年前に「バグ」を読んでおり、そのときもやや強引な印象を受け、今回大幅に加筆されたというのでその辺りの改善を期待していたのだが、相変わらずやや強引な印象を受けた。

光感受性発作
光源癇癪ともいい、通常、大脳の異常から、激しく点滅する光の刺激を受けると、痙攣などの発作が誘発される癇癪とされ、テレビ画面などの閃光や点滅(1秒間に10回程度点滅する赤い光のような強い刺激)を直視すると既往歴のない人でも発作が起こる「光感受性反応」(PPS)が原因で、4000人に1人に発祥する。

トリクロロエチレン
無色透明の液体でクロロホルムに似た匂いを有し、揮発性、不燃性、水に難溶。ドライクリーニングのシミ抜き、金属・機械等の脱脂洗浄剤等に使われるなど洗浄剤・溶剤として優れている反面、環境中に排出されても安定で、地下水汚染の原因物質となっている。

アタリショック
ゲームソフトの供給過剰や粗製濫造により、ユーザーがゲームに対する興味を急速に失い、市場需要および市場規模が急激に縮退する現象を指す。

マキャベリスト
目的達成のために手段を選ばない人のこと。15世紀末から16世紀初頭に活躍したイタリアの外交官マキャベリが「君主論」の中で述べた政治思想。

サージ
短い時間、過電圧の状態になること。

【Amazon.co.jp】「バリアセグメント 水の通う回路[完全版]」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
岬美由紀(みさきみゆき)の活躍する千里眼シリーズ。「千里眼」でテロを実行した友里佐知子(ゆうりさちこ)の後継者である鬼芭阿諛子(きばあゆこ)が能登の白紅神社で宮司を務めているという。能登に急行した美由紀は、恐るべき内容が綴られた友里(ゆうり)の生涯を記録した日記を入手する。

物語の大半が友里佐知子(ゆうりさちこ)の日記で占められていて若干本編の内容に物足りなさを覚えた。それでも友里(ゆうり)の日記には波乱万丈な人生とともに共産主義の理想国家をつくるために揺れ動く考え方などが描かれていて、「全共闘」やよど号ハイジャック事件をリアルタイムで知らない僕等の世代には新鮮かつ刺激的でページをめくっていて飽きさせることがない。

そして相変わらず能力を持ったことによって悩む美由紀(みゆき)の考え方やその葛藤も今後の展開を楽しみにさせてくれる。

真の意味での千里眼は存在しない。だから人は、心を通わそうと努力する。理解しあおうと人を思いやる。そこに人の温かさがある。人の心が見えないからこそ、人に優しくなれるのだろう。

次回作にまた期待する。

コリオリの力
地球は自転しているため、北極点上空から見ると反時計回り、南極点上空から見ると時計回りに回っている。そのため、北半球では右向き、南半球では左向きのコリオリの力が働く。地球が(ほぼ)球体のため、その大きさは緯度によって異なる。そのため、大砲やロケットなどの弾道計算にはコリオリの力による補正が必要である。台風が北半球で反時計回りの渦を巻くのは、風が中心に向かって進む際にコリオリの力を受けるためである。また、大気だけでなく、海流の運動もコリオリの力の影響を受けている。

全共闘
全学共闘会議の略称。大学の学生自治会の全国連合組織が「全学連(全国大学自治会総連合)」であるが、それとは異なり、基本的には、70年安保闘争あるいは、個別大学闘争勝利のために、学部やセクトを越えた連合体として各大学に作られたのもの。

リストラ
事業再編成(リストラクチャリング Restructuring)に由来する略語。現在では解雇の意味で用いるのが通常となっている。

【Amazon.co.jp】「千里眼 背徳のシンデレラ(上)」「千里眼 背徳のシンデレラ(下)」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
史上最大のIT企業が設置した”48番目の都道府県"萩原県。そこはニートと呼ばれる無職の人々や失業者たちが、生活費も支給されながら暮らす最先端の福祉都市である。

ところが住民たちは悪夢にうなされて臨床心理士への相談を希望する。そんな舞台の上で、「蒼い瞳とニュアージュ」の主人公であり、萩原県で生活する一ノ瀬恵梨香(いちのせえりか)と、千里眼シリーズの主人公であり、「千里眼 トランス・オブ・ウォー」の話の後にイラクから帰国したばかりの岬美由紀(みさきみゆき)の人生が重なるという、松岡作品ファンにとっては待ちに待った作品だったのではないだろうか。

物語は、主人公クラスの二人が活躍するという内容ではなく、どちらかというと主役の座は美由紀(みゆき)に譲り、恵梨香(えりか)は自分の生き方に迷い、時に投げやりな姿勢が印象に残る。

美由紀(みゆき)は相変わらず、読者の誰もが憧れるような行動力と聡明さを併せ持ちながらも完璧な女性であり続けるわけではなく、誰もが味わいそうな悩みや葛藤を見せるところがまた読者のヒロインであり続ける要素なのであろう。

イラクで過ごした日々は、あまりにもわたしの視野を大きくしすぎた。たとえ相談者でなくとも、目の前にいる人に苦痛を与えておいてカウンセラーといえるのだろうか。多数が少数に優先するという考えは、自衛隊を辞したときに捨てたはずなのに。

物語全体としては、美由紀(みゆき)と恵梨香(えりか)が出会うこと意外は今までの松岡作品と比べて目新しいことも、感動する場面もないように思えた。ニッポン放送株買収問題で脚光を浴びたライブドア、2000年に発覚した藤村真一氏の遺跡捏造事件など、社会の出来事を上手く素材として物語に取り入れようとするあまり、内容が薄くなってしまったように感じる。次回作品に期待する。

モノマニアック
幼少の頃の偏執的な性格を残し、他人を所有物で判断する傾向のある人格のこと

【Amazon.co.jp】「千里眼とニュアージュ(上)」「千里眼とニュアージュ(下)」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
松岡圭祐の「催眠」シリーズの第三弾であり、嵯峨敏也(さがとしや)を主人公とする物語である。

響野由佳里(ひびのゆかり)は、児童にピアノを自由に弾かせることで、その児童と心で会話することができる。そのような考えを基に教育を行い続けた結果、文部科学賞から表賞されるに至った。そして同じ日、由佳里(ゆかり)が外出中に、息子の巽(たつみ、娘の麻里(まり)を含む家族4人が13才の少年によって残殺された。少年法によって刑罰の科せられない少年に対して、由佳里(ゆかり)の心には復讐の気持ちが膨らみはじめる。

聴覚に著しい才能に恵まれたが故に、悩み、葛藤するが由佳里(ゆかり)の考えは新鮮である。

才能が人との壁をつくる。たとえ肉親が相手であっても。そのことは否定できない。才能とともにうまれたことを呪うか、生きる希望にかえていくかは、自分次第なのだ。

嵯峨(さが)は復讐の念に捕われた由佳里(ゆかり)を責めるでもなく、心を救おうとするのである。

この物語を通じて考えさせられたのは13歳以下の少年へは刑罰の対象としない現行の少年法への疑問である。インターネットの普及という情報社会の波の中で、犯罪が低年齢化するのは誰にも疑いのないものである。それに対して法律がどのように犯罪を抑制する方向に働くのか、一歩間違えば14歳以下の犯罪を助長することにもなりかねない。今後の動向を気にかけていきたいと思った。

脅迫神経症
手を何度も洗ってしまったり、火の元の確認を何度もしてしまったり、一つの事に捕らわれてしまったりするなど、自分でも一見すれば「ばかばかしい事」だと解っていながらも、その観念や思考、行動などを繰り返してしまい、その事で苦しんでしまう症状。

ミュンヒハウゼン症候群
他者から注目されたいために病気などの症状を作り上げ病院などに行ったりする行動を生ずるケースのこと。一方で、子どもを代理にして生ずるケースもある、つまり、もともと何の健康上の問題もない子どもに病気をでっちあげ、そしてそれを深刻化させ、「子どもを懸命に看護するやさしい親」「不幸な親」を演じ、他者から同情などを集めようとすること。

犯罪被害給付制度
大きく3種類に分類され、それぞれ次のようなもの
・遺族給付金
下記の人のうち、第一順位遺族となる遺族(順位は)番号順に支給されます。
1 配偶者、2 子、3 父母、4 孫、5 祖父母、6 兄弟姉妹
・重傷病給付金
重傷病を負った被害者本人に3か月を限度として、保険診療による医療費の被害者負担額が支給される。
・障害給付金
障害が残った被害者本人に支給されます。

分離不安
分離不安とは、幼い子供が、親が自分を置いてどこかへ行ってしまうのではないかという恐れを抱くこと。

【Amazon.co.jp】「カウンセラー」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
松岡圭祐の「催眠」シリーズの第二弾であり、時間軸から見ると「催眠」の物語の数年前の出来事となる。

嵯峨敏也(さがとしや)はあるとき謎の女から電話を受け、伝言を頼まれる。

「木村絵美子(きむらえみこ)に深崎透(ふかざきとおる)のことを忘れるように伝えてちょうだい」

聞いたことのない名前を突然指示されて嵯峨(さが)は戸惑いながらも、真実を知ろうとする。

一方で、神経症を患っている木村絵美子(きむらえみこ)はカウンセラーの深崎透(ふかざきとおる)と再会し、同時に神経症の治療も再開することとなる。

カウンセラーと相談者との恋愛というタブーに触れながら、それを爽やかな作品に仕上げられている。嵯峨敏也(さがとしや)は語り手として登場するのみであるが、彼の視点なくしては物語のテーマは成立しない。

彼は優れたカウンセラーだったといえるのだろうか。それとも、たんなる恋に溺れた利己的な人物に過ぎなかったのか。

そしてラストは驚きと感動の結末である。松岡作品には珍しく、読むのに半日もかからない薄さで、一読しても決して後悔することはないだろう。

アダルトチャイルド
成長過程で、親や養育者に愛されなかった、虐待された、または親の不在で早くから大人としての責任を負わなければならなかった、などの理由で愛し方、愛され方がわからないまま育ってしまった人のこと。

インナーチャイルド
失われた子供時代に本当はいるはずだった自分であり、本来の自分の姿だと言える。インナーチャイルドとの出会いは、本来の自分を知るきっかけとして、また自分との語らいの手段として非常に大切なもので、子供時代の自分に出会いたいと願い、静かに瞑想する事によってインナーチャイルドと出会える場合が多いらしい。

【Amazon.co.jp】「後催眠」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
松岡圭祐の「催眠」シリーズの第一弾である。
ニセ催眠術師としてテレビなどに出演して生活していた実相寺則之(じっそうじのりゆき)の前にある日、奇妙な女性、入絵由香(いりえゆか)が現れた。その女性は突如、「ワタシハウチュウジンデス」と語りだし、予知能力も備えていた。そのため実相寺は彼女を占いの館の目玉として売り出すことにした。そして、にわかに世間から注目され始めた由香(ゆか)をテレビで見かけた嵯峨敏也(さがとしや)は彼女への接触を図ることになる。

以前より興味を持っていた「多重人格障害(解離性同一性障害)」という症状について理解を深めたいと思ったのだが、その点については若干掘り下げが浅いように感じた。しかし、それでも新たな知識を充分なまでに提供してくれる。

物語は嵯峨と由香とのやりとりの中で、由香がこのような精神病に至った原因を究明し、解決しようということがメインに進む。そして、嵯峨は入絵由香(いりえゆか)と接することで、今の世の中の家族の形の難しい問題とも言える部分に気づく。

入絵由香の両親は離婚してはいない。両親もいるし帰る家もあるのだから恵まれているように見える。しかし、本当は違っていた。彼女は孤独だった。もっと親の愛情を欲していた。店や仕事なんかより、自分をかまってくれる両親を欲していた。

さらに物語終盤で、嵯峨(さが)は精神病に対する現代の世間の冷たさに問題があることも訴える。

自分が正常であることを再確認したがる心理がはたらき、自分と精神病の人とのあいだに明確な線引きをもとめたがり、差別的な衝動が生じることもあるでしょう。それは現代人ならだれでも持ち合わせている欠点です。しかしその欠点を認め、正しい認識を得る努力をする前に、目を背けてしまう人が多すぎるんです。

少なからず心に響く言葉である。

物語の中で催眠効果が世の中のいたるところに存在していることが述べられている。例えばパチンコに熱中する人が存在するのは、パチンコの仕組みの中に催眠効果を取り入れていることによるものであり、パチンコに熱中するかしないかはその人が生まれ持った被催眠性の強弱によるものだという。読み進めていくうちに、世の中の多く人に対して「悪いのは人間ではなく社会なのだから、そのことで悩んでいる人を救わなければならない」そんなメッセージが込められているように感じる。

そうやって理解するなら、僕の嫌いなタバコもCMによる暗示と依存のせいであるから、被催眠性の強い人が一方的に「意志の弱い人」として世間から攻められるのはおかしい。ということになる。僕自身はこの本を読んでも、やはり「意志の力でなんとかできるはずだ」と主張したい。この辺り、被催眠性が弱いせいで、「自分は意志が強い」と思いこんでいる僕の身勝手な部分なのかもしれない。

しかし、だとしたら一体誰を責めればいいのだろう、何を変えればいいのだろう。大きな命題を突きつけられても答えは見つからない。自分なりの答えを見つけたときにまた一つ成長するのかな。

主人公の嵯峨敏也(さがとしや)は後に千里眼シリーズで岬美由紀(みさきみゆき)と行動を共にすることになるが本作はその松岡ワールドの最初の作品である。

フーグ(遁走)
精神医学用語で、恐怖や強いショックに反応して現実社会からの逃避を起こすこと。場合によっては意識を失ってしまうなどの症状も見られ、多重人格障害で人格が交代するきっかけとしてしばしば報告されている。

【Amazon.co.jp】「催眠―Hypnosis」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マジックだけを唯一の趣味とする少年、椎橋彬(しいばしあきら)は15才のとき、世の中にも両親にも絶望したて家を飛び出すことになった。そして椎橋(しいばし)は生きるために年齢を偽り、唯一の趣味を生かして悪事に手を染めていく。

タイトルの通り「マジシャン」の続編である。「マジシャン」で天才マジック少女として登場した里見沙希(さとみさき)は椎橋を追う舛城(ますじょう)警部補の協力者として登場するが、残念ながら見せ場はあまり多くはない。この物語の中では、椎橋(しいばし)の社会や大人への嫌悪、次第に孤独を深めることに対する心の葛藤や、それを追跡する舛城(ますじょう)の同行に多くのページが割かれている。

椎橋(しいばし)は社会から認められないことの原因を、理解力のない大人のせいだと解釈することで自身を正当化する。

世の中は矛盾だらけだ。偽善がはびこり、資本主義が人々の心をくさらせていく。それなあら、反旗を翻す人間がひとりぐらいいてもいいだろう。

彼の家庭環境が、歪んだモノの見方を作り出したことが痛ましい。

やはり大人は裏切り者だ。情がある振りをして、歩み寄ってきて手を差し伸べるそぶりをしては、その手を払いのけて子供を沼のなかにたたきこむ。そして嘲笑う。

椎橋(しいばし)の世の中に対する敵意は、世の中で葛藤を繰り返しながら生きている多くの人に、多少なりとも共感できるものではないだろうか。そして、そんな人には舛城(ますじょう)が椎橋(しいばし)言う言葉が強く胸に響くに違いない。

「世間のルールもあれば、自分のルールもある。どちらに従うかは自分で決めろ。世間には受け入れられないことでも、それを承知で曲げたくなることもある。そのとき、自分のなかにある判断を仰ぐんだよ。自分にとってのルールでだ。それが正しいかどうか。自分の胸に聞くってことだ。

この物語は、椎橋(しいばし)と真っ正面から向き合う舛城(ますじょう)の行動を通じて、読者の生き方まで考えさせられる作品に仕上がっていると感じた。

FISM
FEDERATION INTERNATIONALE DES SOCIETIES MAGIQUES(マジック協会国際連合)の略称でFISM(フィズム)と呼ぶ。3年に1度ヨーロッパで行われ、参加国30ヶ国以上、世界中のマジシャンやマジックショップが参加する世界最大のマジックコンベンション。

エルムズレイカウント
マジックのテクニックの一つ。右手に持ったパケットを1枚ずつ4枚を数え取った様に見せる テクニックだが、実際は観客に特定の位置のカードを見せない方法。

検察官送致
死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、家庭裁判所が刑事処分相当と判断した場合の措置で、送致を受けた検察官により刑事裁判手続に移行される。検察官から家庭裁判所に送致する場合と対比して、これを一般に「逆送」という。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
千里眼シリーズ。岬美由紀(みさきみゆき)が活躍する物語である。
混乱の続くイラクで日本人4名が人質に取られるという事件が発生。人質のPTSDを考慮した政府は元自衛官であり臨床心理士の美由紀(みゆき)を派遣することとなった。ところが、人質の救出のために行動した美由紀(みゆき)はイスラム教シーア派の部族アル=ベベイルと行動を共にすることになる。混乱の続くイラクの中で美由紀(みゆき)は戦争の無意味さを訴える。

この作品でも全作「test」と同様。美由紀(みゆき)の自衛隊訓練時代の回想シーンが含まれている。両親との突然の別れ。救難ヘリのパイロットになるための訓練の様子が描かれていて、美由紀(みゆき)の過去がまた少し明らかになる。

毎度のことながら美由紀の生き方、考え方には少なからず影響を受ける。

自分は冷静だっただろうか。だが、現在に至っても後悔の念は湧いてこない。運命などというものがあるとは信じたくないが、人生における選択の結果をそう呼ぶのだとすれば、あれはまさしく自分にとって運命づけられていたことだったのだろう。
ひとりだけ安全な場所に逃れて、ただ悲嘆に暮れてはるか遠くの戦場に同情を寄せる、それで平和に貢献した気分に浸る。そんな毎日は送りたくない。人にとって罪なのは、なによりも自分自身を欺くことだ。

残念ながら美由紀(みゆき)のような勇気と行動力を現在の僕は持ち合わせていないが自分自身を欺かない生き方は続けていきたいと思った。

そして美由紀(みゆき)が行動を共にするイラク人に語る言葉の中に日本人として誇るべき一端を見つけた。

「あなたたちが日本に学ぶべきは、終戦後の第二の戦争よ。焼け野原になった国土に放り出された人々が、復興に全力で取りかかり、半世紀後には世界で最も豊かな国のひとつになり得た。戦いはいつの時代にもある。でも戦う相手を間違っていれば、国を滅ぼす。真の戦いは、いつも自分たちのなかにある」

物語の中で、美由紀(みゆき)はタイトルでもある「トランス・オブ・ウォー」について、常に理性を保つことが大切だと訴え、それが戦場で殺戮を繰り返さないための第一歩と説くき続ける。しかし、それが普通の人間ならば不可能に近いことも同時に教えてくれるのだ。

感情的にならずに理性を保つ。常に僕自身こころがけているつもりだがどんな状況においてもそれを保てるかと尋ねられれば全く自信がない。日々意識するしかないのだろう。

この物語はフィクションであるが、イラク国内だけでなくアメリカという国、そしてブッシュ大統領という人間についても作者の考えが強く主張されている。きっと、部分部分は真実なのだろう。曲げられる報道、アメリカよりの物の見方をせざるをえない日本という国に生きて、一人一人が溢れた情報の中から真実を見つける努力をしなければならないということだ。

ちなみに、この作品によって松岡圭祐の他の作品である「test」と世界が繋がることとなる。今後の松岡ワールドの広がりにも大いに興味を喚起させる作品である。

ナジャフ
バグダッドの南約160km、ユーフラテス川西岸に位置し、シーア派の最大分派である12イマーム派の聖地とされている。同時に宗教を越えた様々な学問の中心地としての発展ももたらした。そこは、イラクにおける民族主義や世俗主義に関わる多くの思想や政治運動の発祥地でもある。ナジャフを、「シーア派」という観点からのみ捉えることは決して現実的ではない。今後のイラク全体の政治的な主張や運動に、ナジャフが果たす役割はより広く大きなものとなる可能性も存在する。

カーバ神殿
サウジアラビアのイスラム教の聖地メッカにある大モスク(イスラム教の寺院)の中央にあり、石造で高さ15メートルの立方体の建物である。コーランの言葉を刺繍した黒い布で覆われている。東隅の壁の下に神聖視された黒石がはめ込まれている。イスラム暦の12月には世界中から多くの巡礼者が集まる。

クルド人
トルコとイラク、イラン、シリアの国境地帯に跨って住む中東の先住民族で、人口は約3000万人と言われている。 19世紀から自治や独立を求める闘争を続けており、現在でもトルコやイラク、イランで様々な政治組織が独立や自治を求める戦いを続けている。

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オススメ度 ★★★★★ 5/5
千里眼シリーズ。岬美由紀(みさきみゆき)のストーリー。今回は美由紀(みゆき)の航空自衛隊時代の先輩であり恋人でもあった伊吹直哉(いぶきなおや)一等空尉が訓練中に誤って基地内に進入して標的の中に隠れていた少年、篠海悠平(しのみゆうへい)を誤射してしまったことから始る。

前作「千里眼の死角」で若干ストーリーの設定的に行き過ぎた感があったため、このシリーズをしばらく手に取ることを憚(はばか)られていたが、結局番外編を除いた千里眼シリーズをすべて順番どおりに読破していることとなる。

そんなシリーズの中で、この作品は少し趣が異なり、美由紀(みゆき)の臨床心理士としての活躍よりも二等空尉としての活躍の方が多く、また過去の美由紀の自衛隊時代の話にも触れている点が非常に新鮮である。また伊吹直哉(いぶきなおや)にも同様に深い心理描写があり、2人の主役がいるようなシリーズの中では珍しい設定となっている。

事件の内容を確認する会議の中で伊吹(いぶき)が発する言葉に戦争の矛盾を感じる。

「いつかは人を殺す運命だったんです。それが仕事ですから。過失は、殺した子が日本人だったという点のみです。」
また太平洋戦争中のミッドウェイ海戦で国民に嘘の情報を伝えた国家の隠蔽体質にも触れるなど、今回の物語はシリーズの中でももっとも多くのテーマに盛り込んでいるように感じた。悠平(ゆうへい)の祖父の峯尾(みねお)はこんなふうに昔のことを語った
「きみらの想像では、当時の私らはみんな暗い顔で、虐げられたわが身の不幸を嘆きながら飢えに耐えていたと信じてるかもしれないが、そんなことはない。みんな生き生きしていたし、活力もあったし、正しいと信じてた。だから玉音放送は悔しかったし、悲しかった。」

僕らは物心つく前の時代を教科書でしか知らない。そして教科書に載っている文字から当時を想像し、それを現実として受け止めてきたのだ。時代の流れの中で仕方がないにしても、可能な限り言葉で語り継ぐべきものなのかもしれない。

物語中、僕から見ると完璧としか見えない美由紀(みゆき)が多く葛藤を繰り返すシーンもまた考えさせられる。

結局、自己嫌悪にしか陥るしかない自分に気づいた。なにもかも人を嫌うことばかり結びつけて、いったい自分は何様のつもりだろう。もう少し謙虚さを抱けないものだろうか

結局人はいつになっても満足することはできないのだろうか。

物語終盤では自衛隊という組織の中で国を守るという自衛隊員の強い連帯感を感じる。そんな中、迷いのある隊員に向かって美由紀は叫んだ。

人の価値は定まってなどいない。未来が自分の価値を決めるんだ」

そして出撃前にこうも叫んだ。

「かつて、いちどたりとも侵略に屈せず、支配に没せず、途絶えることのなきわが民族、わが文化。四季折々の美しき母国。栄えある歴史も過ちも、すべてわれらのなかにあり。日本国の名を背負い、命を懸けて守り抜く」

僕らは国民の誇りなどすっかり忘れていないだろうか?
そして、そんな忘れ去られたものが「自衛隊」という、普段は近づきがたいフェンスの向こうに、日本の中に確かに残っているのだ。さらに、任務を遂行することでいつまでも青春に浸っていられる彼らをうらやましくも感じた。きっとそれは厳しい訓練を乗り越えたものだけが味わえるものなのだろう。もしまだチャンスがあるならそんな気持ちを味わってみたいものだ。そう思わせてくれる作品であった。数ある千里眼シリーズの中でも特にオススメの作品である。



ストローク(心理学用語)
人間同士が交流する時の、相手に対する投げかけのことをいう。 この投げかけとは、言葉をかけることだけでなく、握手したり、抱きしめたりするスキンシップもそうだし、微笑みかけたり、頷いたりするような視線のやりとり、動作等も含まれます。気持ちの良いストロークが得られないと、逆にマイナスのストロークであっても与えてもらいたいという行動や言動を取るという。

F15
実戦配備されている戦闘機では最強といわれている戦闘機、非常に高価なため、アメリカ以外には日本、イスラエル、サウジアラビアしか保有していない。

ブルーインパルス
航空自衛隊松島基地第4航空団に所属するアクロバットチーム「第11飛行隊」の通称。

フライトアテンダント
最近まで「スチュワーデス」(男性の場合には「スチュワード」「パーサー」など)と呼ばれていたが、1980年代以降、欧米における「ポリティカル・コレクトネス」(この場合は性表現のない単語への言い換え)の浸透により、性別を問わないフライトアテンダントという単語に言い換えられた。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
松岡作品ではもはやお馴染みの登場人物である。岬美由紀、嵯峨敏也に続く3人目のカウンセラーの登場というテーマのこの作品。その3人目のカウンセラーと言うのが少々コギャルちっくな一ノ瀬恵梨香という女性。内閣情報調査室の宇崎俊一が絡んでストーリーは進んで行く。岬美由紀や嵯峨敏也のようなクールさや知的な主人公を求めている人には少し抵抗があるかもしれない。今回は一ノ瀬恵梨香の一作目だからか、登場人物の人となりに多くのページが費やされたためストーリー的には少し物足りなかった。今後に期待する。


【Amazon.co.jp】「蒼い瞳とニュアージュ」

おススメ度 ★★★☆☆ 3/5
例によって飛躍したストーリー展開が今回はいつも以上に激しかった。人工衛星からマイクロ波を発射して地上の人を焼き殺す兵器が乗っ取られた・・という話から始まるのだが、残念ながら人間はここまで馬鹿ではない。核兵器をいくつかの国で開発されたからといって、すぐに核戦争になるわけではないのと同じ事で、一人の思惑で世の中の平和が壊れるなどということはあってはならない、そう、ここまで馬鹿なはずがない。そう感じた。だが、たしかに今後このまま兵器が発展して行けばこのような世界になる可能性もゼロではない。そういうことなのだろう。

ヒロインである岬美由紀の恋の行方は少し発展したのかもしれない。だが、彼女の1ファンとしてはこのまま一人で突き進んでもらいたいものだ。彼女の「強いゆえに孤独」というのは非常に共感できる部分がある。僕自身も弱音を吐かない人間なもので。

松岡圭祐作品を僕が読み続ける理由に、ストーリーの面白さはもちろん、いろいろな分野への興味を抱かせてくれるということもあげられる。今回のストーリー展開のなかで興味を持ったキーワードは「突沸」「ステファンボルツマンの法則」「GPS」などである。聞いた事あるけど「それってなんだっけ?」そう思う事柄を、この本を読んで調べたくなるのである。

【Amazon.co.jp】「千里眼の死角」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
自衛隊から心理カウンセラーに転職した岬美由紀の物語の最初の一冊。とりあえずこの本を読むと心理学と自衛隊について興味が湧いて来る。また、この物語のクライマックスの舞台になっている東京湾観音も実在しているもので、いつか見に行きたいと思った。

【Amazon.co.jp】「千里眼」

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