「入門クラウドファンディング スタートアップ、新規プロジェクト実現のための資金調達方法」山本純子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
KickstarterやCampfireなど、クラウドファンディングという言葉が世に広まってすでに5年ほど経つが、僕自身クラウドファンディングによって資金を調達したことも、投資したこともない。何か大きなことをやろうと思って資金が足りないとなったときに、クラウドファンディングというものをどのように利用できるのか知りたくて今回本書にたどり着いた。
序盤は、クラウドファンディングというものがオンラインを通じてできるようになり、その資金調達の額が次第に大きくなっていく様子を、いくつかの事例を交えて説明している。すでにクラウドファンディングという手段が特殊なものではないということがわかるだろう。
面白かったのは中盤で描かれている、参加者の心理である。「なぜクラウドファンディングで資金調達に協力するのか?」。きっと世の中にはその心理がまったく理解できない人もいるのではないだろうか。もちろんクラウドファンディングには資金調達が成功した暁には「リワード」として、完成した製品や記念品などを資金提供者に送るというのは一般的なので、そのリワードを求めて資金を提供してくれる人も多いが、もう一つの要素を忘れてしまうと、そのクラウドファンディングは失敗に終わることが多いという。それは「仲間になりたい」という心理である。したがって、クラウドファンディングによって資金を調達する側は、常にプロジェクトの進行具合を報告し、参加者とのコミュニケーションを重視する必要がるのだ。
だからこそ、本書の最後を締めくくっているこの言葉が響いた。

「資金提供者に対し永久的な負債を抱える覚悟があるか」。このことは、クラウドファンディングにおいて決して忘れてはいけない問いかけなのです。

ただでお金が手にはいる、というのは非常に便利に聞こえるが、そのために費やさなければいけない誠意、態度などは、中途半端な覚悟でできることではないのだろう。
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「デザインのデザイン」原研哉

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本デザインセンター代表の著者がデザインについて語る。
個人的には第2章の「リ・デザイン」が面白かった。著者は、2000年に身近なもののデザインを考え直す「リデザイン」というプロジェクトを主催し、日本のクリエイターに日常にあるものの再デザインを依頼したのだという。そのデザインの結果として上がってきたものが紹介されているが、もっとも印象に残ったのは、丸ではなく四角くしたトイレットペーパーの芯である。四角いことでトイレットペーペーを使う際に引っかかりができて使う量が少なくなるというエコ効果があるうえに、トイレットペーパーが巻かれても四角さは維持されるから収納しやすいという意図である。このような日常品のリデザインがほかにも幾つか紹介されている。
後半には著者が関わったいくつかのプロジェクトが紹介されている。田中一光から引き継いだ無印良品のプロジェクトはそのコンセプトの成り立ちから現在の問題点までとても興味深い。コンセプトがしっかりしているからこそ西友のコーポレートブランドが世界的なブランドにまで成長したのだろう。
2003年という今から15年も前に書かれた本にもかかわらず、世の中のデザインという舞台に現在起こっていることを語っていることに驚いた。著者は当時からすでにデザインの本質に目を向けていたか、将来のデザインの流れが見えていたのだと感じた。

ジョン・ラスキン
19世紀イギリス・ヴィクトリア時代を代表する評論家・美術評論家である。(Wikipedia「ジョン・ラスキン」)
ダダイズム
1910年代半ばに起こった芸術思想・芸術運動のことである。ダダイズム、あるいは単にダダとも呼ばれる。第一次世界大戦に対する抵抗やそれによってもたらされた虚無を根底に持っており、既成の秩序や常識に対する、否定、攻撃、破壊といった思想を大きな特徴とする。(Wikipedia「ダダイズム」)
ウィーン分離派
1897年にウィーンで画家グスタフ・クリムトを中心に結成された芸術家のグループ。セセッション、ゼツェッシオンともいう。(Wikipedia「ウィーン分離派)
未来派
過去の芸術の徹底破壊と、機械化によって実現された近代社会の速さを称えるもので、20世紀初頭にイタリアを中心として起こった前衛芸術運動。この運動は文学、美術、建築、音楽と広範な分野で展開されたが、1920年代からは、イタリア・ファシズムに受け入れられ[1]、戦争を「世の中を衛生的にする唯一の方法」として賛美した。(Wikipedia「未来派」)

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「Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness」Richard H. Thaler, Cass R. Sunstein

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
世の中はほんの少しの変更で劇的に変わる。本書はそんな世の中の人々の傾向について語る。このような知識を持って入れば、わずかな変更で世の中を求める方向に導くことができるかもしれない。
保険、住宅ローン、学費ローンなど、しっかり考えれば自らの選択がベストではないことは明らかなのに、複雑かつ多すぎる選択肢のせいで多くの人々は深く考えもせずに選択しており、それによって人々は本来受けるべき幸せを手にすることができていない。なぜなら僕らは忙しいし、考えたり分析をするために大量の時間を費したくなどないからだ。
そんな過剰な選択をせまられてベストな選択をできない人々に、適切な選択をさせるために知っておかなければならない人間の傾向は次のようなものだ。

Anchoring

僕らは知っている情報を元に別の情報を判断しようとする。

Availability

何かが起きる可能性を、どれだけ身近にその事例があるかで判断する傾向がある。例えば近いうちに大きな地震が起きる可能性を考えた時、大きな地震を経験したことがある人とない人ではその想定する可能性に違いがある。

Representatives

AがBに所属するかを判断する際に、AがどれだけBのイメージに近いかで判断する傾向がある。

Optimism and Overconfidence

人々は自分のことを平均以上だとみなす傾向がある。

Gain and losses

同じ物でも、得ることきより失うときのほうがその損失を高く見積もる傾向がある。

Status Quo Bias

人は現在の状況に固執する傾向がある。

Framing

人はどのように表現をするかに影響を受ける。例えば人は「この手術で10人に9人が生き延びる。」の方が「10人に1人が死ぬ」よりも手術を前向きに捉える傾向がある。
後半は上の傾向をどのように実際に生かすかを年配者の薬、臓器提供をどのように増やすかなどについて書いている。それぞれのNudgeを用いた例が細かすぎてあまり読みやすいとは言えない。もっと例を増やしながらも重要なポイントだけ整理したほうがわかりやすく読みやすく仕上がったのではないだろうか。

「デザインの次に来るもの」八重樫文

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
イタリアでデザインをしていた著者が、グローバルな視点からこれからのデザインを語る。
前半では、「デザイン」という言葉について触れている。日本に限らず世界では「デザイン」という言葉は視覚的な「スタイリング」を指して使われることが多く、一握りの最先端の企業だけが、プロセスや戦略に「デザイン」という言葉を用いているのだという。本書はそんな「デザイン」の捉え方の違いを「大きなデザイン」「小さなデザイン」と呼んでいる。そして、これからの時代の変化に対応するために「プロセス」や「戦略」にまでデザインの考え方を適用するためにすべきことを事例を交えて語っている。
基本的に自分が今世の中に憂いている点と重なる部分が多かった。本書を読んで思ったのは、今、世の中には多くのデザイナーが存在し、その多くはスタイリングだけを考える「小さなデザイナー」であり、自分自身が「大きなデザイナー」であることを示すためには「デザイナー」という肩書きはあまり適切でないのではないかということ。本書では「クリエイティブディレクター」という言葉を例に挙げているが、肩書き自体を考え直すきっかけになった。
正直読み易い書き方がされているとは言いがたく、言いたいことも漠然としか伝わってこなかった。とはいえ、いくつかのことを考え直すきっかけにはなったがあまり人に勧められる本ではない。
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「沈黙」遠藤周作

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
島原の乱ののち徳川家光はキリスト教聖職者を国外に追放することとした。そんな逆風のなかポルトガル人のセバスチャン・ロドリゴは日本に向かうことになる。
友人から勧められて本書を手に取った。本書はキリストの布教を目指すポルトガル人セバスチャン・ロドリゴが拘束され、改心を迫られる様子を描いている。
「踏絵」というとどんな歴史の教科書にも登場するシーンであるが、実際にそれを体験したキリスト教徒の心のうちを想像するのは簡単なことではない。本書は物語としては迫害に苦しむキリスト聖職者と短くまとめることができるが、踏絵を前にしたキリスト聖職者の心の葛藤をこれ以上深く伝えるものはないのではないだろうか。
終盤に向かうにしたがってタイトルの示す「沈黙」の意味がわかってくる。最初はタイトルなど気にせずに読み進めていたのだが、そのタイトルの深さも本書のもっとも印象的な部分の一つだ。「踏絵」とかもっとわかりやすいタイトルにもできたはずなのに。
ロドリゴは迫害される信者を見つめながらなんども祈るのである。

あなたはなぜ黙っているのです。この時でさえ黙っているのですか。

そして回答がないことを知るたびにロドリゴの心は大きく揺れるのである。

形だけ踏めばよいことだ

正しい行いがはっきりしている時は悩むことなどないだろう。何が正しいかわからないときほどつらいときはない。そんなことを改めて思い出させてくれる作品。遠藤周作はこれまでなんども人から勧められながらもなかなか読む機会がなかったが、予想以上に印象的な作品を描くことに驚いた。まずは代表作から読み潰していきたい。
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