「ファシリテーションの教科書 組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」吉田素文

オススメ度 ★★★★☆ 3/5
組織の英知を結集するためにファシリテーションが重要だと感じ、本書を手に取った。

本書はファシリテーションを「仕込み」と「さばき」という大きな2つの部分に分けて構成している。「仕込み」の章で面白かったのが「出発点と到達点を明確にする」という点。ビジネスにおける議論は次の4段階から形成され、その出発点と到達点を意識する必要があるというのである。

  • 「議論の場の目的共有」
  • 「アクションの理由の共有・合意」
  • 「アクションの選択と合意」
  • 「実行プラン・コミットの確認・共有」

必ずしも議論の参加者全員が同じ段階にいるとは限らないため、参加者によっては個別にケアして納得感を持った状態で同じ出発点に立ったうえで議論を開始する必要があるだろう。

後半は、「さばき」であり、一般的にファシリテーターの求められる能力はこちらの方が大きいのではないだろうか。「さばき」の基本動作として本書では

  • 発言を引き出す
  • 発言を理解し、共有する
  • 議論を方向づける
  • 結論づける

という4つを挙げている。それぞれの動作について考えられる障害、それに対するアドバイスがたくさん書かれており、定期的にファシリテーターを務める人であれば手元に一冊おいておいて何度も見返したくなることだろう。個人的には「発言の理解」の部分が印象的で、論点(=問い)、主張、根拠、目的を考えて人の意見を聞くということの重要性気付かされた。ファシリテーションを学びたくてたまたま本書を手に取ったが非常に満足である。
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「理科系の作文技術」木下是雄

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
読む人に伝わる作文技術についてわかりやすく解説している。
ブログなどで世の中に発信する機会は今後増えていくだろう。それによって今まで以上に伝わりやすい文章を書く必要があると考え本書を手に取った。
物語は、新入社員である新田文(にったあや)に先輩である梶山聡(かじやまさとし)が仕事のなかで文章の書き方を指導していく。どれも仕事でもブログでも文章を書くときに活かすために覚えておきたいことばかりである。
まずは

必要なことはもれなく記述し
必要でないことは一切書かない

当たり前ではあるが、どうしても不必要なことを書き込んでしまう。

目標規定文をまとめる

文章を書き始める前に、その文章を何を目標として書くのかをはっきりさせるということ。目標があることによって「必要なこと」と「必要でないこと」の判断がしやすくなる。

重点先行主義
概念から細部へ

どちらも文章を書く際によく言われることであるが常に意識していないと難しい。すべての人間が書いた文章をすべて読むとは限らないということを意識すべきなのだ。

逆茂木型を避ける

逆茂木型とは修飾句や修飾節の長い文章をのことである。日本語で何かを説明しようとするとどうしても修飾節が長くなりがちだが、意識して文章を分けたりすることで解決できる。
また、意見と言っても6つに分けられるというのはこれまで考えたこともなかった。

推論
判断
意見
確信
仮説
理論

書こうとしていることが、6つのうちのどれに当てはまるのか、これから意識して文章を書きたいと思った。
知識として持っていただけでいい文章が書けるわけではないが、今後意識していきたい。この本は「理科系の作文技術」という新書をベースとして書かれたということなので、そちらの本も近いうちに読もうと思った。
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「モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書」尾原和啓

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
「乾いている世代」「乾けない世代」という言葉を使って、今の若者たちの価値観の違いを語る。
「乾いている世代」である団塊世代よりも上の世代に、今の30代以下の人たちの持つ価値観を教えるような内容でもあるが、一方で逆に、「乾けない世代」である若者たちにこれからの時代の生き方を教えているようでもあり、何が言いたいのかはっきりしない印象を受けた。
改めて本書の目的を確認したくて「はじめに」を読むと「若い世代のモチベーションを理解することが最大の武器となる。」と書いてあるので、ターゲットは若者の考え方の理解できない年配者だったのだろうが、中盤あたりからは若者向けの内容になっている。おそらく、著者が言いたいことを適当に書き綴ったものを集めて出版にしただけなのだろう。
章ごとのつながりも希薄なために、書籍全体としての目的がはっきりしない印象を受けた。読む人によっては新しい情報もあるのかもしれないが、基本的に他の書籍などでも触れられている考えばかりで、特に新しいことはなかった。
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「侍」遠藤周作

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
キリスト教への迫害が進むなか、長谷倉六右衛門(はせくらりくえもん)は藩主の命により宣教師ベラスコとともに海を渡ることとなった。
遠藤周作の名作の一つとして前回読んだ「沈黙」で描かれていた宣教師の葛藤が印象的だったため、本作品もと思い手に取った。
物語は、キリスト教の世界のなかで名声を高めようとする宣教師ベラスコと、先代から受け継がれていた土地を返してもらうために、海を渡ることを決意した侍、長谷倉六右衛門(はせくらりくえもん)の視点で交互に描かれる。
驚いたのは、まず当時のスペイン領メキシコに向かった点である。当時スペインが巨大な植民地を持っていたことは知識と知っていたが、やはり物語としてそれを味わうのは違うもの。彼らは東回りでメキシコへ到着し、その後スペインを目指すのである。この時代にはまだパナマ運河がなかったために、一行はメキシコ到着後に、大西洋側に移動してから別の船でスペインにむかったのだということも併せて知った。長い航海のなかで何人かの人は命を落とし、また暴風雨で船から投げ出されるなど、物語を通じて当時の旅の難しさを知ることができた。
その後一行はさらに、ローマ法王に謁見するためにローマに向かう。
当時のキリスト教の布教が、ペテロ会とポーロ会という2つの派閥の間で起こっていたことを知る。ポーロ会宣教師ベラスコとペテロ会の宣教師たちが議論するシーンでは、日本での布教がなぜこれほど難しいのかについても語っており、日本人の持っている考え方の特殊な部分について改めて考えさせられるだろう。
また、武将として一つの時代をいきながらも時代の変化のなかで戦が減り、新しい生きる道を探しヨーロッパに向かうこととなった長谷倉六右衛門(はせくらりくえもん)からは、当時の時代の変化が人々に強いた変化を感じることができる。
本書を読み終えて、どうやら本書が実在の人物支倉常長を題材としているということに気づいた。支倉常長という名前は耳にしたことはあったが何をやった人物かということは知らなかった。本書でその航海のために作られたガレオン船も、実在した船サン・ファン・バウティスタ号をモデルとしており、それは支倉常長とともに宮城でとても有名で博物館もあることを知った。近いうちに行ってみたいと思った。
また、遠藤周作という作家については、人の心の葛藤を描くのがうまいと感じた。キリスト教を深く調べているにもかかわらずどちらかというと否定的な描き方をしているので、キリスト教に対してどのような考えを持っていたのか、作家自身の考えについて興味を持った。
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「GRIT(グリット) 平凡でも一流になれる「やり抜く力」」リンダ・キャプライン・セイラー/ロビン・コヴィル

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

成功する人とそうでない人の差はなんなのか。それは社会的知性(SQ)でもなければ、知能指数(IQ)でもなくでも、GRITという呼ばれる力なのだという。本書はそんな成功するための力「GRIT」について語っている。
序盤ではこれまで考えられていたIQの重要性を否定してからGRITに語っていく。GRITとは度胸(Guts)、復元力(Resillience)、自発性(Initiative)、執念(Tenacity)という4つの力で、多くの実例を交えて説明している。
まず印象的だったのは「夢を捨てされ」の章である。僕らは「夢を持つこと」はいいことだと教わってきた。それは確かに目標に向かう原動力となり得るのだが、夢を語ってばかりで実際にその1歩を踏み出さない人も多くいるのだという。夢想している暇があったら「今日できることをする」という考え方が重要なのだという。
また、拒絶されても立ち直る力を身につけるために、ある男性が行なったリジェクションセラピーの話も面白かった。投資家からの資金提要を断られたことがショックだった彼は立ち直る力を身につけるために、100日間連続で人に断られることを目標にしたのだ。断られるための無茶な要望にもかかわらず、受け入れてくれた人がいたことから、男性は自分の望みを叶えるためには拒絶を恐れずに、頼んでみることが重要なのだと知るのである。拒絶は人間の否定ではなく、ただ単にあなたの要求が相手の求めているものにマッチしなかったというだけなのだ。
終盤の「期限は無限」の章で紹介されていた、92歳の時にアルファベットを学び始め、98歳のときにベストセラーを書いた男性の話は、多くの読者へ、将来への希望を与えてくれるだろう。
多くの例は触れられているものの、実際にどのような方法をとればGRITが身に付けられるのかはわかりにくい。それでも「忍耐力」、「楽観主義」、「固定思考」よりも「成長思考」と、いくつかの鍵となる考え方を知れば今後の生き方のヒントとなるのではないだろうか。何よりもいい話に溢れているので一読の価値ありである。
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「The Design Method: A Philosophy and Process for Functional Visual Communication」Eric Karjaluoto

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
目的を達するためのデザインを作成する手法について説明している。

僕自身もデザイナーであり15年以上デザインの仕事に関わってきた。現在でこそ作業フローは確立されてきているが、最初の頃はただただ美しくかっこいいものを作ることに大量の時間を費やしていた。きっと現在も多くのデザイナーがそんな美しいだけのデザインを作ることに大量に時間を費やしているのだろう。

しかし、本書の冒頭でも語られているように、デザインとアートは違うのである。アートであれば美しくかっこいいものを作ればそれでよかったかもしれないが、デザインは常に目的がありその目的を達成してこそ「いいデザイン」なのである。

本書はそんなデザインの流れを体系化して説明している。読者によっては反論したくなるようなこともあるだろうが、個人的には納得のいくことばかりで、僕自身が辿り着いた手法とかなり近いと思った。

まず、良くあるデザインの勘違いと、デザイナーが心がけるべきことにいくつかの例を挙げながら触れた後に、著者が辿り着いたDesign Methodの説明へと入っていく。それは次の4つのステージから構成される。

1.Discovery
データを収集し、観察と分析から状況を知る

2.Planning
問題とニーズを突き止め戦略と実行可能な計画を作る

3.Creative
考えうる案を検討しデザインの方向性を決める

4.Application
試験と分析を繰り返しながらデザインを適用する

デザイナーによってその作業範囲はそれぞれであるが、実際に多くの人が「デザイン」という言葉からイメージするのは「Creative Stage」以降なのではないだろうか。残念ながら今でも多くのデザイナーや制作プロダクションが1のDiscoveryステージと2のPlanningステージにほとんど時間をかけていないのが実情である。

4つのステージを順を追って細かい進め方、陥りやすい間違いなどについて詳細に説明している。部分的にでも参考にできそうな部分はたくさんあるだろう。

個人的には4のApplicationステージの進め方が印象に残った。本書ではデザインの作成段階でも常に、適応しつつ結果を見て調整していくとしている。つまり、少しデザインを適応しては結果を確認し、その結果によってその先のデザインの適用を調整していくというのである。

確実に機能するデザインを作るという点で非常に納得ではあるが、そのようなテストをしながらデザインを適用するためには、クライアントとの信頼関係づくりがかなり重要となるだろう。実際本書では何度もクライアントとの関係づくりの重要性に触れている。クライアント側の担当者目線でデザインがどのように見えるか語っている部分も印象的だった。確かに、ほとんどデザインのことを知らないなかで、デザイナーと打ち合わせて決めていかなければならない、クライアント側の担当者の立場に立つと、今までとは違った部分が見えてくる。

デザイナーだけでなく、デザインプロジェクトの担当者としてこれからデザイナーを探さなきゃいけない人など、デザイナーに関わる全ての人にとって学べる内容がたくさん含まれている。

関連書籍
「The 80/20 principle」Richard Koch
「The Dip」Seth Godin
「The Elements of Typographic Style」Robert Bringhurt
「Good to Great」Jim Collins
「How to Be a Graphic Designer without Losing Your Soul」Adrian Shaughnessy
「Positioning」Al Ries and Jack Trout
「Whatever You Think the Opposite」Paul Arden
「Zag」Marty Neumeier

「羊と鋼の森」宮下奈都

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2016年本屋大賞受賞作品。高校生のときに、調律師の仕事に魅せられた男性外村(とむら)が、調律師として成長していく様子を描く。

調律師という仕事を、実際にその仕事に従事している人のの視点で見せてくれたことがありがたい。調律師という仕事があることは知っていたが、それはギターの音を合わせるように、一定の周波数に音を合わせる誰にでも機械的にできる作業かと思っていた。どんな仕事も毎日その作業を行う人のしか見えない深さがあるのだろう。それが、こうやって物語として触れると、自分がその仕事をしているかのように深く見えてくるから不思議である。

個人のピアノを調律するのと、コンサートのピアノの調律をするのは大きく違ことや、その会場の物の配置が変わっただけで音に影響が出るということが新鮮だった。また、物語中で語られるこんな言葉にも感動した。

持ち主に愛されてよく弾かれているピアノを調律するのはうれしい。一年経ってもあまり狂いのないピアノは、調律の作業は少なくて済むかもしれないが、やりがいも少ないと思う。

主人公である外村(とむら)のほかにも、同じ職場で調律師として働く人が出てくる。天才調律師の板鳥(いたどり)、元々はピアニストを目指していたが諦めて調律師となった秋野(あきの)、バンドでドラムをしている柳(やなぎ)である。調律師として生きる人にもいろんな過去があることが面白い。

毎日こつこつと技術を積み上げていく職人気質の仕事に改めて魅力を感じた。
【楽天ブックス】「羊と鋼の森」