オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第16回吉川英治文学新人賞受賞作品。
小沼真次(こぬましんじ)はクラス会の帰り道。永田町駅と赤坂見附駅の間にある階段を上がった。するとそこは三十年前だった。ワンマンだった父とその父に反発して自殺した兄の昭一(しょういち)、そして恋人のみち子。タイムスリップという奇跡が真次(しんじ)人の記憶や出来事を塗り替えていく。
父親とは子供にとって頑固でわからずやだったりするものだ。そしてそれが父親が子供に見せているほんの一つの顔だということを子供は気付かずに生きていく。ひょっとすると一生父親の他の顔を見ずに終わることが大部分なのかもしれない。物語中で真次(しんじ)は憎かった父の過去にタイムスリップし、過去の父と出会うことで、父も苦労を重ねて生き抜いてきたと理解していくのである。
そして、タイムスリップという奇跡は、真次(しんじ)と父親の間だけでなく、恋人であるちか子との間にも大きく影響し、ラストには悲しく切ない結末が用意されている。
しっかりとコンパクトにまとめられた一冊だった。
【Amazon.co.jp】「地下鉄に乗って」
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
倒産寸前の旅行代理店が「王妃の館」の宿泊ツアーとして、2つのツアーを組んだ。1つは149万8千円のポジツアー、もう一つは19万8千円のネガツアー、しかも客に部屋を共有させるという無謀なツアーである。そんなツアーの様子がコメディタッチで、ルイ14世時代と絡んで展開していく。
正直「中途半端」な印象を受けた。設定的にはかなりコメディタッチで進みながらも、コメディとして読むととてもおもしろいとは言えない。ルイ14世時代の物語も興味を惹かれたが浅い部分までしか掘り下げられていない。この物語全体としてのテーマが感じられなかった。作者もこの作品を実験的に書いたのではないかという印象を受けた。
【Amazon.co.jp】「王妃の館(上)」、「王妃の館(下)」
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第二次世界対戦末期、国際赤十字の依頼により、アジアの日本軍占領区域で抑留されている16万5千人もの連合国軍の捕虜や市民のために救援物資を届けるという特殊な任務を与えられた大型客船、弥勒丸。協定によって絶対攻撃されないことが約束された船だったにもかかわらず、至近距離から4発の魚雷を受けて沈没した。
台湾沖に今も沈んだままの弥勒丸を引き上げるという依頼が主人公のもとへやってくることから物語は始まる。一体何故「絶対安全」を保証されていた船が沈没しなけらばならなかったのか、攻撃は故意だったのか誤爆だったのか。少しづつ解きあかされて行く謎の過程で、今まで知らなかった「弥勒丸」というもう一人の戦争の犠牲者を意識させられる。弥勒丸も戦争に巻き込まれ命を失った一人なのだ。
また、この物語のモデルになった阿波丸という大形客船の事件についてもこの本を読んで初めて知った。弥勒丸と同じ任務をもった船でありながらアメリカの潜水艦の誤爆によって沈没し2040人の犠牲者を出した。もう事件から60年近くが経過しているが、人々の記憶から消してはいけない事件なのだ。
ちなみに、横浜の山下公園に繋留されている氷川丸。あの船も実は阿波丸と同じ時代を生きた船である。今度横浜に訪れる機会にもういちど氷川丸を見に行こう。今度はその場所で僕の目から涙がこぼれそうな気がする。
【参考サイト】
阿波丸事件






