「宮本武蔵(八)」吉川英治

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
宮本武蔵の最終巻。武蔵は小次郎との決闘へ向かう。
8冊にわたって続いた宮本武蔵の物語も本書で完結する。伊織やお通、お杉や又八などが武蔵のもとに集まるのである。それぞれがすでにその道で有名になっており、世間も2人の決闘への関心が高い。決闘当日までの周囲の七人の行動や、武蔵の態度が読みどころと言えるだろう。
個人的には小次郎との決闘の後の武蔵の人生にも触れて欲しかったがそのあたりは他の作家や漫画家に譲って、これを1つの有名な武蔵の物語として受け入れるべきなのだろう。
1つの有名な小説をようやく読み終える事ができた。個人的には武蔵が伊織と出会う5巻あたりが好きである。
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「ドンナビアンカ」誉田哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
40歳目前で独身の村瀬は配送の仕事で出入りのある店で若い中国人女性と知り合いになる。また警視庁練馬警察署の魚住久江(うおずみひさえ)は誘拐事件に関わる事になる。
魚住久江(うおずみひさえ)が登場する事なのでおそらく同じ著者の別作品「ドルチェ」の続編になるのであろう。「ドルチェ」では、その仕事のなかで扱う様々な細かい事件を通して、いろんな人々の生活や心の内を描いていたが、本作品では基本的に1つの誘拐事件に焦点をあてている。久江(ひさえ)目線から少しずつ犯人や真実に迫っていく様子と、村瀬(むらせ)目線で若い女性と知り合ってそれまでの人生が少し明るくなっていく様子が交互に描かれる。
村瀬(むらせ)目線で物語を見ることによって、社会的には下位にいるであろう人々の考え方や生き方、そして社会の問題点が見えてくる。世の中の犯罪の多くは、人が起こしているのではなく、社会のシステムが創り出しているのではないだろうか。
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「ローマ人の物語 勝者の混迷」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
カルタゴが滅亡して大国となったローマ。しかし領土が増えて人が増えれば様々な問題が噴出する。タイトルが「勝者の混迷」と付けられていることからも想像できるように、とりたてて大きな出来事があるわけでもないが、平和ゆえに噴出する多くの問題が見えてくる。
ローマは領土が拡大する過程で、すべての市民に平等な市民権を与えれば旧市民の反感を招き、平等な市民権を与えなければ新しく支配下に入った領土の人々に不信感を与える。というジレンマに陥るのである。また、世界を完全に制覇しない限り常に隣国は存在し、隣国との関係や争いは常に発生するのである。この「勝者の混迷」で見せてくれるのは、まさにそんな組織を維持する事の難しさである。
投票権や税金は言うまでもなく、新しい制度への段階的移行など、現在僕らが生きているこの社会が、過去の何千年もの人類の試行錯誤の結果などだと思い知る。
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「宮本武蔵(七)」吉川英治

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
宮本武蔵の物語の第7巻。全8巻のこの物語もいよいよ終盤に近づいていく。
過去の登場人物が勢揃いするような一冊。武蔵と別れた城太郎(じょうたろう)は立派な青年となって、現在の武蔵の弟子である伊織(いおり)と遭遇する。そしてかつて武蔵と勝負した夢想権之助(むそうごんのすけ)は伊織(いおり)とともに旅することとなる。
特に際立った大きな動きはないが、物語が終わりに向かっている事を感じさせる。
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「完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者」マーシャ・ガッセン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
懸賞金のかけられたミレニアム問題の1つポアンカレ予想が2003年にロシアの数学者によって証明された。しかし彼は懸賞金を受け取る事を拒否して行方をくらました。彼はどのような理由からそのような行動をとったのだろうか。
ポアンカレ予想に関連する本を読もうと思って本書に出会った。残念ながらポアンカレ予想についてはあまり多く触れられておらず、むしろそれを証明した数学者ペレルマンの生い立ちや、証明を発表したときの彼の言動について書かれている。彼がロシア人という事で、むしろ数学よりもペレルマンやその周囲の人々が育った時代の厳しいロシア社会が印象的である。言いたいことを言う事ができず、海外に出るためのパスポートを手に入れる事さえ難しい時代、あらゆる学問や教育がその体制ゆえに被害を被ったという。
本書にはペレルマン自身へのインタビューなどは一切掲載されていない。そういう意味では読者の予想を裏切る事が多いのかもしれない。個人的にはそれでもいろいろ学ぶ部分はあったと感じるし、さらにポアンカレ予想や位相幾何学というものを理解してみたくなった。
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「ドルチェ」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
警視庁練馬警察署の巡査部長である魚住久江(うおずみひさえ)の関わる6つの事件を描く。
40歳を超えた女性目線ということで、警察小説といえども、本書で扱われる事件は、殺人といった派手なものではなく暴行、傷害、虐待などである。事件自体は些細な物に見えるが、それゆえにその事件を通じて見えてくる、いろんな人間の側面は他人事とは思えないものを感じる。
多くの登場人物が30代以降であるのも興味深い。希望を持って生きている20代に対して、未来の可能性が急激に狭まっていく30代は、世の中に絶望して犯罪に走りやすい傾向があるのだろうか。人生をやり直すのに遅いならば、人生自体を壊してしまう事をためらわないのだろうか。
「ストロベリーナイト」シリーズや「ジウ」で派手な警察小説を描いている著者誉田哲也があえてこういう質素な物語を描くと、ここから何を伝えようとしているのだろう、と必要以上に考えてしまう。
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「図解 橋の科学」田中輝彦/渡邊英一他

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
橋についてわかりやすく語る。
先日、日本の明石海峡大橋がどうやらすごいらしいことを知った。急に橋とはどのように作れるのか知りたくなった。対岸にどうやって最初の一本の板を渡すのか、海や河の中にどうやってあの大きな橋桁を作るのか。そうして本書に行き着いた。
本書ではまずさまざまな橋の形状について語っている。わかりやすいものだと吊橋(つりばし)や桁橋(けたばし)、そして他にはトラス橋、斜張橋、ラーメン橋、アーチ橋で、それぞれの簡単な構造や世界の例について書いている。
また、中盤では橋の建築方法、そして後半では過去の橋の崩落事故や、橋を長く維持するための方法について触れている。本書自体が橋に興味を持った中学生や高校生に向けて書かれているので、本当にわかりやすく基本的な内容にとどまっているが、橋についてちょっと知りたい、といった人にはちょうどいいだろう。
個人的にはレインボーブリッジはずっと吊橋だと思っていたのでようやく斜張橋と吊橋の区別がつくようになった。世界にはいろんな橋があることがわかったし、また行きたい場所が増えた。普段生活している町のなかにまた1つ興味を持って見ることのできる対象が増えた気がする。
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「モルフェウスの領域」海堂尊

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日比野涼子(ひびのりょうこ)は未来医学探究センターの唯一の職員。彼女の仕事は世界初の人工冬眠について少年モルフェウスを維持する事だった。そしてやがてモルフェウスが冬眠から目覚める時が近づいてくる。
人口冬眠、コールドスリープなど言葉の使い方はいろいろあるけれども、人が眠りについて未来にそのままの姿で生き返る、というのは過去多くのSF作品で使われてきたできごと。本書は医療を専門としている著者海堂尊(かいどうたける)が描く事で、より現実世界に関連した内容に仕上がっている。
これまで同じ著者の物語に多く触れてきたなかでは、現実的な医療技術を物語に取り込んでいるという印象を持っていた。そのため、ひょっとしたらコールドスリープもすでに実現可能な技術なのかもと検索したが、どうやらそのような事実はまだないようである。
本書では、目を摘出しなければならなくなった少年が、その治療薬の開発・認可を待つためにコールドスリープを選択する、という過程をとっている。関係者や政治家がコールドスリープをした対象の人権をどのように守るかという議論や、その技術をどのように維持するかの駆け引きが面白い。むしろ過去さまざまなSF作品に描かれていたような、コールドスリープをする前とした後での時代の間の文化の違いやその人やその人に接する人々が感じる違和感などは本書でほとんど描かれていない。
またほかのシリーズ作品同様、東城医大の高階医院長や田口先生など本書にもたくさん別シリーズの主要人物が登場する。海堂尊(かいどうたける)作品に多く触れている人はそういう意味ではさらに楽しめるのではないだろうか。近いうちに続編が出るようなのでそちらも楽しみにしたい。
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「A Prisoner of Birth」Jeffrey Archer

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
結婚目前だったDannyは親友のBernieを殺した罪を着せられて終身刑を言い渡される。Dannyの刑務所生活と真犯人への復讐の計画が始まる。
もともと読み書きのできないDannyは刑務所で同じ部屋になったNickによって多方面の教育を受けてその才能を開花させていく。そして、偶然の出来事によって刑務所の外へ出る機会を得たDannyは、真犯人グループへの復讐を始めるのだ。
やや出来過ぎの感もあるが、全体的には目覚ましく動き続ける物語は読者を飽きさせる事はないだろう。また、物語自体が、ロンドンからスコットランド、スイスのジュネーブなど、いろんな場所へ展開される点も面白い。イギリス人でもスコットランドの発音に戸惑う場面など、日本にいてはわからない現地の人々の感覚が見えてくる。
Jeffrey Archerの物語は法廷の場面が多いという印象があるが、本書も同様に緊張感あふれる法廷シーンを見せてくれる。
個人的には物語の終わり方が好きだ。もちろんここで詳しく書く事ができないのが読んでもらえればこの余韻に浸れる終わり方をわかってもらえるかもしれない。
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「宮本武蔵(六)」吉川英治

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宮本武蔵の第六巻。武蔵は旅の途中で一人で暮らしている少年と出会う。彼に請われて武蔵はその少年を弟子にして一緒に過ごしはじめる。
決闘の場面こそ少ないが、伊織(いおり)という少年とともに生活を始める武蔵を描く本書は違った意味で印象的な場面が多い。特に強盗集団に教われている村の人々を助け、村人に武器をとらせて戦わせる場面は爽快である。
そして、伊織を育てる上で、剣の技術だけでなく礼儀作法についても厳しく教えようとする。かつでは城太郎という少年と旅をともにしながらも自由奔放にさせたがゆえに何も遺せなかったという武蔵の後悔がそうさせるのだ。

人間の本来の性質の中には、伸ばしていい自然もある。だが、伸ばしてはならない自然もある。放っておくと、得て、伸ばしてはならない本質は伸び、伸ばしてもいい本質はのびないものだった。

そんな武蔵の新たな視点は、読者にも何か考えさせるものがある。
また、現在おそらく日本人で知らない人はないないだろいうというぐらい有名な武蔵ですら当時「生まれたのが20年遅かった」と思っているところが印象的だ。17歳で時代の節目と成る関ヶ原の合戦を経験し、それい以降、武蔵のような野生の人間を世の中が必要としなくなっていったのである。きっといつの時代も人は前の時代の人々に憧れを抱くのだろう。賞賛すべきはそれをそうぞうして描いた著者吉川英治の方かもしれない。
また、一方で佐々木小次郎もその強さを見せ始める。物語の終わりを期待とともに予感させる一冊。
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「Song of Susannah」Stephen King

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Callaの町でWolves達との勝利にわくRoland一行だが、妊娠したSussannahが行方をくらました。Roland、Eddie、Jakeそして神父のCallahanがSusannahを追ってニューヨークに向かう。
多重人格者のSusannahが行方をくらましたことで、それぞれが別の世界へのドアをくぐる。EddieとRolandは1977年のメーン州、JakeとCallahanは1999年のニューヨークだった。それぞれの登場人物が別々に行動するため、今までのようなそれぞれの個性が団結した展開を見る事はできないが、それぞれまた違った側面が見えてくる。
子供を産んで育てようとするSusannahの中の人格Miaと、後から追ってくる救いを待つために少しでも時間を延ばそうとするSusannah。2人が1つの体のなかで駆け引きを繰り返すのが面白い。そしてそんななかにもう1つの人格Odettaが割り込んでいくのだ。
一方で、鍵となる駐車場を管理している本屋のオーナーを追うEddieとRolandは、やがてその近所にある小説家が住んでいることを知る。その小説家はStephen Kingというそうだ。現実世界がKingの小説のなかに取り込まれたのか、それともRolandやEddieが現実世界にでてきたのか、Stephen Kingのそんな試みが見られるのが本書の一番の山場かもしれない。
長く続いたシリーズの最後に繋がる一冊。これまでのシリーズと比較すると面白さとしてはやや不足しているかもしれないが、その後の展開には必要な一冊なのだろう。

「宮本武蔵(五)」吉川英治

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
宮本武蔵の物語の第5話。吉岡道場との決闘の後を描く。
ようやく後半に差し掛かった武蔵の物語。吉岡道場との決闘の後を描く本書は物語のなかでも山場の少ない内容となっている。おつう、城太郎と再び行動を共にしてはまたはぐれるなど、それぞれ新たな人生の方向へと導かれていく。
個人的に印象に残ったのは、はぐれた城太郎、おつうの行方を探すのを手伝ってくれた見知らぬ人へ、御礼に残り少ないお金を渡そうとする武蔵の心の内である。

あの銭が、あの正直者に持ち帰られれば、自分の空腹をみたす以上、何かよいことに費かわれるにちがいない。それからあの男は、正直に酬われることを知って、明日もまた、街道へ出て、ほかの旅人へも正直に働くだろう。

これまでは悩み葛藤を続けてきた武蔵だが、ここへきてその心のありようが結構な境地に達してきたような気がする。残り3冊も楽しみである
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「1%の人だけがやっている 会社に「使われない人」になる30のヒント」渡辺雅典

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アフィリエイターとして著名な著者が会社に使われない人間になるための心得を語る。
序盤は、高校を中退し、仕事でもあまりいいスタートを切れなかった著者自身の過去に触れ、その後、インターネットでの仕事を始めてからの成功と、現在の心がけについて語っている。書かれている内容はどれも特別な事ではなく、むしろその内容からは読者としてもっと本当に会社にいくのが嫌でしょうがないネガティブな思考の会社員を対象にしているようにさえ思える。
書かれている内容に信憑性がないわけではなく、むしろどれも納得のいくものばかりなのだが、世の中に溢れかえっている「成功のための本」の多くに書かれていそうなことばかりで、あまり印象に残らなかった。しかし、定期的にこのような本を読む事はいろんな意味でモチベーションの維持に役立つ気がする。
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