はつのせいの最近のブログ記事

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
穂村千夏(ほむらちか)は吹奏楽部の高校2年生。吹奏楽に青春を注ぎ込む過程で彼女の周囲に起こるできごとを描く。

読み始めてすぐに気づいたのだが、どうやら本作品は主人公である穂村千夏(ほむらちか)とその幼馴染である上条ハルタが繰り広げる「ハルチカシリーズ」の第3弾ということで、最初の2作品をすっ飛ばしていきなり第3弾から読み始めるということになってしまった。もちろん内容は本作品から読み始めた読者にもわかるように登場人物の紹介などがされているのだが、おそらく順番どおりに読んだほうが楽しめたのだろう。

物語は高校の吹奏楽部を中心としてコミカルに描かれるドタバタ劇。同じ吹奏楽に情熱を注ぐ他校の生徒との出来事や、部員のトラブルの解決、練習場所の確保などのエピソードである。パっと読んでパっと忘れる、的な物語かとも思ったいて、それは基本的に間違ってはいないのだが、終盤に差し掛かるにしたがって少しずつ考えさせる文章がちりばめられている。

シリーズのほかの作品も読んでみようと思える内容である。

手回しオルガン
ピンの出た円筒に接続されたハンドルを手で回し、円筒に隣接した鍵盤をピンで押さえる仕組みの自動オルガン。

紙腔琴
手回し式の小型オルガンの一種。1890年(明治23年)、戸田欽堂が発明し、栗本鋤雲が命名した[1]。西川オルガン製作所で製作し、東京銀座の十字屋楽器店で売り出した。

駿府城
静岡県静岡市葵区(駿河国安倍郡)にあった城。別名は府中城や静岡城など。江戸時代には駿府藩や駿府城代が、明治維新期には再び駿府藩(間もなく静岡藩に改称)が置かれた。

チベタン・マスティフ

チベット高原を原産地とする超大型犬。俗にチベット犬とも呼ばれ、希少種である。

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オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
暴力団組員が連続して睡眠中に死亡する事件が連続して起こった。そこへ「ガネーシャ」と名乗る犯行声明が届く。一方、地下の暗闇では、記憶を失った女性が地下で暮らす数人のホームレスと出会う。

最近の注目の作家の一人、初野晴(はつのせい)の作品ということで迷わず手に取った。物語は、面子を保つために、ガネーシャという人間を見つけ出そうとする暴力団たちの様子と、地下でガネーシャと名乗った記憶をなくした女性が、そこに住むホームレスたちと徐々に心を通わせていく様子を同時に描いていく。

この2つの物語が同時期に起こっていることなのか、それともどちらかが過去でどちらかが現在なのか、など読み手にはわからない。ただ、ガネーシャという名前が共通するのみである。

そして、少しずつ人数が減っていく暴力団組員の中で、その幹部たちが過去に犯した大きな罪が少しずつ明らかになっていく。そして眠っている間に死んでいくという殺人の真相も。

地下で過ごすホームレスや、暴力団を扱っているという点でやや物語に入りにくいという印象は残念ながら最後まで拭えなかったが、初野晴(はつのせい)らしいというような独特の視点から物事を捉えた文章にもいくつか触れることができた。

死期を悟った野生動物は、じぶんの死体を必要とするもっとも適した場所、じぶんの命が継がれるであろう環境に、本能で移動していく...。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校のアーチェリー部主将の円(まどか)はある日、オカマの幽霊サファイアと出会う。時を同じくして中高生の間に広まる不思議な噂。円(まどか)はサファイアとともに見えない犯罪に立ち向かうことになる。

読み終わったときは「まあまあ」という評価でも、時が経つに従って、印象を強めていく物語がある。僕にとってはそれが吉田修一の「パレード」と初野晴の「水の時計」なのだ。そんなわけで、期待とそれを裏切られる不安とともに購入した本作品。

女子高生を中心に据えた物語のため、「時をかける少女」のようなさわやかな物語を想像したが、読んでみると、もちろんさわやかなテンポで描かれているものの、それぞれの犯罪者と、そこで登場する人たちの間で描かれる妬みや失望などの表現にはときどきハッとさせられた。

かといって、そんなに重い内容というわけではない。一方では円(まどか)とその友人たちの友情の物語という側面も持っていて、ときにはおっちょこちょいで、ときには熱い物語が繰り広げられている。

基本的に5つの章に分かれているが、個人的には障害者たちとともに真相に迫っていく4番目の物語が心に残った。特に、障害者の近くで生きている人間が言ったこんな台詞。

ひとりでトイレに行けるようになりたい。それが叶うなら、歩けないことも口がきけないことも我慢する。本気でそう願っていた十六歳の少女を、私は二年前に看取った。

少し怖くなるような生々しい表現に「水の時計」との共通点を感じた。しばらくこの著者の作品は見逃さないように、と思った。

四色型色覚
色情報を伝えるために4つの独立したチャンネルを持つ状況をいう。(Wikipeida「4色型色覚」

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
暴走族の幹部だった高村昴(たかむらすばる)は、暴行事件の罪を逃れる代わりに脳死状態の少女の臓器を、それを必要としている人に運ぶ役目を受ける。

物語は6章で構成されている。章ごとに視点が異なり、最初と最後はそれぞれ昴(すばる)視点で展開する。昴(すばる)視点に立った展開では、彼の言動からは、世の中に絶望して周囲に当り散らす、礼儀も知らない若者にしか感じられなかったが、章を追って、視点がその周囲の人間に移るにつれて、昴(すばる)の悲しい過去や、辛く強い生き方が見えてくる。
物語は一章で、昴(すばる)が脳死状態の少女と対面することで大きく動き出す。脳死判定、臓器移植法、未だ日本の中では結論を見ない問題に本作品も踏み込んでいく。

そして第二章から視点は臓器を必要としている人、不公平な病気に苦しんでいる人に移る。不明熱、白血病、すい臓がん、そして、そんな不公平な不幸から逃れたいという思いにつけこむ悪意ある人間達。人の気持ちや葛藤、社会問題をバランスよく織り込みながら物語は展開していく。

物語が進むにつれ、昴(すばる)の過去が見えてくる。自分ではどうしようもできない社会の偏見という壁に未来を阻まれ、それでも自分には誠実に生きようとする姿。強くなりたくて強くなったのではなく、彼が生きるためには強くならなければならなかったのだ。

あのときの彼は、いったい誰に相談したらいい?お金がないと、どうして口にできよう?世間の不運にくじけず二本の足で立ってきたプライドはあるのだ。どんなにつまらないプライドでも、それがあるからこそくじけずにいられたのだ。

そしてそんなテーマをさらに掘り下げるのが、脳死状態の少女、葉月(はづき)の存在である。

もしこの世に神様がいるとしたら、人間が作り出したあんな理不尽な死の形をきっと嘆くだろう。死に続けるという矛盾。ピリオドが訪れない死。自然の摂理から外れてしまった死。

昴(すばる)の絶望的で悲しい世間に対する視線。こんな人間の気持ちさえも理解できる人間になりたいものだ。社会問題や死生観について改めて考えさせられただけでなく、人々の織り成すドラマにもたっぷり涙させてもらった。


竹内基準
脳死の判定基準。

糸球体
腎臓内に存在し、血液内の有形成分とタンパク質をろ過し、原尿を生成する器官。(Weblio「糸球体とは」

ケルト神話
アイルランド、ウェールズのケルト人に伝わる神話群。(Wikipedia「ケルト神話」

レストレスレッグ症候群
身体末端の不快感や痛みによって特徴づけられた慢性的な病態。(Wikipedia「むずむず脚症候群」

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