オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
目的もなく、引ったくりを繰り返して放浪していた伊豆見翔人(いずみしょうと)は九州、宮崎の山奥の村にたどり着く。田舎の人の温かさに触れることで起こった翔人(しょうと)の心の変化を描いた物語。
実際には世の中の大半がこの物語の翔人(しょうと)のように、誰かを頼ることもなければ、頼られることもなく孤独で希薄な人間関係の中に生きているのかもしれない。そして、頼れる人がいないから、自分のことでいっぱいになり、他人の痛みに築かなくなるのだろう。
田舎の温かい人たちの気持ちに触れて生活しているうちに、すこしずつ今までと違った感情が芽生え始める。このままの空気で終わってしまうのかと思い始めた終盤に、急展開が待っていた。
世の中には見た目はしっかりとした大人であるにもかかわらず、「この人には罪悪感というのがないのだろうか」と思うような、信じられないような行動を平気でする人がいる。しかし、いつかそんな人が自分のそんな行動に気づいて、「あれはひどい行動だった」と過去を思いかえすとき、それまで積み重ねてきた行動の記憶は、一生消えない罪悪感となって襲ってくるのかもしれない。そんなふうに思った。
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masato (2008年2月18日 22:47) | コメント(0)オススメ度 ★★★★☆ 4/5
橋口雄一郎(はしぐちゆういちろう)はプロの結婚詐欺師、世の中の女性から巧妙にお金を騙し取ることを生き甲斐としている。東京・小滝橋の刑事、阿久津洋平(あくつようへい)のもとに、被害者である女性から被害届が提出されたことで橋口(はしぐち)に対する捜査が始まる。
物語は二人の目線を交互に切り替わりながら展開していく。ターゲットとなるお金のある女性と知り合うためにパーティに出向き、流行などの知識など自己啓発を怠らない橋口(はしぐち)の目線。そして橋口を逮捕すべく奔走する刑事のうちの一人、阿久津(あくつ)の目線である。
橋口(はしぐち)目線の展開の中では、橋口(はしぐち)の女性たちに向けた歯の浮くような台詞の数々とマメな連絡や演出の数々。それが現実世界で通用するのかは大いに疑問だが、恋愛から遠ざかっている読者の中には、「恋愛の駆け引きも面白そう」と感化されてしまう人もいるかもしれない。
その一方で、阿久津(あくつ)目線の展開の中では、被害状況や手口把握、証拠収集に奔走する刑事たちの様子が描かれ、その周囲には常に夢や希望の薄れたやり切れない現実的な空気が漂っている。そんな中で日々生きている刑事たちは、橋口に騙された女性たちが一様にそれを認めようとしない状況に少しずつ違和感を感じていくのである。
さらに阿久津(あくつ)に関しては、その家庭の様子も描かれている。家庭的な妻と一人の息子という、阿久津(あくつ)がかつては理想と思っていた家庭を築きながらも、刑事という職業を選んだために家に早く帰ることが出来ず、家庭には居心地のよさを感じられない。詐欺師でありながらも、その周囲には騙されているとうすうす気づきながらも活き活きとした女性たちが瞳を潤ませている橋口の生活との対比の見事さが、この物語のテーマに強い説得力を持たせているのだろう。
そして、矛盾した世の中、理解できない女性の気持ち。答えのない問いかけを阿久津(あくつ)は繰り返す。
そして、阿久津(あくつ)たちが橋口(はしぐち)の容疑を固めていく過程でも橋口(はしぐち)はターゲットを変えていく。そして新たにターゲットとされた一人の女性。それは自分の理想を貫くために阿久津(あくつ)の元を去った、かつての恋人であった。
刑事ゆえに犯人の逃亡のきっかけを作るような言動は許されない。昔の恋人の性格を知っているがゆえにその相手の男性を否定する言葉を口にできない。
この悲しい偶然とそれによる葛藤こそが乃南アサが本作品を書いた最大の理由なのだろう。この展開に触れたときにピンと来た。多くの著者は小説を書くとき、そこに何か訴えたいテーマを持っているのだと僕は信じている。(もちろんお金儲けのために大したテーマもなしに大量に出版し続ける作家もいるが)そのテーマが物語を通じて一貫している作品は、必ずそれを読む読者に何か深く考えるきっかけを与えてくれる。この作品も例外ではなかった。
結婚詐欺は犯罪、結論はもちろんそんな単純なものではない。この物語のテーマは、形も無く、人々の中で決して一様ではない「幸せの形」なのだろう。「幸せ」とは人と人の間に生じるものではなく、個々の内側にあるものだ。つまり相手がどう思っていようと、本人が幸福感に浸ることができればそこに「幸せ」は確かに存在するのである。
たとえこの物語の結婚詐欺士橋口(はしぐち)であろうと、彼は確かに彼は女性たちに「幸せ」を与え、女性たちも幸福感にい浸ることができたのだ。それを「悪」と一言で切り捨ててそのすべてから目を背けることが必ずしも正しいことなのだろうか。
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masato (2007年10月23日 02:41) | コメント(0)オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
森家の3人の子供。長女の秀子(ひでこ)、長男の俊太郎(しゅんたろう)、次女の麻里子(まりこ)は両親を相次いで失ったショックを感じ始め、俊太郎と麻里子の関係もぎくしゃくし始めていた。そんな折、近所では通り魔事件が相次ぐ。
この物語は通り魔事件の犯人を追ったミステリーでもあり、暖かい家族の物語でもある。そんな中で、突然両親を失って悩む俊太郎(しゅんたろう)の心情と、麻里子(まりこ)が生まれつき持った両側感音性難聴というハンデが物語に深みを与えている。麻里子(まりこ)は健常者には意識しないような日常に普通に起きる出来事で麻里子(まりこ)は戦わなければならないのである。そんな麻里子(まりこ)の世間を見つめる視点は新鮮である。
通り魔事件は、3人の家族としての絆を深めるための要素、麻里子がハンデと戦って強くなるための要素として働いていて、残念ながら謎解きの要素などは少なく、また、解決までのくだりにも説得力を欠いた部分があり物足りなさを覚えた。家族の物語として展開するなら、3人の兄弟の一人一人にもっと読者の心を鋭くえぐるような深い心情の描写があればさらに物語の深みが増すだろうと感じた。
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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第115回直木賞受賞作品の「凍える牙」で活躍した音道貴子(おとみちたかこ)刑事が登場すると知って、この本を手に取った。
占い師夫婦とその信者2名の計4人が殺害された事件に関わったことによって、音道貴子(おとみちたかこ)自らも大きな犯罪に巻き込まれていく。
物語の冒頭で貴子(たかこ)が同僚の男を見て感じる言葉が印象的だ。
前半は貴子(たかこ)の過酷さの中でもポジティブに物を考える姿勢が好意的に移る。そして、後半は自分だけは助かりたいという弱い心と人を助けようという使命感。その二つを行き来する貴子の心の描写がに引き込まれる。
また、犯罪に走った犯人たちの心にも共感できる部分があり、それもまたこの物語を引き立ててくれて、単純な犯罪小説には終わらせない。特に、自身の不幸から犯罪に加担せざるを得なかった中田加恵子(なかたかえこ)の人生は、「同情」などという表現で片付くはずもない。そして、今の世の中、彼女のような人間が現実に存在しても決しておかしくないということを訴えかける。
貴子の友人がぼやく言葉が心に残る。
松岡圭輔の書く岬美由紀(みさきみゆき)、内田康夫の書く(浅見光彦)。彼らと同じくらい音道貴子(おとみちたかこ)は芯のしっかり通った人間で、彼女の存在はこの「鎖」によって僕の中で一段と大きくなった。彼らが架空の人物だということは知っていてもである。
乃南アサにはもっと音道貴子(おとみちたかこ)シリーズを書いてほしい、そしてその後の彼女を知りたいと思った。
オススメ度 ★☆☆☆☆ 1/5
作者の訴えたいモノがまったく伝わって来なかった。日本の家族のあり方について一石投じようとしているように感じられなくもないが。






