オススメ度 ★★★★☆ 4/5
太平洋に浮かぶ巌倉島ではイルカウォッチングを観光の目玉として成り立っていた。ところがシャチの出現を期に、島の周囲にいるイルカが奇妙な行動を見せる。動物行動学者の比嘉涼子(ひがりょうこ)は問題の解決に動き始める。
太平洋の小さな島で起こった問題を島民が一丸となって解決する物語、と一言で言ってしまえばそれまでだが、その過程で描かれるイルカやシャチの生態に対する説明に好感が持てる。島で起こった謎のイルカの行動を解決するために奔走する比嘉涼子を描くとともに、イルカなどの人気のある動物を観光の目玉として扱う人間の身勝手さにも当然のように触れている。
そして、しだいに話の中心はイルカからシャチへと移っていく。イルカの捕食者として序盤ではその獰猛なイメージで描かれたシャチは、終盤へ向かうに従い、その知的で人間と同じように複雑な感情を持った面をさらけ出していく。そして、そんな物語の流れの中で、世界を騒がせている環境保護団体とそれに対する主張などもしっかりとストーリーの中に取り込んでおり、非常にバランスの取れた作品である。
熊谷達也という作家は最初に読んだ「迎え火の山」という作品で少々失望し、今年になって「邂逅の森」と本作品を読んで少し見方が変わった。描きたい物語に対する徹底的な下調べにこの作者の姿勢が見える。
とりあえず本作品を読んで、御蔵島へイルカウォッチングに行きたくなった。ジョンストン海峡へオルカウォッチングにも。
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大正から昭和の始め。マタギという生き方をした松橋富治(まつはしとみじ)という男の人生を描く。
この時代を扱った物語に触れる機会が少ないためか、物語中の多くの出来事が新鮮に映った。なによりも富治(とみじ)とその仲間の猟の様子は非常に細かく描写されており、山や獣といった、現代ではないがしろにされているものに、多くの読者が関心を抱くだろう。
山の神の存在を心のそこから信じているわけではないが、山の神を怒らせるようなまねを敢えてしようとも思わない。急速に近代化へと進む時代の中で、富治(とみじゅじ)の考え方も少しずつ変化していった。ただ、それでも何か説明できない大きな力が働いているのだという思いは捨てきれない。そんな不思議な感覚は、現代に生きている人間の中にもあるのではないだろうか。
現代人が忘れてしまった大切なものの存在を訴えかけてくるような作品である。
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