オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
霊長類学研究センターではバースデーと名づけられたボノボに言語習得実験を行っている。田中真(たなかまこと)と恋人の由紀(ゆき)が中心となってプロジェクトを進めるが、そこで事件は起きる。
人間の次に賢いと言われるボノボを題材としているだけに、ボノボと人間の生き方を比較したような描き方を期待して本作品を手に取った。例えば最近読んだ「償い」の中で、「ボノボはその賢さゆえに人間のように地球を汚すような生き方をせずに森と共存している。」という考え方があった。ボノボやイルカなどの知能の高い動物を扱う物語においては、その動物と比較して、「では科学を使っている人間は本当に賢いのか・・・?」という問いかけにたびたび出会う気がする。そんな答えのないテーマに今回も僕は浸りたかったのだろう。
しかし、物語は終始、ボノボの実験内容の詳細な描写とその施設で起こった事件について展開する。ボノボの知能の高さを見せているにしては内容が浅く、ミステリーとしての面白さを見せようとしているのなら、テンポが遅い、というように、最終的に、ボノボに焦点を当てたかったのか、それとも霊長類学センターで起きた事件に焦点を当てたかったのかなんとも中途半端な印象を受けた。
また、複雑な研究設備を文字で説明しようとしているのはわかるのだが、物語の中で大して重要でない出来事まで細かく書くためにスピード感が乏しく、ラストはすでに結論が見えているのになかなか終わらない、というようにややじれったさまで感じてしまった。同時に著者の読者を涙させようという意図が見え過ぎた点も残念である。
本作で読了した荻原作品はまだ2作目であるが、読者の感情をコントロールしたいばかりに物語中に登場する文化や事件、人間などの心情についてやや過剰に演出された描き方が多い気がする。物語を楽しみながらも、世の中の問題点や知らない文化を知識として蓄えたい、というふうに読書の意義を考える僕の求めているものとは、この著者の作品は一致しないのかも、と感じた。
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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第18回山本周五郎賞受賞作品。
広告代理店営業部長の佐伯(さえき)は、若年性アルツハイマーと診断された。仕事や日常生活が少しずつ出来なくなって行く中で悩み、生き方や人間関係を考えていく。
昨年やっていた、2時間ドラマの原作だと気づいたのは読み始めてからである。今回は萩原浩という最近よくみる作家の代表作に触れるという意図しかなく、アルツハイマーを扱った作品だと知らなかったので少し後悔した。「世界の中心で愛を叫ぶ」などと同様に、一人の元気だった人間が病気によって次第に衰えていく様子を描く作品は、涙腺を刺激することはあっても内容の濃いものであることは少ない。この作品もまた、人を涙させるためのもっとも安易な手法を採ってしまっただけで、とりててて大きなテーマもない作品ではないか、と。
物語は最初から最後までアルツハイマーに犯された佐伯(さえき)本人の目線で進む。生き方に悩んだり次第に物事を忘れていくことで、数ヵ月後の自分を想像して恐怖する姿は描かれているのだが、その心情描写がリアルだとは残念ながら言い難い。見所はむしろ妻である枝美子(えみこ)の夫を支える姿なのではないだろうか。また、アルツハイマーと診断されてから、佐伯(さえき)は「備忘録」と名付けた日記を書くことを習慣づける。その日記が作品の中の要所要所に登場するのだが、次第に同じことを繰り返し書かれたり、間違った漢字を使い始めたり平仮名が多くなったりする。それによって次第に病状が進行していくことを表現しているのだが、そんな手法も本作品の個性と言える。
読み進めるに従い懸念したことが現実となる。徐々に記憶を失っていくその姿は悲しく、アルツハイマーという病気の恐ろしさは伝わってくるが、内容自体にあまり密度を感じない。それでも最後の2ページは著者の思惑通り涙が溢れ出た。このラストシーンを描きたくて著者はこのテーマを選んだのだろう。そう思った。
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