「慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件」木村盛岳

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1915年に北海道で起こった8名の死者を出したヒグマの襲撃事件を描く。
あまりにも残酷な出来事のために、この事件を基にした物語はいくつかあり、僕自身も数年前に「シャトゥーン ヒグマの森」という物語を読んでこの事件を知った。本書は事実をできるかぎり忠実に描こうとしているため、ドラマ仕立ての物語のような感情的な表現がなく、それがむしろ現実の怖さを伝えてくるようだ。
著者は当日のその場に居合わせた人々の台詞まで調べ上げている。そして、当日人々が交わし合ったヒグマに関する冗談などが、その後の惨劇を予感させるようなものであったために、何か人の力の及ばない力の存在を感じさせている点が興味深い。
本書はその他にもヒグマ事件に関する考察や、有名な福岡大学ワンゲル部員の事件や、写真家星野道夫さんの事件など、その他の日本で起こったヒグマによる死傷事件を取り扱っている。動物の恐さを思い出させる内容である。
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「蟻の菜園 アントガーデン」柚木裕子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
結婚詐欺の容疑で逮捕された女性円藤冬香(えんどうふゆか)は、美人で男に不自由しないように見えた。そこに興味を持ったフリーライターの今林由美(いまばやしゆみ)はその真相を究明して記事にしようとする。
由美(ゆみ)が円藤冬香(えんどうふゆか)のこれまでの足取りを探るうちに、円藤冬香(えんどうふゆか)は施設で育った事を知る。また、あわせて福井の言葉を知っていたらしいという証言を得る。
その一方で本書では並行して父親から虐待を受ける幼い姉妹の話が展開していく。その姉妹は早紀(さき)と冬香(ふゆか)と言い、東尋坊の電話ボックスから救いを求める早紀(さき)は早紀(さき)を救おうとする大人達が目を離したすきに再び行方をくらましてしまう。2つの物語は、由美(ゆみ)が調査を進めるにしたがって次第に重なっていくのである。
残念ながら、読者にとっては比較的あっさり結末が見えてしまうだろう。また、物語のなかに深いテーマのような物が見えなかった点が残念である。
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「パレートの誤算」柚木裕子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ケースワーカーとして市役所に勤める聡美(さとみ)。受給者を訪問するという気が重い作業を行うなか、先輩社員が同じく受給者訪問中に殺されるという事件が起きる。
受給者の訪問をする聡美(さとみ)と同僚の小野寺(おのでら)は生活保護として受給したお金をギャンブルに使う人にいらだちを隠せない。そんななか、そんな受給者達の訪問によって、彼らの支えになろうと、仕事に誇りを持って取り組んでいた先輩社員の山川(やまかわ)が殺害されるのである。真実を知ろうと調査するうちに、聡美(さとみ)自信にも危険が及んでいくのだ。
生活保護という議論の多い領域を扱った物語なので、物語の流れとしてはそれほど予想を超える内容ではなかった。もう一捻りあっても良かったような気がする。個人的に今注目の作家だけにありふれた物語に終わってしまっている点が残念である。
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「幸せの条件」誉田哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
24歳の梢恵(こずえ)は惰性でつとめていた会社から長野に行ってバイオエタノール用の米を作ってくれる農家を探すように命じられた。
渋々行った長野で梢恵(こずえ)はいくつかの農家を訪問した後、その地域の農業の発展に努める「あぐもぐ」という会社を経営する温かい家庭に迎えらる。会社のために農業を学ぶ、という目的で農家の仕事を手伝い始めた梢恵(こずえ)は、そこで農業と農業とともに生活することに魅力を感じていくのである。
単純な話ではあるが、最先端の農業について物語を通じで学べる点が面白い。若い人間は、農業と聞くと、効率の悪い地味な作業のような印象を持っているかもしれないが、本書で描いている最先端の農業は、非常に合理的な物である。物語中で、農業に関連する言葉に対して、質問する梢恵(こずえ)に、社長である茂樹(しげき)が丁寧に答えていく。どれも興味深い話ばかりで、農業という領域に読者の興味を向けてくれるだろう。特に食糧自給率の話は印象に残った。世の中は作為的な数字にだまされているのかもしれない。
また、物語は東北大震災と時期が重なっており、福島の原発の引き起こした出来事がどれほど農家に深刻な影響を与えたかが伝わってくる。
物語の面白さだけでなく、新たな分野に視野を広げてくれたという点でも評価できる一冊。
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「統計学入門」盛山和夫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
統計学の基本的な部分を説明している。
学生時代に習った期待値や最小二乗法などの意味がより深く理解できた気がする。また、検定という考えについてもようやく少し分かってきた。しかし、やはり鉛筆と紙を用いて書かれている内容を繰り返し使用してみないと本当の理解には到達しないというのが身にしみてわかった気がする。読書時間ではなく勉強時間を別に設ける必要があるのだろう。
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「「学力」の経済学」中室牧子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本の教育のあるべき姿について、データを元に説明していく。
例えば、「本を与えれば成績がよくなる」とか「ゲームをさせると成績が下がる」とか、世の中でよく言われることを科学的に説明しようと試みていく。その過程で、日本の教育がどれほど証拠もなしに、先入観によって構築されているかに気付かされるだろう。
また、著者はそれ以外にも教育システムの向上のために多くの内容に触れているが、なかでも印象的だったのは計る事のできない「非認知能力」つまり「やりぬく力」の重要性である。教育に関心のある多くの人が中学や高校での教育の重要だと思う一方で、本当に人生を変えるほど重要なのは、小学校に入るまでに培われた自らを律する「やりぬく力」だというのである。「自制心」とも呼ばれるこの力は、若い頃のしつけや部活などの活動を通じで培われていくものだそうだ。
目の前の定期試験で数点を上げるために、部活や生徒会、社会貢献活動をやめさせたりすることには身長であるべきかもしれません。学力をわずかに上げるために、長い目でみて子どもたちを助けてくれるであろう「非認知能力」を培う貴重な機会を奪ってしまうことになりかねないからです。
また、後半で著者が語っている、教員免許の弊害についての考え方も新鮮で面白かった。教育に対して新たな考え方をもたらしてくれる一冊である。
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「JavaScript:The Good Parts」ダグラス・クロフォード

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ここ数年で一気に需要が高まっているJavaScript。しかしそれは多くのプログラマーを悩ませる仕様が詰まっている。JavaScriptの性質を知り尽くした著者が、JavaScriptで「良いパーツ」を作るための方法をまとめている。
若干僕のJavaScriptの知識レベルには早すぎたという印象もあり、理解できない箇所も多々あったが、いいJavaScriptを書くためにやったほうがいいことと、やらないほうがいいことはいくつか知る事ができたし、なによりも本書によって癖のあるJavaScriptという言語に魅力を感じてしまった。
おそらく本書によってJavaScriptという言語の不完全さを知って嫌いになる人もいるだろうが、僕のように逆にその深さに魅了されてしまう人もいるだろう。本書には、もう少し知識を貯えてきてからまた戻ってきたいと思った。
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「UI is Communication: How to Design Intuitive, User Centered Interfaces by Focusing on Effective Communication」Everett N McKay

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
UIについて語る。
タイトルも示しているように、本書がひたすら繰り返すのは、UIはコミュニケーションである、ということである。例えば、新宿駅で本屋の場所をたずねたときに、ニューヨークの本屋を紹介するというのは普通のコミュニケーションであればありえないことだが、世の中の多くのサイトはそのようなことを平然と行っているのだ。
同様に同じ事を繰り返したずねるのも普通のコミュニケーションであれば失礼で、相手を深井に感じさせることである。しかし、僕らは何度もメールアドレスを入力する事があるし、同じエラーメッセージが何度も表示される事がある。また、興味深いのは言葉の使い方である。「You failed….」(あなたは失敗した)のようにユーザーを避難する言葉ではなく「Something went wrong.」(異常が発生しました)のようにシステム側に問題があることを示唆する言葉を使うべきだというのである。
なぜこのようなことが起きるかというと、UIデザインは未だにシステム目線で行われているからなのだ。それを表すのに次のような印象的な言い方をしている。

すべてのUI要素はそこにあるべきだからそこにあるのであって、単に物理的にはまるからそこにあるのではない。僕らはUI要素でテトリスをやっているわけではないのだ。

上記のような内容を、徹底的に実際のサイトやアプリを例にとって解説してくれる。本書は世の中のすべての物の見方を変えてくれるだろう。UIデザインに関わる人は必読の一冊。

「満願」米澤穂信

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第27回(2014年)山本周五郎賞受賞、2015年このミステリーがすごい!国内編第1位作品。

6つの物語を集めた短編集。短編集とはいえどれも非常に質の高い物語が集まっている。最初の物語の「夜警」は殉職した警察官の話。彼はあまり警察官に向いていなかったが、その日、酔った犯人に発砲すると同時にその犯人に刺されて亡くなったのである。しかし、彼の性格やその日の様子を詳細に振り返ってみるとその裏に隠された意図が見えてくるのである。

3番目の「万灯」の物語も印象的である。プロジェクトでバングラディシュに派遣された男性は、そこでのプロジェクトの完遂のために、ある村に拠点を築く必要がある。しかしその村の権力者達は、それに反対する一人の権力者を殺すことを条件にそれを受け入れる提案をするのである。彼は仕事のためにそれを受け入れるのだが、それはやがてさらなる問題を生むことになるのである。

上記の2つ意外もどれもずっしりと印象に残る物語ばかり。著者米澤穂信は軽いミステリーを描くという印象を持っていたが、ここ最近の作品からは、雰囲気作りなど非常に優れた小説家になってきたということに驚かされる。
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「破門」黒川博行

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第151回直木賞受賞作品。
小さな建設コンサルタントを営む二宮(にのみや)は知り合いの暴力団の桑原(くわばら)によって暴力団同士の詐欺に巻き込まれていく。
二宮(にのみや)と桑原(くわばら)を中心に、関西圏を中心とした多くの暴力団と喧嘩、駆け引きを繰り返しながら、物事をなんとか丸く収めようと奔走する様子が描かれている。面白いのは二宮(にのみや)の微妙な立ち位置である。堅気でありながらもお金欲しさに桑原(くわばら)と関わり、諍いの渦中にどんどん引き込まれていくのだが、暴力に怯えながらもお金は欲しいため桑原(くわばら)にお金を要求していくのである。
二宮(にのみや)が飼っているインコや、従姉妹の悠紀(ゆうき)の存在が物語に彩りを添えている。
物語の全体の流れが特別印象的というわけではないが、二宮(にのみや)と(くわばら)の会話の独特のテンポが印象的だった。
【楽天ブックス】「破門」