2008年02月12日

「隠蔽捜査」今野敏

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
吉川英治文学新人賞受賞作品。

警察庁長官官房でマスコミ対策を担う竜崎伸也(りゅうざきしんや)と警視庁刑事部長の伊丹俊太郎(いたみしゅんたろう)という2人の警察官僚が1つの事件をきっかけに自らの立場や警察組織を守るために奔走する様子を描いている。

まず興味を引くのは、「出世がすべて」「東大以外は大学ではない」と考えている竜崎(りゅうざき)のほうが、警察内部の怠慢や汚職を許さず、逆に、私大卒で周囲から警察官僚の中でもっとも人間味の有る人と評価される伊丹の方が、警察内の不祥事をもみ消そうとする点である。

おそらく一般的には、警察官僚とか、警察の縦社会という考えに縛られた竜崎のような人間こそが、警察組織内の不祥事を助長し、伊丹のような警察官が正義を貫くと考えられているのだろう。にもかかわらず、そんな先入観を早々と砕く人物設定によって瞬く間に物語に引き込まれていった。

物語の目線となっている、竜崎(りゅうざき)の家族を顧みない考え方や、警察組織として人生を貫こうとする姿勢、その価値観は決して共感できるものではないが、一方で彼の感情に左右されない論理的なものの考え方は個人的にとても理解できる。そして、彼の考え方に触れるうちに、事件を解決することだけが警察組織の人間の役割ではないことがわかるだろう。

組織というのは、あらゆるレベルの思惑の集合体だ。下のものがいいかげんだったら、いくら上が立派な戦略を立てても伝わらないのだ。常にうまく部下を使う方法を考え、同時に、いかにして上司を動かすかを考えなければならない。

物語は最後まで、事件を大して大きく扱わない。あくまでも事件は警察組織の中の対立関係や駆け引きを描くための素材に過ぎない。警察を扱った物語は世の中に数え切れないほどあるが、これほど事件に焦点を当てないで最後まで展開する物語も珍しいだろう。

とはいえ、少年犯罪者の社会復帰を支援するような日本の少年法への疑問もしっかり投げかけている。私刑を許してしまったら法治国家ではなくなる、という警察組織に身をおくものとしての建前と、過去に凶悪犯罪をしながらも、今は普通に世の中で生活している彼らが許せないという気持ちも併せ持つ。私刑や復讐を扱った物語の中では必ずといっていいほど見られる葛藤であるが、それでも人によって意見の分かれる問題であるから面白い。私刑を扱った他の作品として思い浮かぶのは宮部みゆきの「クロスファイア」などがそうだろうか。

ページが残り少なくなるころには、序盤にあれほど忌み嫌った竜崎(りゅうざき)の生き方が好きになっているのだから、見事に著者の思惑にはまってしまったということなのだろう。

【新しい用語】
KGB
ソ連国家保安委員会の略称。1954年からソ連崩壊まで存在したソビエト社会主義共和国連邦の情報機関・秘密警察。

参考サイト
Wikipedia「警察庁長官狙撃事件」

【楽天ブックス】「隠蔽捜査」

投稿者 masato : 13:12 | コメント (0)

2007年12月04日

「ワイルド・ソウル」垣根涼介

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

第25回吉川英治文学新人賞受賞作品。第57回日本推理作家協会賞受賞作品。第6回大藪春彦受賞作品。

1960年代の日本政府が行った移民政策によって、南米の奥地の未開のジャングル、クロノイテに送り込まれた日本人の多くは病気で死亡したり絶望の中で生涯を終えた。わずかな生き残りである衛藤(えとう)とケイはある時、日本政府に対する復讐を思い立つ。

棄民問題という経済発展の裏で国が犯した大きな罪を扱っていて、同時にそれは、日本とその裏の南米という大きなスケールの物語となっている。本作でそのメインの移民先はとブラジルアマゾンの奥地であるクロノイテという未開の地である。そこに放り出された衛藤(えとう)という人物の眼を通して描かれた序盤で、その政策の悲惨な実態を知ることが出来る。

文明から離れて未開のジャングルだ。医者もいない。薬もない。かといってどこにも手紙は出せない。ちょっとした町に出るにも船に乗って何日もかかる。入植者の中には絶望のあまり発狂する奴もいたな。だが、こいつらなんてまだ幸せなほうだ。マラリアやアメーバ赤痢で苦しむことなく、あっけなく狂っちまったんだからな。

そして、ブラジル人と日本人である衛藤のふれあいが見られる。そんな中で、日本とブラジルの双方の国民の長所や短所、それぞれの立場からそれぞれの国を観た感想が何度も描かれる。

餓死寸前なのに物盗りになる度胸もない。かといって乞食にまで落ちぶれるにはちっぽけなプライドが許さない……中国人とも韓国人とも違う。馬鹿正直に生きるだけが撮り得の黄色人種だ。

日本人には日本人のよさがあり、ブラジル人にはブラジル人のよさがある。この二国に限らず、異文化で育ってきた人達が向かい合ったときにその性質から多少の不都合は生じるのかもしれないが、それぞれの良い部分を見つめる眼を持つべきなのだろう。

中盤から物語は日本に舞台を移し、衛藤やケイの復讐がいよいよ始まる。復讐というテーマでは在りながらも、物語の視点のメインは、日本人でありながらジャングルと陽気なブラジル社会で育ってケイに移るっており、ケイの性格がこの重いテーマを陽気な物語に変えている。

そして、日本に舞台を移したことで、ジャーナリストの貴子(たかこ)や警察の岩永(いわなが)の視点も加わってスピード感のある展開に変わる。僕等読者が、日々生活の中で触れている世界に物語がリンクしたことで、すでに30年以上前に収束した移民政策が、当事者にとっては決して過ぎ去った過去ではないことが伝わるだろう。

後半、移民政策に関わった役人達の心境も描かれる。彼等もまた組織の歯車であり、保身のためにそのような選択をするしかなかった。結局、未開の地に送り込まれて絶望して死んでいった人たちも、そのような政策を取らざるを得なかった人も、すべてのが、戦後の不安定な日本の政情の中で生まれた犠牲者であり、簡単に解決することの出来ない深い問題であることがわかる。

移民という日本の経済発展の犠牲を日本から地球の裏の南米までそのスケールの大きさ、そしてそのテーマを個々のキャラクターでカバーするそのバランスが見事である。ラブストーリーから刑事事件まで、あらゆる物語の要素が無理なく無駄なく詰まったこの一冊を読むだけで垣根涼介という作家の技術の高さがわかる。とりあえず僕にとっては、「垣根涼介作品をすべて読んでみよう」と思わせるのに充分な作品であった。


【新しい用語】

コロンビア革命軍(FARC)
1964年、伝説の指導者マヌエル・マルランダらにより結成された反政府左翼ゲリラ組織。

礎石
礎石とは、礎(いしづえ)となる石のことで、定礎石は建物の土台となる石をさだめること。中には、建物の設計図面や氏神のお札、さらにその時の新聞や雑誌、社史、流通貨幣などが入っている。

パーキンソン病
脳内のドーパミン不足とアセチルコリンの相対的増加とを病態とし、錐体外路系徴候を示す疾患。マイケル・J・フォックスなど。

参考サイト
ドミニカの日本移民

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投稿者 masato : 21:54 | コメント (0)

2006年09月29日

「らせん」鈴木光司

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第17回吉川英治文学新人賞受賞作品。10年ぶり2回目の読了である。

幼い息子を海で亡くした監察医の安藤満男(あんどうみつお)は謎の死をとげた友人、高山竜司(たかやまりゅうじ)の解剖を担当する。冠動脈から正体不明の肉腫が発見されたことで、その原因に興味を抱くことになる。

この物語はもちろん前作「リング」を読んでこそ楽しむことができる。「リング」と比較すると読者に恐怖心与える箇所は少ないだろう。DNA、塩基配列など瀬名英明の「パラサイト・イヴ」と似た理系的な物語の印象を受ける。未だ解明できていない科学的な分野を巧妙に利用し、非現実的な出来事を説明しながら展開していく。

現代の科学では根本的な問いには何ひとつ答えることはできないんだ。地球上に最初の生命がどのようにして誕生したのか、進化はどのようにしてなされるのか、進化は偶然の連続なのかそれとも目的論的に方向が定まっているのか・・・様々な説はあれども何ひとつ証明はされていない。

ストレスが胃壁に穴を開ける例などを挙げて、質量を持たない心の状態が肉体に様々な影響を与えるという前提で物語は構築されている。

人間の眼は恐ろしく複雑なメカニズムを持っている。偶然、皮膚の一部が角膜や瞳孔へと変化し、眼球から視神経が脳に延び、見ることになったとは到底考えられない。見たいという意思が生命の内部から浮上してこなければ、ああいった複雑なメカニズムなど形成されるはずがない。

一部の展開には「そうかもしれない」と受け入れられ、人間の新たな可能性に心を刺激されるが、一部では大胆すぎる発想に受け入れ難い箇所もあった。そして、「リング」で作り上げられた山村貞子(やまむらさだこ)の崇高な印象も本作によって大きく修正せざるを得なくなる。「リング」との繋がりに対しても違和感を感じずにはいられない。

また、本作品からは「リング」のようなテンポの良さは感じられない。著者があとがきでも「これほど苦労した作品はない」と書いているが、読んでいても感じられる。それは無駄に長く、受け入れ難い展開として読者に伝わってしまうだろう。

終盤は話を大きくしすぎて「なんでもあり」のような印象を受ける。それによって前作「リング」と本作の途中まで読者に抱かせていた「どこかで現実に起こっているかもしれない」という気持ちから来る恐怖心があっけなく壊されてしまっている点が非常に残念で、本作品の評価を落としている気がする。もちろん、現在の僕にはこの不満が「ループ」によって見事に払拭されることを知っているのであるが、「リング」「らせん」と読み終えた読者の多くは同じような感想を抱くことだろう。

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投稿者 masato : 00:24 | コメント (0)

2006年09月28日

「夜のピクニック」恩田陸

オススメ度 ★★★★★ 5/5
第26回吉川英治文学新人賞受賞作品。第2回本屋大賞受賞作品。

高校生活最後を飾る「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統の行事である。互いに意識し合う西脇融(にしわきとおる)と甲田貴子(こうだたかこ)の2人も各々いろいろな想いを抱えながら高校最後の「歩行祭」がスタートする。

物語の視点は融(とおる)と貴子(たかこ)に交互に切り替わる。それぞれの目に映るもの、記憶、友人達との会話、気持ちの描写だけで物語は展開されていく。

スタートしたばかりの前半は余裕から会話も弾む。転校していった友達の話。学校内で広がっている噂話。友人の恋愛の話。そして、そんな中で3年生である融(とおる)や貴子(たかこ)は歩行祭が人生で得難い機会であることを実感している。

みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね。 どうして、それだけのことが、こんなに特別なんだろうね。

物語中盤からは、距離を歩いたことで疲労が増しそれぞれが無駄な会話を辞め、夜が訪れると共に気持ちが昂ぶり、本当に語りたいことを語り始める。そして人の言葉に対しても自分を偽らない素直な反応しかできなくなる。

学生時代の部活の合宿や、旅行の夜の妙な高揚感を思い出す。人の気持ちを素直にさせるのは非現実的な環境なのかもしれない。

そして、そんな状況で、普段言えないことを素直に口に出した、融(とおる)や貴子(たかこ)の友人達の言葉が心に残る。融(とおる)の友人の忍(しのぶ)、貴子(たかこ)の友人の美和子(みわこ)は物語の中で特に重要な役割を果たしているように感じる。

雑音をシャットアウトして、さっさと階段を上りきりたい気持ちは痛いほど分かるけどさ、雑音だって、おまえを作っているんだよ。おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。いつか絶対、あの時聞いておけばよかったって後悔する日が来ると思う。

高校生の恋愛感についても鋭い視点が見える。僕が中学生の頃に感じていた恋愛感、周囲の女性達に感じていた違和感。例えばそれは恋に恋する気持ちだったり、思い出として恋愛したい気持ちだったりする。それらの感情を融(とおる)や忍(しのぶ)が代弁してくれているようだ。

何か変だよ。愛がない。打算だよ、打算。青春したいだけだよ。あたし彼氏いますって言いたいだけ

物語は歩行祭の80キロの道のりのみを描き、言い換えるなら登場人物はひたすら歩くだけである。それでも思い出や気持ち、友人達との会話を巧妙に織り交ぜて読者を飽きさせることがない。大人になってからはめったに味わうことのできない懐かしく甘い気持ちにさせてくれる作品だった。「六番目の小夜子」「ネバーランド」に代表されるように、恩田陸のこの世代を主人公とした作品にはいい作品が多いが、そんな中でも最もオススメの作品になった。

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投稿者 masato : 21:55 | コメント (0)

2006年03月22日

「地下鉄に乗って」浅田次郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第16回吉川英治文学新人賞受賞作品。

小沼真次(こぬましんじ)はクラス会の帰り道。永田町駅と赤坂見附駅の間にある階段を上がった。するとそこは三十年前だった。ワンマンだった父とその父に反発して自殺した兄の昭一(しょういち)、そして恋人のみち子。タイムスリップという奇跡が真次(しんじ)人の記憶や出来事を塗り替えていく。

父親とは子供にとって頑固でわからずやだったりするものだ。そしてそれが父親が子供に見せているほんの一つの顔だということを子供は気付かずに生きていく。ひょっとすると一生父親の他の顔を見ずに終わることが大部分なのかもしれない。物語中で真次(しんじ)は憎かった父の過去にタイムスリップし、過去の父と出会うことで、父も苦労を重ねて生き抜いてきたと理解していくのである。

そして、タイムスリップという奇跡は、真次(しんじ)と父親の間だけでなく、恋人であるちか子との間にも大きく影響し、ラストには悲しく切ない結末が用意されている。

おかあさんとこの人とを、秤にかけてもいいですか。私を産んでくれたおかあさんの幸せと、私の愛したこの人の幸せの、どっちかを選べって言われたら・・・

しっかりとコンパクトにまとめられた一冊だった。

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投稿者 masato : 01:12 | コメント (0)

2005年03月12日

「終戦のローレライ」福井晴敏

オススメ度 ★★★★★ 5/5
第24回吉川英治文学新人賞受賞作品。

昭和20年。第二次世界大戦末期、すでに誰の目にも日本の敗戦は濃厚になりつつある時代、五島列島沖に沈む特殊兵器・ローレライを回収するための作戦が秘密裏に進められていた。17歳の上等工作兵、折笠征人(おりかさゆきと)、清永喜久雄(きよながきくお)、そして海軍潜水学校で教師を勤める絹見真一(まさみしんいち)もその作戦のために集められた一人であった。

戦争という抗いようのない大きな流れ。60年もの月日がたった現在ではその時代の生の声を聞くこともできず時代の一部分という認識しか持たない僕に、その大きな流れに巻き込まれた人たちの悲しみ、想像を絶する苦しみをリアルなまでに伝えてくれる。勝敗に関わらず戦争から生まれるのは悲しみや苦しみばかりだということを。

いくつか印象に残っているシーンをあげてみる。
アメリカ合衆国海軍で初の実戦配置に抜擢されたアディの最期は突然訪れた。

「魚雷衝突まで六十・・五十・・」 チーフはアディと視線を絡ませたのもつかの間、瞼を閉じた。「ジュリア・・・」という小さな囁きその唇から漏れた。アディはそれを聞いた途端。これで死ぬらしいと理解した。唐突に訪れた死の瞬間に呆然となり、慌ててガールフレンドの顔の一つも思い出そうとした。しかし、こういうときに名前を呼ぶに相応しい女性の顔は見つけられなかった。そんな相手を見つけるには短すぎる人生だった。まだやり残したことがたくさんある・・・

人によっては自分が死ぬことに気付かないまま最後を迎えることもある。主人公の征人(ゆきと)は自分と同じように敵の戦闘機の機銃を避けていた男の最期の瞬間を見た。

両手で耳を塞ぎ、甲板に顔を押しつけたその男は、後頭部に弾丸が刺さってもぴくりとも動かなかった。顔の下から流れ出した血を甲板に広げ、生きていた時とそっくり同じ姿勢で死んだ。あれでは自分が死んだということもわからなかったのではないか?特攻という自発行為の結果で死ぬならまだしも、こんなのは絶えられない。

また、日本海軍の最前線で無人島に流れ着き、生きるためには死んだ人間の肉を食べるしかなかった。そんな地獄の中を彷徨っていた彼等はある真理と直面した。

肉が喰える以上誰も死なない。そして誰も死ななければ肉は喰えなくなる−−


そんな戦争という舞台のうえで展開される、命の重さや人と人との信頼関係、信念が僕の心に大きく響いてくる。こんな生き方をしたい、こんな強い心を持ちたい。こんな行動ができる人でありたい。そう思わせてくれる登場人物ばかりだ。

主人公の征人(ゆきと)は同じ潜水艦に乗り込んでいる田口(たぐち)に見つめられてこう思った。

そう、この目だ。殺気を常態にした瞳の底に、やさしい光を蓄えた瞳。怒鳴りつける一方、部下の顔色を目敏く察し、ひとりひとりに気を配るのを忘れない目。おれに見えていたのはそういう目だ。反発しながら学ばされ、嫌いながら近づこうとしていた、一人前と言う言葉の先にある目。男として手本にできると信じた目だ。

ドイツで特殊訓練を受けて育ったフリッツは征人(ゆきと)の思ったことをすぐに口にする性格を見て思った。

あいつの強さの本質は、立場の優劣で人を隔てないところだ。誰をも理解しようと努め、傷ついても向かってくる愚直さだ。あいつの無責任なまでのやさしさは傷つくことを恐れない強さに裏打ちされたものだ。

大平洋戦争。大東亜共栄圏の建国というスローガンで正当化して植民地を広げて行こうとした日本。あの時代のことを考えると多くの人はこう思うのだろう。昔の日本人は愚かだった、と。自分達を客観的に見ることができずに、周辺国の国民の苦しみを考えずに、「自分達日本人は特別な存在なのだ。」という根拠もない理由によって突っ走っていたのだ、と。そうやって現代では大平洋戦争時代の日本人の生き方を否定して多くの人が生きているし、戦後の日本の教育の中でもそんな教えられ方をしている。

では、日本人が太平洋戦争までに積み上げて来た物はどこにいってしまったのだろうか。確かに大平洋戦争において日本人がしたことは非常に罪なことで簡単に許されることではない。しかし、あの時代には「カミカゼ精神」やら「玉砕」やら今聞くと冷めてしまうような言葉を掲げて戦争に向かっていった東洋の小さな国の国民は、周辺国とっては確かに驚異であり、「日本人」というブランドが存在していたのも事実である。しかし戦後60年を迎えた今、日本を見つめてみると、情報や文化や技術を取り込むことに焦り過ぎた結果、その中で生きているのは国民性の薄れた空っぽな人間たちである。そして、その「国民性の薄れた空っぽな存在」に「かっこいい」という感覚を覚えているのだから少し悲しくもある。

あの第二次世界大戦の時代に比べて明らかに自分が日本人であることに対する誇りが薄れているのだはないか、と今までにない気持ちを僕の中に喚起させてくれた。

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投稿者 masato : 10:27

2005年01月09日

「パイロットフィッシュ」 大崎善生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第23回吉川英治文学新人賞受賞作品。

編集者に勤める主人公の山崎隆二(やまざきりゅうじ)の元に、昔の恋人である由紀子(ゆきこ)から電話がかかってきたところから物語は始まる。過去の二人の出会いや別れ、二人の間に起きた出来事。そして今の二人の生活を描く。

タイトルとなっている「パイロットフィッシュ」とは、他の魚が生活しやすいように水槽の水を奇麗にする魚のことである。人との出会いや別れ、そしてその人との間に起きた出来事が今の自分の言葉や行動に確かに根付いていることを意識させてくれる作品。僕のパイロットフィッシュは一体誰なのだろう。僕は誰のパイロットフィッシュになれるのだろう。いろんな人と出会い、いろんな経験をすることがしっかりしたオリジナリティのある人間をつくる礎であることを再認識させられた。


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投稿者 masato : 22:24 | コメント (0)

2004年04月13日

「深紅」野沢尚

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第22回吉川英治文学新人賞受賞作品。

凶悪犯罪が起きてもあまり驚かないようになった。1年も経てばワイドショーをにぎわせた犯罪も記憶の片隅に追いやられてしまう。「深紅」は一家残殺という事件で唯一生き残った少女を主人公としている物語である。

投稿者 masato : 13:25 | コメント (0)